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Northern Liquor Mountain

くじ引きによるリレー小説と書き手の生態など。

『深司とアキラ』 超番外編 「踊るアミーゴ♪ 僕らは二人で一つだった」 後編 

2007-01-22 15:50:10 | リレー:2006 夏 深司とアキラ①
 セカンドシングル『モンシェリ~それはYOU~』の日本有線大賞最多リクエスト賞受賞。レコード大賞受賞。生歌番組MコンビニのクリスマスSPライブ。初主演映画『腐れ縁アミーゴ♪ ワールドシリーズ』の公開イベント。NHJ紅白歌合戦初出場、所属事務所アイドル総出演の年カウントダウンライブと、あわただしい年末を
こなして『深司とアキラ』の新年は始まった。

 その新年の初仕事がくだんの『2007年アイドル隠し芸大会』である。
 先輩アイドル達が次々にカードマジックや和太鼓演奏ジャグリング等を披露するなか、深司とアキラは控え室に戻って最後の打ち合わせに顔色を変えていた。

「はーっ。なんか緊張してきたっ。あーん、大丈夫かなぁ」
「大丈夫だって、あんなに練習してきたんだから」
「でも万が一失敗したら…ママ達に怒られるよ! アキラ!!」
「そんな叫ぶなよ。練習通りしたらいいだけだって。それに深司のママさんはお前の女装が似合ってればパスじゃん。ゲロ甘だろ?」
「僕はアキラのママが怖いんだってばっ」
「いやー……それは、俺も怖いけど」

 衣装もヘアもメイクも準備万端。出番までの時間が長い。
 と言うのも、衣装に着替える直前に深司とアキラの母親からメールが入ったからだ。一昔前に流行った恐怖の手紙でも見るかのように、メールを見た二人の顔色は優れない。
 正直なところ、彼らは自身の母親に頭が上がらないのだ。
 
 橘轟の追っかけ仲間がお隣さんにまで発展した母二人。彼女らのアイドルとなった子どもへの理解は当然深い。
 しかも深司の母は自分そっくりの息子が可愛ければ可愛いほど、アキラの母は旦那似の息子が面白ければ面白いほど、手放しで喜ぶ。
 その反対に、深司が格好良すぎたら「お肌の調子が悪いんじゃないの?」とエステに引きずっていき、アキラが面白くなければ「今日の晩飯は抜きや!」と家事を放棄する。
 家庭人である前にミーハーな現代的な母親なのだった。
 そして今回のベリーダンス…深司のママ的にはgoodjobでも、アキラのおかん的にはノーセンキュウ。駄目だしされる確率は50%。母親に駄目だしされるのは誰だってつらいのだ。

「おふくろが俺の格好を見て笑ってくれるのを祈るだけさ」
「はーっ、あんなに隠してたのに…何でばれちゃったんだろう」
「えっ? 橘さんが言ったんだって知らなかったのか?」
「えーーーー!? うっそ、最悪」
「ホントホントって……時間だ。(舞台の)そで行くぞっ」
「なんだよあの人…告げ口するって……信じらんなーい」


 『アラブの王宮に囚われた姫君という役所を深司君がどう表現するのか…また、普段は見られないアキラ君の凛々しい表情にも、ぜひご注目下さい』とアナウンスされて始まった『深司とアキラ』の隠し芸。
 二部構成を取っており、一部はダンスのシチュエーションを説明する寸劇となっている。
 全身を黒い布で覆い、顔を隠して登場した二人。
 王に見初められ望まぬ入内に悲しむ美姫という役所の深司と、その恋人役のアキラである。彼らは顔の隠れる未婚の女性に扮して、王の手から逃げ出してきたのだ。
 息も絶え絶え走ってきた。ここまで来れば安心と、二人は顔を覆う布を取って見つめ合う。
 薄くメイクを施された深司の堂の言った艶姿に視聴率が上がる。さらにナイスカメラワークのおかげで過去最高に男前に映ったアキラの微笑が、お茶の間のチャンネル権をもぎ取った。
 とそこに現れたのは、お約束、先回りした王の追っ手である。ブラウン管を通して日本国民が見守る中、多勢に無勢で深司は追っ手に連れ去られ、アキラは絶望の淵に追い込まれる…!!

