一酸化窒素（NO)

ガソリンや軽油を燃料とするエンジンで、高温高圧下で燃焼効率を上げようとすると本来は安定な窒素も燃えてしまい窒素酸化物が発生してしまう。これは大気汚染の原因物質とされている。ところが人体内に於いても一酸化窒素が作られ様々な用途に使われている。勿論、人体内に於いても一酸化窒素は有害なので発現しても瞬時に分解されてしまうのである。

人体内では一酸化窒素は、一酸化窒素合成酵素 (NOS) によってアルギニンと酸素とから合成される。一酸化窒素は細胞内の可溶型グアニル酸シクラーゼを活性化してサイクリックGMP (cGMP=サイクリックグアノシンモノホスフェート) を合成させることによりシグナル伝達に関与する。又、免疫に関与する細胞の一種マクロファージは病原体を殺すために一酸化窒素を産生する。更に又、神経伝達物質としても働く。シナプス間隙のみで働く多くの神経伝達物質と異なり、一酸化窒素分子は広い範囲に拡散して直接接していない周辺の神経細胞にも影響を与える。このメカニズムは記憶形成にも関与すると考えられている。

さて、こうした人体内での一酸化窒素の働きの内で、今回は或る特定の組織内での働きを見てみよう。

アレの勃起

勃起の引き金は、視覚、嗅覚、触覚から受ける性的刺激や性的な空想です。それによって大脳皮質の特定部位が興奮状態になります。興奮した刺激は脊髄に達し、ここにある勃起中枢を興奮させます。

つまり、興奮した信号は、大脳皮質　⇒　脊髄　⇒　骨盤神経　⇒　骨盤神経叢（神経が集中している場所）というルートを通った後、抹消神経である陰茎海綿体神経に伝えられます。すると、その神経からNO（一酸化窒素）が出ます。それがきっかけになって、陰茎海綿体にある平滑筋細胞内には、cGMP（サイクリックグアノシンモノホスフェート）という神経伝達物質が増加します。

平滑筋細胞内のcGMPが増加すると、通常は収縮している平滑筋が緩むので、海綿体動脈に血液が流れやすくなり、海綿体洞には血液がドッと流れ込み、海綿体が膨張して勃起状態となります。

只、これだけでは勃起状態を維持する事はできません。勃起状態が持続するためには、もう一つの仕組みが働いています。「静脈閉鎖機構」と呼ばれる仕組みです。血液の流れによって膨張した海綿体洞と、その影響を受けてパンパンに張った白膜とに静脈（貫通静脈と白膜下静脈）が圧迫され、海綿体洞から血液が逃げないように歯止めをかけるのです。丁度、水が流れるゴムホースの途中を足で踏んで、水の出を止めているような状況です。


しかし、セックスが終わると、陰茎は通常の状態に戻ります。それは、どんな経緯でなるのでしょうか。勃起するときとは逆の命令が下されます。つまり、神経伝達物質が出て、「陰茎海綿体や陰茎にある血管に分布する平滑筋を収縮させて、海綿体へ流入する血液の量を減らすように」という命令を下すのです。すると、海綿体洞にたまった血液は次第に減り、白膜の膨張でせき止められていた静脈も解放され勃起状態は解除されるのです。

ところが、セックスが終わらなくても段々萎んでしまうものです。これは、海綿体には勃起の成立に重要な役割を持つｃGMPを非活性に変える酵素ホスホジエステラーゼのアイソフォームのうちでPDE5が最も多く存在するので平滑筋が次第に弛緩してしまうからです。ですが、クエン酸シルデナフィル（バイアグラ）を使用すると、酵素PDE5をクエン酸シルデナフィル（バイアグラ）が特異的競合的に阻害する働きがあるため、勃起が成立しやすくなるとされています。

本来クエン酸シルデナフィル（バイアグラ）は、狭心症の治療薬として治験を開始したが副次作用の方がクローズアップされた次第。人体への機序は、生体内でサイクリックグアノシンモノホスフェート(cGMP）の分解を行っている5型ホスホジエステラーゼ (PDE-5) の酵素活性を阻害する。これが陰茎周辺部のNO作動性神経に作用して血管を拡張させ、血流量が増えることによって機能します。

さて・・・、以上が勃起のメカニズムですが、我々のアレには他の大部分の哺乳類のアレに存在する陰茎骨がありません。（私の知る限り、陰茎骨を持たない哺乳類は人類と猫だけの筈です）人類は猿から進化したと云われています。毛むくじゃらの類人猿から無毛に等しい人類が分岐したのは幼形成熟（ネオテニー）の結果では無いかと云われています。

要は、系統樹で最も近いチンパンジーの胎児がチンパンジーの大人に成らずに胎児のまま大人になった・・・訳です。チンパンジーの赤ちゃんは（そう云われてみれば）親のチンパンジーより人類に似ている様に思えます。

