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Northern Liquor Mountain

くじ引きによるリレー小説と書き手の生態など。

2007 spring ①-5 混ぜ合わさってポン酢編

2007-04-27 13:21:56 | リレー:2007 春 伝説の教師
 蟹多摩学園アイドル教師・高松塚純平(担当科目数学、29歳)とその教え子である3年蜜柑組・朱川雀は、当学園第45回卒業式途中にひょんなことから会話を交わし、厳かな式の雰囲気を乱してしまっていた。


「私、先生がポン酢をお好きだと聞いて…。ぜひ、使っていただきたくて…」

「……あ…うん。ポン酢は好きだけど…」

「当社の新製品なんです…」

 
 二人のやりとりに呆気にとられる教職員、にわかにざわつく保護者席、聞き耳たてて殺気を放つ全校生徒、そして名物カルテットの残り…白井虎子・玄田武美・青山龍那の3人は、神の啓示にも似た絶対の結論にいきつこうとしていた。


(((こうなったら私も…!)))


 先手必勝の高松塚の愛を巡る戦いに一歩出遅れてしまった…。しかも、あの恋愛に最も向かないと思われる朱川に先手を取られてしまった!? それではいったいなんのために、勉強そっちのけで己の外見に磨きをかけてきたのか。高松塚の興味を惹きたい一心でやってきたのではなかったか?
 いやいや、まてまて。どうやら高松塚のあの戸惑いの表情から察するに、事件の決着はまだ付いていない。たとえ先手を取られたとしても、どう二手目を返すかによって結末がどんでん返しになるかもわからない。決断しなくては。この愛の戦争に《躊躇》という二文字は命取り。
 
    
「ホ、ホワイトー!」

「黒崎ぃい゛っ!!」

「藍原~~っ!!」 
 
 
 体育館内の誰もが雷でも落ちたかのような衝撃を受けた。
 なかでもその雷が直撃したのはホワイト・黒崎・藍原の3名である。保護者席の最前列で藍原は式次第のパンフレットを取り落とし、最後列では白目を剥いた黒崎をホワイトが介抱しているが、だがそんなことは、すでに現在進行中の卒業式のことまで忘れ去ってしまった虎子・武美・龍那には関係ない。ここは戦場だ。自分はソルジャーだ。この戦いに決着を付け戦利品をいただいて帰るのだ!
 いまこそポン酢を出すとき!
 

「先生っ! 私もとても美味しいポン酢を作ってまいりましたのよ! コラーゲンが配合されておりますからお肌にも優しいポン酢ですわ! ホワイト!? いるのでしょ? ここにポン酢を持ってきて!!」

「ダメダメっ!! 純たんはうちのポン酢使うの! うちのポン酢は原材料が良いから鍋はもちろん、煮物にだって使えるんだ。黒崎ぃ? どこだー」

「なーに言ってんの? りゅーなのが良いにマジ決まってんじゃん? 藍原のアイディアで使い切りパックよ? 超おもろくね? つか、新鮮さが違うしぃ」

 
(な…なに、この人たち…)

(えー、ポン酢ってなに? 純たんどういうこと?)

(そ、卒業式どうなるの…? 誰かなんとかしようよ)


 ようやく冷静さを取り戻し始めたのか、それともポン酢の話についていけないのか、一部の列席者が救いを求めるように高松塚へと視線を送り始めた。
 一連の流れからして彼が話のキーマンになることはまず間違いない。そして、なんと言っても彼は教師で、暴走を始めた女子生徒の担任であり、生徒の点呼をしていたから丁度マイクの前に立っている。彼が一言でも彼女たちを諫めたら、ずぐにこの場は収まるだろうに。


「……みんな」

「「「……っ!」」」


 空気を読んだのかおずおずと口を開いた高松塚に、嵐のごとくだった3人が静まりかえる。


「ごめんね…みんな。みんなの気持ちは嬉しいけど、僕は受け取ることができないよ」
 
「なっ……!」

「ええーー!?」

「ぶっ」
  
「だって僕……人にあれこれしてもらうのって嫌なんだよ。頼りなく見えるけど、こう見えて男だし。それに…今日みんなが卒業するとは言っても、3月31日までは僕たちは先生と生徒。生徒との恋愛関係と生徒から身に余るプレゼントを受け取るのは、僕の職業倫理に反します。はい! 分かったらみんなさっさと席について。引き続き、3年蜜柑組4番…喜多川ルリ子」

「……」

「繰り返します。3年蜜柑組4番、喜多川ルリ子」

「はっ…はい!」


 館内の大多数が望んだ通り高松塚の一言で蜜柑組の点呼は再開された。
 もちろん彼の言葉が、名物カルテットおよび彼のファンに大きなショックを与えたことは言うまでもない。


(男らしい先生も素敵…)

(萌えーーーー!!)

(怒られちゃった…vV)

(かっこ可愛いってコレかぁ~!)


