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Northern Liquor Mountain

くじ引きによるリレー小説と書き手の生態など。

これが地雷ね! 踏んでやる! (正月小説:続き3)

2006-01-11 20:03:26 | リレー:2002 冬 羊を爆破
「さあ、弓子くん、振り子の原理で羊のところまで行って、飛び降りてみごと着地してくれ!」

 素人にさりげに無茶ばかり言う監督である。

「スタッフ、勢いをつけろ! さあ、離すよ!」

「弓子、俺のオフのためにファイトだぜ☆」

「いやぁぁあああああー!」

 ぐいんっ、と荒縄が動き始めた瞬間、弓子の耳に、監督の興奮しきった声が届いた。

「さっきの見事な雄叫び――弓子くん、君ならこのシーン、下戸くんより素晴らしいものにできるはずだ! 台詞はたった一言――『ア~アア~!!』だよ!」

 ターザン、であった。



 うら若き乙女がそんな事できっかと思った瞬間にはすでに地面から足が離れていた。

「キャア~、ア~」

 縄に必死に抱きつき、下を見るとあまりの高さに悲鳴がこぼれる。しかし、もしこれが失敗だとか言われたらこれをもう一回やらなきゃならないの~? どこか冷静な部分が、どこの局でもやってるNG大賞のNGシーンを思い出させる。
 いやっ、嫌よ、こんな事二度も繰り返したくないわ。
 そう思った瞬間弓子の変わり身は早かった。

「ァア~アァ~」

 悲鳴をターザンの雄叫びに変換した。
 その声を聞いた監督と村木は拍手をして「ブラボー」などと叫んでいるのが微かに聞こえた。
 こっちは必死にやっているのに!! あからさまに楽しんでいる!! 絶対に一回で終わらせてやる~。
 間抜けな監督たちの声に弓子の闘志がさらに燃え上がった。
 さあ、羊ちゃんが近づいてきたわ。やるわよ! 弓子!
 着地さえ成功させればこっちのものよ!
 弓子は縄から手を離した。
 ……少し羊から離れてはいるが、弓子の着地は見事なものであった。
 シュタッ、片膝をついて、まるで金メダルをとるようなランナーのフォームを連想させる体勢から、弓子は羊に向かって走り出した。
 
 私、マジスゴイ!

 あまりにも綺麗に着地できた事に弓子は、自分自身驚いて、自分で自分をほめていた。
 羊に近寄ると、その近くからあからさまに怪しい円盤状の金属の塊があった。

 ―――これが地雷ね! 踏んでやる!

 半ばやけくそで弓子はその怪しい金属の塊を踏んだ。
 カチッと言う音がすると、大きな爆発音とともに、いきなり羊が爆発曽田。

「っっー!」

 リアルに見せるためか、爆発した瞬間、赤い塊と液体が飛び散って弓子の服を汚す、心なし生ぬるい上にくさい。
 そして飛び散った羊であったものの破片が弓子の額に当り、その爆発された破片の勢いと驚きから弓子は後ろに倒れ、セットで後頭部を派手に打ち付けてその場で気を失った。

 

 ドスンっ。


 という音で弓子は目を覚ました。
 慌ててあたりを見回すとそこが自分の部屋であることに気付いた弓子はホッと胸を撫で下ろした。

「良かった~。夢、夢よね、アレ」

 弓子と一緒にベッドから落ちた掛け布団をベッドの上に戻すと急いで弓子はパジャマのまま一階に下りて誰かにこの夢のことを話したかった。
 まさかこんな夢が初夢かよっとも思い、夢であった事に安心していた弓子であったが、少しばかり夢だったことが残念に思えた。
 少なくともあれが弓子人生初の超が付くほどの有名芸能人との遭遇だったのだ。

「お父さん~、お母さん~、聞いてよ、私、変な夢見たの~」

「お、弓子目が覚めたか。さっきニュースでな、お前の好きな村木タクヤ主演の映画が出来上がったんだって。どうだ弓子この映画音お産と一緒に見に行かないか? すごい面白そうなんだよ特に最後のシーンで下戸アヤがターザンの真似をするらしいんだよ」
 
