Nasebanaru

アメリカで趣味と生活を綴る

ありがとうの国 3

2006-12-01 07:33:50 | 旅行
私が道路脇でうなだれているとき、数台の車が私のそばで停車した。まずは大型のタンクローリー。大きな車だから、運転席から降りて私のところに歩いてくるまで少し時間がかかる。

「乗ってくか」(私は勝手にそう理解した)
「自転車がある」
「自転車は乗せられないなあ、お前だけでも来るか?」
「それはできない」
「そうか、じゃあ気をつけてな」

そう言ってタンクローリーは行ってしまった。こっちから頼んでもいないのに親切な人だなあ、と思っていると、またすぐ今度は荷台付の車が脇に寄せてきた。

「乗ってくか」
「自転車も後ろに積んでいいか」
「ああ、のっけろ」

そうやってすぐに乗せてもらった。正直延々と続く上り坂道を、どんよりとした曇り空と、霧雨だろうか、湿気の混じった空気の中を走る気がしなかったので、乗せてもらえた事を心の中で喜んでいた。


私の旅はそうやって続けていた。そして今また親切なアメリカ人の家族に一晩の宿を世話してもらっている。

食事中の会話の続き。

「次の目的地はどこ?」
「グランドキャニオン」

「それなら僕のお母さんがグランドキャニオン近くの町に住んでいるから、一緒に行こう。ちょうど3日後に発つ予定だったんだ。」
「お母さん?」

「私はリンカーンの本当の母親じゃないの。今仕事に出てるお父さんは彼のほんとのお父さん、私は継母なの。」

そう聞くまで今話している人が実の母親でないと分からなかったくらい、彼と彼の継母は親しかった。言われてみると、私とリンカーンとは同じ歳なのに、私の母親に比べれば目の前の女性はかなり若い。弟とも歳がずいぶん離れている理由が理解できた。それにしても別れた両親の家を行き来しているとは。これも私には驚きだった。しかも今度実のお母さんのいる家まで連れて行ってくれて、そこからグランドキャニオン行きのバスをつかまえれば良い、という。彼は私の自転車旅行の道中の安全を特に心配してくれているようだった。

実際アメリカで住むようになると、都市部ではかなり治安が悪いことが実感できたが、あの当時は人に襲われるよりもむしろ自然のほうが怖かった。これまで走ってきたロッキー山脈の険しさを思うと、ここは彼の好意に甘えたほうが良い、という思いに傾いた。

つづく


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