ラヂオデパートと私

ロックバンド“ラヂオデパート”におけるギタリストとしての津原泰水、その幾何学的な幻視と空耳。

ボトムマスター

2010-04-18 17:54:00 | ライヴ
 携帯レコーダーはヤマハの製品で、POCKETRACK W24という。携帯電話ほどの大きさしかないが、その見た目に対してさえ拍子抜けするくらい軽い。インターフェイスも電話的で、なかなか使い勝手が良い。なにより電源が単三電池一個というのが素晴しい。気に入って、よく持ち歩いている。

 ソロ演奏の準備と併行して、ヌートリアスにも参加してくれているラッコ☆戦士(ラッコ・ソルジャーと読む)をサポートする、という案件も進行していた。同バンドは、ヴォーカル兼ギターのEMILKOと、ドラムKIKUの、珍しい二人組だ。しかしその楽曲の良さを僕は予てから称賛しており、この度のマッチングが良ければ、ソロの舞台にもゲスト出演してもらう心算だった。最後まで独りじゃ、やっぱり寂しいからね。
 何度か一緒に演ってきた経験から、加えるならば低音と判断。ところが専らギターやウクレレ弾きである最近の僕は、エレキベースにすっかり自信を失っている。単に長らく弾いていないからで、無理にでも弾かされていれば違ったろう。今はコントラバスの弓弾きのほうが、まだしも自信がある。しかし手許にコントラバスは無い。
 よって予々、ああ「あれ」があればなあ、と嘆じてきたのである。
 偶然というのはあるもので、KIKUと電話で打ち合せながら漫然とウェブを散策していて、その中古が売られているのを発見。これまで何年も探し続けて、一本も見つけられなかったのに――フェンダー・ジャパンのJGB-95。通称、Jaguar Bottom Master。

 ギターの第三~第六絃とベースは、ちょうど一オクターヴ、音程が違う。二オクターヴ違うという説もあるのだが、これはギターの音が――音色からの印象も相俟って――慣習的に一オクターヴ上げて記譜されるからで、要するに楽理的には二オクターヴ、実音では一オクターヴの差だ。
 つまりギターをまるごとオクターヴ下げてしまえば、ギターの奏法そのままにベースの音域をカヴァーできてしまう。
 この発想の楽器は、歴史上、決して少なくはない。
 ザ・ビートルズはレコーディングで、フェンダーのBass VIという楽器を多用した。見た目はちょっと大きなギターという感じで、たぶん弾かない人には区別がつかない。絃長が短いぶん文字にすると、ぎろん、どぼん、という今の音楽では余り好まれない音色で、しかし僕はそれが大好きなのだ。
 必ずしも圧倒的な少数意見ではないらしく、フェンダーやフェンダー・ジャパンはたまに、この系譜の製品を発表したり復刻してきた。うち、僕が最も上出来だと思ったのが、ジャガー・ボトムマスターだ。発売時に試奏して、欲しくてならなかったものの、いつ使うとも知れないから必要になったら買いに来よう、と消極的な判断をした。それきり、二度と出逢えずにいた。

 ベースの音域をカヴァーしながら、時にはギターの音域で和音を奏でたり、ソロも弾ける。ラッコ☆戦士のサポートにこれほど向いた楽器があろうか。翌日さっそく楽器店に電話して取り寄せた。
 届いた。これだ、これ。うおお面白い。こんなに弾き飽きない楽器は久々だ。
 勢いで、ヌートリアスのギタリストのJEAN(ジャン)にも、ゲスト出演を要請した。四人でスタジオに入った。
 はっ。気が付いたら立派な4ピースのバンドが出来上がっているではないか。ギターが二人にベースとドラム。続く。

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