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Northern Liquor Mountain

くじ引きによるリレー小説と書き手の生態など。

リレーあとがき(ネタばれ含みます)

2006-08-18 10:31:48 | リレー:2002 夏-2 海で告白

潜ると言ったら潜る。放置すると言ったら断固放置する。
こんにちは、おひさしぶりです、そんなことだけ有言実行照夫です。
夏の祭典も無事終わり、冬の祭典の申し込みも済ませ、相方に会計表と在庫管理表も送り、部屋の掃除もし、明日の大阪夏の陣(笑)の準備も抜かりなく終わらせ、のんきにネイルなどやりながらスウィング・ガールズのビデオの続きをやっとこ見ています。
どこの王侯貴族かしらね。


3日以来本当に完全放置してしまったお詫びに、過去夏リレーを一作一気に上げました。
たしかこの作品は3作目のリレーだったと思うのですが、お題を決めた瞬間皆が

「ボーイズラブ!」

と沸き立っていた隣で、私はすでに

「誰に……いや、何に対してだって大告白は大告白だよな、クックック……」

と、このオチを決めていました。
ノリノリで書けて楽しかったのか、照夫パートがやたら長い。
今回打ち直していて、まだ終わらねえよ! 昔の私書きすぎなんだよ! と過去の自分を罵倒しました。
それとやっぱりちょっと文章が下手だなーと。
絵も文もあまり変わらないほうであるという自覚はあるんですが、細かいところでは多少違いますね。
今より単語の選び方が下手だ。
あと、生涯一教師です、っていうのはGTO知らないと分からないネタですが皆さん大丈夫でしたか?
この3作目まではまだ、全員がアナログで書いたものを持ち寄って一人が打ち直すという方式でやっていたと記憶しており、たしか笹さんが打ち直し係だったと思うのですが、長い照夫パートでは疲れが見え始めたのか、誤字のオンパレードで面白かったです。
今回最低限わかるところは訂正しておりますので冊子版を処分していないメンバーは見比べてくすりと笑うも良いだろう。←なぜか偉そう
1がコココさん、2が笹さん、4が照夫で3が煙屋さんと愛知の人パートなんですが、煙屋さんと愛知の人の境目がわからん……気になったら各自分けといてください。
気にならなかったらいいよ。
ほのかちゃんの描写のところで我ながら砂吐きそうになりました。
なんだこのゲロ甘……。


近日中に夏混み行ってきて楽しかったよ簡易レポも上げられたら上げようと思います。
まあ簡易と言って簡易であったためしがないわけですが……いやいや、今回はあんま詳しく書いたら身バレしますからね!


去年は水着買って海行ったなあ……今年は漫画描いて夏が終わったなあ……とちょっぴり切ない照夫がお送りいたしました。
漫画描いて終わってすげー充実感、ていうのがまた……もう、どこまでおたくやねん、という……笑。

2002 SUMMER-2  CHAPTER4

2006-08-18 10:24:38 | リレー:2002 夏-2 海で告白
CHAPTER4 「俺も! 俺も、ずっと好きなんだよ! 愛してる!」


反町似でありジュノンボーイ並には華もあるてっちゃんが拡声器を構えて夏のビーチに向き直る様子は、誰がどう見ても異様だ。
明るい日差しに照らし出された無邪気な海水浴客たちも、何だ何だと半数ぐらいは興味津々といった体でこちらを見ていた。

「てっちゃん……」

「よっ……」

「よ?」

「よっ、よく聞け! 伊男! 俺は、俺は……っ」
 
こっちを見ないてっちゃんの横顔を見つめながら俺は――ドキドキした。
もしかして、もしかして思い違いなんかじゃなくて、俺たちほんとに――

「俺は……ずっと! ずっと好きだった!」

キィン!
拡声器が耳障りな音を立てるぐらい、てっちゃんの声はかなりでかかった。

「好きだ! 愛してるんだ! ずっと欲しいって、俺のものにしたいって思ってたんだあああぁ!」

「てっちゃん……!」

たちどころに充満する「ホモ……?」というざわめきも、頬を染めた俺たちが見つめ合うのに何の障害にもならなかった。

「てっちゃん、それって、それってさ!」

日に焼けた腕をとって俺が飛び跳ねると、てっちゃんはいつになく男らしく

「ああ……!」

と頷いてくれた。
そりゃあ男前だっていうのは分かってたけど、この男がこんなにカッコよく見えたのは生まれて初めてだ。
ああでも、何てこと!

