Whippet Tenny

犬なのに犬でない、不思議な犬との生活です。しかしフィールドでは、短距離最速を誇ります。

ラルフのこと

2018-12-09 17:37:48 | Weblog
ここ数年 お祭り広場で一緒に走った犬が虹の橋を渡っていくことが増えた。

寂しい限りである。


話を聞くと夫々の犬には、夫々の犬の物語があることが分かる。それは十有余年という

人間の一生から見たら決して長くはない犬生に於いて、しっかりと足跡を残し飼い主や

家族との深い絆を結んだ証であると思う。


ここに今から30年近く前、生後4か月で虹の橋を渡っていったあるウィペットの子犬の

物語がある。この物語は元々はテニーのホームページに掲載されていた。ところがその

ホームページがプロバイダーの都合によりサービス打ち切りとなってしまった。

そこで改めてこのblogに掲載しておこうと思った。その子犬が我が家に来たことによって、

テニーに繋がり、それが千葉組の誕生→CLCCへの発展へと繋がって行ったからである。



■出会い
実はテニーは我が家にとって、2代目のウィペットである。
先代は平成2年の暮れに、保健所の里親制度によって我が家に来た。

保健所に行くと、沢山の日本犬系のムクムクとした子犬の群れから、1頭だけ離れて小さなケージに入れられている犬が居た。
両手で抱き上げると、太いソーセージに細長い手足をつけたような、何とも奇妙な格好でダラーンとしている。およそそれまでの
私の中の子犬の範疇に納まらない、変わった姿形であった。

保健所の人がウィペットという犬です、競争犬ですよと教えてくれた。生後3ヶ月位だという。「大きくなるんですか?」と私。
「いや、いや。中型犬です」と言って、犬図鑑を見せてくれた。見ると胸が深く、ウェストがくびれ、手足が長く格好が良い。
家内に「これに決めよう」といって、貰うことにした。


■命名
ダンボール箱に入れ、車の後部座席において、つれて帰ってきたが、途中ワンともクウとも言わず、ただプルプルと震えていた。
「大人しい犬なんだな」これが第一の印象。

環境に慣れるまではそっとしておいて下さいと、保健所の人に言われていたので、ダンボールの箱に入れ、玄関の端に居場所を
作ってやった。本当に大人しい犬で、鳴くことを全くしなかった。そこで勇ましい名前にしようと家内が言って「ラルフ」と名付けた。

ところが4,5日して、近くの空き地に連れ出した時から、印象が一変する。とんでもなくすばしっこい、走るのが速い、速い。
コロコロとした子犬の雰囲気は全く無く、一直線に飛んで行き、そして突然方向転換する。これが競争犬なのかと、そのスピード感に
シビレた。早く大きくなって、広い公園に連れ出し、思い切り走らせてみたい。期待が高まった。

■昭和54年以来仕事でお付き合いのある世良さんが 想像で書いてくれたラルフとテニーの絵


ラルフとテニーが一緒にいたことはない。この絵を見て私は宗教画がなぜ生まれたか何となく理解した。


■発病
しかし、年が明けて、1週間ほどした頃から、鼻水を垂らし、食欲も無く、元気が無がなくなった。風邪でも引いたかと、
それまで外飼いをしていたのを、家の中に入れてやった。それから2、3日した頃の朝、突然背中をまるめ、口を大きく広げ
痙攣した。ものを吐くのかと思ったがそうでもなかった。しばらくするとまた同じ動作。不気味な予感がした。丁度その日は
私も疲れていて会社を休んでいた。早速獣医さんの所につれて行った。「ジステンパー」の可能性が有ります。ドキンとした。
小さい頃家に来たばかりの秋田犬の子犬をジステンパーで亡くしたことがあった。不治の病。

この痙攣は1日に何回か周期的に起き、そしてその間隔も短くなっていった。「間違い有りません。ジステンパーです」と
獣医に宣告された。「治るんでしょうか。」期待を込めて聞いたが、「難しいです。治っても後遺障害が残る可能性があります」
と獣医。悄然として家につれて帰った。ともかく保健所に連絡しよう、同じ頃保健所にいた子犬たちが感染しているかも知れない。
ところが保健所の対応は全く予想に反したものだった。「なんだったら、内で引き取りますよ。」「で、どうするんですか」
「処分します」ショブン?何てことだ、ふざけるな、何があっても最後まで面倒見てやらぁ~。憤然として電話を切った。


■闘病
しかし積極的な治療法は無かった。点滴とせいぜい高栄養の食事をさせるしかなかった。それでも夕食の時間になると、
寝床からキッチンまで這い出してきて、テーブルの脇にきちんとお座りし、オネダリをする。その健気な姿に、誰もが悲しくなった。
家中で一番泣き虫な長男は、自分の茶碗に大粒の涙をポロポロとこぼしながら、その飯をそのままかきこんでいた。