 そこで場面は変わって王宮のセットとなり、全身の黒布をはぎ取られ露出の高い真っ赤なジャスミン姫衣装になった深司と、牢屋に繋がれボロ布を腰に巻いただけのターザンアキラが、それぞれ恋人と引き裂かれた悲しみと王への怒りをダンスで表現したのだった。
 

 『2007年アイドル隠し芸大会!』は正月番組史上最高の視聴率を叩きだして、業界の伝説となった。
 深司は実母から賞賛のお年玉を貰い、めでたく“穂梨越の白雪姫”から“平成のジャスミン王女”にステップアップ。アキラは「実は脱いでも凄いんです」というイメージが付き、女性ファンからの支持が上がった。
 心配していたアキラの実母だが、あまりにもベタな寸劇に大笑いしたということで、別段おとがめはなかった。
 しかし、これ以来グラビアアイドルでもないのに脱ぐ仕事が増えたアキラは、ほとぼりが冷めるまでは歌手業に専念すると、公式ブログで発表している。


 
 終わり

『深司とアキラ』  超番外編  「踊るアミーゴ♪ 僕らは二人で一つだった」 前編

2007-01-22 15:39:05 | リレー:2006 夏 深司とアキラ①
 流行語トップテンに「メタボリックシンドローム」という言葉が入賞し、今日びの日本社会は成人の運動不足や子どもの運動能力の低下が問題視される傾向にある。
 ご老体にも手軽に始められるウォーキング。時間のないサラリーマンにはサプリメント。スポーツジムに通って肉体改造に打ち込む女性も珍しくはなくなってきた。
 汗水たらして努力するスポーツはもはや、プロ野球・プロサッカー・プロバレーボールなどTVの中だけのものとなりつつあり、一般家庭に受け入れられるのは健康維持のための安全でオシャレな運動…。
 そんななか、容姿と人気が重要の芸能界が目を付けたのは、社交ダンスにヒップホップ・フラダンスにパラパラと、見た目も衣装もキラキラしいダンスだった。 
     
 芸能界のダンスブームは、瞬く間に、ゴールデンタイム放送が組まれるほどの市民権を得た。 
 今をときめくトップアイドル『深司とアキラ』も、そのダンス人気を受けて、
今日も朝から年明けの新春特別番組『2007年アイドル隠し芸大会!』にむけ、貸しスタジオでダンスの猛練習中である。

「あーもう、休憩休憩っ! あー疲れたっ!」

 息を切らして壁際にドっかと座り込んだのは、艶やかな黒髪が白雪の女顔を頬まで縁取る、華奢な見た目の“平成の沖田総司”。
 『深司とアキラ』の綺麗なほうで、ミーハー乙女の夢を具現化した清純派アイドル、すなわち深司である。
 見た目を裏切らない深司の体の弱さは全国民が承知のことなので、少しサボったところでそれを咎める人間はいない。どころかマネージャーの榊は「大丈夫?」などどスポーツドリンクを差し入れ、レッスンを中断されたダンス講師・橘轟も「じゃあ休憩にしようか…」と言い出す始末だ。

「ごめんなさい橘さん。僕…足をひっぱちゃって……」

 ピンク色に上気した頬、柳眉を悲しそうに下げた深司に勝てるものは生まれた直後から幼馴染みのアキラと深司の母だけ。
 橘は「いいよいいよ」と手を振り、榊は「横になった方が良いんじゃない?」と深司の額に手をあて、練習風景を見ていた貸しスタジオのオーナーは汗ふきタオルをサービスしてくれた。

「15分後に再開な。最後のポーズんとこ。立ち位置の確認」
「ん。了解」 

 お姫様扱いされる深司を横目に遠慮なく練習の開始時間を決めたのはアキラである。
 『深司とアキラ』の微妙な方。作詞も手がける“歌って踊れるアイドル芸人”。
所属事務所のアイドルの中では「ダンス四天王の一人」と数えられるほどのダンス上段者。
 おむつの時代から深司とは腐れ縁の仲で、実の父親すら騙される深司の外面に騙されない貴重な人間であり、チャレンジ精神も旺盛。
 鏡に向かって黙々と、
「顔の角度、こっちのほうがイイ?」
と『格好良く見える顔の角度』を探求しはじめた彼の最近の悩みは、芸人のような面白顔がネックで決めポーズが格好良く決まらないことだった。


 深司とアキラがこの一週間、移動の間も休まず練習に励んでいるのは、belly(腹)をくねらせて女性特有の“まろやかさ”を官能的に表現する踊り【ベリーダンス】だ。
 古くはアラブ諸国のハーレムで男主人をもてなすために女性達が踊っていたというもので、ステップは洗練されており。衣装も華やかで美しい。
 事務所からこの踊りを通達された二人の反応は、榊が思い出しても面白いほど対局的だった。
 自身の最大の売りと言っていい女顔をコンプレックスに考えているふしがある深司は、甘いと思って口にしたお菓子が辛かったときの女のようなヒステリーを起こして反対し、一方で運動神経抜群リアリストのアキラは、これを踊ったらお正月の芸能ニュースは俺たちが独占かな…と事務所の思惑を読んで冷静に承諾した。

