goo blog サービス終了のお知らせ 

Northern Liquor Mountain

くじ引きによるリレー小説と書き手の生態など。

大団円を強調!!

2006-05-26 14:39:26 | リレー:2003 春-1 OBL総理
 SARSや謎の新興宗教交通妨害、GW行楽特集など、今年のこの時期マスコミは猫の手も借りたい人員不足らしく、私のゴミ拾いを取材しに来ているのは、官邸付きのいつものメンバーのみだった。
 いつもの顔ぶれにいつものようににこにこして見せながら、私は割合本気で一心不乱ににぎりめしを頬張る。まるで天上の食べ物を口にしているかのような笑顔を作れている自信が、私にはあった。実際腹も減っていた、ということも大いにあるのだが。
 ところで、にぎりめしを箸で食べるというのは、普段からやりなれていないとなかなかに難しい。
「総理」
 榊が私の前に、スッと立った。
「ん?」
「おべんとうが」
 弁当は今食べているじゃないか―――私の思考が、『べんとう』というのが頬についた米粒を言うこともあるのだろうというところへ行き着く前に、ひんやりとした榊の手が伸びた。
「………!?」
 どよっと場の空気がざわめいた。
 榊の指が私の頬を滑って、そこについた米粒を取ったのである。
「な、な、な……!?」
「……あ……」
 榊の狼狽する顔、というものを、私はおそらく、本当に初めて見た。
「も…もうしわけございません……!」
 三文ハーレクイン小説のように、榊はスーツの裾を翻して駆け去ってしまった。
「さ、榊……」
 しばらく呆然とする以外に、私になにができただろう――しかし、私は榊がいなければ政治家としてはおろか、人としてだって上手く立ち行ける自信がない。よく分からないながらも腰を芝生から上げ、私は榊を追おうとした。
「あ、ちょっと、総理~」
 私の衝動に水を注したのは、『緑の島を守る会』のうちの一人だ。
「ゴミ、ゴミはいけませんよ~! きちんと捨ててください~!」
「えっ……」
 どうやら食べかけのにぎりめしの笹の葉と割り箸のことを言っているようだ。でも、まだにぎりめしは純然と存在しているのに――ゴミに対して過敏な彼らは、目に危ない光りすら点している。
「……分かりました」
 ぐわっと手掴み残りのにぎりめしを口に詰め込み、割り箸と笹の葉をゴミ袋に突っ込むと、私は今度こそ猛然と榊の後を追った。
「あ~あ、やっちゃったね、榊サン」
 私の背中に、マスコミのうちの一人、皺の数すら覚えてしまった記者の呟きが投げかけられたが、それに気を回している余裕はなかった。


「榊!」
 榊は少し離れた、人気のない場所に一人、佇んでいた。
 走ってきた私の姿を認めると、榊は気まずげに視線を地に落とし、搾り出すような声で言った。
「総理……私を罷免してください」
「な……何を言うんだ、別に、あんなことぐらい私は……」
 言いながら、私はくすぐったいような気色悪いような気分に苛まれていた。だってこれは、こんな空気は、これではまるで―――
「あなたのような人がいて、その人に誠心誠意尽くすのは難しいことだと、ご自身で感じたことはありませんか? ―――何の下心もなくは」
 言葉はかなり遠回りである。しかし、この場の空気は、榊の言葉のその意味を、嫌と言うほどありありと私に伝えてきた。
「好きなんです、あなたが」
 心のなかでは、ギャーと叫んだ。ありありと伝わったのに、さらに念を押すな!
 しかし、全身チキン肌になっているというのに、私の口は私自身も意外な言葉を口走る。
「さ、榊! それでもいい! 私にはお前が、お前が絶対に必要なんだ……!」
「総理……」
「辞めないでくれ! 私のそばにずっといてくれ!」
「……はい」
 榊が涙をうっすら浮かべた顔、というものを、私は本当に初めて見たのだった。


「お弁当を一心に食されている総理があまりに可愛かったので、ついあのようなことをしてしまいました。お許しください」
「……ああ、いや、……うん……」
 榊と二人してゴミ拾いの場所まで歩いて戻りながら、私は内心戦々恐々としていた。
 ただならぬ現場をマスコミに目撃されてしまったからである。
 しかし、そのことを榊に恐る恐る聞いてみると、
「ああ、それなら心配いりません。マスコミの方々には事前に根回ししてありますよ。今日来ていた面々なら、
ほとんど全員私の気持ちは知っています」
「―――」
 一瞬眩暈がしたのは、眩しい直射日光のせいだけではあるまい。
「どうかしましたか? 根回しの賄賂は私のポケットマネーです、何もまずいことはありませんが」
 馬鹿と天才は紙一重、とはよく言ったものだ。神経の使いどころが完全にズレている。
 現場に戻ると、記者たちに何を吹き込まれたものか、『緑の島を守る会』の人々は何事もなかったかのようににこやかに私たちを迎えてくれた。情報操作はマスコミの最も特異とするところである。
 私がなにげなく手にしたゴミ袋には、私が捨てた割り箸と笹の葉が入っていた。榊はそれに視線をやり、嬉しげに呟く。
「急いで私を追って来て下さったんですね、総理」
「……ああ」
「次のご予定までに時間があれば、お食事を急がせたお詫びに、私がなにか作りましょうか?」
「……なんだ、それは。お前、何者だ?」
 呆れて私が言うと、榊はしれっと答えた。
「ただの優秀なフケ専です」


