萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

桜三撰、惜春の朝に本

2023-05-14 12:00:00 | 文学閑話散文系
零れる光、常春の物語
文学閑話:桜の文学


桜三撰、惜春の朝に

今年は春あまりに早く過ぎ去って、
のんびり桜あんまり見られなかったなあー…と。
ソレじゃー本で桜を楽しもうかなあと想って浮かぶのは、

『桜と日本人』小川和祐
『ことばの力』大岡信 
『櫻守』水上勉

筆頭の『桜と日本人』は桜づくしの研究書、
どのように日本で桜が愛されるようになったか?
どれほどの桜の品種が生まれて、消えていってしまったか?
万葉集から江戸の品種改良ブーム桜熱、明治期にはじまる桜と人命の関わり、
様々な面から解かれる桜概論の書というか、日本という風土と国と人の桜譜といった本です。

青い桜があった、と言われたら信じますか?

江戸期の桜は品種いくつあったかご存知でしょうか。
読んで知る品種たちに、おそらくビックリされるんじゃないかなあと。
江戸の桜は色も多彩で大別して五色あり、その名所もかつて存在していました。

こんなのホントに?だろうな思うんですけど、
そんなカンジで桜の印象ひっくりかえされる「桜」に出逢わせてくれる一冊ではないかなと、笑
写真:上・紅枝垂桜、下・河津桜


次の『ことばの力』は国語の教科書で読んだこと、ある方も多いのではないかなと。
この本にある章のひとつに「桜染め」についての記述があるんですけど、それが好きです。
草木染の染色家である志村ふくみさん、この方がとりくまれてきた「桜染め」の美しい色にある秘密が説かれています。

桜色、サクラのどこを使って染められると思いますか?

あの薄紅色、サクラという植物が咲かせる花の色である桜色。
あの花色を草木染で染めるには、サクラの何を使って発色させられるのか。

"桜から桜色を染めあげたい”

そう願い、さまざまな技法を試して失敗して、また試し、失敗する。
もう出来ないんじゃないか?と悩んで、試して、諦めきれなくて「桜」という色を探していく。
ただひとつ「桜」あの色を染めたい、その果てめぐり逢う色の物語です。

教科書で読んだ子どものころ、
この技法を実験してみたくて、大人になったら桜を植えて自分でもやってみようと思ったんですけど。
実際に今、庭に桜を植えてみました・が、桜染めできるほど大きく育っていない&暖地サクランボの木で花色が白いため、別種また植えないとです。笑
写真:唐実桜(別名・暖地サクランボ)


三つめ、小説の『櫻守』
桜のために生きた、ある植木職人の物語です。
今まで読んだなかで、いちばん心揺すられてしまった小説かもしれません。

読む人によっては、ものすごく地味な物語だろうなと。
派手な人生を描いたものではなく、ただ、実直な職人の朴訥とした生き様だけが語られています。
桜の藤右衛門さんみたいな名家の生まれでもなく、イケメンでもなく、山里に生まれた朴訥おっちゃんの物語。
ただし、一途です。

幼少の記憶から桜に生きて、ただ桜のために働いて老いていく。
戦争の時代も桜のために働き、恋も桜のもと結んでいく。
老い逝って、そのあとも桜のため命咲かせていく。
そんな男の目から語られる桜たちは、豊麗に清楚に輝きわたって、美しい文章表現で綴られます。
どこまでも強く美しい桜たち、その馥郁に酔わされるなあと。

序から桜、終焉のち桜。
桜、さくら。桜ただ一途な物語です。
写真:豆桜の古木


野外での撮影は植生保護のため三脚NG、足元チェックして足場を決めて×離れた所から望遠レンズ&三脚ナシで撮影できる技術が必須です。
山里の朝晩まだ冷えます、とくに北斜面は南斜面よりも体感温度マイナス十度とも。
山はびっくりするほど日暮れ早い×足元凍結する×角曲がったら雪だったりするので、どうぞキャンプや渓流釣り&登山の方はお気をつけて。
【撮影地:長野県・神奈川県】

にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村
純文学ランキング
著作権法より無断利用転載ほか禁じます

