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Northern Liquor Mountain

くじ引きによるリレー小説と書き手の生態など。

ハルマニア……完

2006-03-20 20:52:11 | リレー:2002 春 牛タン

黒い獣はもったりつづみに飛びかかろうと、太い四本の足に力をこめる。

「下がりゃんしゃい」

そう言って前に進み出てのは、棺桶に片足を突っ込んだような爺さんだった。

「これでも若い頃は警察犬を訓練しとったからの。犬のしつけは大の得意じゃ」
爺さんが犬と称する獣に一歩一歩ゆっくりと近づく。南大門の脳裏に老人が食い殺される光景が浮かんだ。
黒い獣はいっそう口を大きく開ける。まるで笑っているようだ。
「お手」
爺さんが言うと同時に獣は地を蹴った。
驚いたことに爺さんは瞬時にかがみこむと地面から何かを拾い、それを獣に投げつけた。

「ギャウッ」

獣は短く悲鳴をあげた。爺さんの投げつけたもので視界をふさがれているようだ。茶色の粘液が顔中を覆っている。
こうなってはただの犬っころ同然だった。
「おすわり!」
気合と共に爺さんは、犬の眉間に掌底を叩き込む。

「南無さん」
獣は地面に崩れ落ちた。

「あの、ゲンさん……今のは?」
しな子が尋ねると犬に楽勝したゲンさんは答えた。
「捨てられた野良犬が、凶暴化したんじゃろうなぁ。最近特に汚染も進んどるしな。かわいそうに……」
「さっき犬に投げたのは何だったの?」
南大門もおずおずと聞く。
「おう、これじゃ」
そう言ってゲンさんはまた近くの地面から何かを拾って見せた。
南大門は老人の手の中の物を見て素っ頓狂な声をあげた。
「これ、カエルなの!?」
「そうとも。ヒキガエルの変種じゃな」
手に握られたカエルは、カエルとはとても言いがたい茶色のネバネバした、軟体動物のような生き物だった。

「ここ十数年来、よく見かけるようになった。おそらく、あの事故の影響じゃろうて」

二十年前、日本最大の原子力発電所が大爆発を起こした。表向き、人体に害は無いといわれ続けてきたが、各地で異変は今でも続いている。
「坊やも、ここに来る途中で踏んじまったりしたんじゃないか?」
南大門は首を縦に振った。途中で靴を汚した得体の知れないものはこれだったのだ。
「かわいそうに……。誰が悪いわけでもないのにねぇ。ほらこれが食べたかったんだろう。一緒に埋めてやりましょうよ」
しな子はもったりづつみから牛タンを取り出すと、ゲンさんにあの世行きにされてしまった犬のかたわらにそっと置いた。

ゲートボール仲間達が手伝って犬と牛タンは地の底に埋められた。
西暦2050年。老人たちは今日も健在だった。


シュタッ シュタッ シュタッ!
グエーーーッ!

なんの鳥なのか皆目見当もつかない叫び声がこだまする山道を、青年の軽快なスニーカーの音が進んでいく。
『おばあちゃあん、どこへいくの?』
52年前のあの日、祖母・しな子に連れられてこの山を登ったことが、鮮やかに思い出されて南大門はかすかに笑った。

シュタッ シュタッ シュタッ!
グエエエエエーーーーーッ!

不気味な足音も獣の鳴き声も、今年17歳の青年には何の不安もおこさせない。
(ぎゅうたん、いぬ、ヒキガエル……)
17になった今も、舌っ足らずな口調とコアラに似たアホっぽい容姿はそのままだ。

{説明しよう(タイム○カン)。73年前、日本最大の原子力発電所が大爆発を起こした。表向き、人体に害は無いといわれ続けてきたが、そうではなかったのだ。肉体の成長は著しくスピードを落とし、今では4年に一度年齢を数えていくと方で定められている。
                     民法第九十七条}

