意思による楽観のための読書日記

江戸開城 遠い崖 アーネストサトウ日記抄7 ***

幕末歴史を英国人外交官の日記と日本人記録から解説した歴史書である。、まずは東征軍を実質的に率いる西郷隆盛が考えていた徳川慶喜処分案。
1.備前藩へお預け
2.城あけ渡し
3.軍艦引渡し
4.武器引渡し
5.城内家臣向島へ謹慎
6.旧幕府への支援をしていた藩取り調べ
7.反抗するものは官軍がこれを鎮める
これに対して勝海舟が次のように回答。
1.慶喜公は水戸へ謹慎
2.城あけ渡しは田安家に委託
3-4.軍艦と武器は一部を引渡し
5.城内家臣は城外へ
6.旧幕府支援者の助命と1万石以上の藩の取り調べ
7.反抗するものは官軍により鎮圧
1-4は西郷案に対立する内容であった。
ここで英国公使パークスの圧力が西郷と勝に働いていたかという問題である。日記などによる検証では直接的な干渉は考えられないが、武力倒幕論の西郷に対し平和裏の政権移譲を促す無言のプレッシャーとなっていたのではないかと推測。

しかしサトウは西郷と勝海舟の江戸攻防戦の有無を決する会談を探知するために江戸に派遣されており、会談場所から遠くはない場所に居を構えておりながら会談を探知し得なかった。勝海舟とサトウがそれまでに個人的関係を構築出来ていなかったためとしている。しかし同時期中外新聞を発行していた旧幕臣の柳河春三とは密接に連絡し、大久保一蔵の建白書や会津藩の嘆願書などを掲載したのは良かった、などとアドバイスを与えていたという。そして中外新聞からはサトウが今まであまり接してこなかった佐幕派の情報を得ていたという。会津藩家臣による松平容保の助命嘆願書はその一例である。

旧幕府使節がフランスとイギリスを幕末に訪問したときに当地で日本人の通訳をしたのが英国人外交官のシーボルト、日本代表の向山がスタンレー外務大臣と会談した際には、慶喜公と4カ国代表が会談した際に慶喜公をどのように呼ぶか、ということが問題になった。パークス以外はHis Majestyと読んだのに、パークスはHis Highnessと呼んだ。スタンリーはHis Majestyは主権者だけに使用できる称号であると回答している。イギリスは鳥羽伏見の戦いの時点で、主権が薩長に移ったと考えていたのである。この訪欧使節団はフランス公使ロッシュの取り計らいであるが、フランス政府が旧幕府を支援するロッシュを解任するきっかけにもなっている。イギリスとの立ち位置の違いが好対照である。

勝海舟が幕末のある時点(1863年あたりか)で作っていたという有能な人物リスト、来るべき新政府要人リストとしてみればこれは面白い。この時点での故人も多く含まれているが幕府側家臣から学者、各藩で見所ある人物が入っていて、これをサトウが写していたというのも面白い。幕臣では岩瀬忠震、鳥居耀蔵、川路聖謨、山岡鉄舟、水戸からは藤田東湖、武田耕雲斎、儒学の佐藤一斎、斎藤拙堂、大橋訥庵、土佐では後藤象二郎、坂本龍馬、福岡孝弟、武市半平太、肥後の横井小楠、越前の三岡八郎、肥前の副島種臣、江藤新平、薩摩の西郷隆盛、大久保一蔵、小松帯刀、寺島宗則、長州の桂小五郎、伊藤俊輔、大村益次郎、井上聞多、高杉晋作などである。

イギリスの医師ウイリスは戊辰戦争のあいだ、高田、柏崎、新潟、新発田
、会津若松などで治療活動を行った。新政府はこの活動を高く評価、後にウイリスを新政府の医学学校教授に雇うことになる。ウイリスは新政府軍が勇猛果敢に戦ったことを褒めてはいるが、一方、会津側の捕虜の少なさを嘆いている。官軍からすれば捕虜になる前に死んでしまうのだ、というのが解説であるが、ウイリスには信じられない。死なずに住む命をなんとか助けたい、これがウイリスの考えであった。1869年末までが本巻の範囲である。

実に詳細な歴史の検証作業である。勝海舟や木戸孝允は詳細な日記を付けているのでアーネストサトウの日記との突合が可能である。日にちのズレ、太陰暦との照合などが面倒であるがいちいちそれを行っている。英国側からの証言であり従来にない視点を読者に与えてくれる。西郷隆盛と勝海舟に与えたパークスの圧力などは非常に面白い。ロッシュ解任の裏側も従来知り得なかった当時の欧州事情も記述されこの本の読みどころである。

江戸開城 遠い崖7 アーネスト・サトウ日記抄 (朝日文庫 は 29-7)
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