1983年、北イタリアの避暑地。バカンスを過ごす大学教授一家の元に、助手としてアメリカ人の青年がやって来る。
息子である17歳のエリオと、24歳の助手オリヴァー。
二人のひと夏のラブロマンスを中心に、登場人物たちの感情と思考が繊細に、そして温かく綾をなし、夏の空気と豊かな自然の中に広がって行くかのような作品。
「何ひとつ忘れたくない。」
このセリフが口にされた時、夏は終わったのだと観ている者は覚る。
時間も空間も抽象化されたような背景と物語に、観客の感情さえも抽象化される。
青年はアメリカへ帰り、家に戻って来た息子に、父親が語りかける。
__思ってもいない時に、自然は狡猾な方法で、人の弱さを見つける。
__人は早く立ち直ろうと自分の心を削り取り、30歳までにすり減ってしまう。
新たな相手に与えるものが失われる。
だが、何も感じないこと…感情を無視することは、あまりにも惜しい。余計な口出しかな?
__今はまだ、ひたすら悲しく、苦しいだろう。
痛みを葬るな。
感じた喜びで満たせ。
(終盤のシーンより抜粋)
上記は一部だが、本当は全て書き出したくなるような、独白のような長いセリフだ。北イタリアの美しい自然や川の音の中にあった観客の感情が、ここで穏やかな思考へと昇華される。
父親のセリフ中の「“それは彼だったから”、“それは私だったから”」という文句は、下のモンテーニュの言葉からの引用である。
“もしも人から、なぜ彼が好きだったのかと問い詰められても、「それは彼が彼だったからだし、私が私だったから」という以外に答えようがない気がする。”
(ミシェル・ド・モンテーニュ 『エセー2』/友情について より)
ラストシーンは、3分30秒。
主演のティモシー・シャラメの表情を写し出し、シャラメは22歳でアカデミー賞主演男優賞、ゴールデングローブ賞最優秀主演男優賞にノミネートされた。
ああ。どうして夏ってこうなんだろう!
『君の名前で僕を呼んで』、ルカ・グァダニーノ監督、2017年、132分。
伊、仏、ブラジル、米合作。原題は、『Call Me By Your Name』。ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー、マイケル・スタールバーグ、アミラ・カサール。原作は、アンドレ・アシマン『Call Me By Your Name』(2007年)。
第90回アカデミー賞、脚色賞を受賞(ジェームズ・アイボリー)。作品賞、主演男優賞、歌曲賞にノミネート。
↓アカデミー賞歌曲賞にもノミネートされた主題歌(スフィアン・スティーブンス)
【歌詞和訳】Mystery of Love – Sufjan Stevens (from Call Me by Your Name)
↓エリオの夏。することと言えば、読書、作曲、泳ぐこと。たまに夜遊び。
↓原作訳本です。