意思による楽観のための読書日記

春朧(下) 高橋治 ****

坊津の元継の所に行っている史朗はその地がよほど気に入ったようである、知覧には帰ってこない。沙衣子の父元則は一人で知覧に戻ってきた沙衣子に、姑との確執で戻ってくるなら知覧に戻ってきても良い、日野別荘の権利は史朗に贈与すること、しかし沙衣子が何をしたいのかをはっきりさせろ、と言葉少なではあるがはっきりと伝えた。そんな親子の所に長良から長男の恒之が訪れてきた。用向きは「日野一統であり鵜匠である洋平と結婚して、日野別荘を経営してくれないか」というのだ。これには元則も激怒、恒之は帰っていった。結局史朗の夏休みの間中、知覧に滞在した沙衣子だったが、今度は修善寺の女将、洌子の勧めでシンガポールに旅行、洌子は足を骨折していけなかったのだが、沙衣子は一人で旅に出て、旅先で航空会社のパーサー梨香子と知り合う。沙衣子は梨香子に宗野のこと、長良の旅館のことなどを打ち明ける。梨香子は宗野が暮らしたというアルルに電話をかけ、アルルには既に彼はいないこと、スイスに移り住んだこと、その移り先などの情報を沙衣子に提供した。

沙衣子はスイスを訪問、そこで宗野が師と仰いだ男性、手がけたシャレー(別荘風の木造建築物)を見る。そこで日本にいる宗野の勤め先、住所がわかる。沙衣子はその勤め先の秋田、そして角館を訪れ、ついに角館の山車祭りで宗野と再会、田沢湖で3日を共にする。宗野には、長良の旅館のことを相談、時間をかけて構想を練りたいと言われる。山中温泉の紺野、修善寺の洌子、建築家の剣などの支援を得て、恒次郎から相続した山に木造建築で別荘風の旅館「日野別荘」を建てることになる。梨香子はこの間、パーサーを辞職、沙衣子に代わって日野旅館の女将として日野別荘を切り盛りする。結局、沙衣子は宗野と結ばれそうになりながらも、建築施主と建築家の関係を崩さず、結ばれることはない。

高橋治の恋愛小説なのだが、手が込んだ筋書きである。修善寺、長良川、山中温泉、シンガポールのティオマン島、知覧、横浜、角館、スイスのシャトー・デーとTV映像にしようとすれば相当なロケ費用がかかりそうな展開である。沙衣子が旅先で知り合う人たちが、あまりに都合よく沙衣子が捜し求めるものを提供してくれるのでちょっと白けるほどではあるが、まあ、お話であるのだから目くじら立てるほどではないだろう。現実問題であれば問題がある長良川の旅館経営には多大なる影響を与えるような若女将沙衣子の長期不在である。姑の松乃でなくても怒るであろうほどの沙衣子の優柔不断だと思うのだが、これも物語では問題にならない。世界中を飛び回ってもお金にも困らず、一人息子の史朗が不良になるわけでもない、最後は意地悪な姑の松乃も梨香子に洗脳されて改心し、沙衣子の見方になってくれるという好都合なストーリーである。しかし、読後感は悪くないのは、登場する観光地、日本旅館もてなしの心あるべき姿、日本のよさなどが琴線に触れるせいであろうか。
春朧〈下〉 (新潮文庫)

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