山の頂上にさしかかり、南大門の太もももそろそろ限界をうったえかけはじめていた。前方から複数の笑い声が、木々の間からもれ聞こえている。

「おや、南大門。早かったね」
祖母のしな子の声が、南大門を呼んだ。
「うん、むかえにきたよ、おばあちゃん」
なにかジュージューいう音と、食欲を刺激するいいにおい。
「またバーベキューしてるの?」
南大門の素朴な質問に、しな子は笑って頷いた。
「牛タンのいいものを見つけてね、皆で食べていたんだよ」
ほら、と目の前に差し出された深皿の中には、ほどよく脂ののった牛タンが、焼き色もすばらしく、タレにひたひたと浸かっている。

(おいしそう……)
南大門はひょいとその牛タンをつかんで、ぱくっと一口に飲み込んだ。上等のタンの、豊かな香りが口内にむわっと広がった。
「ああっ何てことするんだい」
しな子があわてて皿をひっこめた。

グウエエエエーーーーッ ギャッ ギュギュッ!

けたたましい叫び声がして二人は身をちぢこませた。

「山神様が怒っとるよ」
しな子のゲートボール仲間ゲンさんが、厳しい顔で言った。
「あの日埋葬した山犬が長い時を経て神となり、一緒に埋められていた牛タンは時と共に地上に出てきてしまった。そう、それがその牛タンじゃ!」
「なんでそんなことがわかるのっ!?」
「ゲンさん! なんとかしてくれ!」
取り乱して騒ぐ祖母、孫を制しながら、
「もう無理じゃ……わしらはたたられるしかないんじゃ」
とゲンさんは呟いた。

(なんでこんなことになったんだろう……)

南大門は力なく地にふせた。こんもりと土がもりあがった所に無造作に拳を叩きつける。
もう何の打つ手もなく思われた。
「すまん……実はわしが牛タンを掘り返してしまったんじゃ。だから……」
ゲンさんが申し訳なさそうに謝罪した。しな子は、
「いや、わたしもいけなかった。そんな土から掘り出したもんを食べようなんて言わなければ……」
南大門はハッとして祖母を仰ぎ見た。
「そうだよ! つちのなかのものをたべるなんて、かんがえつかないよっ」

(めちゃくちゃだよっ……)

しな子とゲンさんは、顔を見合わせ、そして深くうなだれた。


「だって……」

「だって?」



「……だって……うまそうだったんじゃ」













『お盆に、山の中で、老婆と孫が、牛タンを、埋めた』
をお送りいたしました。

はるまにあ3

2006-02-19 23:21:08 | リレー:2002 春 牛タン
シュタッ シュタッ シュタッ!

グエッ グエエエエエエーーーーー!

もたっ…… モタッモタッ……

「えっ? あっ……うわっっっ!」

むにゅっ!

ギュエエ~~ ギュ~~~!

しな子の顔を見上げたその瞬間、南大門は“何か”を踏んだ。そして思わず体を飛び上がらせ、しな子の体に抱きついた。
踏んだ“何か”はまさしく“何か”としか表現できないものの感触だった。例えるならばゼリーやプリンのようなそういった類をもう少し硬くしたようなものを……。
南大門はこの前、子供祭りで作ったスライムを思い出した。

「なんだい、南大門。急に素っ頓狂な声をだして……」

「なにか……何か踏んじゃったよ~」

泣きそうな声でそう言うと、南大門は恐る恐る下を見た。その瞬間南大門は冷や汗が額から滝のように流れ落ちるように思えた。
下には何もなかった……。
踏んだはずの“何か”はもうすでにそこにはなかった……。
しかし一応南大門は靴の裏を見てみると、なにか粘っこい茶色いものがついていた。
しな子も一緒に南大門の靴の裏を見た。

「おや、なんだい。動物のうんちでも踏んだのかい? ばっちい!」

と言ってしな子はコロコロと笑い出した。

(そんなんじゃない……ぜったいに、うごいてたよ~)

グエッ グエッグ!