(告白は絶対俺からだって決めてたのに!)
 
ヘタレのてっちゃんに先をこされるなんて――

「貸して!」
 
俺はてっちゃんの手から拡声器を奪い取ると、彼に倣って海へ向き直り、大きく息を吸い込んで、そして一気に叫んだ。

「俺も! 俺も、ずっと好きなんだよ! 愛してる!」

「伊男!」

「俺もてっちゃんと……同じ気持ち、だよ」

「俺たちやっぱり……同じものを求めてたんだな」

「うん……」
 
いつの間にかざわめきは「本物じゃん……」という哀れみを含んだものに変わっていたが、俺たちは断固気にしなかった。

「伊男、俺たち……幸せになろうな!」

「うんっ!」

キラキラと輝く夏の日差し、澄んだ青い海。
世界の全てが俺たちを祝福しているような気になってそんなことを言い交わす頃には、ざわめきはためらいがちな拍手にさえ変わっていた。

「さて……と。ねえねえてっちゃんところでさあ、さっきからこの海岸の人たち、何拍手してんだろうね?」

「あ~ん? さあな、何か勘違いしてんじゃね? なあっ、それよりさ、伊男、早くアレ」

「あっ、うん、そうだね! じゃあ、契約成立ってことでいいんだよね!」

「ああ、もちろんだろ! 俺は……俺は、一目見たときから自分の船なんかよりもう、お前の船のほうが断然好みでさあ~!」

「? ? ?」

くう~と拳をにぎって悦るてっちゃんの言葉に、ビーチの人たちはようやく自分たちの勘違いに気づいたようだ。

「あの色、あのライン……たまんねーよなあ~最っ高だぜ! あ~もう好き好き、俺ホント、お前の船のことめっちゃ愛してる!」

「てっちゃんて相変わらずセンスないよね! 交換してもらえるのはホント夢みたいに嬉しいけど、なんで自分の船のあのカッコよさ、分かんないかなあ!?」

「あ~お前は昔っからアレ好きだよな~マジ意味分かんねーしアレがいいとか言うの」

「意味分かんないのは自分だろ? 後でやっぱり返せとか言ってきても絶対返さないからな! ず~っと俺、あの船に恋してきたんだから!」

「そりゃオメー、俺のセリフだっちゅーの! 速攻名前書いちゃる! そんなことよりホラ、早くキー交換しようぜ! 持ってきてるだろ?」

「あっ、うん、ちょっと待って」

俺がそう言って荷物に手をかけた、そのときだった。

「うおおおおおおおーっ!」

「きゃーッ、ナニあれーッ?」

「キーモーいー! でもおっかしい~!」

背後の海から荒々しい雄叫びと、それに付随して海水浴客女性の黄色い悲鳴と笑い声が響く。
見れば、二艘の近海漁業用の船がいつの間にか起こったビッグウェーブに乗ってどんどんこちらへ向かってきており、その船の舳先にはそれぞれ赤フン一丁のおっさんらが二人、仁王立ちになっているのであった。

「父さん!」

「親父!」

俺とてっちゃんはちょっぴり嫌に思いつつ、突如現れたそれに向かって叫んだ。
そう、その赤フンおっさん二人はそれぞれ俺たちの父親で、彼らが乗っている船こそがたった今俺たちが目一杯愛を叫んだ対象の、松外家・情納家に代々受け継がれる伝説の船なのだ。

