呉儀副首相が帰国することは、帰国当日の5月23日朝になって日本政府に伝えられたらしい。帰国の理由は、細田官房長官の説明では、「国内の緊急公務が生じたため」ということであった。
ところが、翌5月24日午後の中国外務省定例記者会見で孔泉報道局長は、「日本の指導者の最近の言論によって会談に必要な雰囲気がなくなったため」として、前日掲げていた理由をあっさり撤回した。ある記者が、「国内の緊急公務が生じたためだったのでは?」と疑問を呈すると、孔局長は、「私は「緊急の公務」という言い方はしていない」とうそぶいた。
今日掲げた「帰国理由」は中国国内向けであろうが、前日掲げた「帰国理由」は日本向けだったのだろう。日本向けに掲げた「帰国理由」の裏には、日本の言論界と経済界に向けた中国政府のメッセージが籠められている。隠されたそのメッセージというのは、「私たちは日本政府を見限りましたけれど、あなた方言論界と経済界のことは忘れてはいませんよ」という内容だったのではないか。
日本の言論界と経済界はまだ自分たち中国の味方だと中国政府は思っているようだ。それはそうだろう。日本の言論界の多くは長年にわたり歯の浮くような中国礼賛・中国経済礼賛を続けてきた。日本の経済界もまた、中国特需で一段の潤いを見せている。低賃金を武器にした中国の競争力でやられてしまった企業も多いのだが、中国ビジネスに成功して社業を躍進させた日本企業も数多く見受けられる。だからこそ、呉儀副首相は小泉首相との会見はすっぽかしても、日本経団連との昼食会はすっぽかさずに出席したのだろう。もともと呉儀副首相の来日目的は経済的なものだった。
それにしても、中国政府は日本国民全般をあまりにも甘く見過ぎているのではなかろうか。こういう強引かつ自己本位な外交を続けていけば、やがて日本の世論は急速に中国から離れていくだろう。日本国民の間に次第に反中国感情が醸成されていき、それが日本社会全体を覆う日がこないとも限らない。
その一方で、小泉首相の靖国参拝を非難する声は、これからは確実に減っていくのではないだろうか。その反対に、小林陽一郎(Xerox)や北城恪太郎(IBM)が発言してきた、「中国ビジネスのため、小泉首相は靖国参拝をやめるべきだ。小泉首相はなんて外交音痴なんだ!」などという声は、これからはあまり通じなくなっていくのではなかろうか。
小林陽一郎や北城恪太郎に代表される一部財界人たちは、これまでもアメリカの大企業の中国ビジネスをあまりにも代弁し過ぎている感があった。彼らはれっきとした日本の財界人ではあるが、あまりにも特殊な境遇に育った財界人だったようだ。靖国神社へのこだわりがあれほどまでに希薄なのは、彼らの持つ感情がほとんどアメリカ人の感情そのものだったからだろう。
特殊境遇で育った小林陽一郎や北城恪太郎などとは異なる、純粋な日本育ちの、ごく普通の企業経営者たちは、今回の中国政府の独裁国家的外交姿勢を目の当たりにして、「小泉首相よ! 我々の中国ビジネスの安泰のため、中国政府を怒らせることだけはやめてくれ」とか、「中国で稼いで日本経済に尽しているのは我々なんだ。その我々のことをもう少し考えてくれてもいいじゃないか」などといかにも「ビジネスマン的口利き」をするのは、ちょっと憚らざるを得なくなったのではなかろうか。
今回、中国政府がここまで強引かつ自己本位な外交を見せつけた後は、中国ビジネスを擁護するこういう「ビジネスマン的口利き」は、「それでは日本という国家がなくなっても、対中国ビジネスが残ればよいというのか!」などという誤解を受けかねない。日本社会全般の社会意識がそういう段階にまで立ち至ったかもしれないということだ。
中国政府は日本のナショナリズムの導火線に火をつけたのではなかろうか? 企業経営者はナショナリズムからの攻撃には極めて弱い。日本の対中ビジネスには、今後、何らかの変調の兆しがみられるのではなかろうか。
ロイター
小泉首相と中国副首相の会談、中国側の「緊急公務」により中止
2005年 05月 23日 11:46 JST
[東京 23日 ロイター] きょう午後に予定されていた小泉首相と呉儀・中国副首相の会談は、中国側が「緊急公務」を理由に中止することが決まった。細田官房長官は、午前の記者会見で、具体的な理由については承知していないとしている。
細田官房長官は、「けさ、中国側から呉副首相が本国からの指示により、国内の緊急公務が生じたので、(きょう(注;5月23日))午後帰国せざるをえず、小泉首相との会談を中止せざるをえないと通告があった」と説明した。同長官は、公務の具体的な内容について、「承知していない」と答えた。