『なんで断らないんだよっ! 僕、あんな格好したくないよーっ』
『大丈夫だって、深司は女装が似合うんだから。それより俺のことを考えてみろよ。バケモンだろ?』
『そんなこと言って…ファンに“平成の白雪姫”とか言われるようになったらどうするんだよ?』
『……そうすると“穂梨越(←出身校)の白雪姫”から格上げ?』
『やだぁっ! また、みくちゃん(←同期の女性アイドル)に嫌われる~』

 橘と榊が宥め賺してなんとか深司を口説き落とした時には、ディ○ニーアニメ“アラジン”のジャスミン王女のそれを思わせる衣装が出来上がり、それを試着した深司を見て橘が貧血を起こしかけたのだった。



後編に続く☆

買うたー

2006-11-10 16:33:37 | リレー:2006 夏 深司とアキラ①

「「えっ?」」

予想外の言葉にアキラと橘を除き思わずこけてしまいそうになった。
アキラは何かを思い出したかのように納得した。

「ああ、あの、母さんが一時期ゲーセン通いが止まらなかった時の景品か! そう言えば無くしたって言ってたもんな」

「そうだよ、大事にしてたのに……無くしてしまって」

悔しそうな顔をすると、普段の深司からは想像できない顔――それもぬいぐるみで。
周囲は驚く。
なまじ、似合わない事も無いのでそれはそれでありかと一部は納得した。

「……はっ! 本番まで後どれぐらい」

スタッフの一人が我に返り、あわてて時計を見ると後五分で番組が始まる。出番は中盤なのでもう30分ほどしかない。

「もうすぐ、始まる準備しろ」
スタッフの言葉に他の者もあわてて作業に戻った。

「深司君、アキラ君も準備して」
「あ、はい。ほら深司、行くぞ」
アキラが呼びかけたものの深司は返事をしない。
それどころか俯いたまま顔をあげることもしない。

「深司?」

「……ぬいぐるみ、探す」

「えっ」

驚いた声を上げるマネージャーを無視し、深司はセットから離れてフラフラとした足取りでぬいぐるみを探し始めて。

「ちょ、ちょっと、もう何年もの前の話でしょ。見つかりっこないわ。ほらアキラ君も」
あわてて引き止める。
話を振られたアキラも深司を引き止める。
「深司、収録近いんだから、ちょっとは休んどけって、な。探すなら本番終わってから俺も探すから」

「……やだ」
「やだって、お前な……」
二人の手を振り払って行こうとする深司の前に轟が立ちはだかった。

「何をやっているんだ。お前はプロのアイドルだろう」
轟の静かな声が逆に恐ろしく深司はシュンと項垂れる。
「俺が探してやる……そのぬいぐるみを」

それには深司、アキラ、マネージャーの三人が驚く。

「で、でも」
「でも、じゃないだろう。ここは俺に任せて戻れ」

やさしく微笑まれて深司は、頷いて二人とともにセットに戻った。

マネージャーが振り返り礼をするのを見て、轟も踵を返し、辺りを見て回る事にした。

一番早いのは翌日ここの社員に聞けば早いだろうが、それでは深司が納得しない。
見つからないとわかっていたが、轟は形だけでも探す事にした。

辺りを見回して、懐かしい気分になった。
轟自身もここで何回か中継で歌った事がある。
あるときは閉めているはずの売店にそこで働いていた社員数名が潜み本番が終わるやいなや泣きながら飛び出してきて、サインをねだられた事もあった。

驚きのあまり、サインの文字を間違えたのも今となっては良い思い出だ。

「懐かしいな、ここから出てきたんだな。あの時」

観光客や、一部の通にしか受けないであろう帝京タワーの模型が飾られている売店の前を通りかかると、入り口に何かが引っかかっているのに気がついた。


薄汚れてはいるが、アニメのような目で、当時社会現象まで引き起こしたとも言える…今となってはとても微妙な衣装を着たぬいぐるみであった。

「懐かしい」

手を伸ばしてそのぬいぐるみに触れる。


「ん……何か入ってるな」
握った感触に何か違和感を覚え、轟は自分の顔を模したそれの頭部を強く握る。
もうすでに何年も経っているのだ、綿が固まってしまったのかと思ったがそんな硬さではない。

「……」
縫い目を見ると一部に作っているときに出来たとは思えない糸の跡が見えた。

「一度解いて、縫っているのか?」

少し出ていた糸を引っ張ると、するすると糸が解ける。
轟は「あっ」と思ったが丁度指が入る程度で止まった。

何か嫌な感じだったが、そこから指を突っ込み、中を掻き分けて違和感の原因を探る。

綿ではない感触にあたり、器用にそれを取り出す。

小さく折りたたまれた紙だった。
開けると、小さかった時の二人の文字がびっしりと詰まっていた。
本人には悪いかと思いながら、少し読んでみると……。

[オネショのかいすう
アキラ 13かい
しんじ 9かい]

