ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

コンクリート・ユートピア

2024年06月09日 | ネタバレなし批評篇

一棟だけ奇跡的に倒壊を免れた皇宮マンションの入口にバリケードを築いた住民側と、謎の地殻変動によって全てを奪われたその他の人々との押合いへし合いをご覧になって、団塊世代の方なら間違いなく60年代当時の安保闘争を思い出されたのではないだろうか。日米防衛に関する相互協力を柱とした安保条約改定をめぐって、大学生たちと当時の岸政権側についた警察が激しい闘争を繰り広げた一連の事件である。

本作はあくまでも韓国映画だけに、80年生まれの監督オム・テファ曰く、本作は“コロナ禍における自粛警察”をモチーフにしているらしい。持つ者vs持たざる者の住居や食料を巡る醜い争いは、観る人によって様々な寓意をそこに当てはめることができるだろう。舞台となる皇宮マンションは、韓国のランクでいうと丁度中くらい、タワマンに住むセレブたちからは普段“ゴキブリ”と呼ばれ蔑まれていたのである。

しかし、世界が滅亡するほどの地殻変動によってその立場は一気に逆転してしまう。零下20℃の極寒を避けるために皇宮マンションで食料や暖房を仲良く分けあっていた人々だが、備蓄食料が底をついてくると、マンションの住民が次第にナチス化していく様が実にリアルに描かれているのである。自らの疚しい過去を隠蔽するため、さらなる強権を発して専制化していくリーダーをイ・ビョンホンが熱演しているのだが、そのカリスマ性がどこぞの国の大統領に重なった方もきっと多かったことだろう。

そのイ・ビョンホンが演じるヨンタクと対照的なキャラとして登場するのが、心優しき公務員ミンソク。それを演じんるのがパク・ソジュンてあり、その幼妻ミョンファ役のキム・ボヨンと共に、ビョンホンに負けじと存在感を発揮している。両親を早くに亡くしているミンソクは、若くして安定した家庭を持つために公務員となって家を買った経緯があり、どこか人生を達観している儚さが漂っているのだが、悲しいことに次第にヨンタクの洗脳に染まっていってしまう。

私は、コロナ禍のショック・ドクトリンにより、新自由主義者に乗っ取られたアメリカに次々と既得権利益を取り上げられていく日本の勝ち組保守層が、本作の“ゴキブリ人間”たちに見えてしょうがなかったのである。大金を払っても欲しいものが手に入らなくなった時、真っ先に“凍死”していくのはこういった上級国民であり、それをゴキブリのように排除していく新自由主義者たちも内紛によっていずれは滅ぶ運命にある。“天地がひっくり返った”下克上マンションで最後に生き残るのは、何の偏見もなく持たざる者に分け与えることができる徳の高い人間たちなのではないか。竹中平蔵や河野太郎、孫正義ら日本の新自由主義者たちに、是非とも観てもらい感想を頂戴したい1本である。

コンクリート・ユートピア
監督 オム・テファ(2023年)
オススメ度[]


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