 しかし明らかな彼の拒絶もなんのその、一日サイクルで更新される純たん萌ポイントに《男らしさ》がプラスされ、ファン心理が高まるばかりであった。
 さらに恐るべきことに、高松塚がそのことに全く気付かず「混乱を静めました」という達成感に充ち満ちた笑顔で彼女たちの熱をさらに煽り続けたことが、その後の謝恩会にとんだハプニングを巻き起こしたのだが、それはまた別の話…。


(彼も大人になったのね)

(なんであの時、まともなことが言えなかったんだ…)

(純平……)

(…でもりゅーなはやんね)


 さらに言えば保護者席で胸を撫で下ろした某4人が、この日を機会に親交を取り戻し、互いにライバル会社に勤めつつ生涯にわたる友情を育んだこともまた別の話である。




                           【終】


  ☆★☆ ★☆★ ☆★☆ ★☆★


尻切れトンボで申し訳ないです。私がラストの場合は、おおかた伏線を上手く回収できません(←ヘタレ)。
ああ、もうすこし純たんをいじれたら良かったか? 主役って彼だっけ?(今更!)
実はあと2パターンくらいラストを考えていたのですが…どちらも純たんが危険な男になりそうなんで考えるのをやめました。「性癖だからしかたがない…」とか言っちゃダメだよね、純たんは! とりあえずいちばん無難だと思われるところに着地してみました。私に女子高生の若さがあれば…!! 謝恩会まで書けたかも(いや、それはない)。

2007 spring ①-5 お酢編

2007-04-24 11:08:00 | リレー:2007 春 伝説の教師
 卒業式の厳かな空気をぶった切ったのは、3年蜜柑組出席番号2番朱川雀の叫びだった。
 3月1日、蟹多摩学園第45回卒業式当日である。


「私、先生がポン酢をお好きだと聞いて…。ぜひ、使っていただきたくて…」

「え? あ…うん」

「当社の新製品なんです…」


 シンと静まりかえる体育館にぽつぽつと響く自社社長令嬢とその担任の会話を、驚きのあまりに目を見開いて聞いていたのは、保護者席にの真ん中あたりに目立たないように座っていた赤木祥悟(C社勤務、29歳)である。
 
(お嬢…!! いったいどうして…)

 妹のように親しく思う彼女に押し切られ、社長を差し置いて今日の式に臨席してしまったが…。それだけですでに充分心苦しかったのだが、この場の空気がさらに追い打ちをかけてくる気がする。
 それにしても彼女の行動は…大人しい人間ほど思い詰めると極端な行動に走りがちだというアレだろうか。しかも、彼女がそこまで想い詰めていたという相手が、あろうことか彼女の担任であり、偶然にも赤城の旧友・高松塚純平なのだから気分はさらに複雑である。お嬢からポン酢の話を聞き、ふと彼を思い出したこと…いまでは運命としか思えない。

(しかし、この膠着状態…だれがどうするんだ)


(純たんがどーこーできるわけないっつーの)

 保護者席の最前列で蛍光ピンクのスーツに身を包んだ藍原由香(D社勤務、永遠の20歳)は、卒業証書の授与を終えたばかりの自社社長令嬢・青山龍那を横目に見つつ、冷静に状況を把握していた。
 かつての級友の高松塚は暢気で天然でドジでアホ。人懐っこいから人に嫌われるということはないが、藍原が今まで見てきた男の中で最強のヘタレ。キング・オブ・ヘタレである。式次第のパンフレットにその名前を見たときは、持参してきた新作ポン酢をかち割ろうとすら思った。
 年齢を超えて親友とも思っている龍那が、まさか彼に片想いしていようとは…。
 
(あんな男にりゅーなは嫁にやれんっちゅーの。…あーあ、せっかく可愛い顔してたのに)

 この場の成り行きにグロスをたっぷり塗った口が開いたままふさがらない様子の龍那に、口閉めろとアイサインを送ってみても無駄である。彼女はもちろんのこと卒業生在校生の視線はすべて、かのヘタレと大胆少女に注がれているのだから。


(へ? なにがあったの?)

 B社試験研究室勤務、黒崎和真(29歳)はうたた寝していてずれた眼鏡の位置を直しながら、このなんとも言い表しがたい館内の空気を読もうと必死に頭を巡らせていた。が、いかんせん座った席が保護者席のなかでも最後尾なので前方でなにがあったのかちらとも窺うことができない。

「あのー…すみません、なにかあったんですか?」

「Oh~、やっと起きたのね和真」

 自身での状況把握に見切りをつけ隣に小声で問うと、やはり小声で答えが返ってくる。しかしその声にぎょっとしたのは黒崎である。眠気、ここ数日の疲れが一気に飛んだ。

「ナ、ナタリー?」

 日本人ではとても着こなせない白いパンツスーツを完璧に着こなしてアイスブルーの瞳を向ける金髪女性は、高校時代に黒崎が告白して振られた留学生ナタリー・ホワイトその人だった。

