意思による楽観のための読書日記

日本はなぜ敗れるのか 山本七平 ****

日本の弱みの本質を分析した本だと思う。

分析対象としたのは、太平洋戦争で陸軍専任嘱託として重用され、ガソリンの代用となるブタノールを粗糖から製造する技術者として敗色が濃くなった昭和19年フィリピンに派遣され終戦を迎えて捕虜となった小松さんの手記。それも紙も鉛筆もない中でトイレットペーパーを4枚重ねてカンバスベッドのカンバスをほぐして撚った糸で綴じた手作り手帳8冊に書かれたもの。重要なのは、終戦直後の捕虜としての立場でその時に書かれたこと、そして軍人ではなく民間人として客観的に日本の軍隊を評価していること、そしてその時に日本国内で起きている変化を知らずに書いていることにより、よくある戦争日記とは一歩距離を置いた客観性を持っているという。

小松さんは日本の敗因を21ヶ条にまとめている。その15条から山本七平の解説は始まる。
15条 バシー海峡の損害と戦意喪失
これはなんだろうか、ミッドウェイでもレイテ戦でも沖縄戦でもなく台湾とルソン島の間のバシー海峡ではなにがあったのか。小松さんは徹底的に潜水艦で叩かれる日本の輸送船団を見送り、何度全滅させられても送り続けられる補給船、そして何度でも攻撃され沈められて殺されていく日本の兵隊と同胞たちを見ていた。「まるでベルトコンベアーのように」送り続けられた輸送船団、そしてその先には毒ガス室よりも効率的に殺戮が行われる戦場があった。このことを日本の指令本部はどのように認識していたのだろうか、という疑問である。バシー海峡では華々しい戦闘があったわけでもないのに何万もの日本人同胞が殺されたといい、証言者が殺され尽くされたため報道されなかったためその事実も葬り去られたという。できることはやった、と上司に説明するために司令部は出撃を命じた、というのが山本氏の分析である。

第1条には「精兵主義の日本軍に精兵がいなかった」と書かれている。これはなにか。
全日本を覆うばかりに軍国主義があったが、強力な軍隊がいたとは限らないのと同じに、精兵主義だからといって精兵がいるとは限らない、それはそのとおり。昭和の初めの常備兵力は17個師団、約30万人であった。しかし戦艦数はアメリカの5分の一、火力の分析によればアメリカの師団と同等の火力兵器を持っていたのは17個師団のうち1-2個師団であった。しかし、兵力数はと言われれば17個師団、30万人だと答える。これを山本氏は「員数主義」と呼ぶ。

日本的組織の秩序は権威により確立され、その権威は軍隊では暴力で裏付けられていた。この理由は山本氏の分析によれば文化の確立がなく思想的徹底がないためであり、人々はそれを意識せず学歴と社会的階層だけでプライドを維持していた。
第10条 日本文化に普遍性がない
第13条 独りよがりで同情心がない
現代の日本人には違和感のある記述であるがどうだろうか。外国人に対した時には、自国の文化を認識した上で相手の文化に基づく生き方や考え方を理解するのが普通に必要なコミュニケーションの第一歩であるはずだが、「大東亜の団結」というお題目を相手に理解させようとするとことから始めたのが東南アジアでの日本であった。普通の東南アジア人であれば「大東亜の理想」など理解できないため、日本の思想を教育しようとする、そこには相手の理解、というプロセスなどなかったのである。

第17条 国民が戦いに厭きていた
第12条 陸海軍の不協力
昭和12年7月の盧溝橋事件から昭和20年8月の終戦までの8年間、日本は戦争を続けていた。上海事変、日華事変、ノモンハン事件などという表現があるが、いずれも短い戦い、という印象を持つ。しかし戦争はずっと続いていたというのが日本人の感想である。厭戦、士気低下、無統制、上下不信、相互不信、壊滅と続いたのだがそれに陸軍と海軍の不協力が輪をかけたという。

終戦と知ったときに捕虜となっていたフィリピンの指揮官はどうしたのか。
1. 誰も驚かなかった、つまり規定事実だった。
2. 今の秩序を維持し責任を負うことなく特権だけは保持しようとした。
3. 私物の整理を始めた、つまり自分の所有物の確保をした。
4. 日本に帰ったときのことを心配し始めた。
5. 自分の判断ではなく上からの命令により降伏をしようとした。
指揮官たる立場の将校たちがこのように「小市民的価値観を重要視する態度」を明確に現し始めたという。おなじこの将校たちが戦争中は軍隊的価値観を口にしてそれを部下にも強制してきたのである。

こうした状況は現在の日本でも変わらない部分が多くある、というのが山本七平の主張である、いかがであろうか。


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