よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

13:第3章 有効需要の原理ーケインズによる要約

2021年07月10日 | 一般理論を読む
  第3章 有効需要の原理

ケインズ自身の手になる「この理論」の要約を引用する。

 流動性選好、資本の限界効率、利子率理論、長期期待理論がなくてもここまでは論述できる、ということである。有効需要の原理の射程は長いのだ。

 消費性向と投資誘因、流動性選好、資本の限界効率、利子率理論、長期期待理論は、なぜ完全雇用は達成不可能なのか、を説明するための概念となる。

    引用は少々長く、またこれだけ読んでも「難解」であろう。だからこのブログがある。1~順番に読んでいけば、さらに一般理論を脇において読み進めていけば分かるようになることは請け負うか、どうかは別として読む価値はある。なぜなら自称ケインジアンのほとんどはヒックスを基にした誤読であり、一般理論そのものを読んでいないと思われるからである。

  1. 技術、資源、費用の状態を所与としたとき、所得(貨幣所得と実質所得の両方)は雇用量Nに依存する。
  2. 社会の所得とそこから消費支出に充てられると期待される額――D1と記す――との関係は、われわれが消費性向と呼ぶ社会の心理的特性に依存する。すなわち、消費は、消費性向になんらかの変化がないかぎりは、総所得水準、したがって雇用水準Nに依存する。
  3. 企業者が雇用しようと決意する労働量Nは、二つの量すなわち社会が消費支出に充てると期待される額D1と新規投資に振り向けると期待される額D2との合計(D)に依存する。Dは先に有効需要と呼ばれたものである。
  4. фを総供給関数とすると、D1+D2=D=ф(N)、そして上記(二)で見たように、D1は消費性向に依存するNの関数――χ(N)と書いてよい――であるから、ф(N)―χ(N)=D2となる。
  5. それゆえ、均衡雇用量は、(イ)総供給関数φ、(口)消費性向χ、および(ハ)投資額D2に依存する。これが雇用の一般理論の核心である。
  6. 任意のNにつき、賃金財産業では一つの労働限界生産力が対応している。実質賃金を決定するのはこの限界生産力である。したがって⑤は、Nは実質賃金を労働の限界不効用と均等化せしめる値を超えることができないという制約条件に服する。これは、Dのすべての変化が貨幣賃金一定という当面の仮定と必ずしも両立するわけではないことを意味する。よってわれわれの理論を完全な姿で叙述しようとすれば、この仮定を取り払うことが不可欠となる。
  7. 古典派理論においては、 Nのすべての値について、D=ф(N)が成立し、雇用量は、それがその最大値を超えさえしなければ、Nのすべての値について中立均衡の状態にある。だからこそ企業者のあいだの競争の力が雇用量をこの最大値にまで押し上げると期待されているのである。古典派理論では、この点でのみ、安定均衡が存在しうることになる。
  8. 雇用が増えるとD1も増えるが、その増え方はDほどではない。なぜなら、所得が増加すると消費は増えるが、その増え方は所得ほどではないからである。現実問題への鍵を握るのはこの心理法則である。というのも、この心理法則があるために、雇用量が増えれば増えるだけ、その生産物の総供給価格(Z)と企業者が消費者の支出から取り戻せると期待できる総額(D1)との開きはますます拡大していくことになるからである。だから、消費性向になんら変化がないとしたら、同時にD2も増えて、 ZとD1の拡大していく開きを埋め合わせるのでないかぎり、雇用を増加させることはできない。こうして、雇用が増えるときにはいつでも、 ZとD1の拡大する開きを埋めるに十分なだけD2を増大させるなんらかの力がはたらくという古典派理論の特殊な仮定に立脚しない場合には、完全雇用以下の水準、すなわち総需要関数と総供給関数の交点で与えられる水準Nで、経済体系が安定均衡状態に入る可能性も出て来るのである。

 要するに、所定の実質賃金に対応した労働供給は雇用の最大水準を画すにすぎず、雇用が実質賃金で測った労働の限界不効用によって決定されるわけで はない。消費性向と新規投資率とが相俟って雇用量を決定し、その雇用量は所定の実質賃金水準に一意に関係づけられている。これが真相であり、その逆ではありえない。消費性向と新規投資率が十分な有効需要を与えない場合には、現実の雇用水準は現行実質賃金下の潜在的な労働供給量に満たず、均衡実質賃金は均衡雇用水準の労働の限界不効用より大きくなるであろう。
」引用終わり

 ここまででは、

 賃金が高騰して利潤の全てが賃金に持っていかれてしまう、ということはあり得る(⑥)が、現実には、投資不足(資金の余剰)により、そのずーっと前に「安定均衡状態」に入ることが多いのではないか(⑧)。その時に完全雇用状態である保証はない。
 
 ということである。これは専門的な経済学者は認めようとしないが市井の人々は昔から知っていたことである。

 「賃金も上がらないのにまた不況になっちゃったよ」ってね。

 

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