もたっ もたっ もたっ……

「もう少ししたら川があったはずだから、そこで靴を洗おうね」

そう言うと再びしな子は南大門の手を引いて歩き出した。
しばらくすると、せせらぎの音が聞こえてきた。
森を歩き始めた時に傾き始めていた太陽は、今はもうすっかり地平線の向こうに沈み、辺りは薄暗くなっているが行く手が開けているのが南大門にはわかった。

「ほら、靴をお貸し」

しな子に言われて南大門は、先程得体の知れない物を踏んだ方の靴を脱ぎ、しな子に渡した。ふところから手ぬぐいを取り出すと、祖母はそれを川の水にひたして湿らせ、南大門の靴を拭った。

「あ、ありがとう」

しな子の手から靴を受け取り履き直す。靴は綺麗になったがしな子に対する不信感は相変わらず拭いきれない。そんな孫の胸のうちを見抜いたのか、しな子は笑顔を浮かべると南大門を安心させるように声をかけた。

「もうちょっとで着くからね。大丈夫、何も怖いことなんてありゃしないよ」

再び南大門の手を取り歩き出す。

「う、うん……」

もったりづつみの赤い染みに目をやりながら、南大門は返事をした。二人は川に沿って上流へと歩き始める。
いくらもしないうちに、前方に何人もの黒い人影が見える。影の間からはちろちろと赤い炎がのぞく。かなりの多人数で火を囲んでいるようだ。がやがやと人の話す声が聞こえる。

「おばあちゃん、あれ」

最後まで言わないうちにしな子は答えた。

「ああ、やっと着いたよ。よくがんばったねえ、南大門。今日は近所のゲートボール仲間とバーベキューをするんだよ」

「えっ」

南大門が驚きの声を上げると同時に向こうで誰かが声を上げた。

「おーい、しな子さんが来たぞ」

さらに何人かがこちらを向き、しな子と南大門を迎える。

「遅かったじゃない、待ったのよ」

「無事について何よりだ。あれ、お孫さんかい」

「かわいいねぇ。ほら、動物園にいて葉っぱを食べる……」

「パンダかい?」

「ちがいますよ、そう、思い出した、コアラよ。コアラにそっくりでしゅねえ、ボク」

しわだらけの顔に囲まれ何度も頭を撫でられ息をつくひまもなく南大門は閉口した。平均年齢七十歳を超える群衆の中でコアラのようなもうすぐ小学校に通う南大門は人気者だ。

「孫の南大門よ。南大門、ごあいさつなさい」

「こ、こっこんばんは」

老人にもみくちゃにされ、唯一の未成年は満足に口もきけない。そんな孫を尻目にしな子は今までしょっていた包みを下に降ろした。

「みんなに差し入れよ」

しな子の手が包みに手をかけると同時だった。

ヴォォォオオオーーーーッ!!

突然、背後からこの世のものとは思えぬ、猛り声が夜の闇をつんざいた。しげみから大きな黒い影が躍り出る。
体中の黒々と剛い毛を逆立て、大きく開いた口にはするどい牙がびっしりと並び、その間からは赤く長い舌がだらりと垂れ下がっている。
ぎろり、と金色に輝く目がしな子のもったりづつみに向けられる。
「ひっ!」
と小さく声を上げ、しな子はパッと手を引っ込める。南大門は顔を引きつらせたまま声も出ない。


ハルマニア2

2006-02-05 00:33:44 | リレー:2002 春 牛タン


シュタッ シュタッ シュタッ!

グエッ ギュエエエエエエーーーーーーー!

