agleam 道標の陽
第80話 端月act.4-another,side story「陽はまた昇る」
きしっ、
靴下を透かして無垢材が温かい。
開かれた窓ゆるく光の軌跡を描く、瑞々しい風あわく頬なでる。
屋根裏部屋の空気は変わらない、穏やかな天窓の光に微笑んで涙こぼれた。
「…待ってたよね、信じて、」
想い零れて雪の駐屯地また映りだす。
凍てつく夜のクラブで青年は明るかった、けれど底に哀痛が探す。
『父は6歳で重症の小児喘息に罹っていて、その治療費を稼げる仕事が見つかったと言って祖父は出掛けて、そのまま死にました。そして通夜に多額の香典が届いたそうです、無記名で、』
ほら青年の声が語りだす、この言葉たち幾度もう考えたろう。
そして気づかされる「同じ」は哀しくて、そして五十年前の罪悪感が滴りだす。
「どうして…おじいさん、」
呼びかけ見つめるトランクに祖父を追いかける。
今は宝箱にしている祖父のトランク、その古い時間は温かいと想っていた。
遺された本たちも人柄を偲ばせ愛しくて、けれど五十年前に祖父が撃った一発が被害者をまた生んだ。
―樋本さんのお祖父さんが僕の曾お祖父さんを殺したから、だからお祖父さんは撃ったんでしょう?でも、
樋本勝次、彼が自分の曾祖父を殺した、そして祖父に殺された。
新聞記事にはなっていない、けれど五十年前の記事を照らせば解かる事実。
それは祖父の小説にも綴られていた、だから自衛官になった青年の声は正鵠だ。
『祖父が何をしてお金がたくさん届いたのか解りません、でも父の病気が治ったお蔭で俺が生まれたんです。だから祖父を知りたくて俺も自衛官になったよ、』
彼の祖父は自分の曾祖父を殺した、そして自分の祖父に殺された。
殺し殺された彼の祖父、この事実を知ったなら彼は何を思うだろう?
『 La chronique de la maison 』
パリ郊外の惨劇を描いた祖父の著作、あれは五十年前の現実の記録だ。
まだ彼は読んでいない、けれど読んでしまったら何を考え何を願うのだろう?
―あんなふうに言うのは樋本さんのお父さんも同じ考えなんだ、治療費のためにお祖父さんが死んだって…殺されたと思ってる、から、
曾祖父を殺した人も家族がいた、そして病気の子供と妻が待っていた。
それなのに祖父は殺してしまって彼は帰れない、その罪と命の代償に病気の子供は救われて、その子供の息子は自衛官になった。
誰が加害者なのか被害者なのか?そんな疑問にもう一人を考えてしまう。
『通夜に多額の香典が届いたそうです、無記名で、』
香典の贈り主は“Mon visiteur”五十年前の来訪者だろう。
その証拠まだ何も掴んでいない、けれど祖父が遺した記録は描いている。
けれどなぜ五十年前こんなことをしたのか解らない、そして続く連鎖の根源は何だろう?
―どうして観碕さんはこんなことしたの、お祖父さんが観碕さんに何かした仕返しなの?樋本さんのお祖父さんも、
なぜ殺し殺される?
ただ解らなくて涙ゆるやかに頬伝う、そして怖くなる。
もし伊達が祖父のしたことを気づいたら何と思うのだろう?
―樋本さんのお祖父さんを殺したのは、観碕さんだと思ってるんだ…僕のお祖父さんも加害者なのに、
もし伊達が知ったらなんていうのだろう?
そして樋本が知ったなら自分をなんて思うのだろう、復讐を願うのだろうか?
だって樋本には父親を救った祖父でしかない、それを殺した男の孫を赦せるのだろうか?
―それに樋本さんのお祖父さんには理由もあるんだ、解雇されて困って…でもお祖父さんもお父さんを、
解雇された困窮に犯した殺人は息子を病から救う願いだった。
それは祖父も同じだったかもしれない、父を護るために祖父は発砲したのだろう?
それでも、どんな理由があろうとも殺した現実は変わらない、そんな思案に想ってしまう。
いつか自分が殺される運命だとしたら狙撃手は誰だろう?
