快読日記

日々の読書記録

読了『「鬼畜」の家』石井光太

2016年10月17日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
10月15日(土)

親が虐待の末に子供を殺してしまうニュースを見るたびに、どんなふうに生まれ、どう育てられたら我が子を殺せる人間になるのか、と思う。
『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』(石井光太/新潮社)を読了した。
帯の「虐待する親たちを3代までさかのぼり、その生育歴にも至る」に関しては、少しだけ期待はずれか。
3つの事件をたった1冊に収めているくらいだから、そこまでは無理か。
でも、そこを除けば、ものすごく読み応えがあった。


ひとつめの事件(厚木市幼児餓死白骨化事件)の加害者の親戚にあたる女性の「この家で大きな問題が起こるのは、時間の問題だって思ってました」(81p)という証言もあるように、“殺す親”たちの生育歴や生育環境には共通点が多く、“起こるべくして起きた”感はぬぐえない。
何かがごっそり抜けている人間?
(共通点と言えば、揃いも揃ってみんな“アトピー”で“ディズニー好き”だ。なぜだ。)

じゃあ、同じような環境で育てばみんな子供を虐待するのか、殺すのか、といえばもちろん否!なので、いろんな要素が組み合わさり重なった結果がこれかと思うと、ページを繰る手も重くなる。

2つめの事件、小さい子供たちが寝ている隣で出産して、その場で処理する女の姿はおぞましいが、うっかり「タフだなー」と感心してしまった。
彼女も“異様なほどの受動的人間”だ。

3つめ、表紙写真に登場するウサギ用ケージ(実際使われたものより大きいそうだ)に3歳の男の子を閉じ込め、タオルで口を縛って窒息死させた事件。
長時間かけて窒息に至る「遷延性窒息」という言葉を初めて知った。
どんなに苦しかっただろう。
その加害者夫婦の妻(筆者が彼女の詐病に気づくくだりは、どのホラーよりも怖い)の母親への取材が何とも言えずすごかった。
尼崎の角田美代子の本を読んだときにも思ったけど、「モンスター」って確かにこの世に実在するなあ。
そういう人物に育てられ(“育て”たかどうかはともかく)、「極めて強い受動」(39p)性を植え付けられた子供が、「虐待する親」になる道はそんなに遠くない。


エピローグで、望まない妊娠などの理由で子供を手放したい母親と養親(里親)をつなぎ、特別養子縁組を斡旋するNPOを取材している。
もしここに来なかったら加害者になっていたかも、と思わせる女性も登場する。