「きっ、君…なんで、ここにっ!?」
 
「こちらの卒業生で親しくしている人がいて…そのお祝いに。ふふ、いま凄いことになってるのよ」

 十数年経っても魅惑的な唇が説明するに、どうやら卒業生の女子生徒ひとりが担任教師に向かって「ポン酢を作ってきたので使ってください」と告白したらしい。
 ある単語にピンポイントで心当たりがあり、その行動が大胆不敵であるだけに、もしやその女子生徒は自社社長令嬢では?と失神しそうになった黒崎だが、その名が玄田武美ではなく朱川雀と知りおおいに溜飲を飲んだ。
 3年蜜柑組2番…武美はたしか5番である。

「そして担任が…ほらハイスクールの時に一緒だった純平。純平なのよ…」

「純平? え? まさか……」

 武美から純たん純たんと聞き、ポン酢を開発しろと脅されて嫌な予感はしていたが…まさか武美の意中の人が高松塚だったとは。ナタリーへの恋心を相談しアドバイスしてもらって玉砕した以来、藍原→武美と女難が続く黒崎にとって、彼は恋のキューピッドならぬ女難の元凶である。

(そんなこと言ったら武美ちゃんに殴られるけど…)

 武美には早く大学に行ってもらって、勤務先に寄りつかなくなって欲しい黒崎であった。
 と、その時…!!


「ホ、ホワイトー!」

「黒崎ぃい゛っ!!」

「藍原~~っ!!」 

 シンと静まりかえった館内に三つの悲鳴が轟いた。


                      ★続く★





アダルト組目線でお送りしました(アダルト風味ってコレか)。
3日後くらいに完結します。こんどこそ。
 

2007 spring ①-5 ポン汁編

2007-04-20 12:20:35 | リレー:2007 春 伝説の教師
 何を予兆してか朝から猛烈に吹雪いている、3月1日、蟹多摩学園第45回卒業式当日である。

 いかに私立といえども氷室のように冷え切った体育館で参列者のほとんどが寒さに身を縮こませるなか、3年蜜柑組担任:高松塚純平はいつものジャージとスリッパを一着しか持ってないスーツ(リクルート用)と体育館用スリッパ(緑、学校名入り)に替えて、のほほんとそこだけが南国のような微笑みで式に臨んでいた。
 しかし、手塩にかけて育てた我が子が出荷されていくような誇らしくも嬉しくも寂しい気持ちが彼の心中渦巻いていることは、もちろん卒業生・在校生・教職員一同、誰も知ったところではない。彼らの関心は、学園でただ一人の男性であり故にアイドル扱いされている純平の、七五三を祝われる男の子のような晴れ姿にのみ向けられているのだ。


(ああッ…先生!! スーツも良くお似合いで可愛らしい…)

(ぎゃー!! スーツっ!? マジでマジでマジで?)

(……曲がったネクタイ直してあげたい)

(あっ、あんのセンコー超ジャマ! どけっ! 純たん見えないンだけどーっ!?)


 例に漏れず名物カルテットも純平の姿に一喜一憂しているのだが、しかし彼女たちには卒業よりも重大な目的があった。


(ポン酢ポン酢ポン酢ポン酢…)


 この数週間呪いのように頭を占め、開発してきた自社新製品の対高松塚用ポン酢をいかにして本人にアピールするか。今までの学園生活をハッピーエンドで締めくくるための絶対に外せない大博打だ。事と次第によっては多少強引な手を使っても仕方がないと思って、保護者席に開発担当者を参列させた四人である。


(それにしても…いつ先生にコレをお見せすれば良いのかしら)

 この日のために一週間かけてトリートメントした艶やかな巻毛の白井虎子は整いすぎるほど整えた眉をよせて、イライラと緞帳の横に張り出された式次第を睨んでいた。
 式のメインイベントである卒業証書の授与は蜜柑組を残すのみだ。あとの式次第はスムーズに流れてしまうだろう。謝恩会会場は自社の息の掛かったホテルの広間を貸し切ったが、会が始まってしまえばその場は無礼講になり自分のポン酢をアピールできるかどうかは分からない。

(すこしでも早く先生にお見せしなくては…)


(ここでヤらなきゃ、女が廃る…!!)

 炎のように立ち上がった真っ赤な髪もあいまってなかなかに雄々しい姿の玄田武美も、焦りを隠せない様子でいた。
 なにしろ名物カルテットのなかで自分が純たんに名前を呼ばれるのは青山と朱川に次いで3番目。ギャルと根暗と言えども彼女らも己と並び称されるほどのお嬢様、さらに言えば彼女たちの会社がそれぞれ食品分野に力を入れ始めたことはすなわち対純たん用ポン酢の開発も間違いなく行われているわけで、何か先に行動を起こされれば自社のポン酢インパクトが小さくなってしまう…。

(そんなの認められっか! 頼むから何にもすんな!)



