意思による楽観のための読書日記

傾国子女 島田雅彦 **

「傾国傾城の顔(かんばせ)」という表現があるが、本書の主人公、白草千春はそういう形容がふさわしい美女だった、というタイトルのはずなのだが、読み終わった感想としては「嫌われ松子の一生」の方に近い、つまり読後感が悪くて共感できない。

時代は1970年代、美しく生まれてきた千春は13歳まで日本画家だった父親と一緒にお風呂にはいるような良い子供だった。この父の責任は重かったははずなのに、借金を作り返せないので、金持ちの医師をやっている知人の花岡に妻と娘を託し出奔してしまう。金岡は千春を我が物にするために父の借金を代わりに弁済してくれたのであるが、千春を高校に進学させることを条件にその年の4月1日に本当に我が物にする。千春は高校で一生の友となる甲田由里と知り合う。そして、高校に通う傍ら、新宿の町で二人で遊ぶうち、ヤクザのヤノケンと知り合う。一方、花岡は、京都の大金持ちで政界にも隠然たる力を持つという壇新一が、自分の子種を託すことができそうな若い女を探しているという話を聴きこんで、壇に売り込んだ。そして自分は1500万円を手に入れて母子を売り飛ばしてしまう。

千春は、ここから果てしない転落の運命を受け入れていくことになる。壇新一の子供を生む、ということを知った千春はその前にヤノケンの種を宿してしまう。そして壇のもとに住まいを移し妊娠する。しかしその子は壇の子ではないことを必死で隠そうとする。壇には妻がいて、その妻は千春の妊娠に疑問を持つ。妻はヤノケンの存在を探り出し、千春の誘拐を持ちかけるが、ヤノケンは千春を一晩外に連れだしただけで、壇の家に戻る。そして出産するが、出産と同時に千春は子どもと引き離される。

東京に戻った千春は実の母と甲田由里を頼って同じ高校への編入を試みるが拒絶され、甲田由里と一緒に大学受験資格試験を受験し合格、そして甲田由里は慶応大学へ、千春は東京女子大学に入学する。この後、政治家の息子や、現役衆議院議員で売り出し中の若手などと知り合うが、千春の美貌だけを手に入れたい男たちは千春をもてあそぶ。大学を卒業した千春は銀座のクラブで働き、顧客として現れた大学時代に自分を弄んだ若手政治家のスキャンダルを週刊誌に売り込んでクラブを追放されてしまう。

働き場所を失った千春は、ワンマン企業の社長秘書として働いたりするが、そのうちにソープ嬢となってしまう。その後も激しい転落の人生が待っていた。引き離されてしまった自分の子供に会いたくて京都の壇家に乗り込む千春、新一はそんな千春にまだ未練を持っていたので、妻に隠した資産を千春に残そうとした、その額1億5千万。千春はその事務手続きを担当する男にまたまた弄ばれたうえに騙されて遺産をごっそり持っていかれる。

そして新一のいなくなった壇家に乗り込む千春は妻とその家に入り込んでいた男の手を切り落とすという傷害事件をおこして、懲役5年の刑を受けて栃木刑務所に服役する。長い長い5年を勤めあげた時には千春は46歳になっていた。出所した千春は甲田由里を訪れるが由里は末期がんで千春の出所を待っていたように死んでしまう。前科者の女性を雇ってくれる会社などない。そんな千春が出会ったのがラーメン店を経営していた年下の中国人だった。そしてそのラーメン店で働くうちに二人は結婚、小さなラーメン店で小さな幸せを掴んだ千春だった。しかし、その幸せも10年は続かなかった。中国人の男は別の事業に手を出して破産、千春はまたまた世間に放り出されてしまう。

そして50歳を超えていた千春だったが、その美貌はまだ保たれていた。若手IT企業経営者に目をつけた千春は、もうひと波乱を味わうのであった。若手IT企業経営者はその後大ブレイク、捨てられた千春は車に飛び込んで自殺してしまう。

どうだろうか、こんな人生。傾国子女、と言えるのだろうか。確かにストーリーの中では、政治家の息子のスキャンダルをネタに現役の首相を退陣に追い込んだり、売り出し中の若手政治家の将来をメチャメチャにしたりと、「傾国」という部分はあるにはあるのだが、それだけである。自分の力で傾国したわけではなく、国を支える可能性のある男を駄目にする、という場面で手腕を発揮するのである。一方、うまく付き合った男は一時は成功をするかに見えるが、その後の運命は悲しい。もっと良い人生も選べたはずだと思うが、出発点の父親の責任放棄がなんとも言えず悲しい。悲しい人生も他人の話しなら覗いてみたい方、どうぞ。


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