管理職も行政も教えてくれない 学校の「今のあたりまえ」 若い教師に伝えたいこと

今当たり前と思っていることも、よくよく考えてみれば、問題だらけ。若い人には、ぜひ読んで、考えてもらいたいものばかり。

過労死してもおかしくない私たち教員

2020-04-08 23:29:59 | 先生たち
人として健康に生きる権利――絶対量を減らさない「働き方改革」は有害無益
 昔、飲み会で、酔って気持ちよくなった校長が、「自慢するわけではないが、私は平のとき、1回も年休をとらなかったのを誇りにしている。」と、自慢していたことを思い出しました。お追従なのだろうけれども、周りの先生たちがこぞって、「へー、すごーい。熱血先生だったのですね。」と褒めちぎり、酌を重ねてしていたのを、遠巻きに鼻白む心地で見ていました。

 以前勤務した学校で、自己申告の際の面接で、ある先生(親の介護で、よく休暇をとる、いや取らざるを得ない方でした)が、校長から、「あなたは、家庭と学校の勤務と、どちらが大事ですかと聞かれたら、どちらと答えますか。」(もう聞いているじゃない!)と言われ、「家庭です。」と答えました。校長は、「そうですか。私は学校です。あなたには働いていることに対しての責任感が抜けていると思いますよ。」と言ったそうです。この例はさすがに希有なもので、さっそく教育委員会の指導課に報告し、校長を指導してもらいましたが。
 
 教員の給与を4%上乗せするかわりに、残業手当を支給しないという「給特法」(正式には、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」)ができたのは、1971年のことです。つまり、私が教員になる7年も前、ずっとずっと、はるか昔のことです。それより少し前の1966年に行われた勤務状況の調査によると、教員は平均して、1週間に2時間ほどの時間外労働をしているという結果が出ました。
 そしてそこから割り出されたものが、4%の上乗せだったのです。教師の仕事は「線引きが難しい」特殊なものだからという理由で、設定されたものだったのでしょう。

 当時は、日曜日だけが休み。土曜日は午前中の授業がありました。土曜日、子どもたちが下校すると、先生たちは学校近くの飲食店に繰り出して、1週間に起こったあれこれを、みんなで出し合って、「昨日、△△くんがとつぜん泣き出して・・・」「九九の指導で、いいのがあったよ。」「そうか、○○先生の家は、介護で大変なんだ。ここはひとつ、みんなで支えてあげないといけないね」などと談笑していたものでした。昼食が終われば、学校に戻って仕事の続きをする人、そのまま帰る人、遊びに行く人と、三々五々に解散していました。温かく、のんびりした風景を思い出します。(土曜日にリュックを背負って出勤する先生も、よく見られました。授業が終わったら、山登りに行くんだといった先生でした。けっこうそんな光景も見られた昔です)
 平日の放課後も、先生たちで、よくテニスや、野球、ソフトボールも楽しんでいました。落ち葉を集めて、「焼き芋集会」を全校で行ったあとの残り火で、暗くなった校庭に椅子を持ち出して、ビールを飲みながら焼き肉パーティー(今では考えられないことですが)をした記憶もあります。

 これは、50年も前、つまり半世紀も前の時代のものです。そして、その50年の間に、たくさんのことが噴出してきます。学校の荒れ、ゆとり教育から「詰め込み」教育へ、大阪での児童・教員殺傷事件、防犯カメラの設置、下校を徹底せよとの風潮、金銭教育、外国語の導入、「総合の時間」の創設、情報モラル教育、週五日制の導入、パソコンによる業務の移行、プログラミング教育、食育教育、いじめ防止教育、安全教育、環境教育、オリンピック・パラリンピック教育・・・・挙げていくと、このページが埋まってしまうくらい、たくさんの指導内容、業務が、現場に入り込んできました。

 学校は、「捨てる」ことには非常に消極的です。「子どもにとって有意義だから」という言葉には、とても弱い現場です。したがって、仕事は増える一方。さらに、先に書いた「週五日制」で、1日少ない1週間となったところで、増えた分をこなさなければならなくなってしまったのです。

 2016年度に文科省が実施した公立の小中学校教員を対象とした実態調査によると、平日における平均の労働時間は、小学校が11時間15分、中学校が11時間32分となっています。勤務時間は、7時間45分ですから、それを引くと、小学校では3時間30分。これが1日分の「残業」です。これを1週間の5日分に換算すると、なんと17時間30分となります。
 気をつけないといけないのは、ここには「持ち帰り」の仕事の分が含まれていないということです。
 1か月を単純に4週としてみると、月に70時間+持ち帰りの残業!
 一般に、月80時間の超過勤務が「過労死ライン」と呼ばれています。小学校の先生は、3人に1人は、その過労死ラインを越えているとも言われています。

 ※教員は他の職種と比べて、どれくらい残業しているか、面白い統計があります。なんと「過労」の代表とされる医者を引き離して、「堂々の」1位なのです。2012年の『就業構造基本調査』に,週間の勤務時間の分布を職業別に集計した表があります。ご覧になり、驚いてください。
 私が教務主任をしていたころに、自分なりに「勤務時間」を記録していたことがあります。教務主任の仕事は、3月、4月あたりが「激務」なのですが、その3月に、超過勤務が120時間、他の月でも85時間平均でした。仕事が遅い私ですが、すでに私は何度も過労死していてもおかしくなかったのです。

 ※平成28年、総務省の統計によれば、30歳の公立小中学校の教員の平均年収はボーナスも含めて、521万円。一般行政職の地方公務員は、467万円。約50万円の差があります。月に換算してみると、約3万円ほど教員が高いことになります。教員は「教職調整額」という、行政職よりもやや多い基本給をもらっていますが、これを考えずに計算すると、70時間残業をして、3万円の増額。つまり、1時間当たり450円となります。残業の値段は、時給450円なのです。ふつうは、平時の時給の1,2倍、1.5倍として計算される残業手当も、私たちは、バイトの学生の3分の1程度しかもらっていないことになります

 「教員の仕事は、特殊で時間として厳格に測れないところが多い」と言われます。みなさんも、経験上、そんな仕事がかなりあることはご承知の通りです。しかし、その論法で、「見返りに4%」の定額働かせ放題が現在まで続けられてきたことも忘れてはならないと思います。やはり私たちの労働は、厳格に時間として測定すべきものだと考えます。
 働くことは、「仕事を一定の時間の範囲で行い、一定の賃金を支払う」といった単純なものです。ですから、大事なことは、「人として健康に生きる権利」がなによりも優先されなければならないでしょう。
 「残業時間に正当な手当を支払う」そして、「残業時間を皆無にする」は、どちらも追求していかなければ意味がないのです。
 別の号でお話しますが、今回の「変形労働時間制」は、この点で、まったく私たちにとり、不利益なことは増しても、得することは、ほとんど皆無のものです。
 
さらにやっかいな「超勤4項目」 それ以外は「教員が自主的に・勝手にやっていること」

 私たちの超勤(残業)と呼ばれるものは、現在、次の4項目に限られています。
   教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむ
を得ない必要があるときに限るものとすること。
イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務
ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務
ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に
必要な業務
 これだけです。つまり、勤務時間を過ぎて学年会を行ったり、家でテストの採点をしたり、通知表の所見の下書きをしたり、気になる子がいるので家庭訪問をしたり、逆に夜、保護者が学校に相談を持ってきて対応したりすることなどは、すべて「自発的行為」(つまり自分で勝手に行ったもの)として、勤務時間の調整にはあたらないのです。
 まだまだ「ブラック」を脱しない学校現場です。

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