「…ぼくは文句なんていえない、でも…おかあさん」
呟いて涙そっと頬こぼれてしまう。
こんなこと哀しい、母を想うと尚更に哀しくて泣きたくなる。
どうやって母を護ればいいのだろう?そんな思案に階下の声が呼んだ。
「周、顕子叔母さまがいらしたわよー、」
味方、ひとりだけいた。
―おばあさまなら解かって下さる、きっと、
きっと英二には今まだ解ってもらえない、あの生真面目で激しい気性は何をするか解らない。
けれど顕子なら全て受けとめてくれる、その信頼に涙ぬぐい父の形見に微笑んだ。
「小十郎、きっと大丈夫だね?」
大丈夫、そう声にしてすこし息つける。
いま抱えこむ不安も孤独じゃない、だって味方が来てくれた。
きっと自分にとって誰より心強いひとだろう、その信頼に立ちあがると階下へ降りた。
「…ん、」
ひとつ頷いて仏間の扉を開く。
ふわり線香ゆるやかに視界が明るむ、そのテラス大きな窓辺で老婦人が微笑んだ。
「久しぶりね周太くん、あけましておめでとうございます、」
落着いたアルトの声は明るく透る、切長い瞳も涼やかに深い。
端整な眼差しは父を懐かしませる、この唯一の親戚に微笑んだ。
「あけましておめでとうございます、おばあさま…お元気そうですね、」
「元気に憎まれっ子はばかっていますよ、」
笑いかけてくれる白皙の顔は「憎まれっ子」と程遠い。
こんな冗談から気さくな大叔母が嬉しくて笑いかけた。
「菫さんはお元気ですか?雪と海も、」
菫色の瞳した英国ハーフのガヴァネス、真白な猫と茶色い犬。
あの空中庭園に誰も幸せでいてほしい、そんな願いに父そっくりの瞳は笑ってくれた。
「みんな元気よ、お土産を菫さんから預かってきたわ、どうぞ?」
話しながらテラスに差し向かい、白い封筒ひとつ渡してくれる。
受けとって、開いて見ると綺麗な便箋とカード2枚あらわれた。
……
Dear 周太
体のこと顕子さんから聴きました、喘息に効くレシピを贈ります。
同封したカードのイラストは周太さんのお父さん、馨くんが描いてくれたものです。
ずっと大事にしてきましたがお年玉代わりに差し上げます、その方が馨くんも喜ぶわ。
Happy New Year.あなたに実り多き年でありますように、毎日無事を祈っています。
Letitia Violet
……
ほら、自分はこんなに独りじゃない。
離れていても想い続けてくれる人がいる、それは自分の想いよりずっと大きい。
幼い父を愛しんでくれた菫色の瞳、彼女が今もよせてくれる想いは愛惜ごと温かで泣きたくなる。
―大事にしてくれたんだ、ずっと、
幼い父が菫に贈って、それから何十年も過ぎている。
それでも大切にし続けてくれた想いが瞳あふれそうで、ただ堪える肩を優しい手が包んだ。
「そのカード、馨くんがオックスフォードから贈ってくれたのよ?イギリスの薔薇は懐かしいでしょうって、」
深いアルトの声に見つめたカードは純白の薔薇やわらかに咲く。
一重咲き清楚な白い花、その隅に語られたままの言葉がアルファベットに綴られる。
この花に父は何を見つめていたのだろう?そんな想いに封筒もうひとつ差し出してくれた。
「私宛に馨くんが送ってくれた手紙のコピーよ、馨くんには恥ずかしがられそうだけどお年玉代わりに持ってきました、」
きれいな白い便箋そっと開いて筆跡あらわれる。
大人びた端正な文字、けれど少し幼い筆跡が遠い時間から愛おしい。
こうして父の記憶を贈ってくれる、そんな存在が嬉しくて笑いかけた。
「ありがとうございます、母と読ませて頂きますね…本当にありがとうございます、」
父の手紙は今まだ読めない、だってきっと泣いてしまう。
きっと母は泣くだろう、自分も泣いてしまう、そのままに封筒を抱きしめ尋ねた。
「部屋にしまってきていいですか、中座はお行儀悪いんですけど、」
「どうぞ?お茶で汚したら大変だもの、」
涼やかな切長い瞳が笑ってくれる、その眼差しが父そっくりに温かい。
こんなふう元旦に父の俤が来てくれた、この幸せに笑ってホールへ出た。
「あら周、中座なんてどうしたの?」
トレイ抱えた笑顔に訊かれて嬉しくなる。
だって母も楽しそうだ、この温かい休日に笑いかけた。
「今ね、おばあさまに宝物を頂いたんだ、汚したらいけないからしまいに行くの、後で一緒に見てね?」
この宝物はきっと母を泣かせて、それから幸せにしてくれる。
そんな温もりの真中で優しいアルト笑ってくれた。
「楽しみね、うんと良いものなんでしょう?周ったら泣きそうなくらい嬉しそうに笑ってるもの、」
ほら、母はすぐ見ぬいてしまうんだから?
