意思による楽観主義のための読書日記

面白きこともなき世を面白くするのは楽観力、意思に力を与えるのが良い本 *****必読****推奨**閑なれば*ムダ 

シャッター・マウンテン 北林一光 ***

2014年08月25日 | 本の読後感
2006年に他界した作家の遺品にあったワープロから原稿が発見され、知人などの手により作品となり発刊されたといういわくつきの作品。山が好きなんだろうな、と感じさせるような記述が多い。

上高地と思わせる物語の舞台は作品中では梓平、そこに建つ帝国ホテルと思わせる由緒正しく歴史あるホテル、そして歩いて数キロにある小梨平のようなキャンプ場、そして穂高連峰を背景にある涸沢のような沢、そして西穂高岳にあるような山小屋、そこに通じる唯一の道のトンネルが降り続いた雨に伴う土砂崩れで埋もれてしまい、電話線も切られて梓平にいたキャンパーや登山者、ホテルの滞在者たちは孤立してしまう。

筆者は上高地などのように観光客の多い山の自然が長年の人間による登山や観光で破壊されてきていることに警鐘を発する。本作品では昭和11年に強制労働収容所に朝鮮半島から連れられてきていた労働者たちの怨念、なかでも日本人に強姦され、視力を奪われたという少女の怨念が超常現象のような災害や殺人を引き起こすというサイコ的、ホラー的なストーリーも加わっている。災害に巻き込まれたり殺されたりするのは、自然破壊をする観光客や登山者、特に少女の怨念は女性とセックスをする男性に向かい、目を繰り抜いた上で殺害する。山を愛する人であっても山の自然を破壊する場合もあり、怨念はそうした人たちにも向かう。

上高地に行ったことがあれば本作品で起きている情景がまさに目に浮かぶであろう。土石流に飲み込まれるカッパ橋、怨念が発する衝撃波に窓が破壊されてしまう帝国ホテル、大量のチョウチョが舞い上がる小梨平。昨日たまたまではあるがNHKでマリモがまだ生き残っている阿寒湖でも人間の営みがマリモの生態に悪影響をもたらしその数が激減しているという特集があったが、このままで人間の数が増え、悪意はなくともその活動が自然環境にプレッシャーをかけ続ければいつかはそのしっぺ返しを受けるということ。ここ数年頻発する季節外れの台風や土石流、局地的な50年に一度の大雨のニュースに接するとそう考えてしまうのは私だけだろうか。


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ゴードンスミスのニッポン仰天日記 *****

2014年08月14日 | 本の読後感

以前一度読んでもう一度読んでみたいと思っていた本。 

夏休みを利用して読んでみたがやはり抜群に面白い。以前には書かなかったポイントで印象的なくだり。

「虫売りが面白く、屋台ごと買ってしまったGS(ゴードン・スミス:筆者)、まさしく大人買い。マツムシ、クツワムシ、クサヒバリ、エンマコオロギ、キンハバリ、キリギリスの鳴き声を楽しむ。西欧人は虫の声など騒音にしか聞こえない、という話も聞いたことがあるがGSはそうではなかった。午後9時以降に生命の詩や愛の歌を歌うと書いている。

GSが日本に滞在した期間は1900年初頭でちょうど日英同盟締結、そして日露戦争の時期、英国人であるGSは日本では大変丁重な扱いを受けた。大英博物館に動植物の見本を送るという使命を帯び、ハンティングを楽しみながら動植物を採取、英国に送り続けて日本を紹介することとなり、結果的には勲四等旭日小綬章を受けた。

日本的美意識、大和魂、女性の服装や色に対する繊細な好みと趣向、生花の心、左右不対称の美などを解説している。これらが明治末期の日本で日本人の特に女性たちから学んでいて、現代の日本では一般には見かけられなくなった文化が当時は幅広く庶民にも残っていたことを示す。

写真も多く残しているが、非常に面白いのは伊勢志摩の海女たち20名ほどに蓄音機の音楽を聞かせ、その様子を撮影している。曲の内容によって海女たちの表情が違うことを写真で証明しているのである。愉快な曲と軍楽曲で海女たちが素直に驚きや面白みを表現しているさまは、まさに民俗学者顔負けの分析である。

そしてGSはこの理想的な文化環境を維持している日本が今後商業的な力に押されて文化的荒廃を遂げるだろうと予測している。「日本は最高水準の理想の社会から最低のところまで堕落することだろう。日本はやがてアメリカの道徳や自由を取り入れ、質の善悪をはともかくとして商人の国になるだろう。日本はやがて社会的にも経済的にも巨大なシカゴのようになるだろう。そうなれば哀れである。」どうだろう、明治の末期に現代の日本の姿を予見しているではないか。

これは当時の日本の教養人の夏目漱石や島崎藤村、そしてこのGSやイザベラ・バードのように海外から日本を訪れた欧州人たちがよく口にした言葉でもあった。また同時に、今の中国の経済発展を見て日本人が「30年前の日本と同じだ」と感じることと同様の感想かもしれない。

