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Northern Liquor Mountain

くじ引きによるリレー小説と書き手の生態など。

リレー書いたよ

2006-06-14 09:11:18 | リレー:2006 春 男女3人遊園地物語
この年、女性ファッション誌の人気モデルを起用し、その名にひっかけたCMで大ブームとなっていたもの――何であろうそれは『牛乳』である。
大学生~OL層に絶大な影響力を持つ彼女、名を『牛牧(うしまき)萌子』通称“牛ちゃん”という。
若い女性の間では今、カフェに行って「ミルク」と注文するのが何をおいてもまず新しい。
季節が初夏から本格的な夏になろうかというこの時期、普通なら牛乳のような日持ちのしない飲み物はこのようなテーマパークのメニューには、元々あったとしても削除されているはずだが、O-157の被害も人々の記憶から薄れつつある平和な昨今、寛太の財布の中身と売店のメニューとを見比べる3人の小学生の目には、確かに“ミルク”という文字が燦然と輝いていた。
それしか買えないのだ、輝きもしよう。

「まあ……ええんちゃう? 自分らカルシウム不足でイライラしてるから」

さほど牛ちゃん云々にまだ興味がない賀世子が微妙な顔をしていると、加登吉が間をとりなすようにそう言い、オープンテラスになっているテーブルの椅子を引いた。

「どうぞ、櫻田」
「え? なによもう牛乳を飲むことに決まってるの?」

固形物が食べたい、と賀世子の胃はしつこく訴えかけていたが、物理的に不可能なのだから仕方ない。
かりそめの“彼氏”である加登吉が背に手をかけている椅子に座り、なんとなく場の勢いで寛太も同じテーブルに着く。

「じゃあ、買ってきたるから、喧嘩せんと仲良く待っとくんやで~」

寛太の財布を我が物顔で手にして、加登吉は颯爽と売店に向かって歩いていった。
ちなみに自分は女の子をフォローするという名目で、可愛い女の子たちに囲まれきゃあきゃあ言われながらさきほどこの財布からしこたま固形物――まあ普通の食事を摂った。
他人の金で食べる食事ほど美味いものはない。
そしてほどほどのところで友人思いの米田くんを前面に押し出し、女の子たちに好印象を駄目押しして寛太を探しにやってきたのだ。
腹黒いと言うなかれ、寛太と加登吉の関係とはこのように、利用し利用されるスリリングな緊張に満ちていてこそなのである。
小学生も楽ではない。


(はあ~……)
とはいえ、人間の飢餓状態というのはピークを過ぎれば一旦おさまるものだ。
(さっきはちょっ……と……言い過ぎたかな?)
賀世子と寛太は加登吉が戻ってくるのを待つあいだ気まずい空気で向かい合いながら、徐々に普段の自分を取り戻しつつあった。
いい人間かと言われれば微妙なところだが、二人はどちらも元々悪い人間ではない。
一応反省の心は持っているのだ。

「……」
「……」
「「……あの、」」

なんというベタな、という気もしないではないが、二人同時に何か言いかけて、黙る。

「……米田、まだかな」
「ああ、うん、遅い……ね」

目と鼻の先にある売店は、ランチタイムだというのに、いやランチタイムで園内のファミレスなどに客が流れたからこそか、さほど混んでいるようには見えない。
しかし加登吉は何を話し込んでいるのやら、なかなかこちらに戻ってくる様子はなかった。

「……河本くんは、おなか空いてないの?」

仕方がないので現在唯一の話相手に会話のキャッチボールを放ってみたのは賀世子からだった。
そもそもこの卒業遠足の目的は仲良くすることであって険悪になることではない。

「あ、いや……空いてると言えば空いてる……かな?」

空いてると言えば空いてる、どころの騒ぎではない。
寛太は今朝前髪の寝癖にセットを手間取り、朝食は抜いて遠足に来ていたのだ。
昨日の夕飯を食べたきり今こうして賀世子と向かい合っているこの瞬間まで、何も口にしていなかった。
賀世子よりよほど深刻な飢餓状態だと言える。まあ自業自得なのだが。

「……」

一方賀世子はその発言で、寛太が相当空腹であることを察した。
このスカした性格の男なら、さほどでなければ見栄を張って“腹は減っていない”と言うだろう。

「あの……」

賀世子が意を決して寛太に向き直ったそのとき、

「ほい、おまたせ」

愛想はいいが間は悪い男・米田加登吉が戻ってきて、二人が座るテーブルにコトンコトンと白いグラスを二つ置いた。
……二つ?