 どこかで聞き覚えのある無いように弓子は瞬間頭が働かなくなった。

「そういえば、下戸アヤって言う子に似ているな弓子は」

 ハハハと呆然となっている弓子を無視して豪快に笑う父が気になってか、台所にいた母親がリビングに入ってきた。そして弓子に気が付き、笑顔で弓子に挨拶をした。

「弓ちゃんおはよう。あら、額の怪我どうしたの?」

「え?」

 言われて慌てて額に触れると激痛が走った。

「んっっ~~」

 あまりの痛みに声にもならない悲鳴をあげると弓子は慌てて鏡を見に洗面所まで走った。
 鏡の前に立ち、前髪をあげると額には十円玉ほどの大きさの赤い痕があった。

「ゆめ、夢よねぇえ、誰か夢だといって~」

 半鳴きで弓子は鏡に向かって叫んだ。
 しかしその叫びも虚しく洗面所に響くだけであった。



【お正月に・闇市で・女子大生が・羊を・爆破した】

                                《終り》




台詞はたった一言だけだ!(正月リレー小説:続き2)

2006-01-08 21:14:38 | リレー:2002 冬 羊を爆破
 苦労を全身に滲ませたその一団の先頭にいる中年の男性は、必死の剣幕でスーパースターににじりより、

「村木くん! 村木くん! 村木くぅ~ん!」

 黄色いメガホンを村木の左耳にぴたりとくっつけて叫ぶ。

「があっ、監督、聞こえてますってば! アヤちゃんが戻ってきたのかと思ったんですけど、パンピの女の子が迷い込んだみたいで」

「む……?」

 今度はメガホンを双眼鏡がわりにして、監督は弓子を穴も開かんばかりに凝視した。


「しかしさっきの見事な雄叫び……下戸(しもと)くんじゃないのか。驚きだ」

「ね。あんな雄々しい叫び声を上げられる女がほかにいるなんて」

 監督に相槌を打つ村木の傍らで、ユミ所は瞳を瞬かせ、

「下戸? 下戸って……下戸アヤ!? キャー、あたし、よく似てるって言われるんですッ


 下戸アヤ―――最近人気急上昇中の、美少女高校生タレントである。視力が0.3以下の人間が遠目に見れば、弓子は確かにその美少女に似ていた。


「………」

「ふむ………」

 しばし村木と顔を見合わせていた監督だったが、ふいに意を決してぐるりと弓子のほうへ向き直り、メガホンを持っていないほうの手で弓子の肩を掴んだ。

「君……名前は?」

「弓子ですけど」

「では、弓子くん。君、今から下戸アヤの替わりに、この映画にでてみないか!?」




「……え?」

 驚いて村木を仰ぎ見ると、彼はそれすらも悩ましい苦笑を湛えて、

「主要人物のシーンはこれで最後、あとはクライマックスの引き絵だけってとこで、アヤちゃん怪我しちゃってねー。俺たち、困ってたんだ」

「ええ? でも……」

「今からちょいちょいっと、すぐ撮れるから。お願いだよ!」

「で、でも、台詞とかぁ~」

 眉は八の字になっていても、口元はありありと緩んでしまっている弓子の肩を、監督は再び力強く掴んだ。

「大丈夫、台詞はたった一言だけだ! もしかしたら下戸くんより君のほうが、その一言を上手くいえるかもしれない!」

「……!」

 正面から監督に向き合われ、言葉を無くした弓子の心をポンと押したのは、背後から耳元で囁かれた村木のセクシーヴォイスであった。

「弓子……頼むよ。俺、今日でこの撮影が終わって、明日は二年ぶりのオフなんだ。弓子がやってくれなくてアヤちゃんを待たなきゃいけなかったら、貴重なオフが潰れちまう……」

