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意思による楽観のための読書日記

流転の海 第9部 野の春 *****

図書館で予約してから約一月半、ようやく借りられた、予約順位は6人目だったので一人あたり1週間で読んだことになる。完結巻は1966年から始まり、熊吾の脳疾患で締めくられる。その間、伸仁は大学に入学、房江はホテル多幸クラブに勤めて一人で生きられるようになるが、歳を重ねて弱っていく熊吾と人生の最後をともにすることも考え始める。伸仁の大学入学に必要な入学金は、京都の古物商に預けていた刀が売れた50万円で賄うことができた。熊吾が世話をしていたチョコレート職人の木俣は、カカオをふんだんに使った本格的なチョコレート作りに打ち込み、これを淀屋橋に出来たレストランに売り込む。そのチョコレートを食べた房江、伸仁はあまりの美味しさに驚く。伸仁はアルバイトを始めるが、それはストリップ劇場の照明係、日当に目が眩んでのことだが、房江は落胆する。

熊吾の妹タネの息子の明彦が結婚すると言うので、熊吾と房江は媒酌人を務め、房江は熊吾とよりを戻すことも考える。タネは娘の千佐子と一緒に、蘭月クラブから大東市住道のアパートに引っ越す。千佐子は私生児として生まれた鬱憤を晴らすような派手な生活をしていて、房江は不安を感じてしまう。房江は多幸クラブにタネの仕事口を紹介、忙しい毎日を送る。

熊吾は伸仁から阪神百貨店裏の一帯が開発される計画のあることを聞かされ、ビジネスのチャンスを感じ取る。伸仁は20歳になり、親子三人でお祝いをする。熊吾は息子が成人するまで育て上げるという決意が実現できたことを喜び、房江と喜びを分かち合い、親子三人で再び一緒に暮らそうと考える。

熊吾との関係が切れずにいた森井博美は、働いていた店の持ち主である沼津さち枝から、店の権利を老後の面倒を見る代わりに譲ってもらうことを約束する。木俣の本格的なチョコレートは熊吾が淀屋橋のレストランに売り込んだことで話が付き、共同販売するところまでこぎつけるが、熊吾はその帰り道、経験したことのない立ちくらみと記憶障害に襲われる。熊吾は千鳥町の中古車販売連合会を畳み、はごろもの経営に集中することを房江に伝える。

伸仁との話し合いの途中、熊吾は倒れ、緊急入院する。長年の糖尿病が悪化、脳軟化症も併発し、口もきけない状態となる。はごろもは廃業、房江と伸仁は長年住んできたモータープールの2階からタネのアパートに引っ越す。入院した熊吾の面倒を森井博美は一生懸命見る。

松坂熊吾は人を信じ、アイデアを思いついたらすぐに実行、信じた人に裏切られ、世話をした人たちに信頼され恩返しもされる。最終巻でも戦後の闇市で世話をして、その後出世した辻堂には「そんな人は知らない」などと裏切られる。女好きがこうじて房江を度々悲しませるが、房江は最後まで熊吾のことが好きだし、その生き方に惚れていた。多くの人を信じて助け、世話になって恩返しをしたかった人たちも残されたはずだったが、熊吾の葬儀に列席したのは14人だけだった。房江は馬車に乗った人たちが楽しそうに旅立っていくシーンを思い出すがそれが何だったのかが思い出せない。熊吾は房江と伸仁がウトウトしている間に亡くなってしまう。

このシリーズ、宮本輝の父、母、自分自身の物語であり、登場人物はたぶん数百人を越えていると思うし、挿入エピソードは数知れず、読んでいて松坂熊吾の人生を一緒に体験する気持ちになる。37年にもわたって、この長大な物語を書いた宮本輝は何を思いながら書いていたのか、同じような作家の父と家族の生涯を描いた加賀乙彦の「永遠の都」を意識していたと思うし、「流転の海」は多くの宮本輝作品の中でも、最高峰の作品であることも間違いない。図書館で予約して読んだ他の人たちはどのような感想を持ったのだろう。いずれの物語も、いつの日かもう一度読み直す日が来るかもしれない。

流転の海 第9部 野の春

永遠の都 全七冊セット


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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