快読日記

日々の読書記録

「家族喰い 尼崎連続変死事件の真相」小野一光

2014年01月05日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
《12/25読了 太田出版 2013年刊 【ノンフィクション 角田美代子】 おの・いっこう(1966~)》

「怖い」の種類っていろいろあるけど、この角田美代子の事件では何だろう。
人生を穢され、身も心もズタズタにされる恐怖。
普通の毎日にじわじわ侵食してきて、気がついたら二度と戻れない彼岸に流されてる恐怖。

こういう犯罪ものって比較的(正直に言えばかなり)好きで、よく読むんですが。
たいていは「悲しい」とか「せつない」とかが込み上げてきて、意外と「怖い」度は低いことが多い。
(「怖い」で今思いつくのは山地悠紀夫の本「死刑でいいです」だけど、「気持ち悪い」「悲しい」の割合の方が高かった)
ところがこの本の「怖い」ことといったら!
何度もうわごとのように「こわいこわいこわい」とつぶやきながら読みました。
特に、美代子が乗っ取って粉々にした谷本家の長女が死に至るまでの話には涙が出ました。
「かわいそう」と「怖い」両方です。
彼女は二度脱出を図っていて、特に最初の逃亡生活2年あまりの間に親しかった女性の証言が本当に気の毒だった。
他人にこれほどまでのダメージを与えられる美代子って一体どういう人間なんだろう。
本書ではその寂しい子供時代にも言及しているけど、それだけでは到底推し量れない、なんか、この世に対する、人間に対する凄まじい「怨念」みたいなものを感じます。
それは殺意なんかよりもっと根深い悪意の塊。
さらに「怖い」のは、この美代子が決して特異な存在ではなく、この町に(この国に)まだまだいるという数々の証言。
そして、美代子と関わって現在行方不明なのに、事件になっていない人物がいること、これは早く警察に動いてほしい。
この一連の事件で警察は「民事不介入」を盾に全く力になってくれず、第二の加害者と言ってもいい存在でしたから。

→「モンスター 尼崎連続殺人事件の真実」一橋文哉

/「家族喰い 尼崎連続変死事件の真相」小野一光