「さあ、弓子くん、振り子の原理で羊のところまで行って、飛び降りてみごと着地してくれ!」
素人にさりげに無茶ばかり言う監督である。
「スタッフ、勢いをつけろ! さあ、離すよ!」
「弓子、俺のオフのためにファイトだぜ☆」
「いやぁぁあああああー!」
ぐいんっ、と荒縄が動き始めた瞬間、弓子の耳に、監督の興奮しきった声が届いた。
「さっきの見事な雄叫び――弓子くん、君ならこのシーン、下戸くんより素晴らしいものにできるはずだ! 台詞はたった一言――『ア~アア~!!』だよ!」
ターザン、であった。
うら若き乙女がそんな事できっかと思った瞬間にはすでに地面から足が離れていた。
「キャア~、ア~」
縄に必死に抱きつき、下を見るとあまりの高さに悲鳴がこぼれる。しかし、もしこれが失敗だとか言われたらこれをもう一回やらなきゃならないの~? どこか冷静な部分が、どこの局でもやってるNG大賞のNGシーンを思い出させる。
いやっ、嫌よ、こんな事二度も繰り返したくないわ。
そう思った瞬間弓子の変わり身は早かった。
「ァア~アァ~」
悲鳴をターザンの雄叫びに変換した。
その声を聞いた監督と村木は拍手をして「ブラボー」などと叫んでいるのが微かに聞こえた。
こっちは必死にやっているのに!! あからさまに楽しんでいる!! 絶対に一回で終わらせてやる~。
間抜けな監督たちの声に弓子の闘志がさらに燃え上がった。
さあ、羊ちゃんが近づいてきたわ。やるわよ! 弓子!
着地さえ成功させればこっちのものよ!
弓子は縄から手を離した。
……少し羊から離れてはいるが、弓子の着地は見事なものであった。
シュタッ、片膝をついて、まるで金メダルをとるようなランナーのフォームを連想させる体勢から、弓子は羊に向かって走り出した。
私、マジスゴイ!
あまりにも綺麗に着地できた事に弓子は、自分自身驚いて、自分で自分をほめていた。
羊に近寄ると、その近くからあからさまに怪しい円盤状の金属の塊があった。
―――これが地雷ね! 踏んでやる!
半ばやけくそで弓子はその怪しい金属の塊を踏んだ。
カチッと言う音がすると、大きな爆発音とともに、いきなり羊が爆発曽田。
「っっー!」
リアルに見せるためか、爆発した瞬間、赤い塊と液体が飛び散って弓子の服を汚す、心なし生ぬるい上にくさい。
そして飛び散った羊であったものの破片が弓子の額に当り、その爆発された破片の勢いと驚きから弓子は後ろに倒れ、セットで後頭部を派手に打ち付けてその場で気を失った。
ドスンっ。
という音で弓子は目を覚ました。
慌ててあたりを見回すとそこが自分の部屋であることに気付いた弓子はホッと胸を撫で下ろした。
「良かった~。夢、夢よね、アレ」
弓子と一緒にベッドから落ちた掛け布団をベッドの上に戻すと急いで弓子はパジャマのまま一階に下りて誰かにこの夢のことを話したかった。
まさかこんな夢が初夢かよっとも思い、夢であった事に安心していた弓子であったが、少しばかり夢だったことが残念に思えた。
少なくともあれが弓子人生初の超が付くほどの有名芸能人との遭遇だったのだ。
「お父さん~、お母さん~、聞いてよ、私、変な夢見たの~」
「お、弓子目が覚めたか。さっきニュースでな、お前の好きな村木タクヤ主演の映画が出来上がったんだって。どうだ弓子この映画音お産と一緒に見に行かないか? すごい面白そうなんだよ特に最後のシーンで下戸アヤがターザンの真似をするらしいんだよ」
どこかで聞き覚えのある無いように弓子は瞬間頭が働かなくなった。
「そういえば、下戸アヤって言う子に似ているな弓子は」
ハハハと呆然となっている弓子を無視して豪快に笑う父が気になってか、台所にいた母親がリビングに入ってきた。そして弓子に気が付き、笑顔で弓子に挨拶をした。
「弓ちゃんおはよう。あら、額の怪我どうしたの?」
「え?」
言われて慌てて額に触れると激痛が走った。
「んっっ~~」
あまりの痛みに声にもならない悲鳴をあげると弓子は慌てて鏡を見に洗面所まで走った。
鏡の前に立ち、前髪をあげると額には十円玉ほどの大きさの赤い痕があった。
「ゆめ、夢よねぇえ、誰か夢だといって~」
半鳴きで弓子は鏡に向かって叫んだ。
しかしその叫びも虚しく洗面所に響くだけであった。