「ひいっ、や、やりますう~!!」

「よしっ、よく言った!」

 目をハート形にして飛び上がった弓子の手を素早く引いて、監督はスタタタッと小走りに四つ角を曲がった。村木と撮影スタッフがその後を追う。

「メイクも衣装ももういい、あとでCGで何とでもしよう! カメラ早く! さあ、弓子くん、掴んでくれ!」

 監督が立ち止まった小広場で、村木とのラブシーンか何かを少なからず期待していた弓子の目に映ったのは―――荒縄であった。

「……は?」

 空襲で焼けたアーケード、という設定なのだろうか。道沿い両側の古びた建物を虹のように繋ぐむき出しの鉄骨から、一本の長い荒縄が垂れ下がっており、監督はそれを手にとって弓子にぐいぐいと押しつけてくるのだ。

「ちょ、ちょっと?」

 わけが分からないまま荒縄にしがみついた弓子を上へ上へとよじ登らせながら、村木はフェロモン全開の笑顔で爽やかに説明し始める。

「戦後、貧しさと空腹に負けて、幼馴染の婚約者が射るのに富豪の令嬢との結婚を考えて揺れ動く――これ、俺の役な。で、アヤちゃんの役はその幼馴染。同じように貧しいけれどたくましいんだ。ラスト近く、令嬢と関係を持ってしまって悩む俺が、ある日闇市へやってくると……」

「幼馴染が荒縄によじ登ってるの!? 何それ!?」

「ノンノン!」

 弓子の尻をモップで押し上げつつ、村木は人差し指をチッチッと振って、

「珍しい羊の肉、ていうか羊を一匹やるから身を任せろ、と闇市の商人に迫られている幼馴染の姿―――でも彼女はその要求をはねつけてこの荒縄で闇市を横切って、地雷を敢て踏み、羊ごと爆破させてしまうんだ! 炎上する羊の真っ赤な炎をバックに雄々しく仁王立ちになる幼馴染の姿を見て俺は、金と食べ物につられてしまった自分を恥じ、令嬢との関係を清算して幼馴染との愛に生きることを胸の中で誓う――」

「無茶苦茶だわ! 意味わかんない! 何で羊!?」

「そりゃあ弓子くん、君、牛や馬じゃありふれているだろう!」

「そういう問題じゃなーい!」

 額に青筋を浮かべて叫び合う弓子と地上の監督・村木とは、そうする間にもどんどん距離がひらいてゆく。ついには高枝切り鋏でスタッフが弓子を突っつき始めたからである。

「羊を爆破って……できるわけないでしょ!?」

「おお、弓子くんは動物愛護主義なのかね!? 心配いらないよ、羊は人形だ!」

 確かに―――遙か前方の地上に、そっとスタッフが白い塊を下ろすのが見えた。羊の人形は丁重に扱うのに、自分へのこの手荒な対応は何なのだろう。

「ていうか地雷って、あたしも死ぬでしょーっ!?」

「大丈夫、地雷は本物だし見た目には派手に爆発するが、実際の破壊力は微々たるものさ!」

「本物なのかよ!」

 ある程度の高さまで弓子を追いやったスタッフは、荒縄の下方を五、六人で弓なりに引っ張った。



ジェイポン調べ(お正月小説:続き)

2006-01-04 21:26:50 | リレー:2002 冬 羊を爆破
「よ、そこのおねぇちゃん。良い薬があるよ。どうだい?」

「い…いえ。け、…いりません」

 クスリ? やっぱりおかしい。落ち着いてみなさいよ。闇市なんてこの便利な時代にあるわけないじゃない。夢よ…夢。

 弓子は冷静になって現状を把握しようと努めた。が、実際に目の前で開かれているのは世に言う闇市に違いなく、一瞬頭をかすめた、これは新手の悪徳商法かという疑いも、確信するにはやはり状況証拠が出来すぎていた。

