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意思による楽観のための読書日記

百姓の力 江戸時代から見える日本 渡辺尚志 ***

江戸時代のお百姓はどのような暮らし、文化生活を送り、領主や庄屋と小作の関係はどうだったのか、年貢はどうやって決められていたのか、近所づきあいはどうだったのか、現代と比べると何が違ってたのかを解説した本。読んでみてわかったのは、現代の生活では行政サービス、医療、教育、警察、上下水道、エネルギー供給、通信インフラ、金融、揉め事の解決などは身の回りのすでに存在する機能として受け取っているが、江戸時代のお百姓にとっては、それらはすべて自分達でやる必要がある事柄だったことである。これら基本機能に加えて婚礼、葬儀、祭礼、祖先祭祀など生老病死の生涯に渡り村人は村によって支えられていた。江戸時代でも年代が進むほどに生活は豊かになり、年間休日も20日から30日程度にも増えていった。休日というのは村で決めた休みの日という意味。祭りや神遊び、若者組の集まり、村芝居などであった。村では村人たちの共同作業が大前提として必要であり、村としてほとんどすべての生活が充足され、村としての意思決定が村人の生活のすべてを決める社会集団、これが江戸時代の百姓村であった。

土地の所有、これは使用権を百姓が持ち、所有権は領主、そして重層的に幕府が持っていた。新規開拓の田畑から年貢を取りたい領主は開拓を進めたいが、その所有権と新たな年貢が領主に行くだけなら開拓する本人である百姓の開拓意欲は働かない。古くは奈良時代に墾田永年私有令が出されたように、江戸時代にも同様の措置が領主と百姓の間に行われていたケースが多い。領主と村の関係は対等ではないにしても領主が示す年貢額に村側が同意するという形で年貢額は決められていた。領主はさらに大きな川の治水工事など多くの村を束ねる事業を推進したり、不作の年には年貢の減免措置を講じたりする「仁政」が期待された。

年貢以外の百姓の負担には、次のようなものがあった。
①小物成:田畑以外の山野、原野、海、川などからの生産物への年貢。茶、漆、商業活動の利益からの冥加金、運上金。
②高掛物:村高に応じて課せられた付加税。御伝馬宿入用(街道宿駅の維持費用)、六尺給米(江戸城での奉公に支給される米代)、お蔵前入用(幕府米蔵の維持費用)。幕府領における年貢。
③国役:大河川の修復、朝鮮通信使の来日費用、将軍の日光東照宮への社参などにかかる費用負担。
④夫役:領主への労働力提供。
⑤助郷役:主要街道の宿駅への人馬提供。
⑥村入用:村運営用に費用。村役人の給料、庶務費用。
これらは百姓の所持石高に応じて家ごとに均等に賦課された。

村の共有地や入会地は村全体でその管理や維持を行っていた。この場合には所有者は村、領主、幕府と三重の土地所有構造である。入会地の所有権をもめるケースもあった。大庄屋が祖先からの所有をたてに所有権を主張すれば、山野の間伐や下草、腐葉土などの利用のための共同作業を村として行ってきた実績から入会地であると主張する惣百姓(一般百姓全体)の利害がぶつかった。

村の代表で領主との交渉役になったのは庄屋・名主、百姓を取りまとめたのが百姓代・組頭、百姓全体は惣百姓、その下に小作やさらに被差別階級であり牛馬の死体処理などをして生計を立てる、エタがいる場合もあった。領主から検地により定められた年貢の分配は庄屋・名主が中心になり年貢割付が行われ、村の年貢は「村請制度」で村の責任として納められた。病気や不作で年貢が払えない農家がいれば庄屋が代わりに納めた。現代であれば税務署が果たす徴税を村が行っていたということ。これ以外にも治安警察、消防、医療などの生活上重要な機能は基本的に村として果たし、学校教育も村に寺子屋を設置して村として先生を招聘することもあった。村での揉め事は村掟をさだめ村寄合で裁定を下した。

村が生まれた契機は次のようなものであった。
1. 自然的諸条件への対応
2. 領主への賦課対応
3. 地域外の人たち(行商人、浪人、無頼、無宿人、乞食、喜捨を求める宗教者である勧化、盗賊、行き倒れ、旅芸人など)への対応
4. 地域内の諸階層への対応
5. 地域秩序の維持

また村を超えた地域結合には次のような要素もあった。
1. 地域的市場経済、労働経済
2. 俳諧、国学などのサークルなどの文化的、学問的活動
3. 通婚、信仰、教育、医療など日常生活で村だけでは収まりきらない日常生活の側面

つまり村は村としてある意味では完結した集合体ではあったが、時代を経るごとに活動の広がりが生まれ村同士の連携が深まり活動は地域として広がっていった。百姓というと農業を中心とした生産活動と日常生活を想像していたが、もっともっと幅広い活動があった。行商、漁業、山菜取りなどは地域によっては農業以外の活動も盛んだった。村は現代で言えば司法行政立法すべての権限を持ち、警察、徴税、社会保険などを村人同士の共同作業や助け合いで実行していた。こうした名残は現代社会にも町内会や村祭りなどに残っていると考えられる。日本の田舎に行くと見られる祭礼や冠婚葬祭の行事などもこうした歴史を積み重ねているはず。シニア層が「田舎暮らし」い憧れるのは、現代社会の仕組みよりも心地よい地域的つながりを求めているのかもしれない。


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