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意思による楽観のための読書日記

中東 共存への道 パレスチナとイスラエル 広河隆一 ****

ガザを巡るイスラエルとハマスの戦闘報道を見て、今までの経緯を知りたくて、家にある本を再読してみた。本書は1993年のイスラエルとPLOとの和平合意の1年後に書かれた一冊で、合意は同年9月13日、アメリカのクリントン大統領が立ち会い、ワシントンでイスラエルのラビン首相、パレスチナのアラファトPLO議長が握手し、パレスチナ暫定自治に関する原則宣言に調印、オスロ合意として確定した。合意内容は、今後相手、特にPLOをイスラエル政府が交渉当事者であると認め交渉開始に合意したということ。しかしその2年後、イスラエルの強硬派、和平反対派による和平合意のイスラエル側の当事者ラビン首相暗殺があり、オスロ合意は暗礁に乗り上げた。

オスロ合意は相手の存在を認めたことに意義があった。イスラエルの合意以前の立場は、パレスチナ人という民族は存在せず、彼らはアラブ人の一部、パレスチナという国家も存在しない、PLOはテロリストだというものだった。一方、PLOの立場は、イスラエルという国家は国連が勝手に決議して造られた存在であり、決議後に世界から帰還してきたユダヤ人はパレスチナから出て行くべきである、というもの。

合意には、イスラエルとパレスチナの双方に強く反対する勢力があった。イスラエルでは「全世界に散らばったユダヤ人たちはこの地に帰還すべき」という考え方を掲げるシオニスト、ユダヤ教原理主義者、リクードに代表される右派政党があり、ラビン首相が率いていた労働党政権に敵対していた。アラファトの属するファタハは現実をある程度受け入れる必要があるとする考え方に立っていたが、PLO側にも、イスラーム原理主義のハマスなどのイスラム主義勢力がある、ファタハの和平路線は反アラブ主義だと反発していた。ラビン首相もアラファト議長としてもぎりぎりの妥協線上にあり、双方の反対派からすればとんでもない譲歩をした合意だと映った。

それでも実際に合意が報道され、テレビでパレスチナの旗がイスラエルの旗と並んで映る様子が報道されると、それだけでもありえないことが起きている、少しは和平に向かっている、と感慨を持つ双方の人たちもいた。しかしオスロ合意は交渉開始のきっかけに過ぎず、問題はエルサレムの帰属、3回の中東戦争などによりにより発生したパレスチナ難民の帰還、第3次中東戦争後のイスラエルの占領地への入植地をどうするのか、という難問である。そしてそうした難問解決と同時に、二国が共存するとして、国境画定をどうするかが合意できて初めて平和的な共存が行われることとなる。極めて不安定な合意ではあったが、イスラエル側、パレスチナ側双方にはかすかな希望をもって合意の行方を見守る勢力もいた。しかし、それまでも様々な話し合いをぶち壊してきたのが双方に存在する強硬派、過激派の存在であり、明るい未来が開けているとまでは言えない。ここまでが本書内容。

その後、本書の懸念していた通りのことが起きる。交渉が進むかと思われていた1995年11月におきたのがイスラエル国内の過激派によるラビン首相暗殺であり、交渉はとん挫する。その後のイスラエルでは1996年リクードのネタニヤフが首相となり、占領地へのユダヤ人の入植を進め、各地でパレスチナ人との衝突がつづいた。ソ連崩壊後、旧ソ連からユダヤ系の人々への移住が増えたため、入植地が必要だったことが背景にあるが、ユダヤ人社会の中でも軋轢が生じていた。パレスチナ側では、ファタハの和平路線に反対のハマスがテロを活発化。オスロ合意はシオニズムへの妥協であり、パレスチナの敗北であるとして、自爆テロを繰り返した。こうした状況で合意に向かう話し合いは全く進まないまま、イスラエルによる占領下でのパレスチナ人の自治、というあいまいな状況が続く。その後もたびたび交渉が行われ、そして強硬派、過激派によるテロが繰り返され、2023年に起きたのがハマスによるイスラエル攻撃であり、その後のイスラエルによるハマス一掃の戦闘、ということになる。
 
ネタニヤフ首相が和平交渉に応じられないのは、小さな妥協や譲歩でさえも必ず過激派による反対があり、テロや暗殺の恐怖が付きまとうからであろう。ハマスが抵抗をやめられないのは、「悪いのはイスラエル、シオニスト」であるというのは信仰であり信念であるから。今後、停戦に向けた交渉が行われ、合意が成立したとしても、双方には必ず反対者、過激派によるテロの懸念がある。それを踏み越えて進めるのか、アメリカも欧州も、そしてアラブ諸国も、落としどころの見えない話し合いが続くと思われ、経緯を知れば知るほど希望が見えない。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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