「米田、これどうしたのよ?! 実はお金持ってたの?!」

だとしたら許さん、と、しおらしモード一転般若の形相になる賀世子にのけぞりつつ米田は、

「わあ、ちゃうちゃう!」
「じゃあどうしたんだよ?」
「ふふっ、売店のお姉さんと仲良うなってサービスしてもろたんや!」

バチコーン☆とウインクしてペコちゃんのごとく舌を出してみせる米田に呆れて賀世子と寛太が振りかえると、売店のカウンターからバイト大学生らしき女性がニコニコとこちらに向かって手を振っていた。

「確か河本も何も食うてへんはずやろ? 一番安いメニューやしええやーん、って甘えたら一発や」

どうやらこの男、対年上にこそ本領を発揮するタイプらしい。
二人に持ってきたのはミルク二つだが、お姉さんとくっちゃべりながらまず間違いなくカラアゲの一つも口に放り込んでもらったはずである。

「感謝はするけど、あたしあんたと別れるわ……」
「さよか、残念や」

げんなり呟く賀世子にケトケト笑いながら加登吉が、自分も席に着こうとしたそのときだった。

「うわああああああああああああ~」
「!?」

どしん、と大きな振動が加登吉の背を襲い、それがテーブルにまで波及した。

「な、何やぁ?」

三人が一斉に振り返ると、明後日の方向に泣きながら走り去っていく男児と、それを追いかけるヤンキ―風の母親が一人。

「ママのバカ~! 風船買ってよお~!」
「こらっ、まちな! そんなもん買わないんだからねッ」

唖然……

「……確かにバカよね、あの母親……子供が人に迷惑かけたって謝りも謝らせもしない……」

ゴゴゴゴ……と、賀世子の静かな怒りが辺りの空気を震わす。

「え?」

すわ般若の光臨か!? と男子二人がバカ親子から賀世子に視線を戻すと、

「う、……うわー」
「ぶっ殺す!!!」

テーブルに置かれた二つのグラスのうち片方がさきほどの衝撃で倒れ、賀世子の膝にはどくどくと牛乳の白い滝が流れ落ちているのだった……。

「落ち着いて! 落ち着いて櫻田!」
「せや、かわりのミルク売店でまた貰ってきたる! タオルも借りよな!」
「きいいいいいいい!!」
「どうどう!」

とりあえずここは賀世子の気を静めることが先決だと判断した二人は、残った一つのグラスを見、賀世子を見、そしてお互いの顔を見合わせた。

「はーい櫻田、落ち着いて~大丈夫だよ~」
「シャーッ!」
「腹になんか入れたらちょっとは落ち着くからな~、ほらカルシウムやで~」
「がるるるるるる」
「ゆっくり、そう、飲むんじゃなくて噛みしめるように……ちょっといいかな、こんな感じ。もぐもぐ」
「フーッ、フーッ」
「ん~おいしいな~よかったな~」

賀世子の右から左からステレオで甲斐甲斐しくご機嫌をとってやる図を遠目に見て、売店のお姉さんは三人の関係を図りかねつつもとりあえずもう三つほど、カラアゲ一個・ミルクのセット用意してやるのだった。


その後、すっかり牛ちゃんブームも忘れ去られた頃、社会人となった彼らは三人で会社を設立した。
行動力と度胸があるのはいいが暴走しがちな社長を副社長二人がいさめる会議には、お茶のペットボトルではなく350mlの牛乳パックがずらりと並べられるということだった。


『ランチタイムに 遊園地で 学生2人が コップ一杯の牛乳を 食べた』



色々ありますがとりあえずは名古屋から帰ってからまた!
遅くなってすいませんでしたー!
爪ぬりながら並行して打ったんで許して……。
私無職のはすなのになんで毎日こんなに時間がないのだろう……。
今から名古屋に旅立つ照夫、でした。