他にも“せ”“あし”と互いを比較しているのか、読み取りにくいが数字らしきものが書かれていた。

遠くから話し声が聞こえ、ああ、出番かと時計を見ると、先ほどスタッフが言っていた時間になっていた。
「あの二人なら、ちゃんと出来るだろう」
そういって再びメモを見る。

轟は二人の恥ずかしい過去に思わず吹きだした。
他のメモには母親に対する文句や、近所の犬の事、おそらく読んでもらった本なのか、自分たちで読んだ本なのかはわからないが本のタイトル等が書かれていた。

最後のメモを見ると轟の思わず倒れこみそうになった。


色様々で書かれたハートの真ん中に


『おにいちゃん だいすき  アキラ&しんじ』

と拙い字で大きく書かれてあった。



収録後、探しに来たアキラと深司は大量の鼻血を出して身悶えしていた轟を見たとか見なかったとか……。

夏休みが終わってしまうよ!

2006-08-25 14:57:26 | リレー:2006 夏 深司とアキラ①
 いつのまにか夏休みラストウィークですよ!
 思い耽っとらんで、はよ書かな!! というわけで夏リレーの続きです。



★☆★☆★☆★☆★



 マネージャー高木の声に、その場にいた関係者全員が声を失った。


「君は…“いったん普通の不良に戻ります”宣言で芸能活動を休止している、橘轟…!」

 
 ――――橘轟(たちばなごう)
 
 芸能界に関わる者で、この名前を知らない人間はいないだろう。十数年前、俵都市引越(たわらとしひこ)のバックダンサーとして芸能界デビューして以来、驚くべき早さで国民的人気アイドルに成長していった男の名前だ。
 橘轟がCDを出せば当時としては異例のミリオンセラー。コンサートでは失神するファンが後をたたず、会場前には救急車が10台も待機。
 芸能リポーター曰く“昭和のラスト・トップスター”。
 プライベートの彼の行く先々にもファンが押し寄せ、その波が将棋倒しになって負傷者が出たことも有名な話だ。 
 なかでも、ファンの熱狂的な支持に耐えかねた彼が、芸能活動を休止すると発表した記者会見での言葉が伝説となって芸能界史に残っている。

“オレは…いったん普通の不良に戻ります”

 全国に生中継されたこの会見の直後、ファンは神を失ったかのように悲嘆に暮れ、日本経済のバブルは弾けたのだ…。



「いかにもオレは橘轟だ」
 金髪のエスパーは声帯に蜂蜜でもぬりつけたような甘い声で、あっさりと自分が伝説のアイドルであると認め、カツカツと靴の音も高らかにステージを降りた。
 スポットライトの光を集めて輝く姿は、往年のハリウッドスターのような貫禄さえ帯びているように見え、ヘロヘロADは腰を抜かし、状況がようやく飲み込めたらしい照明係はおそるおそるライトの明度を落とした。
「アキラ」
「いぃっ!?」
 不意に橘に名指しされ、アキラは不安げにマネージャー高木に視線を送る。
 橘を見抜いたんだから何とか取りなしてほしいのだが、肝心の高木は呆気にとられたままだった。
 橘は構わず、
「覚えていないのか?」
「ええっ!? 何のことですか?」
「お前は、深司と一緒に、オレの曲を踊ったことがあるはずだ」

(え~~!?) 

 平成生まれのアキラは当然、伝説のアイドル橘のリアルタイムでの活動を見たことがない。
 もちろん、男子アイドルの常識としてVTRなどで見たことはあるのだ。
 しかし、深司と一緒に踊ったことがあっただろうか? 少なくともデビューしてからは確実に、ない。
 考え込むアキラに、高木の腕の中から深司が今にも死にそうな風情で、
「………アキラ、『お嫁マンボ』だ…!」
「…っ!!」
 


♪ Si 俺達はいつでも 二人で一人扱い いいかげん離れたい 出席番号
 
   思い出した景色は 塀を挟んで世間話する 親たち 



 『腐れ縁アミーゴ』の歌詞にもあるように、アキラと深司は苗字の音が近くて家もお隣同士だった。
 橘がデビューしたころに赤ん坊の二人は出会い、橘の話に盛り上がる母親たちの横で二人はよちよち歩きを始め、橘のコンサートに出かけた母親たちの帰りを枕を並べて昼寝して待ち、橘の休止会見を見つめ大泣きする母親たちの後ろで顔芸の練習をしたり熱を出したりしあったのである。
 保育園・小学校・中学校とクラスはおろか出席番号まで離れたことがなく、このうえ一緒にアイドルをしているのだから、前世で来世でも誓い合った仲なのか?と、アキラは半ば離れることを諦めかけていた。

(………あーっ! あれだあれ! ♪お嫁っ、お嫁っ、oh!読めマ・ン・ボ~♪ って、どおりで、どっかで聞いたことある声だと思ったぜ…)

 橘のヒット曲と共にアキラの遠い幽かな記憶がはっきり思い出されてくる。
 保育園のお遊戯大会、彼のヒット曲『お嫁マンボ』に乗せて、蝶ネクタイを着けた深司とワルツを踊った記憶が…!

