
私にとってボッティチェリは足である。足の指である。「ボッティチェリの足」っていう画集があったら即買う。ヴィーナスの誕生もプリマヴェーラも結局一番じっと見てるのは足(指)だ。今回も足を見に上野へ。やっぱり足は良い、「シモネッタ」も「書物の聖母」も師匠フィリッポ・リッピも良い(赤や青に染めた紙に描いた素描が特によかった)、弟子フィリピーノ・リッピはあんまりだった、などあるが、今回の収穫ははっきりいってただひとつ、「アペレスの誹謗」だ。
古代ギリシャの画家アペレスが描いたという(が、現存しない)「誹謗」を、ボッティチェリが文章を基に復元したこの作品は、誹謗・無実・不正・無知・猜疑など様々な概念が擬人化されて描かれている。無実の髪を引っ張る誹謗の表情、不正の耳元で何かを囁く無知と猜疑の官能性。真実も悔悟もあまりに無力に見えてしまう悪の魅力。たまらん。
この絵はメディチ家がフィレンツェから追放され、ボッティチェリが修道士サヴォナローラに心酔しだした頃の絵だから、悪の魅力を描いたものではないはずだが、個人的には悪の魅力しか伝わってこない。私の好きな足も存分に味わえるからなおさらたまらん。今までプリマヴェーラだと思っていたが、ひょっとしてボッティチェリで一番好きな絵なんじゃないか?
隣でやっていた盆栽展でオバチャンたちが一心不乱にデジカメで盆栽を接写してる風景をボッティチェリ展の出口付近で見ることができる。

ボッティチェリ展
東京都美術館 企画展示室
会 期 2016年1月16日(土)~ 4月3日(日)
時 間 9:30 ~ 17:30