もういいです。これで。

2006-06-05 04:00:15 | リレー:2006 春 男女3人遊園地物語
「え、櫻田?」

賀世子の言った内容にも驚いたが、普段はもう少しおしとやかな言葉使いのはずの賀世子の乱暴な言い方に驚いた。

「アァ?」

どこの組の者ですか? と思わず問いたくなるほどの顔に加登吉だけではなく寛太も竦み上がった。

「で、どうなのよ」

賀世子の顔は更に凄みをましていく。
加登吉は怯えたまま首を横に振った。
それに賀世子は何を思ったのかニヤリと笑ってさらに唐突に話を続けた。

「わたしが付き合ってやるわよ」

「「は?」」

再び絶妙なハーモニーを奏でる寛太と加登吉。
どこまで、仲良いんだよと賀世子は内心突っ込むが、資金源を失うわけにはいかないのでとりあえず話を無理やり先に進める

「だから、何か食べ物をおごりなさい!」

「ええっ、それはどう言う理屈っすか!」

自然と及び腰になっている自分に気がつきつつも、加登吉はあえて賀世子に問うた。
しかし、賀世子はそれを無視すると加登吉の腕を掴み売店を目指して歩き始めた。
目の前で拉致された親友を慌てて寛太も追う。

「す、すまん。櫻田。じ、実は……」

売店につくなり加登吉は泣きそうな顔をしながら賀世子に謝った。
そして財布を賀世子に渡し、見るように促した。
某古本屋や、賀世子の知らない店のポイントカードやらごちゃごちゃに入っているその財布の中身を見て賀世子は再び叫びそうに……ついでに加登吉を蹴りそうになったがなんとか堪え引き攣った笑みを洩らした。

「……ナニ、コレ? う○い棒すら買えないじゃない……類は友を呼ぶって奴?」

寛太を見て賀世子は寛太が言っていた事を思い出した。

『(前文略)財布持った米田とはぐれたんだよ』

「河本の財布持ってるのって……米田よね」

ニコリと笑って確認のため後から付いて来ていた河本を見た。
どうやら、河本自身そのことを失念していたらしく驚いた顔をして頷いた。

「で、でも、お前には奢らないからな!!」

「……誰がオゴレつってんのよ、貸せって言ってるんでしょ」

精一杯の虚勢を張ってみるものの、すぐさま賀世子の剣幕に圧されシュンとなる寛太を見て加登吉は自分のことを棚にあげて女の子に負けてる……と思った。

「米田、財布くれ」
「あぁ」

自分のリュックの中から寛太の財布を取り出して渡した。

中身を見た寛太は首を傾げた。
米田に渡す前にはもう少し入っていたはずだ。
それがどうしてか、小銭が少ししか入っていない。

「あぁ、ごめん、女の子のフォローするのにちょっと借りた」

賀世子は呆れた顔をし、寛太は引き攣った笑みで加登吉を見る。当の本人は泣きそうな顔をしながら後退る。

「とりあえず、どんだけ入ってるのよ」

横から財布の中身を賀世子が確認し、売店のメニューを見た。

「……とりあえず、ミルク一杯は買える……のか……」



リレー3

2006-04-21 13:44:12 | リレー:2006 春 男女3人遊園地物語
「おぉー、おったおった、やっぱここに戻っててんなぁ~」
「米田ぁ!!」
 
 険悪なムードを遮ったのは寛太がはぐれた米田加登吉だった。
 寛太が天の助けと言わんばかりに歓声をあげて加登吉に駆け寄る。
 その様は、飼い主を見つけた迷い犬の様で情けなかったが、自分もはぐれた友達と出会えたら同じように駆けだしていたと思うので、賀世子は罵りたい言葉を飲み込む。
 関西弁と健康的に日焼けした小麦肌の加登吉は、6年の2学期という中途半端な時期に引っ越してきた転校生だ。
 高学年の、しかも最終学年の転校生ともあって、ひとり孤立してしまうのではないかと賀世子には思われたが、関西特有の言葉と喋りを逆手にとり、あっという間にクラスの人気者になってしまっていた。
 最初は自分の人気を脅かすのではないかと彼を警戒していた寛太だったが、狡い考えでも思いついたのか冬休み明けには彼とばかり連むようになり、ますます女子の熱い視線を集めるようになっていた。