 
「思い出したようだな」
「はいっ、橘さん!」
 アキラの脳裏を読んだらしい橘が満足げにアキラの肩を叩く。
 アキラは霧が晴れたような気持ちで頷いた。橘を見たときのデジャヴはこれだったのだ。
「しっかし、深司もよく覚えてたなぁ。オレ言われなきゃぜんぜん思い出せなかったぜ」
 にこにこと深司を振り返ると、深司は高木に抱かれたままブルブルと震えていた。
「? おい、お前…大丈夫か?」
 ビッグネームの登場というハプニングに熱が上がったのかもしれない。
 深司は昔から予想外の出来事に弱かったよな、とアキラは思い出した。何か一つのことを思い出すと、つられるように色々な記憶が蘇ってくるものだ。
「……思い出した」
「?」
「…思い出したんだよ、アキラ!」
 うぶな女の子が好きな男の子に告白するときのように顔を真っ赤にして、深司がアキラを上目遣いに見つめた。
 熱のせいだと知ってるアキラが見ても何の気持ちもわかないが、女性スタッフにはこの顔は反則らしく、「いやーん」という黄色い声があがる。
 展望台の張り詰めた空気があっという間に溶けた。
「ん? 何を思いだしたんだ? 踊ったことか?」
「違うよ!! オレ…ここで…ここで…」
「は?」
 次の瞬間、思い詰めた深司から出てきた言葉に、展望台は何とも言えない空気に包まれた。  


「ここでなくしたんだよ! アキラのお母さんからもらった《橘轟くんぬいぐるみ》っ!」







                  続く



お待たせいたした(侍)

2006-08-03 21:13:34 | リレー:2006 夏 深司とアキラ①
照夫でござる。
リレーの続きを書いたでござるよ、ニンニン。
いつのまにか忍者になった。

――――――――

帝京タワーを貸しきりにしてそこをステージにし、生中継をする……これは【Mコンビニ】におけるトップアイドルへの登竜門とも言うべき伝統の、いわばしきたり、通過儀礼である。
この企画が提案されたとき、深司もアキラも自分たちに吹く時代の追い風を感じたものだった。
しかしそれだけに、彼らが所属する事務所内では帝京タワー中継に臨むにあたり、やっかみ混じりにプレッシャーをかける者が現れる。
『深司とアキラ』よりも売れていない先輩アイドルたちが、生中継中にトラブルに見舞われた者はその後、決して芸能界で成功の星を掴むことはできない、という噂話を吹き込んでくるのだ。

「俵都市引越(たわらとしひこ)先輩は上がっちまって歌詞をド忘れした。金堂中尊寺(こんどうちゅうそんじ)先輩は招待したファンの中にダイブしたら熱中されすぎてみぐるみ剥がされ放送禁止に……二人がその後芸能界でどんな道を辿ったかはガキのお前らでも知ってるよなあ?」

その二人の人気絶頂時代は深司とアキラの年代では本来知るべくもないが、事務所では真夏の夜、怪談百物語のかわりに飽かず語られるこのエピソード、知らないどころか耳にタコである。
何が言いたいの、と眉間の皺だけで表現する不機嫌顔の深司と先輩たちとの間にズズイっと割って入り、

「でもそれって逆に言えば、この中継で何事もなければ俺たちの成功が保証されるってことっスよね!」

と無神経を装った笑顔を作ってみせたことを、アキラはふと思い出した。
スモークガラスのワゴンの扉からよろよろと降りる深司の背中を見つめ、アキラの胸に一抹の不安がよぎる。

(いや……この程度の熱、深司はしょっちゅうじゃないか。もっとひどい状態でだって何度も仕事はこなしてきた。大丈夫だ)

 夜の闇にそびえ立つ帝京タワーへと吸い込まれていく深司とマネージャーの後を追いながら、アキラはなぜかそれでも不穏な予感を拭い去ることができなかった。



「いやあ~まいったッスよ、首都高激混みで機材が一部到着遅れるらしいんスよね。まあギリギリ間に合うとは思うんスけど」

さすが金曜夜、とヘラヘラしながら見知ったADがそう知らせに来たとき、怒りの沸点が低い深司よりも先に苛立ちを覚えたのはそんなわけで、おおらかなはずのアキラのほうだった。

(【Mコン】が金曜夜なのは常識だろ!? わかりきったことだろ!? 頼むぜ、ったく……!)