胎児の状態では（恐らく）陰茎骨を持たず、そのまま人類の大人に進化していく過程でも陰茎骨を手に入れる事が出来なかったと云う訳です。（恐らく、同じ理由で食肉目ネコ科ネコ属に分類されるネコも幼形成熟で陰茎骨を持たないと推察されます。）

他の陰茎骨を持つ哺乳類の交接は早漏や中折れには無縁なので、人類とネコが淡泊な交接をする理由は、やはり陰茎骨の有る無しに拠るのだと思います。

それともう一つ、決定的な事が・・・。生物の基本形は女性形であり、♂遺伝子の発動で基本形の女性形から強引に男性形に成長します。上記の勃起のメカニズムをお読みになられて何となく歯がゆい思いをされた諸兄のお考えの通り、人類の♂が交接を万全とする為にはもう少し勃起を完全にするシステムを伴っているべきだと思し召しだと思います。海綿体への血液を満たすのは平滑筋の弛緩だけで在り、海綿体の血液を逃がさない方法はホースを足で踏むが如くパンパンに張った白膜で貫通静脈と白膜下静脈が圧迫されて逃げ場を失うだけに過ぎません。この海綿体の血液を逃がさないシステムだけが人類の♂に備わり、それ以外の海綿体へ血液を導くシステムは♂♀共通のシステムです。所詮・・・設計段階から雄々しい勃起を持続する事を目的に作られていないと云えます。

鳥類と異なり羽を持たない人類が自らの羽で空を飛翔する事が適わぬ様に、チンパンジーの胎児が大人になっただけで、積極的に勃起を持続する機構を持たない人類の♂が犬や馬やオットセイのソレに憧憬しても仕方がないとも思えてきます。

翼を持たない人類が空を飛ぶために飛行機を発明したのと同じく、陰茎骨を持たない人類はプロテーゼや、５型ホスホジエステラーゼ (PDE-5) の酵素活性を阻害クエン酸シルデナフィル（バイアグラ）や、「静脈閉鎖機構」を補完するリング等を開発したのでしょうね。

バイアグラの副作用

この作用メカニズムは心臓病の治療に用いるニトログリセリン等の硝酸塩系薬剤と同様な為、血管内に多量の一酸化窒素NOが存在するため、血管平滑筋細胞内のｃGMPが多量に産生され、そのｃGMPの分解をバイアグラが阻害することになって、血管平滑筋は著明に弛緩して、強度の血圧低下を引き起こす危険があるため、硝酸薬とバイアグラの併用は禁忌とされています。副作用として血圧の急激かつ大幅な低下や、心臓への酸素供給に支障をきたす狭心などがあらわれることがある。特に同薬服用時に狭心発作に見舞われ、救急病院に搬送された際、服用者がバイアグラ使用を告げずに更に硝酸塩系薬剤を投与され、症状が悪化・最悪の場合には死亡するケースも見られる。

ファイザー側はこの同薬に関する問題に対して、医師・薬剤師への禁忌情報の提供を行うと共に、錠剤パッケージ裏にニトログリセリン等硝酸塩系薬剤との併用が出来ない旨を記載している。

「滋養強壮」「精力強壮」を謳った健康食品・サプリメントのなかには、シルデナフィルを含むものもあり、厚労省が注意を喚起しているまたバイアグラが特異的に阻害するとされているホスフォジエステラーゼ(PDE)のうちPDE5は、血管や血小板にも存在するため、全身血管を弛緩させる可能性を考えて、血圧が90/50mmHg未満の低血圧の場合はバイアグラの使用は禁忌とされています。

さらに、PDE5の阻害作用に関連して、脳の血管を拡張させることで頭痛が起こったり、顔面の血管拡張作用で顔が火照ったり、鼻粘膜血管の拡張から鼻づまりが起きたりすると考えられています。血小板に対する作用に関しては血小板の凝集を抑制する可能性があり、消化性潰瘍のある場合や出血傾向のある病気の場合などでは、バイアグラの投与には注意が必要とされています。

コピー版バイアグラ
インドのajanta社が製造しているカマグラ、RANBAXY社のカベルタ、Zydus Alidac社のペネグラを始め、複数のものが発売されている他に、ファイザー社のバイアグラに似せた偽造品も出回っていて、シルデナフィル含有量や製造過程での衛生管理・品質管理に問題のあるものも多いので注意が必要です。

医師の元で処方を受けると1500円／錠程度で自由診療（健康保険の対象外）で購入できるのだが、怪しげな裏物は3000円／錠程度でも品質も怪しげなので、本当に注意が
必要です。

７００万年～５５０万年前の急激な環境の変化によって、我々人類の祖先は強引な進化を余儀なくされた結果、ホモサピエンスとなり地球の王となれたのですが、その過程で失った物の幾つかの中に♂の憧れもあったのでしょう。既に捨て去った筈の事に拘泥するのも何なので、ま、程々に楽しめれば良いのでは無いでしょうか？（この急激な進化を余儀なくされた環境の激変については、後日のネタに・・・）