意思による楽観のための読書日記

サウスバウンド 奥田英朗 ***

上原二郎は中野に住む小学六年生、学校帰りに繁華街で友達と寄り道したり、クラスメートの女子の誕生日会に呼ばれてのぼせたり、銭湯の女湯を覗いたりと、普通にどこにでもいる都会の子供。二郎には父である一郎が理解できない存在、働いている気配を見せない父親である。一郎は誰からも普通の人ではないと言われる。ある日一郎の仲間というアキラおじちゃんが家に居候を始め、父親の逸話が二郎に教えられる。父親はフリーライターを名乗っているが、カストロとツーショットで写真を撮ったことがあるとか、沖縄米軍基地で戦闘機を燃やしただの、沖縄では大昔の英雄の末裔だという噂もある。「納税が国民の義務だというなら国民やめちゃおう」などと過激なことを言う、文字通りの元過激派にして琉球空手の達人という話。一郎は一部の人たちには尊敬される伝説の闘士であり、また公安からは今もなお怖れられている要注意人物であることを何となく知るようになっても、二郎としてはたいして父親の評価は変わらない。一郎は、二郎は学校へも行く必要はないと豪語、家庭訪問に来た若い女性教師には「あんた天皇制には賛成か」と詰めより、警察を相手に大立ち回りのあげく「国家の犬どもが」と罵倒。二郎や家族はそのような父親にいつも生活を振り回されている。二郎の一番の悩みは、脅しをかけてくる不良中学生カツ、この不良に対してはどうやって対決すべきか、ということであった。

母のさくらは実は四谷の老舗呉服店の娘、昔は「御茶ノ水のジャンヌ・ダルク」と呼ばれ、父と同じ反体制活動をしていたという経歴の持ち主。今はは喫茶店を切り盛りして、稼ぎのない一郎と家族を支えているのだが、実はさくらには逮捕歴がある。姉の洋子は職場の上司と不倫中であり、一般的な意味では結構変わった家族である。小学四年生の妹の桃子のみが「まとも」。そんな中、父親の一郎は、国民年金の督促のおばちゃんと戦ったり、学校に「修学旅行の積立金が高すぎる、おかしい」と訴えに行ったりして、二郎は困惑する。二郎は不良のカツに何度も「急所がひょいと持ち上がる」ような目に遭うが、最後には友達と協力、カツをやっつける。

さくらが、ある朝大事な話があるという。「我が家は、沖縄の西表島に引っ越すことにしました」。この一言で二郎たち親子は沖縄の西表島に移住することになる。二郎は友だちに満足な別れを告げる間もなく、姉の洋子を東京に残し、翌日には沖縄へ。石垣島の有力者のつてで、西表島の廃屋で暮らし始める。会社をやめた姉もやってきて同居をすることになる。そして一家が住みついた土地は、東京のリゾート開発会社が既に買収済みであることが発覚。この後半の西表島での一郎の活躍はなかなかである。そしてさくらもさすが元活動家という腹の座った面を見せる。

サウスバウンド、南へ向かって、最後に一郎とさくらは西表島より南の波照間島、いや多分沖縄信仰である「ニライカナイ」を目指して旅立つ。「ニライカナイ」は、海の彼方、海の底、地の底にあると信じられてきた楽園。南に、というのは既成概念に縛られない新しい所、という意味で使われている。南といえば、情熱・活力の象徴であり、暖かさ・明るさ、絶頂・頂点・ピークの象徴でもある。一郎とさくらが目指すところ、それは情熱をもって生きた時代を今も生きたい、というサウスバウンドなのか。
サウスバウンド 上 (角川文庫 お 56-1)
サウスバウンド 下 (角川文庫 お 56-2)
町長選挙 (文春文庫)
イン・ザ・プール (文春文庫)
空中ブランコ (文春文庫)
ガール (講談社文庫)
最悪 (講談社文庫)
邪魔〈上〉 (講談社文庫)
邪魔〈下〉 (講談社文庫)
マドンナ (講談社文庫)

読書日記 ブログランキングへ

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「読書」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事