快読日記

日々の読書記録

「しつこさの精神病理―江戸の仇をアラスカで討つ人」春日武彦

2010年04月04日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
《4/3読了 角川oneテーマ21(角川書店) 2010年刊 【精神 恨み】 かすが・たけひこ(1951~)》

テーマはズバリ「恨み」。
思いがけないトラブルにみまわれた時の「なぜ私がこんな目に」という不条理感と被害者意識の話に始まり、
後半は「恨み」「怒り」「復讐心」にどう折り合いをつけるか、あるいはつかないか、が独特のクドクドした言い回し(それこそ春日武彦の"旨味"なんですが)で論じられます。

途中からある人が頭に浮かんで離れなくなりました。
先頃、足利事件での冤罪を晴らしたSさんです。
(以下、本書で言及される「恨みを抱える人」とSさんとでは、被害の大きさや深刻さが違うだろう、という反論もあろうかと思いますが、わたしは、程度の差こそあれ、ことの本質は同じだと考えています)

彼が当時の警察や司法関係者などについて「絶対許せない」とつぶやく映像を見るたびに、つい「もし自分だったら」と考えてしまいます。
この前、裁判官が彼に謝りましたね。
では、もしも、当時のすべての関係者が誠意のある謝罪をしたら、彼の積年の恨みや怒りはきれいさっぱり消えてなくなるのでしょうか。
たぶんなくならない。

「他人を延々と恨み続ける人(中略)―なぜ彼らはそのように固執するのか。答えは『それしかできない』からである(152p)」

でも「それしかできない」のが普通の人間ですよね。
わたしだったら、恨みという不毛なエネルギーで残りの人生を台無しにしたくないとは思っても、恨みに絡めとられた日々を過ごしてしまいそうです。
それは、「恨みというものは後悔とペアになっている(159p)」から。
つまり、本書で言うとおり、なぜあの時もっと毅然と言い返さなかったのか、なぜ言いなりになってしまったのか、という無念さと情けなさが怒りと恨みに拍車をかけてしまうからです。

怒りと恨みの連鎖から抜け出し、日常を取り戻すにはどうしたらいいのか、本書に明確な提示はありませんが、病因が分かっただけでもいいのかな。よくわかりませんが。
やっかいな本です。いろんなものをつきつけられて、つらくなりました。