 あ~あ、何で私こんなところに来ちゃったんだろう。

 弓子はふと当初の目的を思い出した。手に入れたばかりの万札で何か美味しいものを買うはずだった。バイトで稼いだお小遣いのような自分が汗水流して手にしたお金じゃない、楽に手に入れた金で食べるケーキは格別のはずだったのだ。

 好奇心は猫を殺すって言うじゃない。

 ぽっと出の好奇心でここまで来てしまったことに弓子は今更ながら航海した。

 こんなところは、優雅なセレブを目指して日夜エステにかよう女子大生の来るところではない。一万円はエステやブランド品のため資金にしてもよかった。正月から百貨店の福袋に散財するのも『ちょこっとセレブ』。こんな、明るい照明もないような場所で、汚い布に並べられた薬やタオルなんかを物色している暇はない。



 俗にLVと略す、皆が持っていすぎて逆に価値がないような気さえするブランド物の財布に入れた万札を思い浮かべつつ、弓子はこの異空間から抜け出す道を必死で探した。

「もお~! どこなのよここはぁ!? ほんとにウチの近所なの!?」

 逆切れてみたって、悪いのは自分だった。それに、か弱く儚く美しい女子大生(自分だ)の足でフラフラ歩いてきた距離なのだから、家から二キロ以上は離れているはずがない。

「おかあさん……おと~さぁ~ん!」

 父と母に憎まれ口を叩いたことを、涙すら浮かべて弓子は悔やんだ。

「帰ったらおせち、食べるから……だから、帰らせてぇええ~!」

 弓子の叫びは、か弱いという言葉が怒り出しそうなくらい雄々しく、薄暗い闇市一体に響き渡った―――と。

 遠く、不吉な薄暗さにけぶる前方の四つ角から、背の高い、すらりとしたシルエットが滑り出た。

「!?」

 弓子より頭一つ半は背が高く、顔はやたらめったら小さく、目鼻立ちは嫌味なほど整っていて、全身を包むオーラはぼんやりと光りを放っているようにさえ見える……

 弓子の『ミーハー』と名のついた本能は、頭の中でその人物の正体を大音量で告げた。すなわち―――芸能人。


「ム・ラ・キ・タ・ク・ヤ~!」


 ヒエ~! と瞳孔全開にして叫んだ弓子だったが、粗末な着物を着ていても輝くスーパースターは、その倍ほどは驚いたようだった。

「!? ちょっと、君……一般人だよな? どうしてここに?」

 抱かれたい男十年連続ナンバーワン(『wan wan』調べ)、好きな男十年連続ナンバーワン(『ホロロ』調べ)、夜明けの珈琲を一緒に飲みたい男十年連続ナンバーワン(ネ●カフェ調べ)、一緒に写メールに写りたい男ナンバーワン(ジェイポン調べ)、ウォシュレットに替えたあと一番に会いたい男十年連続ナンバーワン(T●TO調べ)、などなど。数々の華々しい肩書きを持つ人気男優の村木タクヤがそう言うと同時に、路上で怪しげな品を売っている人々が一斉に立ち上がった。

「あれっ、村木さん、このコ演出者じゃないんですか?!」

「リハだと思って調子出しちゃいましたよ~」

「!? !!??」

 あくまでも村木から目をそらさないまま、弓子は目を白黒させ、ただただうろたえるばかりだ。村木はただ肩を竦め、

「来年公開の俺主演、戦後の日本を舞台にした映画のロケさ。厳重に立ち入り禁止にしておいたのに、どっから迷い込んだんだ?」

 と、不必要にフェロモンを撒き散らしつつぼやいた。

「映画の……ロケ」

 ほーっと大きく安堵のため息をついて、弓子が胸を撫で下ろしたそのとき。

「村木くん、どうした!?」

 村木が現れたのと同じ四つ角から、どやどやと薄汚い群衆がこちらに殺到してきた。驚きつつも、薄汚いからまた闇市のエキストラかと弓子は思ったのだが、皆手や肩になにやら機材を持っているところを見ると、撮影スタッフらしい。
 
