『坂本龍馬 關関係文書 第二』
坂本と中岡の死
岩崎鏡川
十七 復讐 = 阿部内海等の證言
= 三浦休太郎陰謀=侠商鴫尾屋與三郎
坂本中岡の刺客につきては、始めは五里霧中に在りしも、幸に一足の下駄、刀の鞘とを残しありて、下駄は瓢亭の主人より『前夜、新選組のものに貸した物』との證言を得、刀鞘は伊東甲子太郎が『新選組のものの所持品なり』といふものから、刺客の捜索につきて、一道の光明に接したる心地しけるが、
かの篠原泰之進、富山爾兵衛の兩人は薩邸に入るに及びて、中村半次郎に面會して、『坂本中岡兩先生の刺客は、新選組のものなり』と告げるるより、
半次郎は、かくと陸援隊に内通しければ、隊中のものは、薩邸に至り、『はや推し寄せて新選組を討ち潰せ』と猛り立つもありしかど、猶事もし、會津侯の内命に出でたりせば、其證蹟をも得むものと、一同無念を抑へて白川邸に引取れり。
隊中より、ニ名(名前不詳)のものを薩邸に出しが、かの篠原等に面會し確證を得むとしけるに、折柄長州藩士某々等(これも名前不詳)来り會ひて『今日の所は、兎も角も我々に任せられたし』といふにぞ、さらばと、心ならずも、また白川に立ち歸りしが、
其夕内海次郎、阿部十郎の兩人を、白川より薩邸に送るに及び、『彼等は久しく新選組の者と起居を同じうしけるものなれば、もし、彼夜の刺客が果たして同組のものならむには、賊の残留しける刀鞘につきても、必ず見覺えあるべし』と、
二十四日頃、谷守部(後干城)は毛利恭介と共に、中村半次郎(桐野利秋)を伴ひ、伏見の薩邸に至り、かの刀鞘を篠原、阿部、内海等に示すに、彼等評議の末『慥かに新選組原田左馬之助』の鞘に相違なきことを申出しぬ。
猶も探偵せしめけるに、紀藩の三浦久太郎(後安)は、海援隊の汽船伊呂波丸と紀藩の船明光丸との衝突沈没一件よりして葛藤となり、終に紀藩より償金を出すこととなりしを遺恨に思ひ新選組のものに命じ坂本中岡の兩人を暗殺せしめけるなりといふもの専なりしかば、
此方に於ても、最初より充分新選組を疑い居たることとて、『扨は敵は愈々新選組に極まれり兩隊長の為めに報復せざるべからず』と兩隊の壮士は腕を扼して窃に其機を窺えり。
其頃、紀州の中村屋にて加納宗七といへるものありき。家も素と止めるを以て勤王家を庇護せる事尠なからず。陸奥源二郎(初陽之助 後伯爵宗光)の兄、伊達五郎等とは、尤も同志の間なりけるが、この年十一月末日京都に出で来り、
陸奥に面会していへる様は、『近頃由々しき大事を聞き出せり。そは本藩の三浦久太郎(後安)は、大垣の井田五蔵と會桑二藩に通牒して、本藩の兵と大垣の兵とを入京させ、火を薩邸に放ち、勤王家を一掃して、再び幕勢を回復せしむと巣の策あり。既に本藩の兵五百名は入京せり。追て二千人を出すの計畫なりされば、この賊を討つには、三浦を襲殺する外なかるべし』と、
陸奥は素より、龍馬とは、師弟の関係にありて早くから恩顧を被むる事浅からざりければ、さらでも、憎きは三浦なり。公私の仇讎必ず報ぜざるべからずと。この事を兩隊の同志のものに謀れり。
さきに伊呂波丸償金の一軒につき、長崎に赴きたる中嶋作太郎(後男爵信行)は紀州との談判を了へ、石田英吉(後男爵)が船長たる海援隊の横笛船に便乗し、十一月十二日に齋原治一郎(後大江卓)と共に長崎を發し龍馬に復命の為め状況の途につきたるが、
十五日(坂本中岡の暗殺せられし日)に馬關に上陸し阿彌陀寺畔なる伊藤九三(助太夫)方に坂本の妻女お鞆(お良)を訪ひ、二十一日に神戸に到着して、始めて坂本中岡遭難のことを知り、急ぎ上京して、三条車道なる酢屋(土佐藩下陣)といふに投宿せり。
陸奥は中嶋を訪ひて、まづ三浦陰謀のことより復讐の事を相談しければ、中嶋も恰も觸頭の如くになりて、白川邸、十津川邸を始め、所々に潜服せる同志に通知し、同志は中嶋の宿所及び大谷の入口、左側の角なる月廻屋といへる貸席に數回協議し陸奥源二郎、加納宗七、岩村精一郎(後男爵高俊)、關雄之助(澤村惣之丞)齋原治一郎、竹中與三郎の六人を以てまづ實行員と定めけるが、
この竹中といへるは、神戸の鴨尾屋與三郎といへる茶商にて、任氣に富み、勝安房守の海軍操練所の、神戸に在りける頃より、龍馬とも懇意となり、陸奥等は間接直接に其庇護を被る事浅からざりしが、奮ってこの一擧に加わらむことを申込めるなり。
この時加納宗七は、國許より、百兩餘の金子を持参しければ、各現場より脱走の準備にとて、四兩づつを陸奥の手より、銘々に分配せり。
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