また、小泉首相が先に、国会審議の中で靖国参拝に関し、「いつ行くかは適切に判断する」と参拝を示唆したが、これが影響しているかどうかについて、「そのようには考えていない」と否定した。
今回の呉副首相の来日により、中国人旅行者の観光ビザに関する協議も予定されていたが、これに関して、細田官房長官は、特に影響はしないとしている。同長官は、「国民レベルの交流が、相互理解に役立つ」と語った。
自民党の武部幹事長と公明党の冬柴幹事長は22日、中国を訪問し、北京で胡錦濤国家主席らと会談。きょう午後、両幹事長が小泉首相に帰国報告する予定。
朝日新聞
呉副首相、経団連首脳には「友好」 昼食会であいさつ
2005年05月23日13時27分
来日中の中国の呉儀副首相は23日昼、日本経団連主催の昼食会に出席し、冒頭のあいさつで「中国政府と人民は中日関係を重視し、日本との平和共存、子々孫々の友好、互恵協力、共同発展を願っている」と強調した。あいさつでは小泉首相らとの会談中止については言及しなかった。
呉副首相は「日本は中国の隣人として強固な経済的基盤を有している。中国のように日々拡大する市場で活躍する余地があると信じている」と語り、経済関係の強化に期待感を表明した。一方で「今日の中日関係は厳しいチャレンジに直面しているが、改善と発展のチャンスにも直面している」と述べ、日中関係が不健全な状態にあるとの認識も示した。
昼食会には奥田碩経団連会長(トヨタ自動車会長)のほか経団連副会長などを務める主要企業のトップが十数人出席した。
共同通信
歴史問題が理由と表明 中国外務省、会談中止で
2005年5月24日 17時:21分
【北京24日共同】 中国外務省の孔泉報道局長は24日の会見で、呉儀副首相が小泉純一郎首相との会談を中止して帰国したことについて「日本の指導者の最近の言論によって、会談に必要な雰囲気がなくなったためだ」と説明、中止の理由が首相の靖国神社参拝を含む歴史問題であることを初めて明確にした。
中国側はこれまで「緊急の公務」が帰国の理由と説明していた。孔局長はこれについても「私は『緊急の公務』という言い方はしていない」と事実上撤回。自らの立場は「23日夜の発言で示した」とし、「日本の指導者が靖国参拝問題で日中関係改善のためにならない発言をしたことは非常に不満」とした同日の発言が政府の公式見解であることを強調した。
朝日新聞
中国副首相帰国、「靖国が原因」 緊急公務存在せず
2005年05月24日22時12分
中国外務省の孔泉(コン・チュワン)報道局長は24日の記者会見で、呉儀(ウー・イー)副首相が小泉首相との会談を取りやめて帰国した理由について、「日本の首相、指導者が呉副首相の訪日期間中、連続して中日関係の発展に不利な発言をしたことが、会談に必要な雰囲気と条件をなくした」と述べ、小泉首相の靖国参拝をめぐる発言などが原因となったことを認めた。「緊急の公務のため」としていた当初の説明については事実上撤回した。
孔局長は23日夜、国営新華社通信を通じて「呉副首相の訪日期間中、日本の指導者が、靖国神社の参拝について連続して中日関係改善に不利となる発言をしたことは大変不満だ」との談話を発表した。
24日の会見ではこの談話が中国政府の正式な態度表明だと説明。23日午後に出した談話では「緊急の公務」を理由にしていたが、会見では「私は自分の口から『緊急の公務』と言ったことはない」と述べ、「緊急の公務」が存在しなかったことを認めた。
孔局長は、靖国問題をめぐって「日本の指導者は抗日戦争勝利60周年という状況で、歴史を反省するという約束を破った。A級戦犯がまつられた靖国神社について再三誤った発言をすることは、大変な被害を受けた多くの人々の感情を全く考慮していない」と批判した。ただ、「訪日期間中の日本の指導者の発言」が具体的に何を指すのかは説明しなかった。
自民党の武部勤幹事長が中国共産党対外連絡部の王家瑞(ワン・チアロイ)部長との21日の会談で、靖国参拝に対する中国側の批判を「内政干渉だという人もいる」と指摘したことについては、会談の具体的内容については触れなかったものの、「日本は戦後、平和の道を歩んできたと何度も言ってきたのに、今になってこのような発言が出るとは大変意外だ」「非常な憤慨を感じる」などと強い口調で非難した。
会談取りやめについて日本政府内から「おわびがない」などと批判が出ていることについては、「靖国神社について誤った発言をした人は、心の中で少しでもすまないと思っているのか」と応じた。