また気恥ずかしいけれど幸せで笑いかけた。
「ん…まだ泣かないよ?」
まだ、なんて言ったあたり笑われそう?
そんな予想と微笑んで階段を昇り部屋に戻った。
―病院は明日の10時だから時間あるもの、お母さんとは夜ゆっくり読めるね、
ほんとうに良いお年玉だな?
その想い嬉しくて、そして贈られた温もりが涙こぼれそうになる。
けれど今泣いたら母と顕子に気づかれてしまう、だから笑ってデスクの抽斗ひいて、けれど引っ掛った。
「あ…?」
なにが引っ掛かるのだろう?
秋に帰ってきた時はこんなこと無かった、けれど今は開きにくい。
不思議で、サイドテーブルに封筒2つ置くとデスクの下もぐりこんだ。
―小さい頃はよく潜ってたな、洞窟ごっこして…あったかで、
クラシカルなデザインの勉強机は父の手製だと聴いている。
その温もり優しい空間が好きだった、今も同じに懐かしいまま視線が止まった。
あれは何だろう?
(to be continued)
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第80話 端月act.4-another,side story「陽はまた昇る」
きしっ、
靴下を透かして無垢材が温かい。
開かれた窓ゆるく光の軌跡を描く、瑞々しい風あわく頬なでる。
屋根裏部屋の空気は変わらない、穏やかな天窓の光に微笑んで涙こぼれた。
「…待ってたよね、信じて、」
想い零れて雪の駐屯地また映りだす。
凍てつく夜のクラブで青年は明るかった、けれど底に哀痛が探す。
『父は6歳で重症の小児喘息に罹っていて、その治療費を稼げる仕事が見つかったと言って祖父は出掛けて、そのまま死にました。そして通夜に多額の香典が届いたそうです、無記名で、』
ほら青年の声が語りだす、この言葉たち幾度もう考えたろう。
そして気づかされる「同じ」は哀しくて、そして五十年前の罪悪感が滴りだす。
「どうして…おじいさん、」
呼びかけ見つめるトランクに祖父を追いかける。
今は宝箱にしている祖父のトランク、その古い時間は温かいと想っていた。
遺された本たちも人柄を偲ばせ愛しくて、けれど五十年前に祖父が撃った一発が被害者をまた生んだ。
―樋本さんのお祖父さんが僕の曾お祖父さんを殺したから、だからお祖父さんは撃ったんでしょう?でも、
樋本勝次、彼が自分の曾祖父を殺した、そして祖父に殺された。
新聞記事にはなっていない、けれど五十年前の記事を照らせば解かる事実。
それは祖父の小説にも綴られていた、だから自衛官になった青年の声は正鵠だ。
『祖父が何をしてお金がたくさん届いたのか解りません、でも父の病気が治ったお蔭で俺が生まれたんです。だから祖父を知りたくて俺も自衛官になったよ、』
彼の祖父は自分の曾祖父を殺した、そして自分の祖父に殺された。
殺し殺された彼の祖父、この事実を知ったなら彼は何を思うだろう?