「…続いて3年蜜柑組、1番、青山龍那」

「はーいvv」

 純平に名を呼ばれ、気合いの入ったアップ髪を左右に振りながらステージに上がった青山龍那は、虎子・武美とは変わって余裕の表情である。
 この一年間クラスの誰より先に名前を呼んでもらえるという優越感に溺れ続けてきた彼女は他のファンよりは比較的飢餓感が薄く、またギャルであること以外は常識的な判断ができるのであった。卒業式という場で自社の新作ポン酢をどうこうしようとは考えついても実行しようとまでは思わない。というのも、

(謝恩会のヒロインはりゅーな? つか、負けないし?)

 卒業証書を受け取りステージを下りて担任に向かって礼をするという恒例の流れを、純平に向かって礼するところだけ完璧な笑顔で終わらせれば、彼女にとって卒業式は終了したも同然で、すべての気持ちは謝恩会にむかっている。


「2番、朱川雀…」

「…はい」

 消え入りそうな声で点呼に応え、席を立った朱川雀からは極度の緊張が見て取れた。カルテットのなかでも筋金入りの深窓のお嬢様である彼女だ。晴れ舞台に緊張し卒業する寂しさに打ちひしがれているのかもしれない。
 ステージに上がって証書を受け取りまた下りてくるまでのあいだ、椿油を塗ったような黒髪ポニーテールがずっと細かく震えていた。そして純平に向かって頭を下げ、顔を伏せたままハンカチを目元にやる姿…。


(きいぃぃっ!! なに? あの女っ!?)

(みんなの純たんの前であんなの反則よ!)

(やーん! 純たんったら、もうおめめがウルウルしてるぅ~。超かわいー)


 にわかに館内が殺気立ち、一部でデレッとニヤ下がった邪な雰囲気が立ち上ったとき事件は起こった。


「先生!」

「……え?」


 鳥の悲鳴のような声だ。  


「私…私……先生のためにポン酢を作ってきたんです! どうか、使ってください!!」




                     ☆続く☆

2007 spring ①-4

2007-03-30 00:41:25 | リレー:2007 春 伝説の教師
化粧品業界内で凌ぎを削る4社が、急に新たな分野――食品分野への進出を発表したのは、カルテットが後輩からポン酢情報を得た、実にその翌日であった。
言い方こそ各社の社風に合わせたものになっているとはいえ、A社もB社もC社もD社も皆一様に、以前から考えていたことだ、これからは内面の美があってこそだ、食品によって健康的な美を得ることが大切なのだ、とソツのないコメントを出した。
しかしてその実、“目の中に入れても痛くない”酸素透過性コンタクトの如き愛娘に泣きつかれ、自社持ち研究室をフル稼働させた結果結構悪くない副産物がたくさんできてしまった結果である、単に。



「ホワイト!」

学校から帰るなり血相を変えて虎子が飛び込んだ先は、A社研究開発部実験棟だ。

「虎子様」

部下3人に囲まれ、右から左から正面から新製品のための実験結果報告を全て同時に聞かされていた開発部部長、ナタリー・ホワイトは、思わずそのアイスブルーの目を見張った。
いつ何時もセレブな雰囲気とプライドを忘れない美少女が、何故か大量のポン酢を抱えてツカツカとこちらへ向かってきたからである。



「要するに、こういうのよりもっと! 今まで食べたこともないようなポン酢を作りたいわけよ、黒崎!」

手の甲に血管を浮き上がらせながら力説する武美に、B社試験研究室室長、黒崎和真は、その鬼気迫る様子に、ただ黒フレームの眼鏡を片方ずり落とすことしかできなかった。
いつもさっぱりと快活な社長令嬢は、そもそも普段このジメジメ陰気な研究室にはあまり近寄らないというのに。

「はぁ……」

武美が両手に下げている、ビンがガチャガチャやかましいポン酢満載のスーパーの袋を、とりあえずは男である自分が引き受けてやらねばなるまい、と手を伸ばすが、

「ぜーったい! ここで先生の心を掴む!」

力んだ武美にブン、とスーパーの袋ごと腕を振り上げられ、

「ぎゃーっ!」

遠心力でぶん殴られる陰気なメガネが一人。



「ねえ、お願い。赤木さんならできるわ」

研究や開発と銘打った部署は、C社には存在しない。
商品の配合・調合・開発計画はすべて、雀の父である社長と、この赤木祥悟の頭の中にあり、その日の天候や空気、さらには得意先の好み等々によって毎日何かしら微調整をかけるためだ。