「仕方ない、ステージはあらかた組んであるし衣装さんやメイクさんは来てるから……照明なしだけど先にリハやっちゃおう」

顔を見ただけでタレントの心中を読めるインテリスーパーマネージャー・高木が場をとりなすように言い、アキラの背中を軽く叩く。

「振付は体に叩き込んであるはずだよね? 照明なしでも君たちなら大丈夫」

「はい、もちろん」

高木の人の良い励ましに、深司とアキラがホッと心を落ち着けた、そのときだった。

「ちょっと、困ります! あなたいつからいたんですか!?」

「!?」

ヘラヘラADのただならぬ声色に、薄暗い中ステージセットをぐるり囲んでいた全員が振り返る。
夜景を楽しむため、日が落ちてからの帝京タワー展望台は、いくつかの白熱光だけをぽつぽつと残し、全ての照明がオフにされている。
だがその男の髪は、そんな中でもぼんやりと輝く、眩しいほどにブリーチされた金髪だった。

「いつから? 俺は最初から居たさ」

 フッと皮肉げに笑うその男の声は、腰が抜けるほどの美声。

(? この声、どこかで……)

皆が呆然とする中、その低音ヴォイスは一瞬アキラの記憶中枢を掠める。
だが、思い出せない……遠い、幽かな記憶のようだ。
アキラが頭を悩ませている間に、まだ若手のヘラヘラADはこちらに向かって謝りのジェスチャーを示し、肩を竦めてぐるり周囲を見渡す。
機材の手配の失敗もあってか、裏方たち全員が目線で彼に“お前がその一般人をなんとかしろ”と言っていた。

「くそ~……」

ガガガっと頭を掻き、ADはまばゆい金髪の男のほうへ歩み寄る。そして

「あのねえ、」

と、ロケ地に迷い込んできた一般人に対する口上を述べようと口を開いた、その瞬間だった。

「今からテレビの生中継があるんだよ。ココは貸切になってるから、悪いけど出てってもらえます? ……と、お前は言う」

「えっ」

ADがつかもうとした腕で逆にADの腕をつかみ返し、男は口元だけでニッと笑った。

「なんだこの男、気味悪ぃ……と、お前は思っている」

「えっ……えええ……っ」

「誰か来てくれ! 何だこいつ! ……とお前は言う」

その場は水を打ったように静まりかえり、そして徐々に小さなざわめきが広がりだす。

(な……なんだ?)

「フッ」

呆然とするADの腕を投げ捨てるように放り出し、金髪の男はツカツカと深司、そしてアキラのほうへとまっすぐ向かってきた。

「俺は霊能者……いわゆるエスパーだ」

「……はあ……?」

近くに来られると、その美声を発している顔の位置が深司やアキラよりもはるかに上にあり、男がかなりの長身であることがわかる。
皮肉げに歪む口や目鼻立ちも、暗い中でよく見ればかなり整っている……。

「男前だけど頭がおかしいのか? ……とお前は考えている」

「えっ、ひえっ」

腰を曲げて急に顔を近づけられ、人差し指で眉間をつつかれた深司は、顔から血の気を引かせて後ずさりした。

「深司くん!」

よろけた深司をマネージャーがとっさに抱きとめる。そのときには男はすでに深司には興味をなくしたかのようにアキラに向き直っていた。

「これで分かったか? 俺は特に人の心を読むのが得意でね」

「……!?」

沈黙が帝京タワーをしばし支配した。



「フッ、ハハハハハハ!」

沈黙を破ったのは、金髪の男のありえない美声の笑い声だった。

「ADの口上も深司の考えも当然の反応なのだから、超能力なんてなくても先回りして言い当てることはできる! ……とお前は思っている。ああ、確かにな。いま、お前のこの考えさえもそうだ」

「……」

アキラは根っからのリアリストだ。
この世の全ての超常現象と呼ばれるものは科学で解明できる、あるいは人間の思い込みや思い違いであるという説を掲げていままでの人生を生きてきたのである。

「いいだろう、証拠を見せてやろう」

男はそう言うと、ステージの階段に足を掛けかけていたアキラを押しのけ、バッと羽織っていた半袖シャツを脱ぎ捨て、黒のタンクトップ一枚になった。

「『モン・シェリ ~それはYOU~』……」

低くそう呟くと、男は金髪をなびかせステージ中央へと駆け出す。

「!?」

なにが始まるのかと固唾を飲む人々の目の前で、男は空気マイクを手にし、歌い、踊り始めたのだ!

「モン・シェリ モン・シェリ モモモモン モン

 あなた追うターミナル 涙 ポロリ(滲む 愛)
 思い出してメモリー 光 キラリ(駆ける 恋)

 俺の想い 嘘じゃない
 あなた以外 ノーセンキュー
 この恋 もうカテゴライズできやしない
 地理 幾何学 数2 図画工作……
 解き明かせない ああ モン・シェリ!

