Takahiko Shirai Blog

記録「白井喬彦」

日韓首脳会談、対立の溝埋まらず

2005-06-21 06:46:17 | 国際
毎日新聞
日韓首脳会談: 修復の道のり険しく 歴史認識の溝際立つ
2005年6月21日 2時28分

 日韓国交正常化から22日で40周年を迎えるのを前に、歴史認識で関係が険悪化する中で行われた20日の日韓首脳会談。焦点の靖国参拝問題をめぐっては、韓国の盧武鉉(ノムヒョン)大統領が「歴史問題の核心」と指摘したのに対し、小泉純一郎首相は「不戦の誓い」を強調するのみで根本的な対立はとけなかった。日本側が「国立追悼施設の建設検討」と「歴史教科書の共同研究」という歴史カードを切って関係改善の布石を打ったが、韓国側の態度は硬く、修復の道のりは険しい。【ソウル高山祐、堀山明子】

 ◇日本 歴史カード効かず

 盧大統領「小泉首相は新たな追悼施設の建設に対し、日本の国民世論などを考慮して検討していくと約束した。失礼した。(事前に外交ルートで)調整された文章では『検討する』だった。私は『約束』という言葉を間違えて言ってしまった。修正する」

 首脳会談後の共同記者発表。盧大統領は日本側の切り札である「新たな追悼施設の建設検討」について、自らの発言を取り消すことで日本側への不信感をのぞかせた。

 これに対し、小泉首相は「韓国国民の過去をめぐる心情を重く受け止める。日本が過去の問題で反省すべきは反省し、未来に向けて率直に対話することが極めて重要だ」と抽象的な言葉で未来志向を強調した。

 韓国側の要請により両国の対立が浮き彫りにならないよう、記者からの質問を受けない方式で行われた異例の共同発表は、両首脳のズレが浮き彫りになる形で約25分間で終了。この後、1人で日本人記者団の質問に答えた首相は「追悼施設の建設検討」は事前に外交ルートで合意を確認していたため、会談では一切出なかったと説明した。

 外務省は事前の調整で「『日中』のように会談で激しい口論になれば日韓関係は完全に終わってしまう」(政府筋)と危機感を抱き、韓国外交通商省と打開案を探ってきた。その結果、苦肉の策として見いだしたのが、「無宗教の国立追悼施設の建設の検討表明」と「日韓歴史共同研究での両国歴史教科書の記述の研究」を打ち出すことで、「盧大統領の批判を極力抑える」(政府筋)ことだった。

 韓国側は会談で盧大統領の求めに応じて小泉首相が追悼施設建設検討を表明したことを評価するというシナリオも、ほぼ出来上がっていた。

 だが、小泉首相は訪韓前の17日、「いかなる施設を作っても靖国に代わる施設はない」と述べ、追悼施設は靖国神社の代替施設になり得ないとの考えを強調した。「追悼施設建設の検討」=「靖国神社参拝見送り」ではないのはもちろんのこと、施設建設そのものでさえ自民党内の反対が強く、来年9月の首相の任期切れまでに着手できるメドは立っていない。

 検討が約束として実行されず、靖国参拝と切り離されている状況では、靖国問題の抜本的解決にはほど遠いのが実情だ。事前のシナリオとは裏腹に共同発表での両首脳の発言は、歴史認識の溝の深さを改めて示した。

 ◇韓国 世論背に強硬姿勢

 「低い水準の二つの合意があった」

 小泉首相との共同会見で盧大統領は、いかにも不満そうにそう述べた。日本側が関係修復のカードとして用意した国立追悼施設の建設検討など2項目は、高い評価に値しないという意味だ。「歴史認識問題で合意したものはない」という大統領の言葉も、「責任は日本側にある」という韓国国民へのメッセージの性格を持つと言えよう。

 伏線は、10日の米韓首脳会談にあった。外交通商省筋によると、盧大統領はブッシュ大統領に「小泉首相に裏切られた思いだ」と訴えたという。

 昨年7月の日韓首脳会談で「自分の任期中は歴史問題は提起しない」と誠意を示したのに、小泉首相は相応の対処をしなかった。島根県議会の「竹島の日」条例制定を阻止せず、靖国神社参拝問題でも譲歩しない。むしろ誤った歴史を美化しているではないか--。これが盧大統領の論理だ。

 「短期的に解決できる次元の不信ではない」

 外交通商省筋はそう語る。この不信を背景に盧大統領は3月下旬、「外交戦争」という強い言葉まで使って日本側の歴史認識を批判した。世代交代もあって観念論に傾きがちな韓国世論は、大統領の強硬姿勢への懸念より声援に流れた。最近の対日政策は、この世論を追い風にしている。

 教科書検定も靖国参拝も、そして竹島(韓国名・独島)領有権紛争も、韓国側の視点からは「歴史認識」問題として集約される。もちろん、日本側の認識が誤っているという前提がある。

 青瓦台(大統領官邸)高官によると、盧大統領は小泉首相に「我々が頻繁に会って写真を撮り、両国間の協力について論議しても、歴史認識の根本問題が解決できなければ相互不信は解消されない」と述べた。

 各国の歴史認識は必ずしも一致しないという日本側の立場とは、食い違いが大きすぎる。

 ◇日米と韓 距離微妙

 20日の小泉純一郎首相と韓国の盧武鉉(ノムヒョン)大統領との日韓首脳会談で、歴史認識や教科書検定問題に次いで焦点となったのが北朝鮮の核問題への対応だった。会談で両首脳は6カ国協議の早期再開に向け日米韓3カ国が連携を維持することで一致したが、歴史認識問題での日韓のぎくしゃくぶりの陰に日米韓連携は隠れてしまった格好となった。