「お前らの心意気、この松外市京志(しょうがいいちきょうし)、しかと受け取ったあぁーッ!」

「オウ、ワシもよう分かった! 漢(おとこ)、情納左杉(なさけなさすぎ)、感激で涙が止まらん!」

ざっぱあ~ん!
大波と共に砂浜に降り立ったおっさん二人は、男泣きに泣いていた。
目を見開いたまま涙だけを滝のように流すアレだ。
我が父親ながら不気味すぎる。

「お、親父! どうしてここに?」

「ハッハッハァー! なあに、お前らがまた良からぬことを企んどるのかと思って尾行していたまでよ! 夢中になってついうっかり北海道のほうを回ってきてしもうたわい!」

「“までよ”の使い方間違ってるから」

「てか船で電車を尾行すんな」

すっかり遠巻きに俺たちを見物するビーチの人々を尻目に舳先から降り立つ父さんとおじさんは、さながら海をわったというモーゼのようである。
ひらひらと赤フンを風になびかせ、父さんは颯爽とした足取りで俺に歩み寄ると、

「伊男!」

と俺の肩をがっしり掴んだ。

「伊男! ワシは感激した!」

「聞いたよ」

「あれっ? まあなにがしその、あれだ! お前らはもう二人寄りゃあ代々受け継いできた大事な船にモンスターエンジンを搭載するとか小型テレビを積みたいとかGPSつけろとか馬鹿ばっかり言って、ワシは心底ろくでもないと思っとった! 仕舞にゃ向こうの船のがカッコいいから交換したいなどと言い出しおって、ワシは先日夢でお前を勘当してもうたほどだ! だが……」

「うむ、人目を撥ね返すほどのお前らの熱い志――漢であった! 漁師であるまえに漢であれ!」

「えっ……え~と、なんだかよく分かんないけど、父さん、おじさん、それってじゃあ……」

「うむ、許す!」

「ホントかよ、親父!」

「おおっ、漢に二言はない! 存分に交換するがいい! ほれ、許容の証に、お前らの嫁さんも連れてきてやったぞ! 大事な船のことだ、嫁さんにも立ち会ってもらわんとな!」

「え……」
 
おじさんがそう言ってバッと右手を上げると、今度は男の野太い声でオオオオーッと地鳴りのような歓声が響いた。
視線を向ければ今度は船の舳先に、黒のビキニのスレンダーな肢体と白いワンピースの水着の小柄な女性がそれぞれ出現しており、よく見ればそれは、

「あーっ、冴子!」

「ほのかちゃんだ!」

俺とてっちゃんのそれぞれの恋人、東城冴子さんと西園寺ほのかちゃんだった。

「鉄也」
 
まず冴子さんが、目でてっちゃんにお迎えを要求する。
つやつやサラッサラの黒髪ロングヘアに真っ白なすべすべお肌の二十五才、柴咲コウの顔に観月ありさの身体を持つ超絶美女の冴子さんにてっちゃんはメロメロなので、まるっきりワンコの顔で船のほうへ駆け寄る。

「伊男くん、なんだかおじさまが一緒に来てほしいって、それでついて来ちゃった~」

一方俺はと言えば、呼ばれたから行くなんて抜かりはない。
ほのかちゃんが何か言うより先に船体に走っていき、小さくて細い手を取って船からそっと降ろしてあげる。

「もう、ダメじゃん。俺の父さんだからいいけど変なおっさんにひょいひょいついていっちゃ。ほのかちゃんは世界一可愛いんだからさ!」

「やだ、もう、ばか

おっきな瞳に生まれつきくるんとカールした長い睫、これまた生まれつきミルクティ色のふわふわした髪に乳白色の肌。
欲目じゃなく真剣に世界一可愛いので芸能人で誰に似てるとかってホンットもうあり得ない。
強いて言うなら胸の大きさが乙葉に似ていた。

「ほら、伊男、鉄也くん。嫁もそろったところでそろそろ」

「あ、うん」
 
父さんに促されて、それぞれいちゃいちゃしていた俺たちはやっと我に返る。
俺はカバンから、てっちゃんはジーンズの尻ポケットから船のエンジンのキーを取り出し、お互いの恋人を片手に抱いたまま、満面の笑顔でそれを交換した。

「よかったわね、鉄也」

「ああ、冴子のおかげだ」
 
明らかにおかしいてっちゃんの言葉も、今だけはみんな見て見ぬふりをした。
明るい太陽と青く澄んだ海と空、白い大きな入道雲のもと、赤フン親父どもや海水浴客の拍手喝采に包まれて、俺たちは今度こそ本当に、世界の全てに祝福されていたのだった――。



