快読日記

日々の読書記録

「ヤンキー化する日本」斎藤環

2014年08月03日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
《7/30読了 角川oneテーマ21(KADOKAWA) 2014年刊 【社会評論】 さいとう・たまき(1961~)》

秋田の畠山鈴香の事件をモチーフにした橋本治の小説「橋」の中に、こんな一節がありました。

「雅美は、理性によって恐怖感を克服するというのとは逆のやり方--すなわち、知性を放棄することによって恐怖感を捨てるということをした。だから雅美に、こわいものはない--それを感じる判断基準がない。ただ「好き、嫌い」の判断基準しかない」

「雅美」というのはほぼ「鈴香」と捉えていい人物なんですが、この「反知性」「反教養」、知ることや熟考することを拒否して感じることを最優先する姿勢こそ、ここで斎藤環が展開するヤンキーの最大の特徴です。

彼らはコミュニケーション能力が高く(実のない話をずっと続けることができる)、絆好き(家族や仲間を大事にする)、独特のセンス(サンリオやディズニーが大好き、車内に七人の小人やフェイクファーを飾る、成人式には純白袴)、そして、相田みつをや高橋歩のようなストレートなポエムに胸を打たれ、理屈を嫌い、気合いで突っ切る!これぞ日本のヤンキー!!

「世の中はファンシーとヤンキーでできている」と言ったナンシー関の没後、ヤンキーの質はますます安定し、勢力は増す一方です。
おたくをターゲットにした商品がヒットするとはよく聞きますが、これがヤンキーならひとケタ違うって言うんだから、市場を動かしてるのはヤンキーだと言っても過言ではない。

本書のメインはヤンキーをテーマにした対談です。
村上隆とはアートとヤンキー、 溝口敦とは暴力団サイドから見たヤンキーについて語り、
デーブ・スペクターで休憩、
若手の與那覇潤とは国家とヤンキーのちょっと突っ込んだ話、元ヤン・元ホストで根はおたくの海猫沢めろん、最後には建築家の隈研吾が登場します。
このメンバーを見るだけでもヤンキーというテーマの広さと深さを感じます。
特に與那覇、隈研吾がおもしろかったです。
眼から鱗、って使い古された表現ですが、まさにそれ。

これを読むと、周りの人をつい「ヤンキー」と「おたく」に二分したくなります。
(しかし、アニメが好きだからおたくかと言えば、そう簡単な話ではありません)
それから、かねがね理解に苦しんだブームやヒットの理由も「ヤンキー」というキーワードを当てはめるとたちまち納得がいき、ずいぶんすっきりしました。
(例えばビッグダディに代表される大家族もの、一時期の橋下徹人気、EXILEの成功、ドン・キホーテの独特の雰囲気、「ワンピース」やディズニーアニメの大ヒットなど、数え出したらキリがない)
中島義道も「ヤンキー的日本社会」と闘っていたのだと思うと納得。

社会を変えるより自分を変えるという現実主義、理屈より行動、勉強なんかできなくたって「気合い」と「絆」で乗り切るんじゃー!というヤンキーが9割(ってほんとかよ)なこの国の明日はどっちだ!?

/「ヤンキー化する日本」斎藤環