 盧大統領「平和的な解決の原則と、そのための外交的努力の継続についても確認した。韓日米の連携の原則に合意した」

 小泉首相「6カ国協議の早期再開と、日米韓3カ国の緊密な連携を継続していこうという点でも一致した」

 会談後の共同記者発表で、両首脳が北朝鮮の核問題に言及したのはわずかこれだけだった。会談でも同様のやり取りがあっただけで、時間切れで終わったという。

 日本側には21日からの南北閣僚級会談を控え、南北交流を進める韓国が、北朝鮮に対し融和的な姿勢を強めることへの警戒感が強かった。17日に平壌で行われた北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記と韓国の鄭東泳(チョンドンヨン)統一相との会談で、金総書記が7月中にも6カ国協議に復帰する意向を示したことについても、日本政府内からは「韓国側を引き込み、日米韓の連携体制にくさびを打ち込むことを狙ったもの」(外務省幹部)との慎重な見方が出ている。

 このため今回の首脳会談では、歴史認識をめぐる日韓の対立を修復軌道に乗せることで、北朝鮮が日米韓連携に付け入るスキを与えないようメッセージを送ることを目指した。中には「日韓関係よりも北朝鮮問題に比重が移れば、会談は前向きなトーンに変わるかもしれない」(外務省幹部)との期待感も出ていたが、靖国神社参拝をはじめとする歴史認識問題の対立の厳しさにかき消されてしまった。

 北朝鮮が6カ国協議に復帰しない場合の「他の選択肢」の協議も避けられ、日米両国と韓国の距離が広がったことを印象付けた。【高山祐】

 ◆日本側説明による20日の日韓首脳会談の要旨は次の通り。ただし歴史問題に関する盧大統領の発言については、韓国側説明が詳細にわたるため、別途掲載した。

 ◇日本側説明による20日の日韓首脳会談の要旨は次の通り。

 【歴史問題】

 盧武鉉大統領 北東アジアの平和と共存の秩序構築のためには日韓の信頼が何よりも重要。日本が過去の不幸な歴史を反省し、歴史が繰り返されないことが確信できるよう行動で示すことが両国間の信頼の基礎。日本の要人の信頼を崩すような言動が繰り返されてはならない。

 小泉純一郎首相 韓国国民の過去をめぐる心情を重く受け止め、過去の問題への姿勢を実践で示す。一時期の意見の違いはあっても大局的見地から両国関係を元の軌道に戻し、未来志向で前に進めたい。わが国は戦後60年間、一貫して平和国家として専守防衛に徹し国際紛争を助長せず、国際平和と安定に最大限寄与した。

 盧大統領 戦後の日本の歩みは理解している。歴史問題をめぐって信頼関係を回復するための努力が重要。よい関係が進展しても一時の感情の高まりで損なわれてしまう。

 【靖国参拝問題】

 盧大統領 この問題が日韓関係の歴史問題の核心である。

 首相 二度と戦争を繰り返してはならないという不戦の誓いから参拝した。

 【過去の問題】

 首相 朝鮮半島出身者の遺骨の調査・返還、在韓被爆者、在サハリン韓国人への支援は可能な限り進める。

 盧大統領 日本側の対応を評価する。さらなる進展を期待する。

▼以下は合意、確認事項

 【追悼施設】

 日本側による国立追悼施設の建設検討を確認。

 【歴史共同研究】

 第2次日韓歴史共同研究で教科書記述を研究する委員会設置で合意。研究成果の周知を徹底し共通の認識に達した部分が教科書編集の参考になるよう、両国の教科書制度の枠内で努力することで合意。

 【羽田・金浦便】

 8月1日から羽田-金浦間の航空便を現行の4便から8便への増便合意。

 【北朝鮮の核問題】

 6カ国協議が平和解決のための最善の枠組みであり、協議の早期開催に向けた協力が重要で日米韓3カ国の結束が大事ということを確認。

 【次回首脳会談】

 今年中に日本で開催で合意。

 ◇韓国側説明による日韓首脳会談での盧大統領の歴史認識に関する発言内容は次の通り。

 【靖国問題】

 首相の説明を聞いても、私と国民にはやはり、過去を正当化するものに聞こえる。これが客観的現実だ。過去の戦争を美化して学んでいる国が隣にいて、その国が強い経済力と軍事力を持っていれば、何度も苦痛を受けた国民にとっては不安を感じざるをえない。小泉首相のように決断力のある指導者がいる時に、日中韓の北東アジアの秩序をどうやってつくるのか、我々が決断しなければならない。

 【歴史認識】

 小泉首相と頻繁に会って写真を撮り、両国間の協力について議論をしても、歴史認識に対する根本的な問題が解決されなければ、相互不信は解消されない。最近の北東アジアを見れば、はっきりと対立がある。我々の心の底に対決が残っている限り、未来の平和を達成するのは困難だ。

 【教科書問題】

 扶桑社教科書の採択率は、01年は低かったが、今年は与党・自民党の核心勢力が採択率を上げるため支援しているのではないかという報道が出ており、関心を持っている。初等、中等教育は国家が責任を持って教えるものだ。日本の教科書制度に政府が関与できないという説明は、我々には到底理解できない。

 【閣僚問題発言】

 日本の与党の閣僚と核心指導者たちが、韓国国民の歴史認識と違う言葉をし、国民感情を刺激している。与党幹部や指導部の発言は格別に注意してもらいたい。【ソウル支局】

最新の画像もっと見る