「メジャーの打法」~ブログ編

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続・投球のバイオメカニクス(24)

2011年10月16日 | 投法

 僧帽筋横部(中部)。

 『投げる科学』(p112-4)にはテニスサーブの項がある。宮下1980の筋電図と考察の紹介なのだが、ところどころにMorris1989からの引用があって、つまり肘伸展型と肩内旋型が混在するという、何とも珍妙な記述になっている。それでも特に違和感がないのは、Morrisが肩内旋型の描写に失敗した(肘伸展を過大に評価した)からだ。一部を引用し、グラフを再掲しよう。

 サービスにおける上肢・上肢帯の筋電図記録からは,筋を働かせる順序がよくわかる(図1-78)134)。すなわち,テイクバック局面では,上腕二頭筋を働かせて肘を曲げつつ僧帽筋と三角筋を働かせて肘を挙上する。このとき,肩にラケットをかついでからその面を下に落とすので,手首の伸筋群がactiveに働いている142)。ここではフォワードスウィングで使われる筋が伸張性収縮になっていると考えられる。
 つづいて大胸筋を働かせてラケットを前方へ運ぶ局面がある。この大胸筋は疎下筋とともに肩の固定も行い,僧帽筋と上腕三頭筋が働いてラケットを上方へ運ぶ局面,それとほぼ同期して榛側手根屈筋が働いてラケットを回転させる局面が認められる。これらはラケットを加速させるために働き,特に円回内筋と上腕三頭筋は著しい働きをする142)といわれている。また,この加速期には手首の固定のための橈側手根伸筋と屈筋の活動も顕著になる142)
 フォロースルーでは,ラケットの運動を重力に任せるために・・・(略)
 
 
134)は宮下、142)はMorrisからの引用

 


 バックスイングで、「ここではフォワードスウィングで使われる筋が伸張性収縮になっていると考えられる」とあるが、宮下1980にはないだろう。いかにも肩内旋型という感じだからだ。

 肘伸展型は、グラフからもわかるように、筋放電休止があり(p132参照)、加速期に入ってから体幹の回旋によって伸張性収縮が作られる。
 肩内旋型は、Seeleyのelectromyographyの項にある、

During the earlier phases of the tennis serve (early
and late cocking), the pectoralis major was most active, indicating an eccentric contraction prior to the acceleration phase.

でわかるとおり、一貫して大胸筋の収縮があり、筋放電休止はない。コッキング期に、ラケットの落としで伸張性収縮を作る。
 平野はどこかから肩内旋型の記述を引っ張ってきて、宮下1980に付け足したのだろう。

 フォワードスイングに入って、「大胸筋を働かせてラケットを前方へ運ぶ局面がある」のは肩内旋型も投球も同じ。注目すべきは、次の、「僧帽筋と上腕三頭筋が働いてラケットを上方へ運ぶ」局面だ(グラフにあるとおり僧帽筋は横部で、これに三角筋が加わる)。僧帽筋横部を加速に使うところに肘伸展型の特徴が現れている。
 一方肩内旋型はというと、Seeleyに、

During the latter phases of the serve (acceleration and follow-through), the posterior muscles (middle trapezius, infraspinatus, and posterior deltoid) were
most active. This activity revealed an eccentric action on the part of the posterior shoulder musculature, in order to decelerate the rotating humerus.

とあるように、僧帽筋横部の役割は減速なのだ。


 さてここで、僧帽筋横部の加速への寄与を考えているうちに、とんでもない誤解があったことに気付いた。

 サーブの肩内旋型は投球のアメリカン投法に似ている。肘伸展が肩内旋型と異なり、非連続型がアメリカン投法と異なることも確かだ。しかし、肘伸展型サーブと非連続型投法は、肘伸展に多くを依存しているという共通点はあるものの、一枚岩ではないらしい。

  • 肘伸展型・・・『突き型』で、僧帽筋横部、三角筋三頭筋の同時収縮により、手(+ラケット)を突き上げる。
  • 非連続型・・・『打ち型』で、肩内転に続いて肘伸展が起こる。

というあたりだ。平野を笑ってばかりもいられない。




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