アレックス・カーの著作を読むと気づきを与えられて考えさせられる。「美しき日本の残像」は京都生まれで京都好きが実は古いもの嫌い、について教えられた。「犬と鬼」では日本の伝統的な景観(犬)を見出すことは難しく、公共工事で見にくくなってしまった奇抜な景観(鬼)はいとも易しく目につく、と指摘された。いずれも、明治維新以降の経済発展、とよばれる国家的変化がもたらした産物であり、渡辺京二さんの名著「逝きし世の面影」でも指摘されたこと。
日本の読者にはもう十分指摘はした、ということだろうか。アレックス・カーの琴線に触れる日本の美は、平安から鎌倉時代に、その時作り出された見事でしかし人工的な庭園や寺社の借景として最も映えていたような自然と景観である。決して桃山・江戸のような粋、はんなり、雅、金屏風や豪華な彫刻物が光り輝く美しさではない。本書では、「もののあはれ」を心に抱きつつ、そんな日本にもまだまだ多くの素晴らしい景観や場所が残されている、ということを教えてくれる一冊。芦田愛菜ちゃんが木村拓哉に教える「いとをかし」、あなた本当に分かっているの?である。しかし筆者の思いは複雑。良い場所を教えれば、そこには大勢の観光客がドット押し寄せて、素敵な場所が台無しになるさまを散々見てきた。芭蕉が「おくのほそ道」で記した旅の軌跡は、観光案内ではなく、良い場所でこんなことを感じたよ、という喜びを伝える日記だった、それと同じことをしてみたい、というのが本書。
見事なカラー写真は写真好きな著者の手によるものであろう。日吉大社、慈眼堂、石山寺、羽後田代、阿仁根子、能登半島、八頭町、智頭町、奄美大島、萩、三井寺、南会津、青ヶ島、三浦半島、それぞれの場所で、自らの来し方と場所が関係する思い出を手繰り寄せながら、「鬼」はあえて語らず、「犬」の良いところだけ抜き出して紹介している。きれいでまた読みたくなる一冊。