 その後、優秀なフケ専秘書との絆が深まったおかげで、大泉総理の政治手腕は触れれば切れるかのように冴え、さらに、一種独特な雰囲気を醸し出すようになったことで、若い女性とゲイを中心に支持率がグングン上がった。
 それら全てが、ゴミ拾いの場でにぎりめしを食べ、割り箸を捨てたことに起因しているとは、総理とその第一秘書と、一部の
マスコミしか知らない秘密である。 


                                    
                                終



 --------------------------------------------------------------------
お題は【五月三日に・総理大臣が・山で・割り箸を・投げた】でした。
 ここまで読んでいただきありがとうございました。
 すべてが遅すぎますが、極めてスレスレな表現はスルーの方向で(本当に遅い)

続きは単調…

2006-05-26 14:33:01 | リレー:2003 春-1 OBL総理
 

 腰が痛い。
 私は煙草の吸殻を拾いながら、心中でそう独りごちた。そしてしみじみ思う。私は秩父多摩国立公園でゴミ拾いをするために総理大臣になったわけではない。
 今すぐに左手のゴミ袋を地面に叩きつけて、軍手を脱ぎ捨てて、必要性のわからない白い割烹着を黒くなるまで足でふみつけて、「こんなことやってられっか!」と叫びたい。
 けれどそれができるのは私の妄想の中だけであり、実際私の体はモクモクと吸殻を拾っている。
 どこかのボランティア団体(榊から名前を聞いたが忘れてしまった。)が二十人ほど手伝ってくれているが、だったらなおのこと、私がわざわざやらなくてもいいんではないかと思う。仮にも私は総理大臣。ゴミ拾いよりも重要な仕事があるはずだろう?
 けれど「支持率アップ」と言われたらじっとしていられないのが政治家の性。私の場合は特に国民の支持がなくなったら失脚することは火を見るよりも明らかだし、何より榊に逆らうなんて考えられない。私がこの地位まで上り詰めることができたのは、私の人徳でも政治への姿勢でも国民の支持でもなく、榊の作ったマニュアルや政党や議員への根回しのおかげだからである。榊がやれと言ったらたとえ裸踊りでもやらざるを得ない。
「まあまあ、大泉さん。関心ですねぇ」
 とおばあさん。
「マジマジ。国立公園にいるんだってば、純二郎が。本物だって、マスコミ来てるし。ウソじゃねーって。じゃあ証拠に写メ送るから待ってて」
 と携帯電話を切って、そのカメラで私を撮影する女子高生。
「ゴミなんか拾ってる暇あんなら、景気なんとかしろ、景気!」
 野次を飛ばすリストラされちゃった風な中年サラリーマン。
 そんなこという暇があるんだったら手伝えよ。今日はゴミの日なんだぞ。わかってんのか。
 心中で渦巻いている怒気とは裏腹に、私は愛想笑いを浮かべて手を振ってみせちゃったりして。
 あーあ。あほくさい。


「総理。休憩のお時間です。これから十五時三十分まで『緑の島を守る会』のみなさんと、園内で軽くお弁当を食べていただきます」
「緑の島の…なんだって?」
「ボランティア団体のお名前ですよ」
 汗をかかない人種らしい榊が冷ややかに美化作業の中断を告げる。が、これからの時間は、
黙々とゴミを拾っていればいい今までの作業とは違って、さわやかスマイル全開・ホスト並みの接客術を要する営業活動に他ならない。
「総理! こちらの芝生に座ってご飯を食べましょう!」
「いやあ~。気持ちの良さそうな芝だね。こうしていると、小さい頃の遠足を思い出すな。うん、良い」
 およそ手入れのされていなさそうな芝も、総理大臣の口に上がれば官邸の赤絨毯だ。
昔のことを持ち出してさりげなくヨイショするあたりも、職業病とも言うべきか。褒めて褒めて褒め殺し。一介の政治家だったときは毒舌辛口が商標だったというのに、今はこんな自分がいっそ憎らしい。
「さあ、総理。お弁当をどうぞ」
「あ~、すまないね。ありがとう」
 ニコニコ顔で受取った弁当は、労働の見返りとしてはあまりにも小さくて、心の中で盛大な舌打ちをする。
 いくら今日がゴミの日だからって、食事をすればゴミの一つも出て当然じゃないか。
それをこんな…笹の葉でにぎりめし二つを包んだものだけじゃ、ゴミは笹の葉しか出なくとも、私の胃の胃酸は満足できないぞ!
「総理これを」
 斜め右後ろに控えた榊が、割り箸をさしだす。
「おしぼりがありませんので…」
 にぎりめしなんか手づかみで食える。手が少々汚くたって私は全く気にしない。
しかし、メディアに流れる食事風景だ。清潔感は忘れずにといったところか…。