この貴重な記録、全八巻にもなる手書き日記が原本であるが、その原本はオークションで売り払われてしまったという、なんと残念な。


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まず石を投げよ 久坂部羊 ***

2014年08月07日 | 本の読後感
問題を感じたらまず石を投げ込んでみる、そうすると周りに波紋が起こる、周りの人間も石が投げ込まれたことに気づく。本書の登場人物はとにかく石を投げ込んだ。菊川綾乃は、まだ駆け出しの医療ジャーナリストである。TVの情報番組で報じられた医者の行動、彼は自分の行った医療行為の中にミスを発見、患者から何かを訴えられたわけでもないのに1400万円の賠償金を払ったというのだ。医師の名は三木、必ずしも医療ミスとはいえないものであり、あえて自ら進んで賠償金を払ったわけはなんだろうと綾乃は考える。三木に取材を申し込むが断わられてしまう。

その綾乃のもとに「三木が告白したミスは殺人だった」という一通の手紙が届く。三木の元妻からの告発だった。そして取材を進めるうちに三木による医療ミスで妻を殺されたと訴える男も現れた。そんな時、TV番組制作プロダクションの美貌のプロデューサー宍村総子を綾乃は編集者に紹介される。医療現場の隠蔽体質を暴く番組を制作しようとする総子は、綾乃を誘って知り合いの病院で医師に対する仮想の実験を行なう。人間ドックで診断した患者で何もないという診断だったのに半年後にガンが発見されたので、人間ドックの時のレントゲン写真を貸し出したいという申し出を医師に伝え、どのように反応するかを映像に収め、10人中何人が隠そうとするだろうかときわどい実験である。総子の取材態度に違和感を覚える綾乃。そして実験を受けたひとりの医師の自殺事件が起きる。

三木は本当にミスを犯したのか、それともなにか別の目的があったのか。医療の現場をよくしった筆者が、医療ミスについての問題点を医師の立場と患者の立場、そしてジャーナリストの立場それぞれから描いていく。あわせて人間ドックの意味についても問題提起をする。「日本でしか行われていない人間ドックでの検査は本当に健康増進や病気の早期発見に役だっているのだろうか、高血圧や低血圧、各種検査の異常値などは本当に有意義なのだろうか」という問題提起。

久坂部羊の小説にはいつも相当なエキセントリックな人物が登場して読むのが苦しくなることがある。今回も三木の元妻がそうだが、それ以外はまずまずで安心して読める。


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マルドゥック・スクランブル 冲方丁 ****

2014年08月01日 | 本の読後感
久しぶりの更新。貧しい家に生まれ、娼婦にされたルーン・バロットという15歳の少女が主人公。こういうSFっぽい漫画のようなストーリーは好きな人は大好き、関心がない人は途中でリタイヤ、という種類の本、僕は「結構好き」。バロットは変態の気があるシェルというならず者に車に閉じ込められ爆破されて命を落としそうになるが、シェルの犯罪を捜査する捜査官のイースターと、なぜかネズミの格好をしたウフコックというなんとも言えないロボット?に救い出されて、焼けただれた皮膚を人口移植、一命を取り留める。場所はマルドゥックシティと呼ばれる都市で、貧富の差が激しく、金持ちは天上に住み、貧乏人は地べたで暮らす。

バロットは、医師のイースターにより人間では考えられないような認知能力と射撃や運動能力を手に入れシェルに復讐する。シェルはウフコックの昔の仲間でこちらも捜査官のボイルドにバロットの殺害を依頼、バロットはそれを受けて立つことになる。お話は荒唐無稽、それでも読んでいるとストーリーに引き込まれる。

「圧縮」「燃焼」「排気」という3部に分かれていて、バロットが死にそうになりながら高度な能力を手に入れ、シェルが放つ最初の刺客達をやっつける第一部。圧倒的な戦闘能力を持つボイルドが現れ、バロット達を追い詰めるがイースターにより救出されさらなる能力向上の試みをする第二部、シェルの記憶が埋め込まれた、シェルが経営するカジノの4枚の100万ドルチップを手に入れるため、バロットとイースターそしてウフコックがカジノでルーレット、そしてカードゲームで4枚のチップを手に入れる第三部。最後にはボイルドとの戦いにバロットとウフコックが勝利する。

日本SF大賞を受賞し映画化やDVD化もされたというから映像のほうを見ている人も多いだろう。映像化すると漫画っぽくなるのではないかと思うが、それはそれでCGたっぷりの画像を楽しめると思う。Google検索すると沢山の映像が検索できるので、興味がある人はそちらをどうぞ。本の方は2010年発刊の638Pにもなる大書、必死で読めば一晩で読みきれるかもしれないが、片道55分の通勤読書だと結構日にちがかかった。バロットがウフコックと一体化してボイルドと戦闘する場面が面白く、一番の山はカジノでのカードゲームでのディーラーとの駆け引き。冲方丁さん、相当のカード好きなのか、それとも調べたのか、いや、本人がカードゲーム好きでなければここまでは書かないだろう。それにしても、SFでの冲方丁の物語力ともいえる筆の力、大いに感じ入った一作であった。


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