「しかしアレだなあ、家はうちに住んで仕事も今までどおりやるっていうんだから別にかまわんけども……なあんで婿養子になるとかいうんだかなあ、うちのバカ息子どもは。いい名前なのに……」

伊男と鉄也をカキ氷の買出しに送り出して、ビーチパラソルの下で穏やかな風に揺れる赤フンが二枚。

「まあまあ左っちん。それよりも孫だ孫! 男と女ができたら縁組しようや!」

「そりゃええんだが、市ったん、男と女にならんかったらどうすんだ?」

「心配ねえ、うちの鉄也って見た目どおりアッチのほうもサルだし、冴子さんも細っこいように見えてなかなか腰のあたりはしっかりしてっしな! 五人は固ぇぜ?」

「あ~まあ五人生まれりゃあなあ、男と女も大丈夫か。伊男もけっこうやるこたやってるみてえだし……おう、うちの嫁、ほのかちゃん! ちっこいけどイイ身体してんべ? せがれだっつっても羨ましい~」

「ばか、左っちん、身体ちっこいからこそ具合がな、こう……」

どんどん下ネタに走ってしまうオヤジ二人の腹にサンオイルを塗ってやりながら、乙葉の胸を持つ美少女は

「お、オトナのお話です……」

と顔を赤らめ、スーパーモデルと見紛うオトナの美女は

「こういうのはね、ほのかちゃん、セクハラっていうのよ」

貼りついたような笑顔でブラックのスクエアカットネイルの指関節をボキボキと鳴らすのであった。



「く~っ、ほら、見ろよ、やっぱ冴子が一番映えてンだろ? あの水着、俺が買ってやったんだぜ」

自分、冴子さん、おじさん、の分のカキ氷を両手に抱えながら、てっちゃんは上機嫌でそう言ってきた。
うん、自分の彼女が美人だっていうのは本当に最高の気分だな!
分かる分かる、分かるけど、でも、

「あ~まあね。冴子さんもそりゃキレイだけど、俺はやっぱほのかちゃんだね。脚の間にすきまがあるのって俺ダメ~。女の子はさ、やっぱ細くなく太くなくの、まさにほのかちゃんぐらいがマイベスト」

「お前ってアレだよな、ガキのくせに見るトコやらしくね?」

「うるさいな! セカンド童貞は黙ってろ!」

「オメーこそがマジもんのセカンド童貞だろが!」

カキ氷を三つずつ抱えてギャ―ギャー言い合いながら、俺たちはせっせと父さんたちのビーチパラソル目指して歩く。
しかし、やったら遠いな、カキ氷屋から。

「ね、てっちゃん、結婚式までには免許とれよ」

「あ~やっぱそっかな~。冴子が持ってるからついついとりそびれて……」

「教会から出てくるとき花嫁が車運転してて花婿が助手席って最低じゃん」

てっちゃんの小さいカバンの中身は恐らく婚姻届が一枚きり、なのだろう。

「……船の交換が済んだらよお、勢いで言えるかと思って」

「今からおじさん立合いでプロポーズ? それもなかなか最悪だね」

「くそ~っ、早く東城鉄也になりてえな~!」

「いいなあ、俺も早くほのかちゃんと結婚して西園寺伊男になりた~い」

可愛くって、性格も俺好みで、相性もばっちりで、その上姓がカッコいい。
まったくほのかちゃんは世界一の恋人だ。
もちろん、てっちゃんにとっての冴子さんもそうである。
そろそろ俺たちの家族と、この先家族になる女性たちの姿も近づいてきた。
キツイ日差しと手のひらの体温のせいで、カキ氷が溶け始めている。

「あ~あ、もう、手がべたべたするなあ」

俺は困った顔をして言ったつもりだったけど、多分だいぶ失敗している。
だって今日はかなり幸せな日だ。顔の筋肉が締められない。
えへへへ、とにやけながらほのかちゃんに手を振っていると、隣で同じように冴子さんに手を振っていたてっちゃんも、俺と同じかそれよりよっぽどひどく顔面総崩れを起こしていた。
シャキっとしてれば俺たち、かなりの美男タッグなんだけどね。

