私は今、「サービス付き高齢者向け住宅」の厨房で働いている。パートとして厨房で働き始めてから、かれこれ11ヶ月目になる。調理補助をしたり、洗い物の他に、朝食と昼食を入居のお年寄りに配膳している。
1階、2階、3階と、合わせて40名前後の人数のお食事を運ぶ。
皆さん高齢なので、食堂はいつもとても静かだ。
3階にお住まいのOさんは、配膳の際はいつも寡黙で、ほとんど表情もあまりないおじいさんだ。話したこともほぼ無い。ただ1度だけ、隣に座るおばあさんが困っている時に、Oさんが「助けてあげて」と、声ではなく目で訴えてきたことがあった。
そんなOさんが、今日、私が配膳すると、大きな声でひとこと言った。
いつも寡黙なOさんのこの一言が、あまりにも思いがけない出来事だったので、一発で聞き取れなかった。
何かのご要望かしらと思い、「はい?」と耳を近づけて聞き返したのだが、また良く聞き取れなかった。
結局Oさんに3度も言わせる結果になり、やっと「ジャパン」と言っているのが分かった。
はて?「ジャパン?」
配膳したお膳には、今日はご飯ではなく「菓子パン」がのっている。もしかして、これはダジャレなのか?それしかない!
私は、「もしかしてダジャレですか?パンだけにジャパン!」と言って笑ってOさんの顔を見たが、いつも通り表情は乏しい。
あちゃー、失敗したー。
Oさんの渾身のダジャレを私は台無しにしてしまった(汗)。
皆さんへの配膳を終えた帰り際、Oさんのところへ行き、「またダジャレ、聞かせてくださいね」と言って厨房へ戻った。
元々ダジャレに疎い私。ピンと来ない自分が本当に情け無かったけれど、朝から私にダジャレを言ってくださったOさんの気持ちがとてもうれしかった。
今日は郷ひろみ並みの、Oさんの「ジャパン」が忘れられないひと言となった。