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意思による楽観のための読書日記

キリシタン教会と本能寺の変 浅見雅一 ***

光秀が主君信長を討った理由はなにか。光秀は変ののち12日しか生き延びず、一族郎党もろともが死んでしまったため、そのワケを知っていそうなのは細川ガラシャしかいないのだが、そのガラシャも死んでしまう。秀吉が天下を取り、その後は家康の世となったので、謎だけが残った。フロイスは口之津に滞在中の出来事だったが、信長に保護されていたキリシタン布教の立場、フロイスの日本史の情報元は、当時安土と京の教会にいた宣教師やオルガンティーノらによるフロイスへの書簡であり、報告者は本能寺の変を身近に見ていた。そしてそうした情報をもとに光秀の嫡子十五郎、そして細川ガラシャについて考察してみたのが本書。オルガンティーノの書簡に現れる彼らの気持ちは光秀の考えと重なる部分が多いのではないかと。

信心深さはかけらもなく、神仏を否定してきた信長が安土城建設後は自らを祀る摠見寺を建立、自己神格化を図ったことを宣教師たちは批判的に見ていた。さらに天下布武、統一後は中国大陸への進出計画も持っていたという。秀吉は信長の自己神格化を異なる形で引き継いだといえる。個人を偶像化し信仰することを否定するキリスト教としては許せない気持ちがあった。

光秀は義昭の家臣から信長に取り立てられ、丹後と丹波を拝領、秀吉の毛利攻めに応援として駆けつけるよう信長に命じられていた。オルガンティーノの評価では光秀は悪賢く狡猾な悪人。フロイスへの書簡には築城に優れているとも書かれていて、複数人の評価が混在している。本能寺の変の前夜、光秀は斎藤利三、明智秀満、明智次右衛門、藤田田五という4人の重臣に謀反の意思を伝え、裏切ることのないように目の前で武装させ、天下の主となることを告げた。下級の家臣たちは、何事かと疑い、家康を討つのかと考えたともある。敵は本能寺、と言われてもまさかそれが主君信長だとは家臣でさえ思わなかったということ。信長の息子信忠は隣の妙覚寺にいたが、遠くに逃げればいいものを二条城に逃げ込んで結局明智勢に討ち取られている。堺にいた家康は、多くの金品を持参していたため、助けを借りながら必死で奈良から伊賀を抜けて三河に帰った。この際、光秀に家康を亡き者とする強い意志があれば、可能だったはずだが、それをしなかった。斎藤利三の息子は江戸時代に旗本となり、娘は江戸時代になって家光の乳母になっているが、家康は光秀に何らかの恩義を感じていたという可能性もある。

オルガンティーノは本能寺の変の時には安土城にいたが、変を受けて安土は大混乱、オルガンティーノは坂本に移動、京都へと逃避行に成功している。こういう混乱時には盗賊が横行したようで、一行も逃避行途中で追い剥ぎに会い、貴重品を奪われたという。坂本では光秀の息子に会いに行った。十五郎とオルガンティーノは顔見知りであり、光秀は高山右近への伝言をオルガンティーノに委託した可能性もあった。しかし右近は光秀追討軍の先陣を切り、秀吉に先駆けて光秀軍を打ち破った。細川藤孝、忠興親子は、出家してまで光秀による援軍依頼を断っている。忠興の妻であるガラシャはその恨みが深かったはずだが、ガラシャも忠興の妻として、自分の子、三男が細川家を継ぐこととなり、家の存続を最優先した。オルガンティーノは、主君を討ってしまった光秀が難しい立場にあることを十分理解し、そのことを逆に慮った光秀もそれ以上の依頼をオルガンティーノにはしていない。

結局、光秀には主君を討つ大義がなかった。信長の天下人としての資質への疑義、四国長曽我部討伐に対する不満、秀吉への援軍命令に対する反発、家康饗応の際の無理難題、叱責、信長のムラッ気への反感、などなど理由として挙げられているのはいずれも光秀の個人的な信長への反発であり、他の武将を説得して一緒に行動する理由とはならなかった。明智一族への信長による威嚇があったのでは、という推測もあるが、そのことを示す資料は残っていない。結局、光秀の支援要請に従ったのは筒井順慶のみで、それも家臣団の反対により撤回している。光秀の4人の重臣が光秀による主君殺しに賛同した理由はなんだったのか、怨恨ではなく、天下取りの野望でもない、一族郎党を危機に巻き込むことが分かっているのに実行した理由は、結局は闇の中、分からないが、息子の十五郎を守ろうとした、というのが筆者の推測である。本書内容は以上。

同時代の人々がわからなかった主君討ち、後世のわれわれに知る手立てはあるのだろうか。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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