 薄汚いのは自前なのだった。



あけましておめでとう小説

2006-01-03 21:18:54 | リレー:2002 冬 羊を爆破
 
 年が明けた。

「オセチ、おいしくない」

 ぼそりと弓子は言った。彼女の持つ箸の先には、雑煮の餅がはさまっている。さっきから雑煮ばかり食べているのだ。

「来年から作るのよそうかしら」

 困ったような顔で、弓子の母が言った。女子大生の子供を持つ母親にしては、容姿のオバハン化はそれほど進んでいない。弓子の自慢の母だ。

「おせち料理のない正月なんて、正月じゃない」

 断固とした口調で言ったのは、弓子の父だった。

「弓子も、せっかくお母さんが作ってくれた料理にそんなことを言うもんじゃない」

 末期まで進行したバーコードハゲパピィの言い分には全く説得力というものがない。

「そんなこと言って、お父さんだってさっきからお雑煮しか食べてないじゃん」

「……雰囲気だ、雰囲気。おせちのない正月なんて父さんは嫌だぞ」

「ふん、子供みたい」

「そうか、弓子はお年玉いらないんだな」

「そんなことゆってないでしょ。そうよね、お正月にはやっぱりオセチよね」

「ほらほら、お父さんもユミちゃんも喧嘩しないの」

 年明けから、砂を吐くような一家団欒がくりひろげられるのであった。



 
 しかしお年玉をせしめたところでオセチが美味しく思えるはずもなく、弓子は得たばかりの『福沢諭吉君』を一枚持って外へ出た。何か美味しいものを買ってこようと思ったのだ。

 正月早々外出なんて、と父はいい顔をしなかったが、雑煮ばかり食べる弓子に同情した母が父をなだめて。何とか家を出た。

 店はほとんど閉まっていた。三箇日はどこも休みを取る。当然のことを失念していて、弓子は軽く嘆息した。営業しているのはコンビニばかりだが、雑煮の後にコンビニ弁当は避けたい。

 できればシフォンケーキなんて食べたいな。ワインゼリーでもいいな。駅前のケーキ屋が美味しいんだよね。でも開いてないよなぁ。

 そんなことを考えながら当てもなく歩く。

 するといつの間にか見覚えのない道を歩いていた。大体の方角は把握できるので、とりあえず迷子ではない。ずっと住宅街から駅へ向かって歩いていたはずなのに、そこは閑散としていた。家もなければ駅もない。ビルもない。店もない。コンビニすらない。木造の古びた民家やコンクリートにひびの入った二階建ての古ビル、ネオンの点っていない看板。そんなのもの道路脇にずらっと並んでいる。

 どこだ、ここは。日本なのか?

 あまりにも弓子の日常とかけ離れた風景に、半ば怯えながらも、芽生えてしまった好奇心を抑えることができず、引き返さずに歩き続ける。

 しばらく歩いていると、喧噪がかすかに耳に届いた。主におっさんの声。こんな場所で人の気配がしたことに驚いて、弓子は音の方向へ足を向ける。

「安いよ、安いよ! 他では手に入らないよ! この御時世、鯨の肉をこの値段で売ってるのはうちだけだよ!」

「いらっしゃい! 不眠症のあなた! 睡眠薬はいかがですか。処方箋なしでお売りできますよ。これで毎日快適です。いかがですか? 今日はお正月特価でお安くしときますよ!」

 怪しい! 怪しすぎる! 何これ? 闇市ってヤツ?

 この上なく危険を感じたが、この溢れんばかりの好奇心をとめることなどできない。

 そろりそろり。抜き足差し足忍び足。

 そうして近寄ると眼前にはまさに『闇市』が広がっていた。

 みな地面に薄汚れた布をひき、その上に商品を並べ、客たちはその間を縫って品定めをしている。売り手も買い手も三十代から五十代。男女比は七対三ぐらいだろうか。フリーマーケットと形態は変わらないが、全体の雰囲気と飛び交う言葉売っている商品が二つの違いを明らかにしている。

 その光景は完全に日常から乖離していた。