(セリフ)「愛してるって100万回言って僕は星空にキスをする」

 モン・シェリ モン・シェリ モモモモン モン
 モン・シェリ モン・シェリ モモモモン モン

 スキップ・ビート ストップ・パレード
 行かせやしない どこであろうと
 頼りない 僕だけど
 これからは 君守る

(セリフ)「君の苦しみ、これからは俺に半分背負わせて……」

 モン・シェリ モン・シェリ モモモモン モン
 モン・シェリ モン・シェリ モモモモン モン

 スキップ・ビート ストップ・フェスティバル
 行かせやしない どこであろうと
 頼りない 僕だけど
 これからは 君守る

 立ち止まる あなた(メランコリック・YOU)
 駆け抜ける 俺(ボンバーチック・VIEW)
 手を伸ばして さあ
 ランデヴーの手配は できてる

 君こそが運命 離れられないモン
 君こそがモン・シェリ ああそうだモン

 帰ろう 僕らのROOM
 あなたの好きなキクラゲサラダ
 買っておいたのだから……」

いつしか人々は皆、酔いしれていた。
男の美声に、そして完璧な踊りに。

「あ、アキラくん、あれは……」

深司を抱えたまま、愕然と高木がアキラに詰め寄る。

「ええ……」

(たった今まで俺が頭の中だけで作っていた……新曲の歌詞だ……!)

紙にも書き留めていないし、マネージャーにも深司にも聞かせてはいない。
それどころか、音声として口から発したことさえまだ一度もないのだ。
仮に周辺に盗聴器を仕掛けていたとしてもここまでアキラ作の歌詞を歌ってみせることはできまい。
一方、言葉のテイストから正真正銘アキラの作詞であることを察した、ということもあるが、高木が驚いたのは曲のメロディだった。
アキラの歌詞がつく前のメロのみのこのドラマ主題歌、もちろん世間にはまだ発表されていない。

(まさか……本当に!?)

 そして、詳しい事情のわからないスタッフたちを虜にしたのは、なんとひとりでアキラパート・深司パートをこなしている男のキレのよいダンスだった。
アキラの見せ場ではアキラの立ち位置に、深司のヴォーカル部分では深司の位置へとキビキビ舞い踊るダンスを見ているうち、あまりのすばやい身のこなしに、人々にはなんと男が2人いるかのように見えてきたほどだ。

「あの身のこなし、ダンス……只者じゃない!」

男子アイドル育成歴20年……腕の中の深司とともに高木がそう叫んで目を凝らしたとき。

「遅れてすいやっせーん! 機材到着しましたーっ!」

どやどやと照明が運び込まれ、その場の成り行きが全く分からない後着スタッフがテキパキとライトをセットしはじめた。

「あ、ああ……」

完璧な美声で歌い、完璧なダンスで舞う男から目を離せないまま、人々は各自配置につく。
あの男にスポットライトを当てずして、一体誰に当てるというのだ。
仕事だとかそうでないとか、スタッフ一同の頭からは完全に抜け落ちていた。

カッ!

展望台の薄闇を、熱いほどのライトが切り裂く。

「あ、あれはまさか……」

「高木さん……?」

急にワナワナと震えだしたマネージャー・高木に、深司とアキラは訝しげな視線を向ける。
だが、それにも気づかないかのように、照明に照らし出された男の、ダンスの汗と金髪に彩られた美貌を見て、高木は絶叫した。

「ああっ、君は……ッ!!?」



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以下次号!

セカンドシングルの作詞、やってみたかったのでやっちゃいました

ごめん、なんかすんごい寝てた(笑)

2006-07-30 23:54:21 | リレー:2006 夏 深司とアキラ①

順調に歌詞を考えていたアキラだが、サビの部分で躓いてしまった。
「……うーん」
唸っても、頭を金田一耕介ばりに掻いても良い詩が思いつかない。
仕方なく考えるのを止めカーテンを開けて窓の外を見た。
実はアキラも深司も帝京タワーに行ったことが無いので仕事とはいえ結構楽しみにしていた。
それも、ほぼ貸しきり状態なのだ。
「まだ、着かないんですか?」
深司が眠っているので出来るだけ小さな声でマネージャーに声を掛けた。
「あ、ちょっと道が混んでるけど、もう目と鼻の先だから」
「そうですか」
恐らく終われば即行撤収になるので、景色を楽しむのは収録前のリハや打ち合わせの合間しかチャンスが無い。
個人的に遊びに行きたくても仕事のスケジュールの合間なんて本当に知れている。空いている時間があるならば、普段出来ない勉強もしたかった。
……単位足りてたっけ……。
唐突に嫌な事を思い出した。
ため息を吐き気分転換に再び外を見た。
週末の夕方という事もあってか人の姿が多い。
「アキラ君、カーテン閉めておいた方がいいと思うけど」
外を見ているのに気が付いたマネージャが苦笑いしながら言うと、過去のことを思い出し慌ててカーテンを閉じた。
映画の公開が始まってすぐの頃、今と同じように次の仕事に向かうために車に乗っていたときその事件は起こった。
アキラと深司がぼんやりと外を覗いていると、関西弁を喋る修学旅行中らしき一団と目が合った。
丁度、信号が赤の事もあって停まっているその制服の一団は車にまで近寄ってきたかと思うと、黄色い悲鳴を上げながら写メを撮りサインを求めたりと大騒ぎし、なかなか車が進めず最悪な事に次の仕事に遅刻して怒られたうえに、週刊誌やワイドショーの話題となり、某歌番組でも関西出身芸人に笑いのネタにされて以来二人とも関西人が苦手になった。