 こんな奇声が飛び交う山を、一人で徘徊する気にはとてもなれないからだ。

「南大門は来年から小学校だねえ」

 しな子が独り言のように呟いたので、南大門は顔を上げた。

「ちがうよ。ぼくはまだねんちゅうさんだもん」
「ああ、そうだったねえ。南大門はまだ五つだからねえ」

確認するように、しな子は頷いた。そしてちらりと南大門に目をやる。

「まだ、早かったかねえ」

もたっ…… もたっ…… もたっ……

ガサッ

背後の木が突然揺れたので、南大門は驚いて振り返った。一瞬黒い影が映ったが、まばたきをしたら消えてしまっていた。

(なにかいる。ぜったいいる)

南大門は涙ぐんだ。とにかく怖かった。ひたすら恐ろしかった。

「お……おばあちゃ……。なんか、いるよ?」
「そりゃあ、大きな山だからね。野生のうさぎかなにかだろう」

違う。南大門は確信していた。あれはうさぎなどではない。もっともっと大きくて、そしてもっともっとコワイものだ。うさぎなんて可愛らしいものではない。南大門は幼稚園で飼っている白うさぎを思い浮かべながら思った。

グゥウエイエエエエエーーーーー!

鳥の鳴き声(あくまで南大門の推定だが……)に、南大門はビクリと体を振るわせた。
そしてしな子の着物の袖にしがみつく。

(こわいよぅ。いえにかえりたいよぅ。よくわかんないけど、ぜったいへんだよ……!)

けれど一人で山に下りる度胸など無論なく、しな子はまだまだ山を登る気でいるらしかった。南大門になす術はない。

「こわがりだねぇ、南大門。やっぱりまだ早かったねぇ……」

しな子は南大門の頭をやさしく撫でる。

シュタッ シュタッ シュタッ!

グエッ グエエエ…… ギュエエエエイーーーー!

もたっ…… もたっ…… もたっ……

「さあ、いこうか」

しな子はよっこいしょと腰を上げて、右手で南大門の手を取り、左手で風呂敷包みを持った。

「さあ、もう少しだ。頑張ろうね、南大門」

南大門はしな子に引きずられるように歩いた。

(おばあちゃんは、なにするつもりなんだろう……?)

もはや尋ねるのもためらわれた。すごい答えが返ってくるのが怖いのである。

もたっ…… もたっ…… もたっ……

南大門は気付いていた。
風呂敷の中身が盆栽ではないことに。そして何故か隅の方にかすかに赤い(血のような)ものが滲んでいることを。

もたっ…… もたっ…… もたっ……

例の黒い影は、確実に二人の背後から迫ってきている。

「南大門、見てごらん」

先程休憩した場所からさらに歩き、やっと山の中腹に差し掛かってきたときだった。しな子は急に立ち止まって、とある方向を指差した。

「なに? おばあちゃん」

言われるままにその方向に目をやると、木々の隙間から自分たちの住んでいる街が見え、南大門は大いに感動した。

「すご~い。おうち、ちっちゃいねぇ」
「そうだね私らの家はどこらへんだろうねぇ?」
 
南大門は自分の家を探し始めたが、米粒程度ぐらいにしか見えない家々の中から探し出すのは奇跡のようなもので、南大門は厭きて途中で止めた。
そしてまた、しな子に手を握られて歩き始めた。

シュタッ シュタッ シュタッ!

グエッ グエッ グエッ……

あいかわらず謎の音は健在だ。

「おばあちゃんは、このやまになにしにきたの?」

ついに南大門は勇気を出してしな子に尋ねてみた。

「ちょっと用事があってね……ああ、本当に重いね、これは……。南大門、ちょっと待っておくれ。荷物を持ち直すからね」

と、しな子は言い、南大門から手を離して風呂敷包みを下に置いた。
持ち直すと再び歩き出した。

「なんだか、今日の南大門はおとなしいね」

いつもならやんちゃにはしゃぎまわっている南大門が今日は静かにしているのが気になり、しな子は尋ねた。

                          

                                  続く


ハルマニア。

2006-01-22 20:28:11 | リレー:2002 春 牛タン
 シュタッ シュタッ シュタッ
 グエーーーーーーーーッ!

