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意思による楽観のための読書日記

本願寺はなぜ東西に分裂したのか 武田鏡村 ***

分裂したのは徳川家康が江戸幕府を開くことになる1602年に、家康のブレインであった本多正信が、浄土真宗という一大勢力を二つに分けておくことが得策、というアイデアを授けたから、というのが通説。秀吉が13代准如の時代に与えた土地が現在西本願寺がある堀川。准如と宗主を争った教如に家康が与えた土地が東本願寺がある烏丸である。それ以来、真宗本願寺派と大谷派として両立し続けている。

その二人は兄弟で兄が教如、弟が准如、二人の父が12代顕如、母は如春である。二人の不和は信長による石山本願寺攻めに遡る。従来、真宗は親鸞聖人の教えに従い争いは避け、我慢を重ねてでも犠牲者を出さないよう隠忍自重を続けてきた。これが先代証如から顕如へ伝えられていた教祖の教えでもあった。しかし信長の執拗な天下取りの野望の前に本願寺勢力が結集、その後顕如率いる本願寺勢力は信長と10年に渡り対立、戦いを続けた。しかし、次第に信長の勢いに耐えきれなくなってくる。その時期に撤退を決意したのが顕如、徹底抗戦を主張したのが息子の教如であった。顕如と教如の対立で間に入ったのが如春であったが、この時には、石山本願寺での徹底抗戦を主張する教如を石山に残し、顕如とともに鷺森に退く。そして徹底抗戦してきた教如もついに信長の前に敗れるが、信長は本能寺で光秀に誅殺され、秀吉が天下実権を握る。

顕如率いる本願寺勢力は、雑賀の勢力と手を組み、当地に本願寺を設立する。石山を逃れてきた教如は父顕如との関係修復を願うが簡単には受け入れられることはない。しかし、顕如の死により教如が顕如を継いで宗主となる日が来る。しかし如春は顕如の生前から、次男の顕尊には興正寺の宗主というポストを用意し、三男であった准如に次期真宗宗主を引き継がせたいと考えるようになっていた。秀吉が有馬で静養している時に、如春は顕如からの「譲り状」を持参、教如排斥、准如を宗主の座に据える、という依頼を秀吉に行った。その際、教如の正妻も同伴し、教如の女性に対する行儀が悪いという言いつけまでしている。「譲り状」については偽物だったという説が濃厚。秀吉は、その後は本願寺の勢力が勝手な動きをしないため、鷺森から貝塚に、そして大阪城の足元である天満へと本願寺を移転させ続ける。

真宗はもともとは一向宗と呼ばれ、15世紀から16世紀にかけて越前で一向一揆を起こし、百姓による統治を百年も続け、その主体的な働きをしてきた。当時の真宗宗主蓮如はこうした動きと一線を画し、真宗は一向宗とは別物であるとの主張をしてきた経緯がある。一向宗のこうした動きに信長、秀吉、そして家康も神経を尖らしたのは当然のこと。こうした武士勢力に抗い続けたのが本願寺勢力だったはずだが、顕如と教如の対立は、武家勢力の前にその行く末までも委ねる結果をもたらす。秀吉はついに、天満の本願寺を京の都にあった聚楽第の足元、堀川の地に本願寺を移転させる。

秀吉は堀川への本願寺移転と同時に、信州善光寺の本尊仏を本願寺に移転させるが、その祟りなのか、移転法要の前日に急逝した。祟りを恐れたねねは仏を善光寺に返却する。その時には如春もこの世にはなく、堀川本願寺の宗主は准如、教如は敷地内に庵を構えるだけの存在となっていた。関ヶ原の戦いでは、本願寺もこの東西勢力の戦いに巻き込まれる。家康のご機嫌を伺い、うまく取り入ったのが教如で、本多正信のアドバイスはこの状況で発生した。家康は親鸞本人作という厩橋(前橋)の妙安寺にあった木造を取り寄せ、東本願寺の本尊とさせた。それ以来、江戸でも本願寺派の増上寺と大谷派の浅草本願寺が両立、現在まで両立は続いている。明治維新後は融和が図られているが、根本解決はしていない。争い事を好まなかった教祖親鸞は多分こうした事態を好んではいないはずである。本書内容は以上。

我が家の宗派は真宗本願寺派であり、東西本願寺対立の歴史を時々は聞いていたが、その本当の歴史や経緯は複雑で何度聞いても頭に残らないので本書を手にとって見た。そもそも教えに違いはなく、戦国から江戸時代の勢力争いであるからして、親鸞聖人の教えにも反する当時の動きには東西いずれにも正当性は認めにくい。現在はあからさまな対立は表面化していないと言うが、お金と権力のお話であるからにして、本当のところはどうなのかは信徒であってもわからないし、今回もこの話の顛末は記憶に残らないかもしれない。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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