『 La chronique de la maison 』
パリ郊外の惨劇を描いた祖父の著作、あれは五十年前の現実の記録だ。
まだ彼は読んでいない、けれど読んでしまったら何を考え何を願うのだろう?
―あんなふうに言うのは樋本さんのお父さんも同じ考えなんだ、治療費のためにお祖父さんが死んだって…殺されたと思ってる、から、
曾祖父を殺した人も家族がいた、そして病気の子供と妻が待っていた。
それなのに祖父は殺してしまって彼は帰れない、その罪と命の代償に病気の子供は救われて、その子供の息子は自衛官になった。
誰が加害者なのか被害者なのか?そんな疑問にもう一人を考えてしまう。
『通夜に多額の香典が届いたそうです、無記名で、』
香典の贈り主は“Mon visiteur”五十年前の来訪者だろう。
その証拠まだ何も掴んでいない、けれど祖父が遺した記録は描いている。
けれどなぜ五十年前こんなことをしたのか解らない、そして続く連鎖の根源は何だろう?
―どうして観碕さんはこんなことしたの、お祖父さんが観碕さんに何かした仕返しなの?樋本さんのお祖父さんも、
なぜ殺し殺される?
ただ解らなくて涙ゆるやかに頬伝う、そして怖くなる。
もし伊達が祖父のしたことを気づいたら何と思うのだろう?
―樋本さんのお祖父さんを殺したのは、観碕さんだと思ってるんだ…僕のお祖父さんも加害者なのに、
もし伊達が知ったらなんていうのだろう?
そして樋本が知ったなら自分をなんて思うのだろう、復讐を願うのだろうか?
だって樋本には父親を救った祖父でしかない、それを殺した男の孫を赦せるのだろうか?
―それに樋本さんのお祖父さんには理由もあるんだ、解雇されて困って…でもお祖父さんもお父さんを、
解雇された困窮に犯した殺人は息子を病から救う願いだった。
それは祖父も同じだったかもしれない、父を護るために祖父は発砲したのだろう?
それでも、どんな理由があろうとも殺した現実は変わらない、そんな思案に想ってしまう。
いつか自分が殺される運命だとしたら狙撃手は誰だろう?
「…ぼくは文句なんていえない、でも…おかあさん」
呟いて涙そっと頬こぼれてしまう。
こんなこと哀しい、母を想うと尚更に哀しくて泣きたくなる。
どうやって母を護ればいいのだろう?そんな思案に階下の声が呼んだ。
「周、顕子叔母さまがいらしたわよー、」
味方、ひとりだけいた。
―おばあさまなら解かって下さる、きっと、
きっと英二には今まだ解ってもらえない、あの生真面目で激しい気性は何をするか解らない。
けれど顕子なら全て受けとめてくれる、その信頼に涙ぬぐい父の形見に微笑んだ。
「小十郎、きっと大丈夫だね?」
大丈夫、そう声にしてすこし息つける。
いま抱えこむ不安も孤独じゃない、だって味方が来てくれた。
きっと自分にとって誰より心強いひとだろう、その信頼に立ちあがると階下へ降りた。
「…ん、」
ひとつ頷いて仏間の扉を開く。
ふわり線香ゆるやかに視界が明るむ、そのテラス大きな窓辺で老婦人が微笑んだ。
「久しぶりね周太くん、あけましておめでとうございます、」
落着いたアルトの声は明るく透る、切長い瞳も涼やかに深い。
端整な眼差しは父を懐かしませる、この唯一の親戚に微笑んだ。
「あけましておめでとうございます、おばあさま…お元気そうですね、」
「元気に憎まれっ子はばかっていますよ、」
笑いかけてくれる白皙の顔は「憎まれっ子」と程遠い。
こんな冗談から気さくな大叔母が嬉しくて笑いかけた。
「菫さんはお元気ですか?雪と海も、」
菫色の瞳した英国ハーフのガヴァネス、真白な猫と茶色い犬。
あの空中庭園に誰も幸せでいてほしい、そんな願いに父そっくりの瞳は笑ってくれた。
「みんな元気よ、お土産を菫さんから預かってきたわ、どうぞ?」
話しながらテラスに差し向かい、白い封筒ひとつ渡してくれる。
