夏江は傷痍軍人でキリスト教徒の菊池透と結婚し洗礼を受ける。透の故郷である八丈島に二人で行って生活を始めるが、透の健康はすぐれず数ヶ月で東京に帰ることになる。時田利平の息子史郎は薫と結婚、披露宴には親戚一同が顔を見せる。脇敬助は陸軍大尉、注目を集める。弟の晋助は東大の仏文科学生、こちらは全く軍隊に興味を持っていない。風間姉妹の松子の夫は大河内秀雄、風間振一郎の秘書でありボディーガード、梅子の夫は速水正蔵、建築家。桜子は造船会社社長で27歳も年上の野本武太郎、醜い顔で金を持っている、この一点で桜子は結婚することにした。4姉妹の父風間振一郎は日満支石炭連盟代表理事であり、石炭工業界常務理事、代議士としても三期目である。披露宴に出席している時田利平はモルヒネ中毒がひどくなり、手をふるわせている。こうして結婚した史郎と薫、しかし、薫は本の虫、夫の面倒などみないことから史郎は薫と別れたいと考え出す。
悠次は糖尿病が悪く時々眼底出血して視力を下げる。病気をしている間に女中に手を出して子を作ってしまうが、流産。妻の初江は晋助と関係を持ち、末子のバイオリンの才能があるといわれている央子は、実はバイオリン好きの晋助と初江の子である。実に複雑な男女関係である。時田病院の事務長平吉は利平の妻いとと関係を持っているらしい。若い医師や看護婦が戦争にかり出されていて、病院職員は年寄りばかりである。しかし、戦争の拡大で、利平が発明した皮膚病の薬や真水蒸留装置などが軍隊に採用され経済的には栄えている。
昭和16年12月、日本はついに米英と戦争状態に入る。菊池透が懇意にしていたジョー神父が敵性国人として逮捕、併せて菊池も治安維持法で拘留されることになる。脇敬助、晋助兄弟も戦地に赴くことになる。夏江は徐々に迫りくる戦争の足音を感じ、初江や自分の不幸を思いながら聖書を手に取る。詩編84篇。「なんじの家に住むものは幸なり。その心シオン大路にあるものは幸いなり。かれらは涙の谷をすぐれども、そこを多くの泉あるところとなす」人間の最大の不幸は不幸を自覚できることだと夏江は思う。この章のタイトル「涙の谷」の出典元である。
この本の特徴は時代の様子を克明に庶民の目から捉えていることである。歴史の時間に習うような事件や出来事が実際に町ではどのようにして起きていたのかを登場人物の目でとらえている。「永遠の都」は通しで読みたい。
永遠の都〈3〉小暗い森 (新潮文庫)
永遠の都〈4〉涙の谷 (新潮文庫)
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