物語の主人公八木沢省三郎(通称ヤギショウ)が骸骨ビルの管理人として住み込むところから始まる。八木沢は不動産業者からこのビルの跡地にマンションを建てようと派遣された立退き手配師とでもいうべき管理人である。骸骨ビルには茂木と10名の住人が住んでいて立ち退くことを拒否しているのだ。しかし、八木沢は急いで立ち退きは迫らず、骸骨ビルに住み込んで住人に事情を聞き出す方法を取る。聞き出した内容からこのビルでおきた出来事が浮かび上がってくる。
描かれるのは、戦争で親に死なれた孤児たち、そして親が子を捨ててしまった結果孤児となった大量の子供たちの存在。その孤児たちには行政が手を差し伸べる必要があるはずだが戦争直後の日本にはそんな余裕がなかった。そこで阿部と茂木が孤児たちを育て始めるのだが、周りには善意の人ばかりではない。逆に近所の人達からの告げ口に近い孤児虐待の訴えや、行政からは孤児たちへの不当な扱いはないかという詮索があった。
もう一つは骸骨ビルの庭で阿部と茂木が子供たちに教えた野菜の栽培である。無農薬農業であり、土の作り方、腐葉土の作り方、ミミズの活用、牛糞、鶏糞の扱い方、害虫の駆除、雑草との戦いなどが描かれる。牛糞、鶏糞の匂いで近所の住人が大変な迷惑を被るが、孤児を育てるためということで一定の理解を得る。
さらには、ナナというゲイの孤児、住人存在、そしてダッチワイフ販売を商売とする住人、やくざになった孤児、食堂をやりくりする孤児、彫金を商売とする孤児、阪大を卒業した孤児などなど、それこそ骸骨ビルの庭に生えていて、抜いても抜いても生えてくる雑草のように様々な孤児たちである。裏切り者の孤児、桐田夏美はホンの一瞬しか登場しない。桐田夏美が訴えた性的暴行を受けた話はつくり話であることが隣人や孤児の話からわかってくるが、なぜ桐田夏美はそのようなつくり話までして大恩のある阿部を裏切ったのかがわからない。そこが最後に語られて意外な展開があると期待していただけに、それが期待はずれである。
宮本輝独特のお説教は随所にある。庭に作っていた野菜と雑草が、世間と孤児を象徴するのか、阿部が孤児を育ててやろうと決心した時のように、人間の一生は一瞬のひらめきで決まる、と言いたいのか。流転の海につながるようなストーリーでもある。
