意思による楽観のための読書日記

モンスター 百田尚樹 ***

美女に変身した38歳女性の悲恋物語で、ポイントは美容整形の描写。

瀬戸内海の田舎町に絶世の美女、鈴本美帆が新装開店したレストランオーナーとして現れた。小さな町では、美人のレストランオーナーを一目見たくて開店したフレンチレストランは大繁盛した。美帆はどうみても30歳代前半にしか見えず、人によっては20歳代だと思った。絶世の美女美帆はどこから来たのか。実は美帆は湖の街で生まれて育った少女田淵和子だった。小さい頃はブスと言われ続け、劣等感にまみれて育った。不遇の子供時代、学生時代をこの街で過ごし、好きになった青年英介の飲み物にメチルアルコールを入れるという事件を起こしてこの街を出た。

東京の小さな工場で働く和子は少ない給料をためて最初に見難い鼻を整形した。ダンコっ鼻はツンと尖った高い鼻に生まれ変わった。他の部品は変わらなくても美帆は高くなった鼻に見とれた。お金さえかければ美しくなれるんだと思った。そして次には一重のまぶたを二重にした。これでも目の印象はガラッと変わった。工場の同僚は和子の顔が変わっていくのをしらじらと見ていた。そして和子は引っ込み思案で臆病だった自分が、顔を変えることで自信が持てるように変化していくことを感じていた。顔が綺麗になれば自分に自信が持てる、もっと綺麗になれば初恋の彼氏も自分の方を向いてくれるかもしれないと思った。

アジア人の目頭は西欧人の目頭とは異なり蒙古襞とよばれる膜があり、それが顔の印象を東洋人に見せているのだという。和子は蒙古襞を切除してほしいと美容整形を行った。これでも大きく顔の印象は変わった。そして左右の目の間隔、目の横幅と間隔とのバランス、目尻の角度なども美人と言われるバランスに変えた。目が変わると顔の表情は一変したが、口と歯並びが顔の下半分を台無しにしていると思った。そして、歯を全部抜いてインプラントにして、前に突き出ていた口蓋全体を引っ込めた。そして顎のラインの骨を削ることで和子の顔はすっかり変わり、世に「美人」と言われる美しい女性の顔に変わったのであった。美人は平均的な顔、和子は平均的な顔になり、彼女は絶世の美女と呼ばれるようになった。美人はなににつけても得をすることを知った。また、ブスと言われた時には目があうことがなかったすれ違う男性とよく目があうことも知った。男性はなんのかんの言っても、顔の綺麗な女性が大好きなのだ。外見より中身だ、などと言っている男ほど見栄えにこだわった。

解説者に中村うさぎが書いている。百田尚樹は美容整形の知識は中途半端ではないと、美容整形では大金を使ったという中村うさぎも感心するほどであるという。そこまでリアルにならないとこうした美容整形で美人になる、などというお話は荒唐無稽なチープな物語になってしまう。

和子が鈴村美帆と名前も変えて帰ってきたのは、初恋の青年英介に美しいオーナーに会いに来てほしい、と願ったからだった。なんという乙女チックな夢だろう。一年という期限を区切ってのことであったが、果たして英介はレストランに妻と一緒に現れた。その青年は立派な中年にはなっていたが、初恋時代の面影を残し素敵な中年男性になっていた。美帆は彼に秋波を送り、かれも美帆に見とれた。当然、美帆が見にくかった和子であるとは気がつくことはなかった。英介は美帆に夢中になり、妻と別れても美帆と一緒になりたいと言うまでになった。美帆も長年の夢がかなったのだが、長年の無理がたたって病弱な体になっていた。そして、英介の腕の中で死んでしまう。しかし英介はその場から逃げ出した。結局は心の底から美人になった美帆を愛することはなかったのかもしれない。それでも美帆は満足して死んでいった。それだけが美帆の生きがいだった。


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