Takahiko Shirai Blog

記録「白井喬彦」

小泉首相の靖国参拝発言

2005-05-24 20:50:48 | 国際
呉儀副首相を訪日途中で帰国させるというまでに中国政府を怒らせたのは、与党の武部勤、冬柴鉄三両幹事長と中国共産党・王家瑞対外連絡部長との会談で、武部氏と王部長が「内政干渉」という言葉を巡ってやり合ったことが原因と見る向きもあるようだ。

武部幹事長は帰国後、「私は中国共産党の王家瑞対外連絡部長との会談で、靖国神社参拝で「世論調査などに見られる国民の考え方に相互内政不干渉というものがある」という話はしたが、私が内政干渉だと申し上げたことはない」と述べ、自分の発言が呉副首相帰国の原因となった説を否定した。

私も武部発言に原因があったとは、俄かには信ずることができない。そういう衝突があったのは確かだろうが、もともとの原因は、2005年5月16日、衆議院予算委員会で小泉首相が仙石由人委員の質問に答えた「靖国発言」であることは間違いないところだ。中国政府と中国共産党は、今回の「小泉発言」に反撃を加える機会を、5月16日からの一週間、ずっと探り続けてきたのだろう。

中国政府や中国共産党の意志がそれほど堅いものなら、呉儀副首相が小泉首相と会見したとき、彼女は顔を合せている小泉首相に対し、苦情の言葉をぶつけなければならなかっただろう。けれども、直接顔を合せている相手に、その感情を害するほど喧嘩腰の言葉をぶつけるのは、外交関係を損なう重大な非礼行為となる。そこで、中国政府は苦肉の策として、呉儀を帰国させたのではなかろうか。小泉首相との会見を土壇場でキャンセルするのも非礼な行為ではあるが、中国が外交上および対日経済関係上蒙るダメージは遥かに少ないものとなる。

そこで、5月16日の衆院予算委員会における小泉首相の「靖国発言」のどの箇所にいかなる理由で彼らが怒りを抱いたのか、私たち日本人としても冷静な態度で検証しなければならないわけだ。

だが、私たち日本人としては、小泉首相のこの国会発言を隅から隅まで読んでみても、いままで小泉首相が述べていた以上のことと思われる箇所は見当たらないのである。目を凝らして何度読んでもそのことは確かだろうと思うしかない。そればかりか、論旨はいままで通りまことに単純明解であって、彼の過去の発言とのいささかのぶれがあるとも感じられない。

小泉首相の発言の中で唯一思い当る箇所は、「(質問者の仙谷由人氏は)一部の外国の言い分を真に受けて、外国(中国政府)の言い分が正しいといって、日本政府の、私の判断を批判するというのは、(質問者の仙谷由人氏は野党の民主党所属で)政党が違いますから歴史的な認識も違うかもしれません、(質問者の仙石由人氏がどういう歴史認識を持とうと)御自由でありますが、私は、これ(首相の靖国参拝、あるいは靖国参拝を続けるという自分自身の歴史認識)は何ら問題があるとは思っておりません」と述べたくだりである。

この箇所は、質問者の仙石氏の追求そのものが、理屈に合わないと指摘しているだけである。つまり、いわば質問者をからかっているのだ。だが、仙石氏の追求を理屈に合わぬと指摘することを通して、間接的にではあるけれども、我国に対する中国側のやり口が内政干渉に当ることを色濃くほのめかした発言となっている。小泉首相の今回の「靖国発言」の中で中国側を刺激したのは、この「内政干渉」のくだりだったのではあるまいか。

国会で小泉首相がこのような内政干渉発言をしたと伝えられた中国政府は、この小泉発言に対しどう反撃しようかと内々議論を進めていただろう。ちょうどその矢先に、そんな中国側の内部事情をつゆ知らずのまま訪中してきた武部自民党幹事長が、王家瑞対外連絡部長に向って「日本では世論調査でも中国側の内政干渉と感じているという比率が高まっていますよ」といった。だから、王家瑞としては面子上、たとえ表敬訪問を受けていた場とはいえ儀礼的配慮を捨てて、武部発言に噛みつかざるを得なかったのではなかろうか。

あるいは、次のように推論することもできよう。もちろん、この推論が正しいかどうかはわからない。

中国側としては、こういうところまで踏み込んで小泉発言に文句をつけると、逆に日本側から「内政干渉」といわれはしないかとひやひやしていたのではあるまいか。そこへ、たまたま武部幹事長が乗り込んでいって、「日本の国民の多くは中国は内政干渉をしていると感じているようですよ」と一言ぶつけた。つまり、彼は中国側が気にしていた「事実」をずばりと衝いたわけだ。ずばりと衝いたことは衝いたが、それは中国側の迷いを断ち切って実行動へと踏み出させる契機となった。

こんな単純なものではないかもしれない。だが、小泉首相の国会発言から呉儀副首相帰国まで、ちょうど一週間という期間があった。その間、中国政府や中国共産党の動向はあまり伝えられてはいないが、反撃の契機を慎重に探っていたことは間違いない事実だろう。