【お正月に・闇市で・女子大生が・羊を・爆破した】
《終り》
素人にさりげに無茶ばかり言う監督である。
「スタッフ、勢いをつけろ! さあ、離すよ!」
「弓子、俺のオフのためにファイトだぜ☆」
「いやぁぁあああああー!」
ぐいんっ、と荒縄が動き始めた瞬間、弓子の耳に、監督の興奮しきった声が届いた。
「さっきの見事な雄叫び――弓子くん、君ならこのシーン、下戸くんより素晴らしいものにできるはずだ! 台詞はたった一言――『ア~アア~!!』だよ!」
ターザン、であった。
うら若き乙女がそんな事できっかと思った瞬間にはすでに地面から足が離れていた。
「キャア~、ア~」
縄に必死に抱きつき、下を見るとあまりの高さに悲鳴がこぼれる。しかし、もしこれが失敗だとか言われたらこれをもう一回やらなきゃならないの~? どこか冷静な部分が、どこの局でもやってるNG大賞のNGシーンを思い出させる。
いやっ、嫌よ、こんな事二度も繰り返したくないわ。
そう思った瞬間弓子の変わり身は早かった。
「ァア~アァ~」
悲鳴をターザンの雄叫びに変換した。
その声を聞いた監督と村木は拍手をして「ブラボー」などと叫んでいるのが微かに聞こえた。
こっちは必死にやっているのに!! あからさまに楽しんでいる!! 絶対に一回で終わらせてやる~。
間抜けな監督たちの声に弓子の闘志がさらに燃え上がった。
さあ、羊ちゃんが近づいてきたわ。やるわよ! 弓子!
着地さえ成功させればこっちのものよ!
弓子は縄から手を離した。
……少し羊から離れてはいるが、弓子の着地は見事なものであった。
シュタッ、片膝をついて、まるで金メダルをとるようなランナーのフォームを連想させる体勢から、弓子は羊に向かって走り出した。
私、マジスゴイ!
あまりにも綺麗に着地できた事に弓子は、自分自身驚いて、自分で自分をほめていた。
羊に近寄ると、その近くからあからさまに怪しい円盤状の金属の塊があった。
―――これが地雷ね! 踏んでやる!
半ばやけくそで弓子はその怪しい金属の塊を踏んだ。
カチッと言う音がすると、大きな爆発音とともに、いきなり羊が爆発曽田。
「っっー!」
リアルに見せるためか、爆発した瞬間、赤い塊と液体が飛び散って弓子の服を汚す、心なし生ぬるい上にくさい。
そして飛び散った羊であったものの破片が弓子の額に当り、その爆発された破片の勢いと驚きから弓子は後ろに倒れ、セットで後頭部を派手に打ち付けてその場で気を失った。
ドスンっ。
という音で弓子は目を覚ました。
慌ててあたりを見回すとそこが自分の部屋であることに気付いた弓子はホッと胸を撫で下ろした。
「良かった~。夢、夢よね、アレ」
弓子と一緒にベッドから落ちた掛け布団をベッドの上に戻すと急いで弓子はパジャマのまま一階に下りて誰かにこの夢のことを話したかった。
まさかこんな夢が初夢かよっとも思い、夢であった事に安心していた弓子であったが、少しばかり夢だったことが残念に思えた。
少なくともあれが弓子人生初の超が付くほどの有名芸能人との遭遇だったのだ。
「お父さん~、お母さん~、聞いてよ、私、変な夢見たの~」
「お、弓子目が覚めたか。さっきニュースでな、お前の好きな村木タクヤ主演の映画が出来上がったんだって。どうだ弓子この映画音お産と一緒に見に行かないか? すごい面白そうなんだよ特に最後のシーンで下戸アヤがターザンの真似をするらしいんだよ」
どこかで聞き覚えのある無いように弓子は瞬間頭が働かなくなった。
「そういえば、下戸アヤって言う子に似ているな弓子は」
ハハハと呆然となっている弓子を無視して豪快に笑う父が気になってか、台所にいた母親がリビングに入ってきた。そして弓子に気が付き、笑顔で弓子に挨拶をした。
「弓ちゃんおはよう。あら、額の怪我どうしたの?」
「え?」
言われて慌てて額に触れると激痛が走った。
「んっっ~~」
あまりの痛みに声にもならない悲鳴をあげると弓子は慌てて鏡を見に洗面所まで走った。
鏡の前に立ち、前髪をあげると額には十円玉ほどの大きさの赤い痕があった。
「ゆめ、夢よねぇえ、誰か夢だといって~」
半鳴きで弓子は鏡に向かって叫んだ。
しかしその叫びも虚しく洗面所に響くだけであった。
【お正月に・闇市で・女子大生が・羊を・爆破した】
《終り》