日本の心

激動する時代に日本人はいかに対処したのか振りかえる。

西郷隆盛 「南洲手抄言志録」九十一 ~ 百一 佐藤一齋・秋月種樹(古香)

2020-01-26 23:08:18 | 西郷隆盛

南洲手抄言志録

佐藤一齋・秋月種樹(古香)

山田濟齋訳
 

九十一
靈光無障碍
則氣乃流動不餒、
四體覺


〔譯〕
靈光(れいくわう)障碍(しやうげ)無くば、
則ち氣き乃ち流動して餒(う)ゑず、
四體(したい)輕きを覺(おぼ)えん。


九十二
英氣是天地精英之氣。

聖人薀之於内
肯露諸外

賢者則時時露之。
自餘豪傑之士、全然露之。

若下夫絶無此氣者上、
鄙夫小人
碌碌不算者爾


〔譯〕
英氣は是れ天地精英の氣なり。
聖人は之を内に薀(をさ)めて、
(あへ)て諸(これ)を外に露(あら)はさず。

賢者は則ち時時之を露(あら)はす。
自餘(じよ)豪傑の士は、全然之を露(あら)はす。

(か)の絶(た)えて此(この)氣なき者の若きは、
鄙夫(ひふ)小人と爲す、
碌碌(ろく/\)として算(かぞ)ふるに足らざるもののみ。


九十三
人須忙裏占間、
苦中存樂工夫

〔譯〕
人は須らく忙裏(ばうり)に間(かん)を占め、
苦中に樂(らく)を存ずる工夫を著(つ)くべし。

〔評〕
南洲岩崎谷洞中に居る。
砲丸雨の如く、洞口を出づる能はず。

詩あり云ふ
「百戰無
功半歳間、首邱幸得返二家山
笑儂向
死如仙客。盡日洞中棋響間」
(編者曰、此詩、長州ノ人杉孫七郎ノ作ナリ、南洲翁ノ作ト稱スルハ誤ル)
謂はゆる忙(ばう)中に間を占むる者なり。
然れども亦以て其の戰志無きを知るべし。
余句あり、
云ふ「可
見南洲無戰志。砲丸雨裡間牽犬」と、是れ實録(じつろく)なり。


九十四
凡區處人事
當下先慮其結局處
而後下上手。

楫之舟勿行、
的之箭勿發。

〔譯〕
凡そ人事を區處(くしよ)するには、
當さに先づ其の結局の處を慮(おもんぱ)かりて、後に手を下すべし。

(かぢ)無きの舟は行(や)る勿(なか)れ、
(まと)無きの箭(や)は發(はな)つ勿れ。


九十五
朝而不食、
則晝而饑。

少而不學、
則壯而惑。

饑者猶可忍、
惑者不奈何

〔譯〕
朝にして食はずば、
(ひる)にして饑(う)う。

(わか)うして學ばずば、
壯にして惑まどふ。

(う)るは猶忍(しの)ぶ可し、
(まど)ふは奈何ともす可からず。


九十六
今日之貧賤不素行
乃他日之富貴、必驕泰。

今日之富貴不素行
乃他日之患難、必狼狽。

〔譯〕
今日の貧賤に素行する能はずば、
乃ち他日の富貴に、
必ず驕泰(けうたい)ならん。

今日の富貴に素行する能はずんば、
乃ち他日の患難(くわんなん)に、
必ず狼狽せん。

〔評〕
南洲、顯職(けんしよく)に居り勳功(くんこう)を負(お)ふと雖、
身極めて質素なり。

朝廷賜(たま)ふ所の賞典二千石は、
(こと/″\)く私學校の費(ひ)に充(あ)つ。

貧困なる者あれば、
(のう)を傾(かたぶ)けて之を賑(すく)ふ。 

其の自ら視ること欿然(かんぜん)として、
微賤(びせん)の時の如し。


九十七
雅事多是虚、
勿下謂之雅而耽上之。

俗事却是實、
勿下謂之俗而忽上レ之。

〔譯〕
雅事(がじ)多くは是れ虚(きよ)なり、
之を雅(が)と謂うて之に耽(ふけ)ること勿れ。

俗事却て是れ實なり、
之を俗と謂うて之を忽(ゆるがせ)にすること勿れ。


九十八
歴代帝王、
唐虞外、
眞禪讓

商周已下、
秦漢至於今
凡二十二史、
皆以武開國、以文治之。

因知、武猶質、
文則其毛彩、
虎豹犬羊之所以分也。

今之文士、其可武事


〔譯〕
歴代の帝王、唐虞(たうぐ)を除く外、眞の禪讓(ぜんじやう)なし。

商周(しやうしう)已下(いか)秦漢(しんかん)より今に至るまで、
凡そ二十二史、皆武を以て國を開き、文を以て之を治む。

因つて知る、武は猶質(しつ)のごとく、
文は則ち其の毛彩(まうさい)にして、
虎豹(こへう)犬羊の分るゝ所以なるを。

今の文士、其れ武事を忘る可けんや。


九十九
遠方試レ歩者、
往往舍正路
捷徑
或繆入林莾
嗤也。

人事多類此。
特記レ之。

〔譯〕
遠方に歩を試(こゝろ)むる者、
往往にして正路(せいろ)を舍(すて)て、
捷徑(せうけい)に趍り、
或は繆(あやま)つて林莾に入る、嗤(わら)ふ可きなり。

人事多く此に類(るゐ)す。
特くに之を記しるす。


智仁勇、 人皆謂大徳難一レ企。

然凡爲邑宰者、
固爲親民之職

其察奸慝
矜二孤寡
強梗
即是徳實事。

宜下能就實迹以試之可上也。

〔譯〕
智仁勇は、人皆大徳(たいとく)(くはだ)て難しと謂ふ。
然れども凡そ邑宰(いふさい)たる者は、固と親民の職たり。

其の奸慝(かんとく)を察し、
孤寡(こくわ)を矜(あはれ)み、
強梗(きやうかう)を折(くじ)くは、
即ち是れ三徳の實事なり。

宜しく能く實迹に就いて以て之を試(こゝろ)みて可なるべし。


百一
身有老少、 而心無老少
氣有老少、 而理無老少

須丙能執下無老少之心上、
以體乙無老少之理甲。

〔譯〕
身に老少(らうせう)有りて、 心に老少無し。
氣に老少有りて、 理に老少無し。

須らく能く老少無きの心を執(と)つて、
以て老少無きの理を體(たい)すべし。

〔評〕

幕府南洲に禍せんと欲す。
藩侯之を患(うれ)へ、南洲を大島に竄(ざん)す。


南洲貶竄(へんざん)せらるゝこと前後數年なり、
而て身益壯(さかん)に、
氣益旺(さかん)に、
讀書是より大に進むと云ふ。





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