受けとって、開いて見ると綺麗な便箋とカード2枚あらわれた。
……
Dear 周太
体のこと顕子さんから聴きました、喘息に効くレシピを贈ります。
同封したカードのイラストは周太さんのお父さん、馨くんが描いてくれたものです。
ずっと大事にしてきましたがお年玉代わりに差し上げます、その方が馨くんも喜ぶわ。
Happy New Year.あなたに実り多き年でありますように、毎日無事を祈っています。
Letitia Violet
……
ほら、自分はこんなに独りじゃない。
離れていても想い続けてくれる人がいる、それは自分の想いよりずっと大きい。
幼い父を愛しんでくれた菫色の瞳、彼女が今もよせてくれる想いは愛惜ごと温かで泣きたくなる。
―大事にしてくれたんだ、ずっと、
幼い父が菫に贈って、それから何十年も過ぎている。
それでも大切にし続けてくれた想いが瞳あふれそうで、ただ堪える肩を優しい手が包んだ。
「そのカード、馨くんがオックスフォードから贈ってくれたのよ?イギリスの薔薇は懐かしいでしょうって、」
深いアルトの声に見つめたカードは純白の薔薇やわらかに咲く。
一重咲き清楚な白い花、その隅に語られたままの言葉がアルファベットに綴られる。
この花に父は何を見つめていたのだろう?そんな想いに封筒もうひとつ差し出してくれた。
「私宛に馨くんが送ってくれた手紙のコピーよ、馨くんには恥ずかしがられそうだけどお年玉代わりに持ってきました、」
きれいな白い便箋そっと開いて筆跡あらわれる。
大人びた端正な文字、けれど少し幼い筆跡が遠い時間から愛おしい。
こうして父の記憶を贈ってくれる、そんな存在が嬉しくて笑いかけた。
「ありがとうございます、母と読ませて頂きますね…本当にありがとうございます、」
父の手紙は今まだ読めない、だってきっと泣いてしまう。
きっと母は泣くだろう、自分も泣いてしまう、そのままに封筒を抱きしめ尋ねた。
「部屋にしまってきていいですか、中座はお行儀悪いんですけど、」
「どうぞ?お茶で汚したら大変だもの、」
涼やかな切長い瞳が笑ってくれる、その眼差しが父そっくりに温かい。
こんなふう元旦に父の俤が来てくれた、この幸せに笑ってホールへ出た。
「あら周、中座なんてどうしたの?」
トレイ抱えた笑顔に訊かれて嬉しくなる。
だって母も楽しそうだ、この温かい休日に笑いかけた。
「今ね、おばあさまに宝物を頂いたんだ、汚したらいけないからしまいに行くの、後で一緒に見てね?」
この宝物はきっと母を泣かせて、それから幸せにしてくれる。
そんな温もりの真中で優しいアルト笑ってくれた。
「楽しみね、うんと良いものなんでしょう?周ったら泣きそうなくらい嬉しそうに笑ってるもの、」
ほら、母はすぐ見ぬいてしまうんだから?
また気恥ずかしいけれど幸せで笑いかけた。
「ん…まだ泣かないよ?」
まだ、なんて言ったあたり笑われそう?
そんな予想と微笑んで階段を昇り部屋に戻った。
―病院は明日の10時だから時間あるもの、お母さんとは夜ゆっくり読めるね、
ほんとうに良いお年玉だな?
その想い嬉しくて、そして贈られた温もりが涙こぼれそうになる。
けれど今泣いたら母と顕子に気づかれてしまう、だから笑ってデスクの抽斗ひいて、けれど引っ掛った。
「あ…?」
なにが引っ掛かるのだろう?
秋に帰ってきた時はこんなこと無かった、けれど今は開きにくい。
不思議で、サイドテーブルに封筒2つ置くとデスクの下もぐりこんだ。
―小さい頃はよく潜ってたな、洞窟ごっこして…あったかで、
クラシカルなデザインの勉強机は父の手製だと聴いている。
その温もり優しい空間が好きだった、今も同じに懐かしいまま視線が止まった。
あれは何だろう?
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