萬文習作帖 - にほんブログ村
PVアクセスランキング にほんブログ村

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 朱夏の陽、蓮華躑躅 | トップ | 白銀の燈、白八汐しろやしお »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (yuzu)
2023-05-29 07:05:56
オススメ本のリクエストを叶えてくださりありがとうございました。元気づけてくださるやさしさに感謝しています。

『ゴールデンカムイ』という漫画にハマり図書館でアイヌ、マタギなど人と自然との書籍を読み漁っていたので、名前をあげていただいた3冊(携帯のメモに入れました!)すべてこのところの自分には新鮮で読むのが楽しみな今です。
紹介文が本屋さんに来ているようで嬉しくて気分があがっています、
『ことばの力』をしっかり読んでみたくなりましたし、サクランボを食べたくなっていたりもします。笑
なにより、一途に誰か何かを想える人を…その心意気をうつくしいと感じられる人間でありたいと本を読む前に記事の中の桜たちを眺めながら考えました。とてもきれいで、白も桃色もこんなにきれいだからこそ、あぁ青の桜があるならこの目で見てみたいなあの気持ちが大きくなります。

朝の合間に取り急ぎ、
返信する
yuzuさんへ ()
2023-06-01 16:32:28
こちらこそです、
遅くなってすみませんでした、喜んでもらえたなら良かったです。

北海道モノというと『慟哭の谷』が自分は印象深いなあと。
https://blog.goo.ne.jp/tomoei420/e/420f7be46c04ee894eb1589210443a3b
前に記事にしているので、ご興味あれば。
ただし・ヒグマの食人事件をとりあげているのでR15指定されそうな酷なシーンも多いです。

北海道はこーゆー現実が今もあって、本州でもツキノワグマがどこの山でも棲んでいます。
アウトドアブームで山野でも安易な行動する方が増えましたが、野生獣との事故原因になりがちだなあと。

登山はもちろん野生獣との遭遇前提ですけど、
キャンプ場こそ、クマの餌場認定されがちなのでカナリ危険でもあります。
山里やキャンプ場のゴミ捨て場が鉄製ゲージだったりするのは、そういう理由です。
ちょっと話が逸れてすみません、笑

読書ゆっくり、良いですよね。
自分もヒサシブリにしてみたくなりました。
返信する
Unknown (yuzu)
2023-06-02 00:13:10
手元のタブレットにてジョン・キーツの最新記事などを楽しませていただきながら飲み物1杯と穏やかな時間を過ごしています。
ちょうど北海道の牛乳なんです、中標津にある放牧牛の農場さんだからかしら?草の香りがしておいしい。笑
コンナ身近なとこでも自然と人間の知恵により生まれたもので自分は幸せかんじてるのよねーって、コメント内のURL飛び、読みながら緩く思考している中で携帯を手に取っています。

ここから長くってごめんなさいね、つい知人と話すみたいに書いてしまいました。
コメントはほかの読者さんもご覧になるものなのでしょうか?
だとしたら相当キモイんじゃない?って逡巡しながらです、でも送り先はないし?うう、どうしましょう。ごめんなさい。(謝っておきながら普通にたのしんで書きましたし、送ります。)

『慟哭の谷』未読です、三毛別の羆事件を扱っているんですね?日高山脈 福岡大ワンゲル獣害事件等の記録でも途中でうわあ…キッツ…となりながらも最後まで見れば、単独での登山や山菜採りにだけは絶対に行かないとだけ自分と約束をして。
一部の現地ガイドによれば熊鈴の効果にも疑問がとの話も聞きますが、鉄則は正しい知識のある複数人で行動、ですよね。
知床をはじめとした北海道内の観光地ではガイド体験時や野営時のフードコンテナ利用の周知に向けて資料ができていたりと、本州都会暮らしの自分が感じるよりずっと近くで羆と共存していて、ほんとう人類は昔に学ぶことで生きているのだなあ(今もすこしの油断があればえらいことなりますが)となります。
とはいえ羆の栄養失調からのお話は興味深いです、まずは図書館内で手に取ってみようと思います。