だが、まだトイレの躾も出来ていないジステンパーの子犬を面倒見るというのは、生半可なことではなかった。発作が起きた時の状態は、
だんだん酷くなっていった。家の中を全速力で走り回る。それが夜昼を問わずおきる。すると家内が毛布を持ってラルフを追いかけ、
うえから抱きかかえ、「大丈夫よ。怖くないからね。よしよしラルフは良い子だね」と宥める。すると最初はぶるぶると震えているのが、
しばらくすると静かになる。それの繰り返しであった。見かねた獣医が、これに入れておきなさいと言って、バリケンを貸してくれた。
発作がおきると、そのバリケンジがゴトゴトと揺れた。中には病気のラルフが入っている。夜中にその音を聞くのは、不気味であり憐れであった。

■そして
それから1週間ほどすると、自力で立つことも食事を取ることも出来なくなってしまった。目をつぶったまま、かすかに息をしている
だけであった。獣医に見せると「これ以上治療をしても、苦しむだけですよ」と治療の打ち切りを進められた。矢張り決断する以外に無いのか、
しかし、このままここで別れをするのは、なんとも忍びない。子供たちにもきちんと説明し、別れをさせてやりたいと思った。獣医にその旨を告げ、
家に連れて帰った。子供たちに、事情を説明すると、堰を切ったように泣き出した。なかでも犬を飼うことをねだった、長女が一番ショックを
受けたようだった。

子供たちをなだめた後、風呂に入れてやった。病に冒されながらも、僅か1ヶ月の間に、ラルフは確実に大きくなっていた。だが最早体に力は
入らなかった。自然と涙が流れて止まらなかった。

そして車に乗せた。私が運転し、家内が助手席に座り、その膝の上にラルフを横たえ病院に向かった。末の娘がどうしても一緒に行くと言って
乗り込んできた。ところが普通は10分少々で着くところが、夕方の渋滞にはまり込んで、なかなか車が進まない。イライラするなかで
時間が過ぎていった。と、突然ラルフが「ワン、ワ~ン」と2度大きく吠えた。ラルフが大きな声で吠えるのを聞くのは、私はそれが始めてであった。
「どうしたのラルフ。大丈夫?」と家内が声をかけた。そして突然「あっ、心臓が止まっている」と叫んだ。ラルフの胸に手を当てた。
確かに鼓動がしない。それまで弱々しくても、コトコトと動いていた、心臓の感覚がなくなっていた。兎も角獣医に見せよう。病院へ急いだ。

病院へ着いて、獣医さんに見せたところ、矢張り既に言切れていた。「残念だったですね。でも最後を見とれて良かったですね」と声をかけてくれた。
最後? では、あの泣き声は、今わの挨拶だったのか? 僅か4ヶ月の子犬が、僅か1ヶ月しか家にいなかった子犬が、一番世話を焼いてくれた人に、
きちんと暇乞いをして死んでいったなんて。犬は3日世話を受けるとその恩を忘れないと言うが、全くその通りだった。悲しさとそれ以上の愛おしさが
猛然と湧き上がってきた。

■告別
別れの挨拶をきちんとして行ったラルフに対しては、それなりのことをしてやろうと思った。またそうでもしないと気持ちを落ち着かせることも
出来ないと思った。色々と調べた結果、ペットを火葬し納骨させてくれるところが有る事を知った。そこはなんとラルフを貰ってきた、保健所の
隣だった。我々一家5人はラルフの遺骸を車に乗せ、そこへ向かった。その道は僅か1ヶ月前にラルフを連れて帰ってきた道だった。
社内は無言だった。

火葬場の炉の前には、小さな祭壇がしつらえてあった。一人一人が1本ずつ線香をあげ冥福を祈った。5本の線香の煙が静かに流れていった。
と、突然ゴォーッと炉が鳴った。ラルフの遺骸を焼く炎の音だった。めったに泣くことをしない末の娘が、ひとしきり大きく啜り上げた。
この炉の音と娘のすすり上げる声は、今でも私の耳に残っている。
30分程でラルフは骨になった。その骨は両の手のひらにスッポリと収まってしまう小さな骨壷に収められた。

この僅か1ヶ月のラルフとの生活が、それまでの私の犬に対する認識を大きく変えた。きちんと世話をしてやると、本当に家族の一員となる。
そして走らせることが出来なかった、ウィペットという犬への憧れが強く残った。


■エピローグ
平成3年の1月にラルフを失ったことがまるで切っ掛けのように、その後市原家の生活は暗転した。

平成4年8月には私が透析生活に入った。当初は腹膜透析を行ったが、これが全くの大失敗で状態が安定せず毎年夏になると入退院の
繰り返しであった。それと前後し私が社長を務めていた会社がバブル崩壊のあおりを受け倒産してしまった。

腹膜透析を血液透析に切り替え、仕事を立て直し、生活を再建し巡行飛行に戻すのに10年の月日を要した。

そしてラルフの死から12年後、念願だったウィペットの子犬を我が家に迎えた。テニーである。



■当家に来たばかりの頃のテニー


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