ところが、翌5月24日午後の中国外務省定例記者会見で孔泉報道局長は、「日本の指導者の最近の言論によって会談に必要な雰囲気がなくなったため」として、前日掲げていた理由をあっさり撤回した。ある記者が、「国内の緊急公務が生じたためだったのでは?」と疑問を呈すると、孔局長は、「私は「緊急の公務」という言い方はしていない」とうそぶいた。
今日掲げた「帰国理由」は中国国内向けであろうが、前日掲げた「帰国理由」は日本向けだったのだろう。日本向けに掲げた「帰国理由」の裏には、日本の言論界と経済界に向けた中国政府のメッセージが籠められている。隠されたそのメッセージというのは、「私たちは日本政府を見限りましたけれど、あなた方言論界と経済界のことは忘れてはいませんよ」という内容だったのではないか。
日本の言論界と経済界はまだ自分たち中国の味方だと中国政府は思っているようだ。それはそうだろう。日本の言論界の多くは長年にわたり歯の浮くような中国礼賛・中国経済礼賛を続けてきた。日本の経済界もまた、中国特需で一段の潤いを見せている。低賃金を武器にした中国の競争力でやられてしまった企業も多いのだが、中国ビジネスに成功して社業を躍進させた日本企業も数多く見受けられる。だからこそ、呉儀副首相は小泉首相との会見はすっぽかしても、日本経団連との昼食会はすっぽかさずに出席したのだろう。もともと呉儀副首相の来日目的は経済的なものだった。
それにしても、中国政府は日本国民全般をあまりにも甘く見過ぎているのではなかろうか。こういう強引かつ自己本位な外交を続けていけば、やがて日本の世論は急速に中国から離れていくだろう。日本国民の間に次第に反中国感情が醸成されていき、それが日本社会全体を覆う日がこないとも限らない。
その一方で、小泉首相の靖国参拝を非難する声は、これからは確実に減っていくのではないだろうか。その反対に、小林陽一郎(Xerox)や北城恪太郎(IBM)が発言してきた、「中国ビジネスのため、小泉首相は靖国参拝をやめるべきだ。小泉首相はなんて外交音痴なんだ!」などという声は、これからはあまり通じなくなっていくのではなかろうか。
小林陽一郎や北城恪太郎に代表される一部財界人たちは、これまでもアメリカの大企業の中国ビジネスをあまりにも代弁し過ぎている感があった。彼らはれっきとした日本の財界人ではあるが、あまりにも特殊な境遇に育った財界人だったようだ。靖国神社へのこだわりがあれほどまでに希薄なのは、彼らの持つ感情がほとんどアメリカ人の感情そのものだったからだろう。
特殊境遇で育った小林陽一郎や北城恪太郎などとは異なる、純粋な日本育ちの、ごく普通の企業経営者たちは、今回の中国政府の独裁国家的外交姿勢を目の当たりにして、「小泉首相よ! 我々の中国ビジネスの安泰のため、中国政府を怒らせることだけはやめてくれ」とか、「中国で稼いで日本経済に尽しているのは我々なんだ。その我々のことをもう少し考えてくれてもいいじゃないか」などといかにも「ビジネスマン的口利き」をするのは、ちょっと憚らざるを得なくなったのではなかろうか。
今回、中国政府がここまで強引かつ自己本位な外交を見せつけた後は、中国ビジネスを擁護するこういう「ビジネスマン的口利き」は、「それでは日本という国家がなくなっても、対中国ビジネスが残ればよいというのか!」などという誤解を受けかねない。日本社会全般の社会意識がそういう段階にまで立ち至ったかもしれないということだ。
中国政府は日本のナショナリズムの導火線に火をつけたのではなかろうか? 企業経営者はナショナリズムからの攻撃には極めて弱い。日本の対中ビジネスには、今後、何らかの変調の兆しがみられるのではなかろうか。
ロイター
小泉首相と中国副首相の会談、中国側の「緊急公務」により中止
2005年 05月 23日 11:46 JST
[東京 23日 ロイター] きょう午後に予定されていた小泉首相と呉儀・中国副首相の会談は、中国側が「緊急公務」を理由に中止することが決まった。細田官房長官は、午前の記者会見で、具体的な理由については承知していないとしている。
細田官房長官は、「けさ、中国側から呉副首相が本国からの指示により、国内の緊急公務が生じたので、(きょう(注;5月23日))午後帰国せざるをえず、小泉首相との会談を中止せざるをえないと通告があった」と説明した。同長官は、公務の具体的な内容について、「承知していない」と答えた。