「米田~。どこ行ってたんだよー」

 これぞ猫なで声!という声で寛太が加登吉に詰め寄った。

「は? 何ゆうてんねん。自分が途中で逃げ出してしもたんやろ?」
「えー、だって…恐くて死にそうだったしさ」
「苦手なら苦手て最初からゆうとけばええやん。おかげでこっちは女の子達へのフォローせなあかんし、自分探さなあかんし…大変やったんやで?」
「………ごめん」
「おまけに自分、ケータイにいっこも出えへんし? 財布も俺が持ったままやし。園内のトイレ全部見てまわったんやで? 心配かけさすなや」
「……ホントごめん」
「いっそこのままほっといたろーかなーて思たわ」 
「よ、米田ぁ…」

 助け船が一転、加登吉にも責められてしゅんとなってしまった寛太を見て、賀世子は、

(はっ、いい様だわ)

 と内心ほくそ笑んでいた。
 自分の怒りがやや慰められた事を感じ、また同時に二人の間に例えようのない違和感も感じていた…それは一言で言うなら、

(気持ち悪い感じ)

 ぺっと言葉にするのは簡単だが、ここでまた寛太を怒らせて険悪ムードを蒸し返すのも嫌だった。
 しかし、冷静に考えると、賀世子の空腹は全く改善されてないのだった。どころか、こうしている間にも、胃の中のほんのわずかな食物は消化されつくし、栄養素は小腸で吸収されつくし、血液の中の糖は消化されつくして…

(このままでは餓え死にしてしまうわ!)
 
 この瞬間、賀世子の脳裏に雷が閃き、触発されたようにお腹がぐうぅと鳴った。
 寛太と加登吉が思い出したように賀世子の顔を見たが、お腹の音を聞かれて恥ずかしいとかいう羞恥心は賀世子の中にはなかった。
 賀世子は小学6年生の他人の目が気になってしょうがない女の子であるまえに、『人間』だった。
 そして、『人間』も含めて地球上のどんな生物も、死を直前にすると自分の遺伝子を残そうとしてある行動に走るという…。

「ところで、米田。あんた、今、彼女いんの?」
「「…は?」」

 ぴたりとユニゾンしされた寛太と加登吉の声が、更に遊園地の目玉の一つ《大きな花時計》の音と重なった。
 コインロッカーの時計は13時を指していた。


リレー2

2006-04-19 14:03:30 | リレー:2006 春 男女3人遊園地物語
「ちょっ……何?! その豹変ぶりは!?」
「うるせー! ここぞというときに役に立たないお前のような男は存在するだけで罪悪なんだよ! 無人島じゃ生き残れねーんだよ!」
「無人島とか行かないし! 落ち着いて櫻田!」
 〝あなたとなら無人島に行きたい〟と告白されたことはあっても〝お前〟呼ばわりで鼻で笑われたことはない。なぜ、卒業遠足という誰もが仲良く過ごすべき行事でこんな女を相手にしなければならないのだろう。
 某ネズミランドほどではないが、いま賀世子と寛太が小学生とは思えないほど醜く争っているのは、平日だというのにそこそこ混雑の様相を呈している、近隣でも有数の巨大遊園地である。クラスの女子の約半分の心を掌中に収めている寛太は、以前こっそりここで可愛めの女の子何人かとデートしたこともあったのだ。それがまあ、相手が変わると目に映る風景も、同じはずなのに何と違って見えることか。いるだけで罪悪などと罵られる筋合いはこれっぽっちもない、八つ当たりもいいところだ。確か櫻田賀世子は自分に好意を持っていない女子だったはず……(こういう、クラスの恋愛模様がけっこうあからさまで筒抜けなのが、小学生の社会の特徴である)。表面上はあくまでソフトに受け答えしながらも、寛太もまた賀世子と同じく、いや自分に非がない分、この理不尽な同級生以上に相手に内心キレていた。自分のハレム入りする可能性のない相手にまで寛大でいてやる必要はない。
 一方賀世子はと言えば、空腹から来る苛立ちも確かにあるのだが、何となく、何っっっとなく、以前から寛太という人間自体、あまり虫が好かなかったのだ。小学生のくせにフェミニスト気取りで、自分が人気があることをうっすら自覚して行動しているあたりが、恋というフィルターを装備する気のない賀世子のような女子からすれば鼻につく。小学六年生といえば、人によっては精神的には実は結構な大人、賀世子も普段はいたずらにクラスの調和を乱すようなことはしないし、卒業を前にして、寛太であろうと誰だろうと険悪な仲になるよりは仲良くしたほうがいいことも勿論理解している。しかし……しかし!
(花輪くんキャラのくせにお金が必要なときに役に立たないなんて!)
 賀世子からすれば、お金を持っていないイコール自分の窮地に親切に振舞うことができないいまの寛太は存在意義が無いも同然である。身勝手なようだが、賀世子には賀世子なりの、大人の階段上りかけた人間ならかくあるべき理論が一応は存在するのだった。
(普段の鬱陶しいおぼっちゃんぶりはこういうときにこそ発揮すべきだろ!)
 腹をグーグー鳴らしながら賀世子がガンを飛ばせば、
(なんでお前が困ってるからって俺が金を出してやらなきゃいけないわけ? 困ってるのは俺も一緒だっつの!)
 寛太も眉間に皺をよせて、気持ち上品なメンチを切る。
 イライライライラ。
(こいつと居るだけで無性にイライラする~!)
 もはやムカツキの原因などどうでもいい。体内のカルシウムがすべて空気中に飛散していくかのような錯覚を覚え、賀世子も寛太も、世の中には決して嫌いではないにしても〝反りが合わない〟相手が存在することを確かに悟った。
 若干十二歳にして世の中のそんな世知辛さを肌で実感してしまった二人は、浮かれたカラフルな園内でそこだけ険悪なムードを撒き散らすのであった。