「伊男」
 
俺に向かってというよりは、入道雲が立ち込める青空に向かって。
ふいにてっちゃんが俺の名を呼んだ。

「ん? なに?」

「俺たち、さ」

「うん」

「俺たち、 そ れ ぞ れ 幸せになろうな

「うん、頑張ろ

青い空と海のはざまで幸せアホアホ家族がまた二組誕生する様子を、太陽だけが見守ってくれていた、平和な昼下がりの午後だった。

HAPPY END!

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8月9日に
海で
美少年と美青年が
海に向かって大告白を
しやがった

を、照夫がお送りいたしました!


2002 SUMMER-2  CHAPTER3

2006-08-18 10:12:35 | リレー:2002 夏-2 海で告白
CHAPTER3 変に期待をして傷つきたくはない


俺たちの背後にある“Kビーチ駅”はだんだんと遠ざかっていく。
二つ前の“K海前駅”から歩いてくるという愚行を犯す羽目になったのはひとえに、素知らぬ顔を装って隣を歩くてっちゃんの馬鹿のせいに他ならない。

「一生徹夜して日本中の鉄道路線駅名を暗記しやがれ」

悪態を吐く俺に、てっちゃんはのんびりと言った。

「俺の名前、いま呼んだ?」

「ああ、呼んだよっ。松外鉄也(しょうがいてつや)って。名前の通り、一生涯徹夜でもしてろっての!」

松外鉄也。てっちゃんのフルネームだ。

「なんだよ、お前だって情けない男だろ」
 
てっちゃんの言葉にすぐさま、断固として俺は反論する。

「俺の名前は、情納伊男(なさけないお)だ!」

深々と、これみよがしにわざとらしく息をついて、てっちゃんはぽつりと言った。

「ああ、日本語って難しい」
 
名前の話になるといつも、てっちゃんは最後にこう言って話を打ち切る。
腹が立つ気持ちは変わらないが、こればっかりはてっちゃんに怒ってもしょうがない。
俺の両親のセンスの悪さを呪うばかりだ。
だけど、気づいてしかるべきだろう、父よ、母よ。
“水田”という姓を持つ娘に“まりこ”と名付ける親がいるとすれば、あまりに無神経だろう。
ミズタマリ、ナサケナイオトコ。
憐れだ、あまりに憐れだ。
てっちゃんと俺、二人のつきあいがいままで続いているのも幼なじみという環境に加えて、名前に対するコンプレックスという、あまりありがたくない共通点をお互いに抱くがゆえの共感という点に支えられている面が少なくない。
俺かてっちゃんか、どちらか一人が女と結婚して婿養子にでもなったら、今のこの気持ちも変わったりするんだろうか。
俺たちの周りの海水浴客達の騒ぎ声も気にせず、そんなことをとりとめなく考えていた俺の腕を不意に、てっちゃんがひじでつついた。

「なんだよ?」

びっくりして、てっちゃんの顔を見上げる。
俺より頭一つ高いところから俺を見る顔は汗をかき、げんなりとしている。

「荷物、持て。海に着いただろ」

そのまま、俺の返事も聞かずにどさりと荷物を砂地へ乱暴に置いた。

「あっ。バカ、何すんだよ」
 
俺はあわてて、自分の荷物に手をかける。

「なんだァ? ワレモンでも入ってんのか」
のんきなてっちゃんの声に俺は短く答えた。

「うん、まぁね」
 
そのままバッグのジッパーを開けて中身を取り出す。

「おまっ、何ソレ?!」
 
俺の手の中にある大きなスピーカーを見て、てっちゃんが素っ頓狂な声を上げる。

「今日はちょっと、言いたいことがあるんだ」
 
俺はにっこりと笑って、言った。

「てかお前、何でそんなモン持って来てんだ?」
 
てっちゃんが訝しげな視線を向けてくる。
俺が拡声器を持っている理由をつっこまなかったのは、二年前何となく立ち寄ったリサイクルショップで偶然これを見つけて、「運動会だよ!」と謎(ではないが)の奇声を発して衝動買いした現場にてっちゃんもいたからである。
買って二週間ぐらいは毎日どうでもいいことを拡声器を通して話していたが、親とてっちゃんと近所から苦情が来てしまったので仕方なく押入にしまい込んで以来、使うのは今日がはじめてだ。