北海道モノ…久保俊治さんの『羆撃ち』が最近自分の中で印象がよく残っています。
管理人さんの記事でも触れられていた事に似て、久保さんのご本の中でも人為的に手負いにされた熊を自然に戻すことはやめてほしいとありました。
捕獲の際に使用される金属製の檻は脱出できないかと熊が手でいじれば、噛めば、当然、熊の爪や歯が傷つく。
手負いにされた熊がどれほど人間にとって危険な存在となりうるのかまで、久保さんの視点から書かれていました。
読了後羆が人間から受けた傷ははたして身体面だけなのかと、作中の人害により駆除対象となった羆を経験の浅いハンターが興奮しながら何発もの不必要な銃弾を遠に息絶えた羆に撃ち込んでいるのを見て久保さんがもうやめてくれと叫んでしまったといったエピソードからも、羆や自然界に住む動物の尊厳に思いが及んでしまいます。
苦しまず一撃で仕留められた動物の肉は絶品だと久保さんのお話だけでなく北海道で鹿のジビエをいたたいたレストランでも伺ったり。
URL先の記事も読ませていただいて、尊厳を守ること、自然界への人間の介入の範囲、お綺麗な事だけでは済まされないからむっっずかしいなりました。

久保さんが自分は人間で羆には及ばないから銃をつかわせていただく、というように書かれていた部分が特に印象深かったです。
山で銃をかまえるとき獲物となる動物とは対等の生命として向き合う、敬意を持って命をいただく。そうして動物は人へ、人は人へ、命を繋いでいくから、動物が生きた証はかすみ消えることはない。
好きで殺しあってるわけじゃないから、どっちも尊重したいなってなるのは自分が当事者じゃないよそ者で優しすぎるせいかも、ですが。
話は逸れますが、山の魔物との遭遇、の章を読んでいた夜は「そうだった山の神様は女神さまだった」とある種ホラーを見た気にもなり、古の阿仁地方に伝わる秘儀クライドリを思い出して緩和させてから寝ました、よい方法ではないですね、

ソンナコンナ考えているうち知人から北海道大学のある研究室が ヒグマのとなり という企画展示を8月まで催していると教えてもらって。人と羆との距離、恐れの先にある共存についてを制作されたようで、あの豊かな森にまた行きたくなっています。
雪の中転ばずに走ってる自転車は見れなくても、セイコーマートが敷地内にある大学は一年中最高です、
私は北大よりまず図書館に行きリストを消化しなきゃデスけれど。

記事を通しての学びある講義をありがとうございました、
雨ばかりの季節…管理人さんがノンビリ読書時間を楽しまれていらっしゃればいいなぁとおもいます。
返信する
yuzuさんへ ()
2023-06-02 15:52:53
本職の猟師さんたちの声は、本州でも同じようです。
スポーツハンティング系の方はむしろ野生獣の対人事故を誘発してしまいがちで、地元猟友会で対応するのだとか。
奥多摩=東京や丹沢=神奈川でもクマ撃ちの話は今もありますし、クマ鍋が名物という店もあります。

クマが人を襲う原因は主に、
①急に人と遭遇してビックリして襲う
②人間の食べ物を好んでしまい、人を襲うようになる
③人間をウッカリ食べてしまい食人癖がつく

③は、①や②が要因となって人間の味を憶えた為に起きる事故ですけど、
ようするに①や②がなければ、③は起きないとも言えます。

なので①を防ぐため「今から通るから鉢合わせないようお願いします」と知らせる音として、熊鈴は登山必携アイテムになっています。

②は食べ残しの廃棄、食材やザックの保管がアマイことが原因に。
きちんとしたベテランに教わっていないキャンパーや登山客は、こういうミスしがちなようです。

コメントに書いてくださった大学ワンゲルの事件も、かわいそうだけどソレだなあと。
テント泊で荷物・靴を外に出しっばが原因の遭難事故はすごくよくある話なんですよね、クマに限らず。

なんだか長くなってきた&アウトドアブームで遭難件数過去最悪な今シーズンなので、あらためて記事にしてみますね。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

文学閑話散文系」カテゴリの最新記事