「メジャーの打法」~ブログ編

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リスト

2007年07月04日 | 打法

 「リスト」について考えてみた。

 バッティングには「リストを利かす」という表現がある。普通に解釈すると「手首の屈筋を使う」ということになるだろうが、実際に使っているかどうかは微妙である。
 テニスのサーブでは使わないが、バトミントンのスマッシュでは使うそうである。

 アデアの「ベースボールの物理学」には、以下のような記述がある。

The arms and hands serve mainly to transfer the energy of the body's rotational and transverse motion to the bat and add little extra energy to the bat.

In particular the contribution of the hands and wrists to the energy of the bat is almost negligible


 リストはおろか、tophandpush、bottomhandpullの偶力も小さいとしている。だから「ロープの付いたおもり」のモデルを考えたわけである。
 従って、インサイドアウトにバットを突き出す(偶力を掛ける)打法にはアデア・モデルを適用することはできない。しかし、一般に「リストを利かす」という時は、偶力を掛ける時の動作を言うのだろう。

この場合、エネルギーは無視できない。極端な場合はⅢ型になるからである。


 さてそこで、インサイドアウトの打法では、右手の屈筋を使っているだろうか?

 屈筋を使うとすれば、小池のグラフでsp軸まわりの作用モーメントに正の数値として現れるだろう。投球のように屈筋は使うが、モーメントは掛けないということはありえないからである。(バトミントンのスマッシュも同じ)
 ところが、グラフ(右下)を見ると、インサイドアウトで打っているであろう選手Sの場合、偶力を掛ける時期に右手が掛けるsp軸まわりの作用モーメント(青の実線)は負なのである!
 手刀で瓦を割る時のように、手首の関節トルクは伸展値ということになるだろう。つまり、「リストを利かす打法」では、リストは使わないのである。

 ・・・だとすると、バッティングでは、屈筋は単にインパクトにおいてバットを固定するためにのみ使われるのだろうか?

 答えは否。打法によっては屈筋を働かせてヘッドを加速しているのである。
 同じグラフで選手Oの値(黒の実線)は正になっている。この打法は日本式のダウン・スイングで動作が袈裟切りに似ている。真似てみれば解るが、「リストを使う」という言葉から連想される最も普通の意味で使っているのである。


 ところが、実は、日本人には理解し難い、もうひとつリストの使い方がある。アーロンのところで述べたのだが、彼はバットを引き留める時に手首の屈筋を使っていると考えられる。恐らく黒人選手がリストを使うというのは、こういうことなのだろう。
 この場合は、sp方向の作用力に負の数値として現れるが、作用モーメントは小さいはずである。バットにエネルギーを付与することはないのだが、末端の加速には大いに寄与する。


 アーロンは著書(Hitting the Aaron way)の中で以下のように述べている。

I Iike to hold the bat well back in the parm, large (fleshy) part of the thumb, with the knob of the bat lying right beneath the palm of my hand. Another way, one that's popular with many high-school coaches, is to hold it in your fingers.
Now, the reason I hold the bat well back in my hand, instead of in my fingers, is that basically I'm a wrist hitter. Holding it back there gives me a grip that allows me to roll my wrists and in a sense "throw" the bat at the ball. Gripping the bat in my fingers would make that roll kind of tough to do, since I'd be locking my wrists.


グリップは、フィンガー・グリップではなく、パーム・グリップである。
私は、いわばバットをボールに投げつけるように打つリスト・ヒッターだから、手首の回転が楽なパーム・グリップの方が合っている


ということである。これを読んですんなり理解できる日本人がいるだろうか?
 アーロンが偶力を使っていないのは、インパクトにおける右手首の掌屈からも明らかである。つまり、手首を使っていると言っても、使い方が日本人とはまったく違うと考えるべきなのである。

 打撃論を展開する、あるいは打者の言葉を正しく理解するには、そのことを踏まえておかねばならない。

 例えばボンズは、

・・・using the top hand to throw the barrel at the ball.


と述べているように、自分をリスト・ヒッターだと言うだろう。A型はインパクト付近でグリップの移動が小さく、バットの角速度を上げる打法なのである(オルティス)。
 その場合、アーロンと同じ意味に解釈すべきで、両手で偶力を掛けているわけでも、(バトミントンのスマッシュのように)右手で偶力を掛けているわけでもないのである。

 


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