第162通常国会衆議院予算委員会会議録
(全文)


衆議院会議録
第162通常国会衆議院予算委員会 (2005年5月16日午前9時開議)

小泉首相、仙谷由人氏の質問に答えて

  1.  国民の中でも、(靖国参拝は)すべきである、しない方がいい、した方がいいといろいろな議論があります。しかも、中国が、胡錦濤国家主席との間でも、あるいは温家宝首相との会談でも、靖国の問題が出ました。靖国参拝はすべきでないというお話もありました。しかし、今のような理由(注; 小泉首相自身の言葉による理由説明は、「戦没者の犠牲の上に今日の日本の平和と繁栄がある。その戦没者に対して心からの追悼の誠を捧げるのがなぜいけないのか」)を私は申し上げました。現に東条英機氏のA級戦犯の問題がたびたび国会の場でも論ぜられますが、そもそも、罪を憎んで人を憎まずというのは中国の孔子の言葉なんです。

     私は、日本の感情として、一個人のために靖国を参拝しているのではありません。心ならずも戦場に赴いて命を犠牲にした方々、こういう犠牲を今日の平和な時代にあっても決して忘れてはならないんだ、そういう尊い犠牲の上に日本の今日があるんだということは、我々常に考えておくべきではないか。現在の日本というのは、現在生きている人だけで成り立っているものではないんだ、過去のそういう積み重ねによって、反省の上から今日があるわけでありますので、戦没者全般に対しまして敬意と感謝の誠をささげるのが、これはけしからぬというのはいまだに理由がわかりません。

     いつ行くか、適切に判断いたします。

  2.  私が靖国神社に参拝することと、軍国主義を美化しているととられるのは、心外であります。なぜ靖国神社を参拝することが軍国主義を美化することにつながるんでしょうか。全く逆であります。

     日本は、戦争に突入した経緯を踏まえますと、国際社会から孤立して米英との戦争に突入した。国連も脱退した。二度と国際社会から孤立してはいけない。そして、軍国主義になってはいけない。だから、戦後、戦争中の敵国であった国とも友好関係を結んできた。そして、国際協調というものを実践によって示してきた。

     軍国主義、軍国主義と言いますが、一体日本のどこが軍国主義なんですか。平和国家として、国際社会の平和構築に日本なりの努力をしてきた。この周辺において、戦争にも巻き込まれず、戦争にも行かずに、一人も戦争によって死者を出していない。平和国家として多くの国から高い評価を受けている。そういう中にあって、なぜ私の靖国参拝が軍国主義につながるんですか。

     よその国が言うから、けしからぬ、よその国の言うことに従いなさい。それは、個人的な信条と、両国間、国際間の友好関係、これはやはり内政の問題と外交関係の問題におきましてはよくわきまえなきゃいけませんが、私は、こういうごく自然の、過去の戦没者を追悼する気持ちと、二度と戦争を起こしてはいけないという政治家としての決意、これを六十年間、みんな日本国民は反省しながら実践してきたじゃないですか。それを、(質問者の仙谷由人氏は)一部の外国の言い分を真に受けて、外国の言い分が正しいといって、日本政府の、私の判断を批判するというのは、(質問者の仙谷由人氏は)政党が違いますから歴史的な認識も違うかもしれません、御自由でありますが、私は、これ(靖国参拝)は何ら問題があるとは思っておりません。

毎日新聞
中国: 呉副首相の緊急帰国 靖国問題で激論、一因?--武部・王会談で
2005年5月24日 東京夕刊

 政府内では24日、中国の呉儀副首相が小泉純一郎首相との会談を取りやめて帰国した理由をめぐり波紋が広がっている。中国を訪問した自民党の武部勤、公明党の冬柴鉄三両幹事長が21日に北京で中国共産党の王家瑞対外連絡部長と会談した際、小泉首相の靖国神社参拝問題について激論を戦わせたことが理由との見方が浮上している。

 政府筋によると、21日の会談で武部氏は、靖国問題について中国側が持ち出すのは「内政干渉だ」と発言。これに王部長が激怒して撤回を要求し、武部氏は「撤回します」と答えたという。

 武部氏は24日の会見で「(会談では)『国民の考え方の中に相互内政不干渉がある』という話はしたが、私(自身)が内政干渉だと申し上げたことはない」と述べ、自らの発言が帰国の理由との見方を否定した。


讀賣新聞
中国副首相帰国、武部幹事長が自身の発言原因説を否定
2005年5月24日13時7分

 自民党の武部幹事長は24日午前の記者会見で、中国での武部氏らの発言が呉儀副首相の帰国につながったとの見方について、「靖国問題については中国側が示した意見については率直に小泉首相に伝えると言ったので、それで日中関係が後退するとか、呉儀副首相が帰ったとは全く考えられない」と述べた。

 また、「私は中国共産党の王家瑞対外連絡部長との会談で、靖国神社参拝で『世論調査などに見られる国民の考え方に相互内政不干渉というものがある』という話はしたが、私が内政干渉だと申し上げたことはない」と指摘した。

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