「……」

煮えたぎる大釜を汗だくで掻き回しながら、赤木は逞しい背中で、雀の消え入りそうな哀願の声を聞いていた。

「わ、私みたいな子がアプローチしようと思ったら、先生のために世界でたった一つだけのポン酢を創ってみせるしかないの……」

「お嬢……」

しかないのって、一体どんな教師なんだそれは……とは、寡黙な職人は口には出さなかった。



「ま、りゅーなもさあ、マジひっさびさな真剣さ? みたいな? ガラじゃないって? ほっとけよてめー」

新作香水の香り原料の仕入先をサイコロ転がして決めようとしていた矢先、派手なスカルプの5指に掴まれ喫煙ルームから引っ張り出されたD社開発課長、藍原由香は、

「ちょっとお、りゅーちゃん、あたし吸い終わってないんですけど?」

と、まだ口腔内に残る紫煙を龍那の顔にわざとらしく吹き付けた。

「いやっ、藍原さいあくー! ケムイ!」

「はいはい、何だって? 久々に来たと思ったら、ポン酢つくれ? ついに脳みそまでギャル菌回った?」

煙草などでは決して狂うことのない味覚と嗅覚を誇る若きキャリアウーマンは、ことの成り行きがわからず、理解できないものを見る目で龍那を不審げに見つめた。
藍原と龍那は年は離れているが藍原入社時から2人、妙に気が合って、減らず口を叩きあいながらも姉妹のように仲が良い。

「まあ、ポン酢ひとつであんたみたいな子の嫁ぎ先が確保できるっていうなら、安いっちゃ安いのかもしんないけどねー」

「うっさいな! いいから黙って新製品開発してよ!」

新しい煙草に火をつけ喫煙ルームへと戻るキャリアの後頭部に、藍原が放り出したままのサイコロを投げつける龍那であった。



「とにかく! 急ピッチで今までなかった、新しい味のおいしいポン酢の開発を!」



それぞれの社長令嬢と、娘からお願いされて張り切っちゃった社長とに固く念押しされ、あーこの馬鹿親子が……と思いながらも、ホワイト・黒崎・赤木・藍原が結構ノリノリでポン酢開発に着手したのは、彼ら4人が実は全員29歳で、

(そういえば)

(あいつもポン酢……好きだったよなあ)

(純平……)

(元気にしてるのかしら……)

と、懐古の面持ちで冬の夜空を見上げていたからだとか、何とか。



そうこうするうち、3月1日。
ほころび始める桜の蕾にも気づかないほど、8名の人間がポン酢で頭をいっぱいにして過ごす中、ついに運命の卒業式、そして謝恩会が、幕をあけた。

はーるーのおがわは……

2007-03-23 02:55:14 | リレー:2007 春 伝説の教師

その後、クラス全員まったくと言って良いほど授業に身が入らず、しかし、当てられると高松塚の時とは打って変わった調子で淡々と答えを述べる。
もちろん、最後の質問も見送りなどない。
それどころか、いつもは真面目に黒板に向かう眼差しが、心ここにあらずと言った様子で皆遠くを見ている。
そんな調子の生徒に長年教鞭を取り続け、来年には定年を迎え退職となる末松は大変遺憾な気持ちであった。

そんな末松の内情はさて置き、昼休みになり皆いつものように仲の良い者同士で食事をしていた。
しかし、考える事は揃って卒業→謝恩会→最後のチャンス!? →そのためには鍋と簡単に表せばこういったような図式になるわけで、どこもかしこも鍋の話で盛り上がっていた。

「高松塚先生はどういったお鍋を好まれるのかしら?」

もっぱら問題になるのはそこであった。
食材ならば、恐らく今まで高松塚が食べたことのない物を提供

「こうなりゃ、好みを直に聞きゃーいいじゃん」

皆が頭を抱えている中、玄田武美が突然教室に響くぐらいの声で良い事を思いついたかのように言い出した。

「えーでもーそれって面白くなくない? せっかくなんだしー純たんの驚いた顔見たーい」

間延びした喋り方で青山龍那が反論すると玄田武美もすんなりと「うーん、そうよね」と言って再び悩み始める。


そして再び教室は静まり返る。

「二年の麟子さんに聞けばいいのではなくて?」
「報道部の麟子さんなら何か知っているかも!」

白井虎子の言葉に朱川雀が頷いた。

麒科麟子この学園のほとんどの生徒が幼稚園からのエスカレータ式であるにも関わらず、高等部のそれも一年の秋に編入してきたということもあり学園のなかでも有名な人物であった。

