東日本大震災で、経営していたレストランを失った男が、再生するまでを描いたドラマだ。
これまで私は、東日本大震災に関わるものは、ドラマでも何でも番組自体をどちらかというと避けていた。悲しみを避けていたというか…。
でも今回は、主演が草彅剛、吉田羊と好きな俳優さんが出ていたので、見てみようと思ったのだ。
見て良かった。
酒浸りの草彅くんを、再生へと導く医師役をベテラン俳優の國村隼が演じている。彼の存在がドラマ全体を引き締めていた。
吉田羊も控え目な演技だが、もともと存在感のある女優なので、草彅くんに寄り添う感じがとても良かった。
劇中、レストランの名前が「妻が好きな映画から名付けた」と言う
“PARADISO”
映画好きなら誰でもピンと来る
「ニュー・シネマ・パラダイス」
私も大好きな、温かくて優しい感動作だ。
妻の人柄が忍ばれる。
ドラマ終盤、一色伸幸さんの脚本の手腕が冴える。
1時間という短い時間の中に、ギュッと人間ドラマが詰まっている良い作品だった。
私が草彅くんの演技に注目し始めたのは、6年程前のテレビドラマ「銭の戦争」を見た時からかもしれない。
それまでも、草彅くんの演技力がスゴイと噂には聞いていたが、なかなか主演ドラマを見る事はなかった。
「銭の戦争亅を見るきっかけは、木村文乃と大島優子が出演していると知って、当時気になる女優であった彼女達を見るためだった。
ドラマの中の草彅くんを見ていると、彼が“演じている”と言う事を忘れがちだ。
そのドラマの中に“生きている人”という感覚が湧いてきてしまう。だから、劇中にすんなりと引き込まれてしまうのかもしれない。
ストーリーの面白さもあったけれど、シンプルに役者としての草彅くんの力量を初めて知った。
最終的には、夫が一番のめり込んでこのドラマを見ていた。
テレビ画面を前のめりで見る夫を初めて見た。後にも先にもこの時だけ。
痛快なドラマだった。
その後も、テレビドラマ「任侠ヘルパー」で主役を演じると知り、期待して視聴した。面白さは期待以上だった。
やくざ者が老人介護施設で働くというユニークなストーリーに加え、施設長の役を演じた、今は亡き大杉漣が、凄く良かった。
善人を絵に描いたような大杉漣演じる施設長のキャラクターが、任侠を扱ったドラマの緩和剤の様な役割を果たしていた。
その中で、草彅くんは自由にヤクザっぷりを演じていた。時には怖いくらいに。
そして昨年、
映画「ミッドナイトスワン」主演。
You Tubeで流された予告編を見た。
度肝を抜く長さの15分25秒。
予告だけで泣けた。
絶対に見なければならない映画だと心に決めた。
新型コロナウィルスの感染が、札幌でもジワジワと拡がりつつあった2020年9月26日土曜日。今行かなければ、行けなくなってしまうと言うタイミングで、娘と二人で映画館へと連れ立った。
トランスジェンダー凪沙を草彅くんが演じた。
ロングヘアーにビシッとメイク。ニューハーフのショーの合間に、楽屋で気だるくふかすタバコ。いい雰囲気。
育児放棄された親戚の子、中学生の一果を引き取り、一緒に生活することになる。最初は厄介者を引き受けたというていであった。それが日を追うごとに凪沙と一果の関係性が徐々に変化していき、母と子の様な信頼関係が築かれていく。
物語はユーモアもあるが、明るいストーリーというわけではない。また、良い人ばかり出てくるというわけでもない。
凪沙は“望まない性”に生まれた苦しみをすでに背負っている。ホルモン剤で体調も悪いし、凪沙を不快にさせたり、苦しめたりする人々も周囲にいる。
実社会とはそんなものだ。いい事ばかりでは無い。
けれど、この映画から感じられる清らかさ、優しさは何だろう
一果の無垢な心。凪沙の一果に向ける愛情。
どんなに世間の辛さ、薄汚さが写し出されても、全てが浄化されていく。そんな感覚が湧き上がってくるのだ。
それは、一果役を演じた新人女優、服部樹咲の無垢な佇まい、あるいは彼女のバレエの素晴らしさからか。映像と一体となった、渋谷慶一郎の音楽の美しさ、切なさか。
岡田英治監督の脚本は一筋縄ではいかない。
トランスジェンダーの苦悩、友情、貧困、育児放棄、家族愛、などなど、現代社会の問題などがみっちり詰まっている。見どころはあり過ぎるほどある。
ショッキングなシーンもあり、油断していると、心に痛手を負う。長年様々な映画を見てきた百戦錬磨の私でさえ、深手を負った。
私の娘に至っては、何の免疫も無かったため、相当なショックを受けていた。
この映画を見るには、ちょっとした覚悟が必要かも知れない。直視出来ない、したくないシーンも人によってはあるかもしれない。
それでも、私はこの映画を見る時間を娘と共有出来て、本当に良かったと思っている。社会人になったばかりの娘には、刺激が強すぎたかもしれないけれど。
劇中の凪沙はとても魅力的だ。草彅くんの深く落ち着いた声も、凪沙の魅力の一部となっている。
娘と二人で、「また凪沙に会いたいね亅と、どちらからとも無く口にした。
実在する人では無いのに、そう言わせる程の存在を感じさせる草彅くんの力。
草彅くんだからこそ、成立した映画なんじゃ無いだろうかと思う。
LGBTを題材にした映画は多い。これまでは海外のものを、多く見てきた。
しかし、日本でも近年増えて来ているようだ。
生田斗真主演の「彼らが本気で編むときは、」も良い作品だった。
でも、今のところ私の中では草彅くんの「ミッドナイトスワン」がグランプリ!!
辛辣で残酷で、優しくて愛が溢れたこの映画が、内田英治監督の、そして草彅くんの最高傑作だ。