 何の鳥なのか皆目見当もつかない叫び声がこだまする山道を、老婆の軽快な草履の音が進んでいく。

「おばあちゃぁん、どこへいくの?」

 リズミカルな足取りの祖母・しな子に手を引かれて、半ば引きずられるように暗い山の中へ分け入っていくのは、今年五歳になる彼女の孫、南大門である。進むにつれ次第に森が深くなり、日の光が差さなくなっていくのは、幼い南大門を不安にさせた。

「ふぅ、疲れたかい? 南大門」

 振り返ったしな子は、質問に対して質問で返すという高等テクニックで話を逸らす。さすが亀の甲より年の功であった。
 しかし南大門は、その舌っ足らずの口調とコアラに似たアホっぽい容姿とは裏腹に、頭の中身はなかなかに聡かった。

 シュタッ シュタッ シュタッ……
 グエッ グエエエエーーーーー!

(このやまでなにかぼくにはいえないことをするんだ……いったらぼくがにげてしまうようなことをするんだ……!)

 いつの間にか汗をびっしりかいた小さな手のひらで祖母の着物の袖を摑んだとき、南大門は、しな子の左手にある風呂敷包みに気付いた。

 もたっ…… もたっ…… もたっ……

 妙にもったりとしたそれは、祖母の歩調に合わせてもたりもたりと揺れていた。背筋がぴりぴりするようないやな予感。

(なんだろう……?)

 かすかな生臭さを放つ包みは、年をとって尚、キリリと美しいしな子が持つには妙に違和感がある。南大門は自分たちの行く先以上に、その唐草模様の風呂敷が包んでいるものを知りたいと思った。

「ねぇ、おばあちゃ……」

 グウエエエエエーッ ギャッギュギュッ!

 発しかけた南大門の問いかけを、もはや鳥類なのかどうかすらもあやしい怪鳥の叫びが遮った。
 ”ギャッギュギュッ!”のとき一体鳥の身に何が起こったのか――南大門にできることはただ、目に涙を浮かべて鳥の形状を想像してみることのみであった。
 すっかり勢いをそがれて黙りこくってしまった南大門の手をかまわず引いて、しな子はいっそう歩く速度を上げる。

 シュタッ シュタッ シュタッ!
 グゥエッ ギャーッ ギャーッ グエエエエーーーーーーッ!
 モタッ モタッ モタッ モタッ……

 いい加減高度も上がり、二人の息も荒くなる。この山は傾斜がきつく、老人と孫には過ぎる運動であった。

「ふう、少し休憩しようか。夕方なのにまだまだ暑いねぇ」

 幅の広い道に大きな石を見つけて、しな子は孫と二人、それにちょこんと腰掛けた。並んで呼吸を鎮める二人を、稜線に隠れかけた夕日が染める。

「ふう……」

 祖母と孫はどちらかともなくため息をついた。
 眼下に広がる風景に目をやると、西日が彼らの住む町を黄金に照らし出している。来た道のほうを見渡せば、微かな線香の香の中に見えるいくつもの提燈が、夕日の色よりも少しだけ明るく麓の墓地に輝いていた。

(ああ、おぼんだったんだ――)

 今日という日をただ夏の一日だと思っていた南大門は、それを見てこれまでの不安を改めた。祖母の不審な行動も、今日がお盆だと思えば何となく安心できた。お盆には年寄りは感傷的になるものなのだという偏見が、幼いながらも彼にはあったのである。

(もったりづづみ《命名・南大門/心の中で》のこと――きいてみようかな?)

 そう、きっと自分の勘ぐりすぎていたのだ。何でもないもの――例えば祖母はこう答えるだろう、中身は死んだおじいさんの形見の盆栽なのよ、と。

 少し休憩と言ってからどのくらい経っただろうか。
 南大門はただ座っていることに、退屈しはじめていた。しかし、しな子はまだ体から汗が引いていないようで、頬を赤らめていた。当分休憩は続きそうである。南大門は辺りを探索してみたい気がしたが、じっとこらえていた。