「だから言いたいことがあるんだよ」

「でもわざわざそんなモン持ってこなくても……」
 
てっちゃんは周りを見渡した。
なんだかんだでもう昼時になってしまっている。
主に小学生を中心とした親子連れで賑わう海岸にいきなり拡声器を持った男登場、というのはどう考えても奇異シチュエーションなので、水着の見物人の目がありったけの好奇心を込めて俺たちに向けられているのだった。

「とにかく、言いたいことがあるの!」
 
俺は意識から見物人をシャットアウトして拡声器を構えた。
そして海に向かって――……

「おい!」

「っ……、何?」

妙にナイスなタイミングで声をかけられて、俺は完全に出鼻をくじかれた。

「お前は俺に話があんだろ? だったらこっち向けよ」

「……」
 
もっともな意見だが同意はできなかった。
面と向かってなんて恥ずかしすぎるではないか。
顔を上げると、てっちゃんと目が合った。
いつになく真剣な面持ちで俺は少しドキドキした。
きっと俺の顔は今真っ赤になってしまっている。

「あの、さ。俺が今日お前をここに連れてきたのにも訳があるんだ」

「……何?」

「話、とかあってさ」
 
てっちゃんは伏目で頬を染めた。
なんだか乙女になってしまっている。
もしかして俺たち……。
都合のいい考えが頭に浮かんで、あわてて消し去った。
変に期待をして傷つきたくはない。

「話って、何?」

「……」

「てっちゃん?」

「それ貸せ」

てっちゃんは拡声器を取り上げると、海に向かって構えた。

2002 SUMMER-2  CHAPTER2

2006-08-18 10:04:59 | リレー:2002 夏-2 海で告白
CHAPTER2 むしろ俺はてっちゃんの荷物のほうが気になる


「K海前って言う駅名のくせに海があんなに遠くに見えるのはなんでだ?」

十六年間生きてきた俺だが電車でKビーチに来たのは初めてだ。
いつもは親が車を出してくれていた。
「まあ、目の前に見えているからK海前でいいんじゃないか?」

てっちゃんはそう言うと改札に向かって歩き出した。
先程同じ電車に乗っていた人たちのほとんどはもう改札口を通っている。
……にしても人が少ない。
海水浴を目的に来たようにも見えない人がほとんどだ。
改札口もとてもじゃないが繁盛しているようには見えない。
昔懐かしい、人が切符を集めている形式だ。
ひどく自分たちがこの場にふさわしくないように思えたが、てっちゃんは先々と歩いて改札口を抜けた。
俺もその後について行き改札口を抜け駅構内を出た。

「てっちゃん、どうすんの? 歩いていくの?」

「いや、バス停があるから見てみよう」

駅を出てすぐのところにバス停があり、二人でそこに駆け寄って目的地と出発時刻を見た。

「KビーチKビーチっと。あった、これだな。何だよ出発するの二十五分後じゃないか」

「ここからの距離だと歩いて行った方が早そうだね」

ため息混じりにそう呟いて、どうするのかてっちゃんのほうを見る。
てっちゃんはどうるのか考えているようであった。

「歩くか」

決断し、俺のほうを見た。

「別に良いよ」
 
そう返事をすると遠くに見える海に向かって歩き出した。



「重い……」

そんなに歩いていないのにもうてっちゃんは根をあげた。

「なあ荷物持ち代わってくれよ」

「じゃんけんに負けるてっちゃんが悪いんだろ」
 
信号ごとにじゃんけんをして負けたほうが互いの荷物を持つことにして遊んでいたのだが、どうせただ歩くのなら楽しい方が良いと思った俺の考えである。
が、見事と言うべきか、今まで4つの信号があったがすべててっちゃんが負けてくれたおかげで、俺は駅を出発して以来荷物を持っていない。

