意思による楽観のための読書日記

私が語り始めた彼は 三浦しをん ***

文学好きのアラサー女性が好むのではないかな、文章は素晴らしい、設定は暗め、男女関係のドロドロ、これを連作短編で、一人の浮気者の教授の家族や関係者が語る。藪の中。

教授の弟子の語りから始まる、。一体、先生は自分になにを押し付けて九州の学会なんかに行ってしまったのか。昔可愛がってもらった教授の奥さんに会いに行くが、そこには疲れた主婦が捨て鉢になって教授をなじる。

二人目は、教授がカルチャースクールで教えるうちに深い仲になった有閑マダム、都心に広い土地と邸宅を構える家族、その婿入り夫から妻の浮気を眺めている。

そして教授の息子、教授は女を作って家を出て行った。残った家族はバラバラになっていく。息子はバイクにのめり込んだ。そして事故を起こす。自分たちを捨てていった父だがそんなに悪い思い出はない。どんな女と一緒に暮らしているのかと覗きに行った。なんという普通の女なんだ。子供も娘が二人いて、こんなことのために家庭を破壊していったのかと。

そして、教授が新しく作った家族の女の連れ子となる娘、彼女は大学生になり一人で暮らしているが、彼女を見張る男がいる。男を雇ったのは大学生の母、教授の新しい女は、教授が自分と同じような別の女を作るのではないかと疑心暗鬼だったのだが、自分の娘が女になった時、娘までも疑うのだった。そして大学生の娘は自殺する。

教授の新しい家族のもう一人の娘と結婚するという化学の先生、フィアンセの妹が原因不明の自殺をした、その原因を調べて欲しいと頼まれる。男は昔世話になったヤクザに調査を依頼する。

そして、最初に登場した教授の弟子が、自分も教授になっていて、自分の先生である女たらしの教授が亡くなったことを新聞で知る。そして教授の告別式に九州まで行ってみる。大勢の参列者の中に教授に関わりのあった女達がいるのを発見する。そして、教授が残した家族の女は、一体誰が参列してくるのかを目を皿のようにしてみているのを見つける。いったい、この女はいつまで嫉妬しているのだろう。

三浦しをんの文章は流れるようだ。
「私の心は、何万年かけて生成された氷柱に貫かれたかのように痺れた。憎しみも、恨みも凍結され、絶対零度で細胞を灼かれる痛みのみが、遠い宇宙から降り注ぐ電気信号のように私の神経にかそけく届く。」
「いま私のうちにあるのは最前から私を見据える彼女の目のような黒々として深い虚無の穴だけだ。信頼が二度と芽吹くことのない根枯れした木に、愛をさえずる鳥の姿が見えるわけがない。」

このような紡ぎ出される文章で織りあげられた布切れが、最後には一枚の絨毯のように綺麗に模様がつながる短編連作小説。アラフォーやアラフィフにもお好みの読者がいるかもしれない。


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コメント一覧

三島涼子
黒いしをん
三浦しをんの黒小説。光などがこの系譜でしょうか?初期の月魚も同じフィールドですね。爆笑エッセイから悪意の塊まで、三浦しをんは本当に振り幅が大きい!
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