短いけど、まぁ良いよね?

2006-03-25 02:39:52 | リレー:2006 春 男女3人遊園地物語

その日、賀世子は全てのものに苛ついていた。

この、天気予報を裏切った雲ひとつ無い青空も、
この、爽やかな風も、
この、卒業遠足を計画したクラスの学級委員と担任も
今の賀世子にとっては怒りの対象でしかなかった。

ぐぅぅ~
そして、それに追い打ちをかけるように盛大にお腹が鳴る。

お弁当も財布も全てコインロッカーに入れてしまった。

その鍵は迷子の友人達が持ったままだ。

こうなるのなら、フリーパスだからと言って財布までコインロッカーに入れることは無かったのではないかと何度吐いたかわからないため息を洩らす。
ここにいれば、はぐれた友人も戻ってくるのではないかと思い待って、はや15分過ぎた。
頼みの携帯も充電切れ……。

賀世子は怒りを通り越して泣きたい気分になってきた。

コインロッカーを眺めて再びため息を洩らす。

本当なら今日は楽しい一日で終わるはずだったのだ。
それがこんな事になりイライラが収まらない。
こんなことになると知っていたら、家で弟の世話をしていたほうがよほどマシだ。
帰ったらどう八つ当たりするかと、賀世子は物騒な事を考えながら友人が来るのを待った。


「あ、櫻田?」

突然、後から名前を呼ばれて賀世子は驚き振り向いた。

「あ、河本君……」
学校でもそこそこ人気のあるらしい河本寛太が立っていた。
「どうした? 気分悪いのか?」
俯いていたのを気分が悪いと思ったのか心配そうに尋ねられた。

「違うけど、あの、河本君……唐突で悪いんだけど……お金持ってる?」
背に腹はかえられないと賀世子は河本に尋ねる。
しかし、河本は「ない」と首を振った。
河本は賀世子の隣に座り、ため息を吐いた。

「実は俺……絶叫系はもちろんお化け屋敷も駄目なんだ」
「そう? お化け屋敷全然怖くなかったわよ」
回りくどい言い方にキレそうになるのを何とか抑えて返事を返す。
勘太は賀世子の声音がいつもと違うことを感じながらも話を続けた。
「そうか……俺、真ん中辺りで死にそうでさ……走って逃げて、財布持った米田とはぐれたんだよ」

落ち込んだように俯く河本を見て

ハンッと賀世子は鼻で笑った。

「お前、役立たず」