また、小泉首相が先に、国会審議の中で靖国参拝に関し、「いつ行くかは適切に判断する」と参拝を示唆したが、これが影響しているかどうかについて、「そのようには考えていない」と否定した。
今回の呉副首相の来日により、中国人旅行者の観光ビザに関する協議も予定されていたが、これに関して、細田官房長官は、特に影響はしないとしている。同長官は、「国民レベルの交流が、相互理解に役立つ」と語った。
自民党の武部幹事長と公明党の冬柴幹事長は22日、中国を訪問し、北京で胡錦濤国家主席らと会談。きょう午後、両幹事長が小泉首相に帰国報告する予定。
朝日新聞
呉副首相、経団連首脳には「友好」 昼食会であいさつ
2005年05月23日13時27分
来日中の中国の呉儀副首相は23日昼、日本経団連主催の昼食会に出席し、冒頭のあいさつで「中国政府と人民は中日関係を重視し、日本との平和共存、子々孫々の友好、互恵協力、共同発展を願っている」と強調した。あいさつでは小泉首相らとの会談中止については言及しなかった。
呉副首相は「日本は中国の隣人として強固な経済的基盤を有している。中国のように日々拡大する市場で活躍する余地があると信じている」と語り、経済関係の強化に期待感を表明した。一方で「今日の中日関係は厳しいチャレンジに直面しているが、改善と発展のチャンスにも直面している」と述べ、日中関係が不健全な状態にあるとの認識も示した。
昼食会には奥田碩経団連会長(トヨタ自動車会長)のほか経団連副会長などを務める主要企業のトップが十数人出席した。
共同通信
歴史問題が理由と表明 中国外務省、会談中止で
2005年5月24日 17時:21分
【北京24日共同】 中国外務省の孔泉報道局長は24日の会見で、呉儀副首相が小泉純一郎首相との会談を中止して帰国したことについて「日本の指導者の最近の言論によって、会談に必要な雰囲気がなくなったためだ」と説明、中止の理由が首相の靖国神社参拝を含む歴史問題であることを初めて明確にした。
中国側はこれまで「緊急の公務」が帰国の理由と説明していた。孔局長はこれについても「私は『緊急の公務』という言い方はしていない」と事実上撤回。自らの立場は「23日夜の発言で示した」とし、「日本の指導者が靖国参拝問題で日中関係改善のためにならない発言をしたことは非常に不満」とした同日の発言が政府の公式見解であることを強調した。
朝日新聞
中国副首相帰国、「靖国が原因」 緊急公務存在せず
2005年05月24日22時12分
中国外務省の孔泉(コン・チュワン)報道局長は24日の記者会見で、呉儀(ウー・イー)副首相が小泉首相との会談を取りやめて帰国した理由について、「日本の首相、指導者が呉副首相の訪日期間中、連続して中日関係の発展に不利な発言をしたことが、会談に必要な雰囲気と条件をなくした」と述べ、小泉首相の靖国参拝をめぐる発言などが原因となったことを認めた。「緊急の公務のため」としていた当初の説明については事実上撤回した。
孔局長は23日夜、国営新華社通信を通じて「呉副首相の訪日期間中、日本の指導者が、靖国神社の参拝について連続して中日関係改善に不利となる発言をしたことは大変不満だ」との談話を発表した。
24日の会見ではこの談話が中国政府の正式な態度表明だと説明。23日午後に出した談話では「緊急の公務」を理由にしていたが、会見では「私は自分の口から『緊急の公務』と言ったことはない」と述べ、「緊急の公務」が存在しなかったことを認めた。
孔局長は、靖国問題をめぐって「日本の指導者は抗日戦争勝利60周年という状況で、歴史を反省するという約束を破った。A級戦犯がまつられた靖国神社について再三誤った発言をすることは、大変な被害を受けた多くの人々の感情を全く考慮していない」と批判した。ただ、「訪日期間中の日本の指導者の発言」が具体的に何を指すのかは説明しなかった。
自民党の武部勤幹事長が中国共産党対外連絡部の王家瑞(ワン・チアロイ)部長との21日の会談で、靖国参拝に対する中国側の批判を「内政干渉だという人もいる」と指摘したことについては、会談の具体的内容については触れなかったものの、「日本は戦後、平和の道を歩んできたと何度も言ってきたのに、今になってこのような発言が出るとは大変意外だ」「非常な憤慨を感じる」などと強い口調で非難した。
会談取りやめについて日本政府内から「おわびがない」などと批判が出ていることについては、「靖国神社について誤った発言をした人は、心の中で少しでもすまないと思っているのか」と応じた。