「なあ、お前の荷物重いんだけど何が入ってんだ?」

「色々と」

「なんだよ教えろよ」

てっちゃんは何が入っているのか知りたがっていたが俺はあえて秘密にした。
しかし、俺の荷物に比べててっちゃんの荷物は少ない。
小さい鞄が一つ。
むしろ俺はてっちゃんの荷物のほうが気になる。
じーっとその荷物を見ていると、てっちゃんは笑って歩き始めた。

「おっ、信号だぞ、じゃんけんしようぜ」

「負けないからな」

……結局ずっとてっちゃんが負け続けた。
海に着くとさらに脱力するようなことが待っていた。

「……なあ、この駅なんだよてっちゃん」

「……さあ」

「やっぱりてっちゃんはバカだよ。何が道は俺に任せろだよ」

K駅前でおりず電車に乗って二つほど駅をこえれば本当に海前に着いたのに、こんな長時間歩くこともなかったはずなのに!!
どうりであそこで降りる人が少ないはずだ。
怒りよりも疲れと呆れが勝り、俺は溜息をついて混んだ海に向かって歩き出した。

2002 SUMMER-2  CHAPTER1

2006-08-18 09:59:20 | リレー:2002 夏-2 海で告白

CHAPTER 1 「うだうだ言う前に免許とってよ」


車の免許はない。バイクの免許もない。
俺たちは朝イチの鈍行に乗って、Kビーチ駅に向かっていた。
8月9日、盆直前の酷暑。
まだ8時前だというのに鳴き狂う蝉。
もうすでに高い位置にまで昇った太陽の光線は、じりじりと車窓にたてかけた文庫本を焼いていた。

「なあ、窓開けようぜ?」

車の免許もバイクの免許も持ってない男が言った。
反町隆史に似ている。
黒いタンクトップとジーパンにサングラス、なんて格好がサマになっている。
でも免許はない。

「やだ。この線はトンネル多いし。冷気が逃げるよ」

「窓あけたら涼しくなるって! 俺、暑い、死にそー」

「夏だからしかたないだろ? うだうだ言う前に免許とってよ」

「……」

口も弱いし、頭も弱い。
二十五才になってもフリーター。
貧乏決定。
そんな彼と俺が、各駅停車の電車に揺られて海に向かっている。
理由というのは……実はわからない。
彼がいきなり

「8月9日に、Kビーチに行くからな!」

と宣言したのが、約1ヶ月前の俺の誕生日。
遅い誕生日祝いか? と考えられなくもないが、本当の目的は他にあるような気がする。

(ふふん。だてに十六年間幼なじみをやってきたわけじゃないぞ、俺は……)

俺は内心ほくそ笑んだ。
と、彼の手が車窓にたてかけてあった文庫本に伸びた。

「何、読んでんだ?」

気まずそうな顔でパラパラとひろい読みをする。

(ああ、だめだ……)

女が男に媚びを売るみたいに、私は貴方にはかないませんってみたいにされると、ドキドキする。

「『アンネの日記』? なんだ、すごい本読んでんな」

尊敬のいりまじった声で言われて、はっと我に返った。
てっちゃんは、ニヤニヤしながら、俺を見ている。

「へへっ、変な顔しやがって。水着ギャルのことでもソーゾーしてたんだろ?」

「違うよ!」

てっちゃんは、なおもクックックと笑いをかみころしていた。

「そうそう、てっちゃん。知ってる?」

「あ?」

急いで話題を変えようとした俺に、彼は食いついてきた。

「8月9日、今日がどんな日か」

彼は口をとがらせて考えこみ、わからないという意思表示に、首を振った。

「で、何なんだよ」

「今日は、長崎に原子爆弾が落ちた日なんだ」

「……そうか、よく知ってんな」

てっちゃんは興味ないなという、そっけない返事で、俺との会話を断つ。
気まずい雰囲気が二人の間を流れた。
そして、そんな雰囲気を修繕することもないまま、電車は目的地に到着し、俺たちは下車したのだった。