ここはクラスの代表として玄田武美、白井虎子、青山龍那、朱川雀の名物カルテットが向かう事になった。


名物カルテット勢揃いで現れたことで麒科麟子のいる二年枇杷組は騒然とした。

「お姉様方一体どうなされたのですか?」

クラス委員長が代表して尋ねると虎子はにっこりと微笑み「麒科麟子さんはいらっしゃるかしら?」と聞いた。

「ここにいますが~」

緊張している生徒の中、麟子は学園の売店で販売されているシナモンロールを食べながら返事をする。

「麒科さん! お行儀が……」

龍那は気にせず、委員長の言葉を遮って話しかける。

「純たんが好きなお鍋ってわかる?」

「高松塚先生が、どういった鍋を好むかですか……?」

突然の意味不明な質問に麟子は首を傾げる。

「ええ、卒業後に開かれる謝恩会で、じゅ……高松塚先生を驚かせようと思ってお鍋をしようと思うの。それでね、好みのお鍋を本人にお聞きしても良いのですけれども……それでは驚かせることにはならないじゃない? だから、あなたの情報収集能力を見込んで来たのだけれども……」

麟子は少し考え込み、鞄の中から手帳を取り出してペラペラとめくり始めた。

「……高松塚先生がどういったお鍋を好まれるのかはわかりませんが、基本的にあっさりとした物好まれる傾向がありますね。それが、お鍋に通じるかは分かりませんが……あ、ポン酢を使われているのは何度か見ましたね。そういえば」

どういった情報がその手帳に書かれているのか、龍那は覗き込もうとしたがすぐさま閉じられてしまい見ることは出来なかった。

「私が提供できる物はこれだけですわ。お姉様方」

にっこりと微笑まれて話は終わった。

教室に戻るとさっそく麒科麟子から得た情報をクラスに帰って報告する。
と言っても高松塚がややあっさりとした物を好むと言う事しか分からなかったが……。




2007 spring ①-2

2007-02-28 14:08:11 | リレー:2007 春 伝説の教師
 その製品とは化粧品である。
 
 化粧品は、一昔前まで、デパート1階の売り場で店員のカウンセリングのもと商品を選んで購入する、というのが一般的だった。良くも悪くも化粧品は高級品であり、さらに大人の女性のものであって、うら若き乙女は口紅をさしただけでキャーキャー騒いだものだった。
 
 しかし、今日日の日本は、女性なら幼稚園に入る前から美しさに磨きをかけ始めるのが常識の時代。
 消費者のニーズに応じて種類も多様化し、アンチエイジング、敏感肌、子ども用、男性用などの商品をはじめ、流通もスーパー、コンビニ、ドラッグストア、通信販売など幅広く取り扱われるようになった。もはや化粧品は日本社会の欠かすことのできない、消耗品となったのである。
 
 
 
 さて、話は戻って3年蜜柑組である。
 学園のアイドル高松塚純平(29)の声を一言も聞き漏らすまいと、耳が痛むほど静まりかえった教室に、当の男の声だけが響く。

「じゃあ、今までの説明で分からなかったトコはあるかな?」

「せんせー、問2をもう一回説明して!」

 肩が外れんばかりに右手を上げて声を上げたのは玄田武美(げんだ たけみ)である。
 彼女の家は、商品の小売販売はせず通信販売のみという営業理念の業界第3位のB社。主力商品は基礎化粧品でリピーターが多く、またインターネットの普及で業績も右肩上がりである。 

「えー? さっき説明したばかりじゃないか」

「じつは居眠りしちゃってて…えへ」

 高松塚の授業だけは教卓の目の前の席を陣取る武美の、可愛く小首を傾げる様子を苛立たしげに見つめるのは白井虎子(しらい とらこ)である。本当は自分も高松塚の目の前で授業を受けたいのだが、生まれ持ったプライドが邪魔をして、いつも窓際の席からきりきりと歯がゆい思いをするのである。
 ちなみに彼女の親が経営するA社は、全国どこの百貨店にも店舗が入っている業界最大手。基礎化粧品からメークアップ化粧品まで数多くの製品を取り扱い、人気モデルを多数CMに起用しシーズンごとの流行を作るブランド会社であるが、ここ数年カウンセリングによる商品販売数が下降気味にあり、業績を回復するためメンズコスメに力を入れつつあった。

「いねむり? ダメじゃないか、め!」

 幼稚園児に注意するかのような高松塚の言いぐさに、教室中がにわかに萌え滾った。

(なにそれ! なにそれ!? めちゃカワユス…!!)

(め!って…私も怒られたーい!)

 廊下側の席で朱川雀(あけかわ すずめ)も飲酒したかのように顔を赤らめ、その後ろの席で青山龍那(あおやま りゅうな)は「なにあれ、めちゃやば」とピンクグロスのたっぷりのった唇の半開きにさせていた。
 彼女たちの実家であるが、朱川のC社は日本酒の原料である米糠を化粧品開発し、売り出した老舗の酒蔵である。原材料に科学薬品を一切使わないことからも健康志向の顧客が付き、やはり業績は伸びている。
 青山のD社は、小学生から中学生をターゲットとした低価格コスメを主力に、実績を急成長させてきたベンチャー企業だ。取扱商品は化粧品のみならずネイルケア商品やヘアケア商品などにも及び、この業界で今最も勢いのある会社と言っていいだろう。

「じゃあもう一度…って、もう時間か?」

 あくまで暢気な声に、クラス中の全生徒が親の仇を見るかのようにバッと見た時計は、授業終了5分前を指していた。そんなクラスの殺気も天然バリアで感じることなく、腕時計で時間を確認しながら、

「そうそう、卒業式の謝恩会なんだけど…このクラスだけ何するか決まってないから、みんな何か考えておいてね」

と、本来なら教師や保護者が決定すべきことを言い渡しながら、ぺたんぺたんと高松塚が壇上を下りる。
 
(謝恩会…?)
 
