意思による楽観のための読書日記

空の拳 角田光代 ****

25歳から31歳になるまでの二人の若者の成長物語で、いい感じの読後感が持てた本であった。

本好きが講じて文藝社に入社、入社3年目でそろそろ文藝に関われると思っていたら縁もゆかりもないボクシング雑誌の担当になった那波田空也(なわたくうや)、女性とも付き合わず、部活にも関係せず本ばかり読んでいた学生生活から「ザ・拳」という雑誌の担当になった。編集長がいて、記者が二人のところに配属された空也。

担当になった拳闘クラブは、「鉄槌ボクシングジム」、プロになることを夢見る練習生からダイエットのためにボクシング始めました、という女性OLまで、どちらかと言えばあまり緊張感があるとも思えないクラブだった。そこにいたのはトレーナーの有田、そして担当してこいと編集長から命じられたタイガー立花、そして小さい頃からボクシングをしているという同じ年頃の中神、そして新しく入ったというこちらも同じ年頃の坂本。そして見たのは立花のスパーリング、ライト級だという。さっそくトレーナーの有田に飲みに行こうと誘われる。ボクシングになんの関心もなかった空也は、担当するスポーツを勉強する、ということもあり有田に誘われるままに、鉄槌ボクシングジムの入会してしまう。有田は何も知らない空也にボクシングの歴史や技術について教えてくれた。有田も元ボクサーだった。

坂本と中神と一緒に練習を始めた空也、昔からやっている中神はすでに試合をしているが強くはない。あとから始めた坂本のほうがスピードがあり才能がありそうだった。そして立花、話をしてみると普通の若者だったが、取材をするというと有田が同席し、立花が親に捨てられ、不良になって少年院に入り荒れていたところをボクシングに出会って今に至っている、などというよくあるあしたのジョーのような生い立ちを説明する。立花と話してみてもそんな感じがしなかったが、そんなものかと空也は立花の生い立ちを含めて記事を書く。空也が立花と親しくなるに従い、立花は本当は自分には親がいて、少年院などに入っていないことを打ち明ける。有田がそのほうが面白いから、つくり話をしたという。やはり、空也が直感したとおりだったが、もう記事は掲載済みであり、立花が勝ち進んでいけばそんなことが大きな問題になるとは思わなかった。

立花は4回戦から6回戦へと勝ち進む。東西戦での勝利などを経ていよいよランキングの相手と戦うようになる頃、空也が書いた生い立ちは作り事ではないかという別の記者による取材があり、バレてしまう。Webでは、嘘つき、経歴詐称、などという書き込みが増え、生い立ちに同情してくれたファンからもクレームが沢山入るようになる。反響は思ったより大きく、空也は大いに反省するが手遅れであった。立花の試合では勝っても負けても「嘘つき」「詐称男に負けるな」などというヤジが飛び、立花もそれが気になりボクシング自体への迷いも生まれ試合に打ち込めない。

限界を感じた立花はトレーナーを有田から別のジムにいたという萬羽に頼むことにする。萬羽は有田とは全く違うスタイルで立花を鍛える。これに答える立花。1年が経ち、2年が過ぎると立花の試合にヤジを飛ばす客はいなくなり、立花も試合に集中できるようになる。迷いは消えて次の次元に行けそうだと空也が見ていても思えるようになる。

3年がたつ頃、空也は異動を命じられる。希望していた文芸部門への異動で喜ぶべきだったが残念でもある。その頃には立花はライト級ランキング一位の選手と戦い勝つほどに成長していた。空也は最後にプロテストを受けて、落ちはしたものの踏ん切りをつけて新たな部署の異動を受け、文藝部門での仕事に励む。立花のボクサーとしての成長と空也の編集者としての成長がダブる。その頃には空也も付き合う女性に出会い、立花は東洋フライ級のタイトルマッチに挑んでいる。

読者は空也た立花と同期して成長するように知らず知らずのうちにボクシングの基本を学ぶ。試合の描写が半端ではない。飛び散る汗や血、左右、上下に繰り出されるジャブ、ストレート、フック、アッパー、ボディーなどのパンチとそれをさけるパーリング、ダッキング、ウィービングなどなど。成功者はほんの一握り、99%以上の人が途中で挫折する、強いやつにはとてもかなわないのに、なぜ殴り合いのボクシングにのめり込む人がいるのか、少しわかる気もする。空也になったつもりで読むと一気に読めてしまう485Pであった。


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