出だしは絶不調…

2006-05-26 14:31:17 | リレー:2003 春-1 OBL総理


 五月三日……憲法記念日、世界報道自由の日、ごみの日としてとても有名な日だが実はこの日はリカちゃんの誕生日でもあるというのを暇つぶしにインターネットで検索してみると書いてあった。
 というのは置いておいて、五月三日、明日だが私はとあるところに行かなければならない。記念日と関係がある仕事をしなければならない。一般庶民は休日だというのにだ。
 ただでさえこの忙しい時期にわざわざ私が行かなければならないのか分からない。
 世論調査によると私の人気はここ最近の事で落ちている。ここは一つ株を上げてみてはどうかと提案されたのだが、よく考えてみると顰蹙を買って反対に下がるのではないかと思う。が、すでに入っている予定をキャンセルするわけにはいかない、病気でもないのだから。仮病だと知れたほうがきっと、いや絶対更に人気が下がる。
「そろそろ寝るか」
 溜め息をつき、一人呟くとベッドに入った。
 年のせいか最近は目覚ましが鳴る前に眼を覚ますことが多い、どんな疲れた日であってもだ。
 明けない夜は無いとか誰かが言っていたが、こんな日はというよりも今年になってからは明けないでくれると助かるのだが…とよく思うようになった。
 仕方がないと諦めると私は朝の準備のためにベッドから降りた。



「おはようございます」
 寝惚け眼の私に、第一秘書の榊があいさつをした。こっちはまだ寝間着だというのに、相手は少しの好きもなくダークカラーのスーツを着こなしている。少しばかり小憎らしいと思わなくもない。
「ああ、おはよう」
「本日の予定ですが」
 寝癖をかきながらあいさつを返したとたんこれだ。
「うん」
「朝食後、午前十時三十分に東京九段南の千代田区役所にて神奈川県横須賀市議選の不在者投票、四二分、官邸。十一時三五分、岡田隆義TSB報道局長と面会。五一分、民自党塩坂財務金融会長、奥田内閣部会長代理と会議」
 いちいち確認する気も起こらない。機会のような榊の声を聞き流した。
「うん」
「昼食後、午後十四時二三分から、秩父多摩国立公園にてゴミ拾い。十六時四四分、官邸。五五分、全国銀行協会の三城光重氏と面会、十七時一六分」
「ちょっと待て」と私は榊の言葉を遮った。
「はい」
 いつもと同じような言葉の羅列の中に、聞き慣れない単語があった気がした。
「ゴミ拾い。今、ゴミ拾いと言わなかったか?」
「はい。そのように申し上げましたが、何か」
「何でゴミ拾いなんかするんだ」
「今日は五月三日でございますから」
 至極当然といった顔で榊は言った。
「なんで五月三日だと、ゴミ拾いをするんだ」
「ああ」と、第一秘書は今はじめて気が付いたという顔で続けた。
「そういえば、説明していませんでしたね。五月三日はゴミの日となっております」
「ゴミの日?」
「はい。五月三日、五と三でゴミと」
 なんだそれは。そんな記念日が我が国にあるなんてこと、私は初めて知ったぞ。いや、しかし前々からこの日には記念日にまつわる仕事をして頂くと聞いた覚えがある。それが国立公園でゴミ拾いだとは、今初めて聞いたが。
 私はよほど嫌な顔をしていたのだろう。取り繕うように榊は言った。
「まあ、ていのいい語呂合わせではありますが、自然の中でゴミを拾う映像が全国に流れれば、下降の一途をたどる支持率の歯止めになるかと」
 私は溜息をついた。
「そんな事をしている暇があれば、景気回復に努めろと叩かれるのが目に浮かぶよ」
 次から次へと莫迦なことがかり考えるものだ、この国を動かしている連中は。それでも私に選択肢はない。
 やれやれと頭をふって、真新しいシャツに腕を通す。そんな私にとどめを刺すかのように榊が言った。
「しっかりして下さい、総理。あなたは総理大臣、日本国内閣総理大臣、大泉潤次郎なのですよ」