 3年蜜柑組全員の願いは高松塚と離れないために卒業しないことであるが、そこは現実的に無理だと重々承知なので、それならばと卒業後の予定は高松塚を除いたところで決定済みである。
 しかし、謝恩会には気付かなかった。卒業を憎むあまり目が曇っていた。
 
「先生、お料理はお鍋がいいや。じゃあ、よろしくね」


  キーンコーンカーンコーン


 いつもの“純たんお見送りセレモニー”も無く、3年蜜柑組には、格ミサイル発射ボタンを目の前にした政治家のような緊張感が漂っていた。

(謝恩会…お鍋…謝恩会…お鍋)

 カルテット以下26名、考えるものはすべて同じである。
  
 白井虎子は窓際の席で頬杖をつきながら、玄田武美は教卓の前の席で椅子にふんぞり返りながら、朱川雀と青山龍那はそれぞれ顔を見合わせながら、同時に考えていた。

(謝恩会…お鍋…先生はちゃんこはお好きかしら?)

(謝恩会…鍋…しゃぶしゃぶかな? ゴマだれが良いかな?)

(謝恩会…お鍋…先生にはお酒を振る舞ったほうがいいかしら…)

(謝恩会…鍋…会場どーすんの?)





 続く☆

2007 spring ①-1

2007-02-25 22:36:17 | リレー:2007 春 伝説の教師
あーもう、遅くなって本当にすいません照夫です。
帰ってきてないじゃん!!
出かけっぱなしじゃん!!
 冬 混 み で決めたリレー、頑張っていきましょうね~



私立女子校、蟹多摩(かにたま)学園。
良家の子女が数多く通うこの学園の高等部には、ある名物カルテットがいた。



キーン コーン カーン コーン ……

朝の冷え込みも厳しい冬の空気に、予鈴が高らかに鳴り響く。

ぺたん、ぺたん

「はぁ~、今日もさむいなあ」

窓の外、冬のぴりりとした緊張感を丸っきり無視して、どことなくマヌケなスリッパの音が廊下を進む。
同校に勤務してすでに4年だというのに未だこうして上履きを忘れ、仕方ないので来客用スリッパを拝借して歩くこの足音の主が目指す先は、4階最奥、3年蜜柑(みかん)組である。

「風邪をひいて休んでる子は、今日は確かいなかったな。ここのところみんなに、ちゃんとおなかや足を暖かくして早く寝るように言っておいた甲斐があったかな……?」

耳を疑うなかれ、これは彼――蟹多摩学園教師・高松塚純平(29)が、彼の受け持つクラスの生徒たち(17~18)に向けて呟いている独り言である。
登園してくる幼稚園児を迎え入れるときに保父さんがお母様方と交わす談笑の一部では、決してない。
外は冬の気温だとしても、冷暖房完備のこの学園では、廊下は適温を保ち、うららかな日ざしだけが柔らかに暢気な教師を包む。

「んー……っ」

薄い茶色のスポーツ刈、真緑に白2本ラインのジャージ、適度に筋肉質な中背。
ジャージが1日おきに黒色のものと替わる以外は毎日このスタイルである純平は、一旦足を止め、陽光の中で背伸びをした。
人の良さそうな糸目が、もはや無理、というほど細まる。

「さて、今日も1日、がんばろー!」

 小さくガッツポーズを作ったりなどして、うっかりそれを後ろから目撃してしまった遅刻登校寸前で急ぎ走ってきていた生徒を萌地獄へと叩き落し、純平は再び自分が担任する蜜柑組へと歩を進め始めた。



「来た、きたわぁ!」

「キャー、純たあ~ん!!」

来たわぁって、担任なのだから高松塚純平は毎朝この蜜柑組へやってくるのである。
しかしこのクラスの生徒の萌は1日サイクルで更新されるらしく、ぺたんぺたんと純平の足音が近づくにつれ、全員廊下側の窓や扉から身を乗り出して鈴なりになり、のほほんとこちらへやってくる担任教師の姿を見ては毎日飽きもせずキャーキャー騒ぐのであった。
最近では隣のクラスの生徒たちも自クラスのHRを放り出して「高松塚せんせー、こっち向いてー!」などと手を振る始末である。
いわゆる学級崩壊だ。

