ラヂオデパートと私

ロックバンド“ラヂオデパート”におけるギタリストとしての津原泰水、その幾何学的な幻視と空耳。

あったらいいな

2006-11-26 06:52:15 | 他の機材
 小説家の田中啓文氏はテナーサックスを奏でる。エレキギターは嫌い、というより憎い、とまで仰しゃる。ハーモニィ楽器かメロディ楽器かはっきりしなさい、その両方で花形だなんてずるい、という事らしい。しかも弾きながら歌えるぞ。
 管楽器奏者として最も羨ましいのが、「足で箱を踏んだら音が変わる」ところなのだそうだ。むろんエフェクターのことである。構造がいい加減な楽器なので色々と電気的に補完しているに過ぎないのだが、踏めば音が変わるというのは、まあ事実だ。

 ケーブルのネジ一つでも緩んだら、本番中でもお構いなしに音が出なくなる。だから僕はなるべく足許には何も起きたくない。こういうエフェクターだったら是非とも置きたいという、夢のエフェクターはあるのだが、未だ製品として見たことがない。
 パット・メセニィが旧いギターシンセサイザーで出す、チベットの骨笛のような音色。メセニィはほぼあの音色のためだけに大きなシステムを使っているが、今のデジタル技術を駆使すれば、あの音専用の小箱は実現できないだろうか。あの音だけでいい。
 実はあの音色欲しさにギターシンセのシステムを組んだことがある。楽器店では「あの音だ!」と昂奮したのだが、いざメセニィをコピーし始めたらオクターヴ違いで、マニュアルを精読しても変えられなかった。ギターシンセというだけで反応が鈍いのに、更にハーモナイザーを通す必要がある。冗談じゃない、と放り出した。

 同シンセではCoralのエレクトリックシタールもシミュレートされていたが、メセニィがわざわざ本物を持ち運んでいることからもわかるように、あまり実用的ではなかった。最近のモデルでは音質改善されているのかもしれないが、これもシタール風の音専用の小箱であったほうが僕は助かる。
 エレクトリックシタールと名が付いているけれど、ブリッジでびびりが生じるように出来た安普請のギターに過ぎない。演奏上の汎用性はまったく無いが、数々の名曲で使われているので絶対にニーズはある。骨笛ボックスは夢の話としても、シタールボックスは作れば売れるような気がする。ペイント・イット・ブラックボックスとか、ちょっと嘘をついてノルウェーの森の小箱とか、まあ名前はなんでも宜しい。もし多くの賛同を得られたらローランドに嘆願書を書きますが、いかがでしょう?
 その音が出る交換用ブリッジという製品は見たことがある。けっきょく手持ちのギターをそう改造しましょうという発想であって、ライヴ中のたった一曲のために一本を持ち歩くことに変わりはない。曲中で持ち替えるのも苦労だ。だったら見た目もエキゾチックなコーラルやそのコピーモデルのほうが、お客も喜ぶだろう。

 もう一つ、エフェクターではないのだが思い出したので附記する。これは絶対に実現可能で、ひょっとしたら懇意な職人に頼んで作ってしまうかもしれない。名付けてドローンボックス。
 じつはインドに近い製品がある。むかしテレビで見た。インドの伝統音楽というのは根音がD辺りで、延々とそれが鳴り続ける。これをドローンという。シタール一本とかで路上演奏する人向けに、それ専用の箱というのが製品化されているのだそうだ。びよーんと一音が鳴り続けるだけの箱。
 ここからスピーカーを省いて(PAから出せば良い)、クロマチック十二音切替えにしたら便利じゃなかろうか。たとえばビートルズの〈It's All Too Much〉では、徹頭徹尾、G? A? その辺りの音が鳴り続けている。〈Tomorrow Never Knows〉ではBだっけ? 忘れてしまったがこれもドローンを利用した曲だ。
 そういえばむかしポリスが、ほぼ同じ目的のためにフットペダル式のシンセサイザーを使っていた。そう考えるとドローンボックスも小型のシンセで済むわけだが、踏むと変な音の出る小箱のほうが楽しいじゃないか。

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