これを読むまで著者について全く知りませんでした。
が、谷口ジロー、大友克洋、高野文子がメッセージを
寄せていると聞いちゃぁ読まないわけにはいかない。
ニューウェーブ世代の旗手として大友克洋・高寺彰彦・山本おさむらとともに活躍した
白山宣之の遺作集。(amazon)
5作からなる短篇集。
「陽子のいる風景」の冒頭、
父と娘の朝の出勤風景を淡々と描いた一連のコマを見て
この豪華メンバーがメッセージを寄せている理由がわかってしまった。
(窓からの風で捲れる文庫を読む通勤バスの娘が決定的だった。個人的には。)
体育館内の空気感がものすごく良く出ている「ちひろ」とともにこの2作品は
所謂小津的と言われる作風。
その他、平田弘史の影響を受けた「大力伝」も冒険活劇「Tropico」もおもしろく読んだが、
個人的ベストは「Picnic」。
農民が食いもん飲みもん持ち寄って見晴らしの良い所から関ヶ原の戦いを見物しようという話。
まずこの発想が新鮮。
そして描かれてる人達が本当に良い。
侍に憧れる子供、それを馬鹿にする子供。
首を斬り取る瞬間を見て目がハートになる娘達。
どっちが勝つか賭け始める男達。当然モメる男達。
「ほれ、キレイだべ?」と泣く赤子に戦を見せる母親。
取り敢えず飲みたい親父。
よくわかってないが長生きして良かったとキセルを吸う爺さん。
これらの人間がカラッと描かれていて読んでて心地良い。
天下分け目の大戦がこんなにのどかに描かれた創作物って他にあるんだろか?
晩年の病床で、寡作だった著者が夫人に言った言葉が印象的だった。
「俺達は新しいものが次々と出てくる時代に育ったから、創りだすものは、自分も含めて誰も
見たことの無いものじゃなくちゃいけない、って思ってた。
だけど、そうじゃなくてもいいんだ、って解ったんだ。受け取ったものを、自分なりに消化
して、作り出せばそれでいいんだよ。どんな芸術だってそうしてきたんだよな。」
追記:白山宣之の
娘さんのブログというのを発見した。
氏が黒澤明の撮影風景を取材したものや未完作品の表紙イラスト等が載ってる。
これがまた、イイ…