「今日もかわいいー!!」

「萌えー!!」

黄色い悲鳴が飛び交う廊下を進む純平は、その内容をしっかり理解しているわけではない。
だが、生徒たちが自分をとても好いていてくれることはわかるので、彼女らの姿を見つけると、ニコッ! と笑って

「おはよー」

と手をぶんぶん振る。
それによって、私よ、私に振ってくれたのよぉぉぉと紛争が起きるのもまた、毎朝のことである。
そして――

「もうっ、毎朝毎朝同じこと言わせないでくださる? あなたたち、騒がしくってよ!」

ひとり窓際の机に着席したままだったA社社長令嬢、白井虎子(しらい とらこ)がこう言って巻き髪を手で払い上げながら席を立ち、

「虎子こそうっせーよ! あんただってほんとは一緒に騒ぎたいくせに」

純平を見るため身を乗り出している集団の中でもひときわ前を陣取っているB社社長令嬢、玄田武美(げんだ たけみ)が、ボーイッシュという言葉を体現したかのような肢体で飛び出してきてそれに応戦し、

「け、喧嘩は……よくないよ……」

押しの強い同級生たちに負け、いつのあまりいいポジションに行けないC社社長令嬢朱川雀(あけがわ すずめ)が消えいりそうな声でおろおろと呟き、

「ちょっとぉ~なんでもいいけどりゅーなに純たんの声が聞こえないじゃん!! ウザイし場面で考えなよね!! 超マジカルバッドー」

なんか間違ったギャル語で喚きつつ、押しくら饅頭のようにネイルストーンが乗ったスカルプの指先を雀と虎子と武美につきつける、D社社長令嬢青山龍那(あおやま りゅうな)。
4名の、それぞれにとんでもなく美形なこの女子たちこそ、この蟹多摩学園が誇る名物カルテットなのであった。



「えーと、うちのクラス、昨日で全員受験が終わりました。頑張ったね。偉いよ」

出席簿に丸をつけながら純平がにっこりと笑えば、相好を崩すという表現がまさにふさわしい……妙齢の女の子とは思えないほどクラス全員、でれーっととろけた笑顔になる。

「気が抜けて風邪をひきやすい時期だけど、それはダメだよ。これからが大切なんだからね?」

「はぁ~い……

「このクラスで過ごすのもあと少し。みんなでたくさん思い出つくろうね。お休みしなくていいように、体調には気をつけて。先生とみんなの約束だよ

重ねて言うが、高等学校校舎の一室で、29歳の男性教諭が17~18歳の生徒へ向けて、黒板を背に壇上から発している言葉である。
眩しいほどの笑顔とともに差し出された純平の右手の小指に、ピラニアの如く生徒が群がる。
そも、良家の子女を多数預かるからには、ということで、創立以来教師はおろか食堂の従業員や警備員、出入りの業者や郵便配達に至るまで、決して男性の侵入を許さなかった蟹多摩学園に、歴史とポリシーを覆して雇われたのが高松塚純平である。
理事長と校長をのほほんフェロモンで無意識に悩殺して採用を勝ち取り、現在この学園に在籍する唯一の男性なのだ。
生まれ持ったチャームと環境とが相乗効果でアイドル化に拍車をかけ、見た目には全く標準レベルなこの男の一挙手一投足が、今やこの学園を動かしていると言っても過言ではなかった。
そして本人はそんなことを全く自覚しておらず、風邪の心配をしたり上履きを忘れたりと暢気に教師生活を送っており、天然なその姿が萌を日々誘発させているのであった。



さて、そんな蟹多摩学園高等部3年蜜柑組だったが、今日の時間割はHRのあと、1時間目がそのまま純平の担当教科である数学であった。
女子校とは思えないほど数学の成績がいいこの学校の中でも、今年の蜜柑組は数1であろうと数2であろうと全員が95点以下を取ったことはない。
げに恐ろしきは萌という名の高松塚マジックであった。
純平が黒板にチョークでつらつらと数式を書くのをうっとりと見つめながら、雀・虎子・武美・龍那はある発言に思いを馳せていた。それは今朝の純平の言葉である。

「このクラスで過ごすのもあと少し。……」

社長令嬢であるこの4人、道でモデルとすれ違ってもモデルのほうがビビるというほどの美人揃いなのだが、この学園の環境ゆえか、天然フェロモン以外は平平凡凡も甚だしい純平に全員真剣に惚れきっていた。

(先生と同じ校舎で過ごせるのも、あと少し……)

数式を理解するというよりは、純平の声そのものを全て記憶する方法でノートをとりつつ、社長令嬢カルテットはまったく同じタイミングで深々と溜息をついた。
彼女ら4人が名物カルテットなのは、なにも超ド級の美形揃いだからというばかりではない。
この4人の親の会社は、なんと同じ製品を造るライバル――つまり全員同業の社長令嬢なのである。
その、製品とは…