スムーズに車が動き出し、5分もしないうちに目的地にたどり着いた。

「おい、深司。着いたぞ」
軽く揺さぶって起こすと、若干不機嫌そうに深司は瞼を開いた。

「調子はどうだ」

「……なんとかギリギリ」
深司はゆっくり体を起こすとため息を洩らした。




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起きたら喉痛かった風邪か?
この時期に風邪なのか~?




オチを言えば金髪の男がぬいぐるみを分解する

2006-06-30 13:07:49 | リレー:2006 夏 深司とアキラ①

 『深司とアキラ』は今をときめくトップアイドルだ。
 二人が主演する青春映画が近年にないヒットが彼らの人気に火を付けたのだが、映画の主題歌でもあり彼らのデビューシングル『腐れ縁アミーゴ』はミリオンセラー、オリコン・有線・カラオケ・着うたのダウンロードなど軒並み1位を掻っ攫い、さらに映画のドラマ化が決定していた。

「今日はあとMコンの生だけだから、頑張って行こう!」
「「…はーい…」」
 移動用ワゴンの後部座席に深く腰掛けると、深司もアキラもそのまま夢の国に旅立ってしまいそうになる。
 今日は朝から、3社の雑誌取材と新作アイスクリームのCM撮影を秒刻みでこなしてきたのだ。残すは歌番組【Mコンビニ】の生中継のみだが、週末までに(今日は金曜日)ドラマの主題歌になるセカンドシングルの作詞を片付けなくてはいけなかった。移動中も頭が重いことこの上ない。
 そもそも、年齢的に見ると高校生の彼らは本来ならこの時期は夏休み。ドラマに乗じて彼らを売り出したい事務所側の思惑は分からなくもないが、ここ連日のハードスケジュールは勘弁して欲しいというのが正直な気持ちだ。
 

「深司…お前、熱大丈夫なのかよ?」
 500mlのペットドリンクを飲み干したアキラが、項垂れた深司の額に手のひらをあてた。
 艶やかな黒髪が白雪の女顔を頬まで縁取った深司は、華奢な見た目の期待を裏切らず体が弱く、疲れが溜まるとすぐに発熱するのだ。
 そんな彼のキャッチフレーズは“平成の沖田総司”。
 儚げな印象が女性ファンの心をくすぐるらしい。しかも、熱が出て頬がピンク色に染まってしまうのが、また彼の熱烈なファンをウキウキさせるというのだから、ファン心理とは恐ろしいものである。
「ん…なんとかいけると思う。明日は半日オフだし」
「マジかよ」
 精悍な顔立ちを曇らせたアキラは、きょろきょろと車内を見回して自分のリュックから未開のペットボトルを取り出すと、よく冷えているのを確認してから深司に手渡した。
 深司と違って健康優良児のアキラは、事務所のアイドルの中でもダンスが抜群に上手くて、また、『深司とアキラ』として活動する以前にも『ういろうランナウェイ』『Love~とこしえに~』とソロで2枚のバラードを出してヒットさせた、まさに歌って踊れるアイドルだ。ちなみにビジュアルはというと、小学校の頃は芸人を目指して顔芸を練習していただけあって顔面の筋肉はよく動き、調子が良いときはカッコイイ顔もできる…という感じで、ファンに言わせると彼は“歌って踊れる芸人アイドル”。

「ちょっとだけ寝る…」
 スポドリを飲み干した深司はやはりつらいのか、体を楽に出来るように体の向きを変えて目を閉じた。
「おう、帝京タワーに着いたら起こすぜ」
「よろしく…」
 気を使って小声で答えるアキラは、深司の寝入る様子を見届けた後、セカンドシングルの作詞に没入した。











 お題は、夏休みに展望台で金髪の男がぬいぐるみを分解する。
 ですよ。


 よろしくです~♪